幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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TUEEEE話


第百八話

 討伐こそ出来なかったが、まあとりあえずイゼルブも当分は何かすることもないだろうとなったので、俺達は再度暇となった。依頼掲示板には相変わらずの依頼が並び、まあ流石に勇者級が受けるもんじゃないだろうというあれそれが貼ってある。

 

「今度こそ本当にやることなくなちゃったかぁ」

 

 お姉さんもそんな俺達を見ながら苦笑している。いやまあ、本来ならばそういうのを望んでいたので万々歳のはずなのだが、何だかんだこれまでの冒険を経たことでそれらを内心では欲するようになってしまったのかも知れない。そんなことを思いつつ、まあでも暇なら暇で、と答えることにした。

 

「わたしはエミルのそばにいられればそれでいーですしね」

 

 膝の上の芋虫がそんなことを述べる。まあ俺もスロウといられるのは幸せだからそれでもいいんだけど。そんなことを思いつつ、というか言いつつ、膝上の芋虫の頭を撫でた。ぶにぶにという感触と、えへへー、という声を聞いて、俺の頬も緩む。

 

「はいはい、ごちそうさま」

 

 そんな俺達を見てお姉さんが肩を竦めた。そうしながら、家でもこんな感じなの? とソファーでおやつをぱくついていたシトリーに尋ねる。急に話を振られたシトリーはビクリと反応したが、すぐに落ち着くと再びおやつをぱくつき始めた。

 

「もぐ……うん……むしゃ……どこでも、はぐ……こんな感じだよぉ……」

 

 この間の吸血の際、魔法で無理矢理回復はしたものの、血が足りないのは変わらなかったらしく、ここのところはシトリーの食欲が大分増加している。まあ食費は自分で出しているので何の問題もないとは思うが。

 

「あ、でも……ちょっと懐寂しくなってきたよぉ……」

 

 ばくりと残っていたおやつを食べながらそんなことをのたまう。勇者級の稼ぎでもそのレベルだとどんだけ食ったんだこいつと思わなくもないが、まあ結構な量吸われてたしな。

 ううむ、と依頼掲示板を見やる。何度見ても勇者級が受けるにはちょっと低過ぎる依頼ばかりで、ついでに言うと前回からラインナップも変わっているので塩漬けになっているような不人気の依頼もない。わざわざ俺達で解決しよう、といえるほどのものがないのを確認して、さてどうしたもんかと肩を竦めた。

 

「別に、大丈夫だよぉ……? そろそろ回復してきたしぃ……」

「それならいいんだけど」

 

 依頼掲示板からうんうんうんと頷くシトリーへと視線を移動させる。まあ当事者がそう言うなら、と話を締めようとしたそのタイミングで、邪魔するぞ、と一人の大人がギルドに入ってきた。祭りの準備の時も話したことがあるおっさんだ。いやまあこんな狭い村の人間なんかほぼ全員顔見知りみたいなものだけど。

 そんなおっさんは、俺達を見ると、おお、と笑顔で手を上げた。それに挨拶し返すと、ギルドのお姉さんのところに歩いていく。

 

「ちょっと急な依頼があるんだけど、大丈夫か?」

「はい? どうしたんですか?」

「いや実はな、明日剣術道場に稽古に行く予定だったんだが」

 

 二人の会話は別段声量を落としているわけではない。なのでまあ相談事が思い切り聞こえてくるわけなのだが。

 なんでも、おっさんは剣術道場へ定期的に稽古に行っているらしいのだが、先日膝を痛めたらしく、向かうことが出来なくなったのだとか。そういうわけで暫くの間剣術道場に通って稽古をつけてくれる冒険者を募集したい、そういう話らしい。

 

「何か最近道場破りみたいなのも出没してるらしくて物騒でな。休むのもちょっと」

 

 そういうわけだからどうにか出来ないか、とおっさんがお姉さんに頼んでいる。しかし、そういわれたところで急に剣術の先生などやれはしないだろうから、流石に無茶な依頼なんじゃないだろうか。そんなことを思っていると、おっさんはいや、とこちらに向き直った。どうやら考えが口から漏れていたらしい。

 

「俺は冒険者としての実践稽古の相手みたいなものだから、剣術自体は別に関係ないんだ」

 

 そういうわけだから剣、ないしは近接武器を使える手頃な冒険者であればいい。そんなことを続けたおっさんは、お姉さんをじっと見ていた。いや流石にもう現役引退して久しいお姉さんじゃ無理だろう。そんな俺のツッコミを受けて、まあそうだよなぁ、とおっさんは苦笑していた。

 

「というか。村の他の冒険者仲間に頼めばいいだろ」

「それで都合ついてたら頼みに来てないんだよ」

 

 そりゃそうか。まあ普通そんな急の依頼を受けられる冒険者なんかそうそういない。そう思っていたら、いやそれがな、とおっさんが頬を掻いていた。

 

「最近お前が勇者級になったろ? それでちょっと頑張るかって張り切った結果同年代の仲間内は全員どこかしら痛めててな……」

「おっさん……」

 

 いきなり張り切るもんじゃないな。そう言って笑ったおっさんは、そういうわけだから若い連中に頼みに来たんだと向き直る。お姉さんはそんな割と情けない話を聞いて苦笑していたが、まあそういうことなら仕方ないと依頼書の作成をし始めた。依頼は剣術道場の稽古相手、冒険者のランクは問わず。出来上がったそれを見て、いいのかこれ、とお姉さんとおっさんに尋ねた。ランク問わずだと初級の初心者とかも来ないかこれ、と。

 

「まあそうだが、内容を見れば流石に受けないだろ」

 

 そうだろうか、と依頼書を手に取る。まあ確かに、剣術道場の稽古ということは相手もある程度剣術を学んでいる身だ。それなりに腕に自信でもない限り初心者が受けようとも思わないかもしれない。

 そんなことを考えていると、お姉さんが、あ、と声を上げた。

 

「ねえ、エミル君」

「ん?」

「そんなに気になるなら、エミル君が受けてみたら?」

「へ? 俺が?」

「そうそう。何ならスロウちゃんやシトリーちゃんでもいいかも」

「わたしですか」

「え? ワタシぃ……?」

 

 流石にアリアは無理だろうから、それ以外。そんなことを言いながら、お姉さんは俺の持っている依頼書を指差してどうかと問い掛ける。

 そんなこと言われても、俺の戦いが剣術を習っている相手に通用するかどうか。殆ど、というかほぼ全て実戦で身に付けた我流だし。

 

「それで勇者級になってるんだから大したものなんだよ」

 

 おっさんが笑いながら俺の背中を叩く。お姉さんも、そもそも相手はまだ冒険者になっているかいないかの連中なんだから、負けるはずがないでしょ、と笑っている。本当か? これで俺がボコボコにされたら流石にもう表出られないぞ。

 

「流石に考えすぎでしょ」

 

 はぁ、とアリアが溜息混じりにそんなことを述べる。膝の上のスロウも起き上がり、そしてガバリと抱きついてきた。

 

「そーですそーです。エミルなら問題なく勝てますよ」

「……分かった分かった。やるよ」

 

 押し負ける形で了承する。了解、とお姉さんは俺の持っていた書類に承認の印をつけると、場所はここだよ、と隣町を指し示した。以前ウッドベアでなんやかんやあった方、ではなく、アリアが以前住処にしていた廃洋館のあった方だ。

 

「もう一年以上前になるのね」

 

 どこか懐かしさを感じるようにアリアが呟く。まあそれも一瞬で、即座にギルドの手伝いに戻っていったが。

 ともあれ。暇を持て余していた俺達の次の依頼も決定し、明日はまた忙しくなるようであった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、準備を整えて隣町の剣術道場へと向かうと、そこにいた皆が一斉にこちらを見た。何だ何だ、と動きを止めていると、そこの剣術の師範であろう大人がよく来てくれました、と道場の一角に案内する。

 

「まさか代理で勇者級の方が来てくれるとは思ってもいなかったので、皆興味津々なのですよ」

 

 そう言って師範は笑う。それも、と噂の飛び級勇者が、と付け加えた。

 

「飛び級勇者?」

 

 というか俺ってそんな有名になっていたのか。そんなことを思ってると、ええそうです、と師範は笑みを崩さず述べる。

 冒険者になって二年足らずで勇者級になった逸材。かつての勇者の再来。そんな聞いているこっちが恥ずかしくなるような尾びれ背びれのついた話を師範は語った。なので、道場の皆が期待している、と言葉を続けた。

 

「いや、そんなに言うほどのものじゃないぞ」

 

 その期待値に若干引く。何だか向こうにとって俺達が物凄い人物にされているような気がしないでもない。そうなると、実物を見てがっかりされるんじゃないだろうか。そんな思いが頭をもたげ、思わずそんなことを言っていた。噂は噂、実際は他の勇者級と比べてもまだまだ駆け出しだ。

 

「それでも勇者級には変わりないでしょう?」

 

 そう言われると、まあそうだけどとしか言いようがない。頬を掻きながら、まあ出来る限りは頑張るとだけ伝え、まずは道場の稽古を見学させてもらうことにした。

 剣術道場なので、基本の形や素振りなどを堅実に繰り返している。その後稽古試合でそれらが活かせるかどうかを行い、自分の身体になじませていく形式だ。冒険者となった時に実戦で使えるように、というのがよく分かる。

 こんなしっかりしている道場の稽古相手を俺なんかがしていいんだろうか。そんなことを思っていると、では、と道場の面々が集められた。

 

「こちらが、今回の特別稽古の相手になってくださる勇者級、エミル殿達だ」

 

 再び道場の面々の視線が俺達に向けられる。こんなに注目を浴びたことがなかったので、正直むず痒い。そんなことを思っていると、スロウが横で若干不満そうな表情を浮かべていた。

 師範がまだ話しているので、どうした、と小声で尋ねると、こちらに向き直ったスロウがむすぅと頬を膨らませる。

 

「エミルのこと嘗めてるのが結構いました」

「そりゃそうだろ。俺まだ冒険者になって二年経ったくらい、年齢もここの道場の生徒とそう変わらないしな」

 

 これまでの、それこそおっさんみたいな連中と比べれば嘗められて当然とも言える。せめてもう少し年齢が上、バクスやクロードくらいなら多少は違ったかもしれないが。

 そんなことを続けると、それでも納得いかない、とスロウは不機嫌さを隠そうともしない態度で向こうを見ていた。

 

「まあ、でも、スロウの気持ちも分かるわね」

 

 師範の話が終わり、俺達との稽古の準備に入ったタイミングでアリアも会話に参加してきた。その横ではシトリーも頷いている。

 

「エミルくんは、強いんだよぉ……」

「そうそう、自信持ちなさいな」

「そう言われるとちょっとむず痒いな」

「エミル、がつんとやっちゃってください」

 

 ぶっとばせ、とスロウが拳を振り上げる。いやまあ、そこまで言われてやらない理由はないけれども。

 と、そんなやりとりを見ていた師範が苦笑しながらこちらにやってくる。そうしながら、すいません弟子達が、と謝罪をしてきた。いや、気持ちは分かるのでそう気にしないで欲しい。そう伝えつつ、ただ、と俺は言葉を続けた。

 

「稽古の相手は、最初は俺を嘗めていた奴らにしてもらっても?」

「それは……もちろん、こちらもそうしようと思っていました」

 

 向こうも俺の意図することと同じようなことを考えていたらしく、俺の言葉に頷くとでは相手を、と数人選出していく。まずはこの辺り、と口ぶりからすると、ひょっとして最終的に全員と試合させる気なのかもしれない。

 

「まあエミルなららくしょーですよ」

「スロウがそう言うなら、まあ、頑張ってみるか」

 

 訓練用の木剣を持って真ん中に立つ。選ばれた弟子の一人がその対面に立った。よろしくお願いします、と頭を下げていたが、その態度は本当にこんな奴がという感情が透けて見える。

 では、始め、と師範代の声が響く。流石にここで俺の方から攻めてぶっ倒すのはちょっと体裁が悪いな。そんなことを思ったので剣を構えたまま相手の出方を待った。対する相手も、どうやらこんな歳もそこまで違わない奴に負けるわけがないと高を括っているらしく、俺の攻撃を受け流すなり躱すなりして倒す気満々である。

 となると、どうするか。そんなことを思いながら審判をしている師範の方を見ると、こくりと頷かれた。

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

 一足飛びに間合いを詰める。え、と間抜けな声を上げている眼の前の相手の木剣を叩き飛ばした。その衝撃で尻もちをついた相手に向かい、木剣の切先を突き付ける。

 うん。まあ相対して分かったが、当然ながらこれまで戦ってきた魔王級とは受けるプレッシャーが違い過ぎる。勿論低い意味で、だ。そういえば昔戦ったモンスターとかがこんなものだったかもしれない、という懐かしさを若干覚えたほどだ。

 まだやるか? と問い掛ける。顔を青くして首を横に振った相手から審判に視線を移すと、それまで、という宣言が出された。

 その瞬間、盛大な歓声が巻き起こる。凄い、これが勇者級、そんな言葉がそこかしこから聞こえ、師範が静かにと声を張り上げても暫くは収まらなかったほどだ。

 

「そんなにか?」

「いや、実は先程の相手がこの道場で五本の指に入る実力者でしてな」

 

 ああ、そういう。弟子の実力者をあっという間に叩き伏せたから、というわけか。まあそれなら仕方ないか。いや、でもこのくらいなら村のおっさんでもやれると思うんだけど。

 そう問い掛けると、自分と同年代の勇者級というのが大きなポイントだったのでしょうな、と師範が笑う。年上の冒険者の経験を持っている相手ならともかく、か。その辺は俺もこの依頼を受ける時に思ったことだから頷けるな。

 それはそれとして。とりあえず一人は倒したけど、次はどうするんだろう。師範に目を向けると、コクリと頷かれ、では次、と別の弟子を指名した。多分さっきの弟子と同じように俺を嘗めて掛かっていた相手の一人のようで、しかしその表情は真剣そのもの。

 始め、という合図とともに今度は向こうから攻めてきた。真っ直ぐなその剣は、成程たしかにしっかりと剣術を学んできた成果を感じられる。うん、悪くない。

 そんな評価が出来るほど俺の心には余裕があった。受け止め、そして剣を弾き飛ばす。流石にこれが師範とか師範代とかだと俺も危ないだろうけど、弟子くらいならまあこのくらいの芸当は可能だ。

 まいりました、と頭を下げる対戦相手にこちらも頭を下げ、師範に視線を向ける。いいんですか、と問われたので、多分大丈夫と答えておいた。

 そういうわけで希望者全員と模擬戦である。ほぼ全員、となると流石に休憩がいるかと思ったが、今の二戦で怖気付いた弟子も結構いたようで、大体半分くらいで試合は終わった。

 それでも流石に疲れたので、ふう、と息を吐き床に座り込む。そんな俺に、お疲れ様とスロウがタオルを差し入れてくれた。

 

「ありがとう、スロウ」

「いえいえ。エミル、カッコよかったですよ」

 

 そう言って俺に抱きついてくる。今汗臭いと思うんだが、とスロウに述べると、スンスンと俺の胸に顔を埋め匂いを嗅ぎ始めた。こういうエミルも大好きです、という返事がきたので、汗臭いことは汗臭いらしい。

 

「なんだかエミルを見てたらわたしも体動かしたくなってきましたね」

 

 そう言うとスロウは師範に声を掛ける。稽古って剣じゃなくても大丈夫ですか、と師範に尋ねていたが、師範は別に問題ありませんよと返していた。

 ふふん、と気合を入れたスロウが道場の真ん中に立つ。じゃあ次はわたしが相手をしてあげます。そんな宣言をしながら、対戦相手がやってくるのを待った。

 それなら、と向かいに立ったのは俺の最初の対戦相手。そこにスロウを嘗めている様子は見当たらないが、しかし俺じゃなければ、という油断は少々見えた。まあ確かに俺に比べれば、というか他の面々に比べてもスロウの戦闘能力は下ではあるが。

 

「始め」

「いっきますよー」

 

 それでも、こいつは魔王級モンスターで聖女だ。迷宮の管理者に戦い方を学んだこともあり、拳の戦い方もきちんと分かっている。相手の剣を拳で受け止めると、目を見開いているその隙を狙って回し蹴りをぶっ放す。

 綺麗に叩き込まれたそれは、対戦相手を盛大にふっ飛ばした。ゴロゴロと転がっていく相手を見て、スロウも思わず動きを止めてしまう。

 

「お、おー……」

「やり過ぎよ、スロウ」

「めちゃくちゃぶっ飛んだよぉ……」

 

 完全に目を回している相手へとスロウは駆け寄る。ちょっとやり過ぎちゃいました、と魔法を掛け、腹の傷を即座に回復させた。うん、まさしく聖女、まさしくバーサーカー。

 よし、と治療を終えたスロウは、じゃあ次は、と視線を動かした。が、皆一様にその視線を避ける。えー、と不満げに声を上げたスロウは、それじゃあ、とこちらに戻ってきた。

 

「じゃあ次はアリアちゃんが」

「あたしは無理よ。近接出来ないもの」

「あ、そーですね。なら、シトリーちゃん、どーです?」

「え……? えぇ……!?」

 

 はいはい、とぐいぐいシトリーを道場の真ん中に押し出したスロウは、次はシトリーちゃんです、と宣言した。ちなみに押し出された方は何が何だかと大分パニックになっている。

 

「シトリー」

「え、エミルくぅん……」

「無理なら無理って言えよ。スロウもテンションがおかしくなってるだけで多分話は聞いてくれるから」

「う、うん……」

 

 頷いたシトリーは、しかし少し考え込むと大丈夫だと返答した。ここまで来たのだから、せっかくだし自分もやってみる。そう言い放った。

 それならば、と話を聞いていた師範も対戦相手を募る。俺とスロウの戦いを見ていたので、当然シトリーもそうなのだろう。そう判断した弟子達は、しかしせっかくなのでと手合わせを願う者たちが出てくる。そのうちの一人を師範が指名し、では始め、と声を上げた。

 

「――は?」

 

 そうして剣を打ち込んだ弟子の声がこれである。相手は勇者級パーティの一人、だと思っている弟子は、相手がぽやぽやした美少女であることも構わず、迷うことなく全力で剣を振り抜いた。

 が、当たったはずのその一撃を受けてもシトリーは微動だにせず、そんなものお構いなしに剣を振るってくる。思い切りカウンターを受ける形となった相手は、スロウの時の相手と同じようにぶっ飛んでいった。

 

「あ、や、やっちゃったよぉ……!」

「だいじょーぶです、回復しますから」

 

 相手をぶっ飛ばしてあわあわするシトリーに、スロウは気にするなと声を掛ける。目を回している対戦相手を回復しながら、さすがはシトリーちゃんですね、とスロウは満足そうに笑っていた。

 

「……これ、多分俺以外はあんまり稽古にならないかもな」

「そうね」

 

 そんな呟きを聞いていた師範は、いやいやそんなことはない、と首を横に振る。むしろ、こういう相手こそが実戦形式で役に立つ。そんなことを言いながら、次回も是非よろしくお願いしますと頭を下げられた。

 まあおっさんの膝が直るまでまだ何回かあるだろうし。そんなことを思いながら、俺は師範の言葉に分かったと返した。

 

 

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