幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百三話

 夜会の会場はとある貴族の屋敷のホールである。依頼を受けるという時点で招待状も送られているため、別段問題なく会場へと入ることが出来た。服装も別段何か言われるようなものではない、と思う、多分。

 どうして多分かといえば、会場に入ってからちらほらと視線を感じるからだ。

 

「エミルが格好いいからじゃないですか?」

「そんなわけあるか」

 

 所詮村育ちの田舎者だ。結局ダンスも、まあ一応教えてもらったが、付け焼き刃なので踊ることもないだろうし。そんな俺が格好いいとか冗談も休み休み言え。

 そんなことを思ったし実際口にしたが、スロウは意見を曲げないらしい。そうは言ってもな。

 

「というか、どっちかというとスロウ達だろ、見られてるの」

「へ?」

「きれいなドレスを着た見慣れない美少女が三人、まあ実際は三体だけど、なんて目立たないはずがないだろ」

「まあ、そうね」

「そーですか?」

「美少女……?」

 

 アリアンロッテを目指すというアリアはその辺りある程度の自覚を持っているが、スロウとシトリーは基本的に自覚がない。だから、他の二体はともかく自分もそうなのか、という疑問が湧いているわけだ。

 なので、そういうわけだとスロウとシトリーに伝え、だから目立っているのは俺じゃないと結論付けた。が、スロウは納得がいっていない顔である。

 

「それだったら、エミルも、ですよ」

「ないない」

「あらそう? エミルも正直格好いい部類に入ると思うけれど」

「今みたいにキッチリしてると、余計に思うよぉ……」

「そう言われてもな」

「アリアちゃんとシトリーちゃんに同意しますよ。エミルはあげませんけど」

 

 ふんす、と胸を張るスロウに、アリアとシトリーはいらんいらんと首を横に振る。いや、まあ貰われるつもりはないけれど、そうはっきりと言われると地味に傷付く。

 そんな俺の思考を読んだように、ジト、とスロウがこっちを見た。

 

「アリアちゃんやシトリーちゃんがいーんですか?」

「いや、それはない」

「あんた今自分で同じことやってるの理解してる?」

「うんうんうん……」

 

 いや先にいらないって言ったのそっちだろうに。そんなことを思いながら、まあとりあえずこれでお互い様ってことにしておこうと話を纏めた。

 それで、何の話だったっけか。ああそうだ、目立ってるって話だ。

 

「まあそれならそれで問題ないんじゃないかしら。第四王子殿下の目眩ましにもなるでしょ」

「人がこっちに集まって、何かあった時駆けつけられないって可能性もあるぞ」

「今のところそーなってはいませんし、大丈夫じゃないですか?」

「気を付けておけばいいと思うよぉ……」

 

 そう言われて、まあそれならと引き下がる。どっちみち今回は何かあるからの護衛というよりは、念の為の意味合いが強い依頼だ。ついでにこの手の場所に俺達を慣れさせる用にアンゼリカ嬢が整えた場でもあるはず。間違っても上級モンスターとかと戦闘になる、みたいな事態は起こらないだろう。

 

「それ以外の問題は山積みでしょうけど」

 

 そんなこと言いながらアリアが俺を見る。ぐ、とそんな視線を受けて後ずさりながら、しかし大丈夫だと俺は返した。ちゃんと分かってるし、正直もう腹も括った。

 俺はこのチャンスに、スロウにきちんと告白する。

 

「スロウ」

「どーしました?」

「……どうだ? ドレスは」

「えっへへ。エミルが選んでくれたものだから、最高ですよ」

 

 そう言ってクルリとスロウが回る。ふわりとスカートが揺れて、俺はちらりと見えた足に視線を奪われてしまった。そんな俺の視線に気付いたのだろう、スロウは口角を上げると俺に一歩近付く。

 

「スカート、もっと捲ります?」

「やめろ、ここは夜会だぞ」

「じゃあ、後でこっそりならいいんですか?」

「それは」

 

 まあ、いいんじゃないかな。言葉にはせずに、視線を逸らして、いや違うと思い直し。

 とにかく。ドレスは気に入ってくれたようでよかった、と告げた。

 

「えへ、そりゃそーですよ。だってこのドレス、エミルの瞳の色ですもん」

 

 ね、とスロウが笑う。そういえば、送るドレスに何か注文があるか、と聞いた時。スロウは俺の選ぶものなら何でもいいと最初は言ったが、後で一つだけ指定をしてきていた。

 出来れば、緑のドレスがいいです、と。

 

「そういう意味だったのか」

「そーですよ。ほら、エミルの綺麗な緑の瞳とお揃い」

「お前の見た目のイメージからすると、もう少し淡い色とかのほうが似合いそうなんだけどな」

「そーですか? じゃあ、次のドレスはそれでいきましょうか」

「いいのか?」

「エミルが似合うって言ってくれた色っていうのも全然ありです」

 

 そう言って笑うスロウを見ながら、それはつまりまたこういう場に参加するということなのかと少しだけ日和る。正直こういう堅苦しい場は苦手なんだけど。

 そんなことを思っていると、わたしもですよ、とスロウが微笑んだ。

 

「でも、エミルのそーゆー格好見たいし、ドレスを着たわたしを可愛いって言ってもらいたいから」

 

 だから、また参加したいですね。そう続け、スロウは俺の横にそっと立った。そうして俺の腕に自身の腕を絡ませる。

 

「エスコートってこんな感じですか?」

「そういうのは本来俺が先にやるんだよ」

「あ、なるほど。じゃ、エミル、はい」

 

 す、とスロウが腕を引き抜く。はい、と言われても、と思いつつ、俺は溜息混じりにスロウへと腕を差し出した。そこに自身の腕を絡ませたスロウは、これでいいんですか、と俺に問いかけてくる。

 まあさっきはああ言ったが、正直俺もあっているかどうかよく分からないので、多分、と返す。助けを求めるようにアリアの方を見たが、知らんとばかりの視線を返された。

 

「ま、いーです。さ、じゃあ夜会を楽しみますか?」

「その前に、依頼者に会っておかないと駄目だろ」

 

 ほれ向こう、とアンゼリカ嬢のいる場所を視線で指し示す。その隣にいる金髪の男性が第四王子だろう。今日はお忍びで、という名目ではあるが、まあ流石に目立つので既にそこには人だかりが出来ていた。

 こちらは護衛でもあるので、その状態でただのんびりとみているわけにもいかない。失礼、とその人の輪を掻き分け、第四王子とアンゼリカ嬢のもとへと歩みを進めた。

 あら、と先に気付いたのはアンゼリカ嬢。そうしてその視線に反応した第四王子がこちらへと向き直った。そんな様子に気付いた他の貴族は、何だ一体と俺達を見やる。

 

「あれは、例の聖女では……」

「ということは、彼等があの勇者級……」

 

 あの、ってどのなんだろう。そんなことを思いつつ、やっぱり最初に目立つのは例の聖女ことスロウなわけだ。まあそりゃそうだろう。多分聖女の中でも、戦闘力は知らんが能力自体は上から数えたほうが早いはず。大分規格外の蘇生を何回もしてるしな。

 そんな増えるざわめきや呟きは、俺達の耳にも当然入る。中でも多かったのが、美しい、という単語だ。スロウ、アリア、シトリーは基本的に見た目だけは文句のつけようのない美少女だ。だからそういう感想が出るのは至極当然とも言える。まあ擬態なんだけど。正体は虫なんだけど。

 ともあれ。そんな会話を気にしていても仕方がない。第四王子へと、俺やスロウやシトリーはぎこちない礼をする。アリアはまあ、言うまでもなくスマートだった。

 そんな俺達を見た第四王子は、まあ気にせず楽にして欲しい、と述べる。

 

「今日は気楽な夜会だからね」

 

 そう言うと、周囲の貴族にも笑みを浮かべた。挨拶は不要だ、と言葉を紡ぎ、皆思い思いに夜会を楽しんでくれ、と続ける。そうして人だかりになっていた貴族たちは軽い礼だけをして去っていった。

 

「すまないね、君達を人だかりを散らす出しに使ってしまった」

「いや、別に問題ない、です」

「ははは。そんなに緊張することもないのだけれどね」

 

 そう言われても、一応この国の王子殿下なわけで。そんなことを思っていると、別に国王になるわけでもないから、と第四王子は笑う。

 

「このままいけば、僕はフォーマルハウト公爵家の入り婿だよ。君達の友人の婚約者、くらいの気安さで接してくれると嬉しいね」

「いーんですか?」

「勿論」

 

 じゃあ遠慮なく、とスロウは空気を緩める。アリアは別段変わっていないようだが、それは悪役令嬢の基本スタンスだからだろう。シトリーは滅茶苦茶恐縮しながら、あわあわとなっていた。

 

「なら、俺も態度を崩させてもらいますよ」

「ああ、そうしてくれ」

 

 ふう、と息を吐く。そんな俺を見て、アンゼリカ嬢がクスクスと笑っていた。何だよ、俺だって流石にこういう時は一応敬語くらい使うっての。そんな思いを込めて視線を向けると、確かにそうですわね、と彼女が更に笑う。

 

「そんなに面白いか?」

「ええ、それはもう」

「……傀儡人形に似てきてないか?」

「あら、それは嬉しいですわね」

 

 そう言って笑みを絶やさないアンゼリカ嬢をこんちくしょうと睨んでいると、第四王子も同じように笑っていた。そうしながら、少し妬けるね、と言葉を紡ぐ。

 

「我が愛しの婚約者を笑顔に変える少年がいるというのはね」

「あらオーウィンさま。ご心配なく、この方には心に決めた方がいますもの」

「ほう。それは」

 

 第四王子の視線がスロウ、アリア、シトリーへと向く。あの三人の誰かだろうか、そう問い掛けると、アンゼリカ嬢はその通りですと返した。いや俺の返事を聞いてくれよ。間違ってはいないけどさ。

 

「あら?」

「ん?」

「エミルさん。今日はなんだか反応が違いますわね」

「え、そうか?」

「はい。普段はもっと否定するような態度を取りますのに」

 

 何かあったな、と言わんばかりの表情でアンゼリカ嬢がこちらを見る。そんな彼女から思わず視線をそらすと、成程、とクスクス笑う声が聞こえた。

 

「オーウィンさま。わたくしとオーウィンさまの護衛、今日は必要でしょうか?」

「ん? ……そうだね。四人は多いかな? 一人か二人で十分だと思うけれど」

「あら、それでしたら。わたくし、アリアが護衛をさせていただきますわ」

「あ、わ、ワタシもこっちで護衛をするよぉ……」

 

 す、とアリアが静かに、シトリーがわたわたと向こうの後方に回る。そうして俺とスロウが残され、第四王子とアンゼリカ嬢がニコニコと笑みを浮かべながらそういうわけだと述べる。何がどういうわけなんだかさっぱり分からないんですけど。

 いや、なんとなくは分かる。分かるし、ある意味望むところではあるのだけれども、しかし。

 

「本当にいいんですか?」

「夜会で勇者級の出番があるような何かが起きたら、間違いなく大惨事だからね」

 

 だから心配するな、と続ける第四王子のお言葉に甘える形で、俺は分かりましたと頷いた。そうして、えーっと、と首を傾げているスロウの手を取る。

 

「俺とスロウは夜会を楽しんでくれってさ」

「いーんですか?」

「いいわよ。それがある意味目的みたいなところもあるし」

「うんうんうん……」

 

 スロウの問い掛けにアリアとシトリーも首を縦に振る。そうしながら、これだけお膳立てしているんだから分かっているだろうな、という視線が俺に向けられた。主にアリアである。シトリーはどっちかというと上手くいくかどうか心配している目だ。それはそれでこのことに関しては信用されていないということなので若干凹むが。

 ともあれ。護衛をアリアとシトリーに任せ、俺はスロウと会場を回る。どこかいい場所でもないだろうか。そんなことを思いながら、渡された飲み物に口を付けて。

 

「これ、酒だ」

「みたいですね。エミルってお酒駄目なんでしたっけ?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

 

 冒険者になったので咎められることはないが、正式に飲めるのはもう少し後。そのためほとんど飲んだことがなかったので、強いか弱いかがイマイチ分からない。まあ全然駄目、というわけではないことは分かっているので、この際だと告白に勢いを付けるためにもう一口酒を飲んだ。

 

「大丈夫ですか?」

「ん。まあ、多分?」

「もー。せっかくの夜会なんですから、お酒で酔っ払っておしまい、は駄目ですからね」

「確かにな」

 

 そう言って酒のグラスをテーブルに置く。そういうスロウはどうなんだ、と問い掛けると、わたしは大丈夫ですよ、とそのままグラスの酒を飲み干していた。

 

「さ、それで。エミルは、わたしをどーしてくれるんですか?」

「どうするって言われても。いや待った、お前酔ってるんじゃないだろうな」

「この程度じゃ酔いませんよ。あ、でも、エミルには酔ってるかも」

「……酔ってるな?」

「酔ってません」

 

 とりあえず水を貰ってこよう。給仕に頼んで水のグラスをもらい、とりあえず飲め、と押し付ける。クピクピとそれを飲んでいたスロウは、むー、と不満げにこちらを見た。

 

「酔ってないって言ったのに」

「そういうのは酔ってるやつが言うんだよ」

「本当に酔ってない人も言いますよ?」

 

 そりゃそうだが、スロウは普段と違った反応だったから。そう返すと、再びむうと唇を尖らせていた。

 そうしながらグラスを弄び、だって、と言葉を続ける。

 

「エミルと二人きりで夜会なんて、ちょっとドキドキしちゃうじゃないですか」

「……それは、まあ」

「あれ? エミルも顔赤いですよ? 酔ってません?」

 

 はいこれ、と持っていたグラスを渡され、俺は何かを誤魔化すようにそれを飲み干した。

 ……果たして、こんな調子で俺は告白出来るのだろうか?

 

 

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