幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百十話

「何でラティに知らせないの!?」

 

 ばぁん、とギルドの扉をぶち壊さんばかりの勢いで入ってきたのはラティである。何だ何だ、と皆が呆気に取られている中、ビシリとこちらに指を突き付けた。

 

「エミル! スロウと付き合ったんでしょ!?」

「へ? あ、ああ。スロウと付き合ってるぞ」

「えっへへー、エミルがわたしと付き合ってるって言った……そーなんです、エミルがわたしの彼氏なんですよ」

 

 ラティの質問にそう答え、スロウが照れる。そんな姿を見て、ラティがにへら、と気持ち悪い笑みを浮かべた。が、すぐに表情を戻すとギロリと俺を睨み付ける。だから俺が何をしたんだ。

 

「ラティに知らせなさいよ!」

「……いや、そんなこと言われても」

 

 とは言いつつ、まあ確かに一応仲間と言えるこいつに伝えていないのは手落ちといっても仕方がない。とはいっても、他にちゃんと伝えたのはセフィくらいなので手落ちだらけではあるのだが。

 

「すまん」

 

 そんなわけで素直に謝罪をする。ラティはそんな俺を見て、まあいいと鼻を鳴らした。そうしながら、ぐりんと視線を動かしスロウへと移動する。いやまあ移動も何もスロウは俺のすぐ横なんだが。

 

「それでそれで? どうなの? ラブラブ?」

「それはもう。エミルったらわたしのこと大好きなんですよー」

「きゃー!」

「おい。いやまあ、スロウのこと好きなのは本当だけど」

「エミルが素直に気持ちを伝える!? きゃー! ラティ今日はもうこれでいいわ」

 

 何がだ。そんなことを思いながらジロリと見ると、お腹いっぱいよ、と親指を立てられた。ああそうかい。

 それで、と俺は表情を戻す。まさかそのためだけに来たんじゃないだろ。そう尋ねてみたものの、こいつのことだからそのためだけに来ていてもおかしくない。

 案の定、用事? と首を傾げられた。

 

「なあラティ。お前一応教国の魔王級なんだぞ。そんな簡単に王国に出没しちゃまずいだろ」

「なんでよ。別にちゃんと手続きして来たわよ」

 

 その辺の野良魔王級と一緒にするな。そんなことを言いながら胸を張る。成程、確かにそれならば何の問題はない、か。まあ一応俺のパーティーメンバーで使役モンスターってことになってるので、ここに来るのに制限がかかるのもおかしいしな。

 俺がそんなことを思っていると、そうでしょ、と勝ち誇った顔をされた。はいそうですね、俺が悪かったです。そんなようなことを言うと、ドヤ顔のままもう一度胸を張る。

 

「ラティちゃんも結構おっぱい大きいんですよね」

「お前はどこを見てるんだ」

「エミルが見てそうなところ」

「何でだ」

「エミルおっぱい好きでしょ?」

 

 後お尻とか。そんなことを言いながら首を傾げるスロウ。いや、それは俺がどうとかではなく、男は大抵好きなんだよ。そうは思ったが口に出すとどうしようもない気がしたので、飲み込んで知らんとだけ述べた。ふーん、と返事をしたスロウは、俺の手を取り、そのまま自分の胸に押し付ける。

 

「何してんだお前!?」

「え? エミルおっぱい揉みたいかなーって」

「いきなりすぎるだろ!」

 

 そういうのはもっとこう、ムードとか、状況とか、そういうのを考えてやるもんだ。慌ててスロウの胸から手を離すと、しかし俺は何をどういえば分からずとりあえず一発デコピンをしておいた。

 

「イチャイチャはそこまで変わらないのね」

 

 そんな俺達をジーッと見ていたラティがそんなことをのたまう。そうだろうか? スロウはこんな風に唐突に色仕掛けみたいなことをしてくることは……あったな、そういえば。

 言われてみれば割と唐突にスカートの中を見せようとしてきたり胸を揉ませようとしてきたりとかはしてた気がする。当時は流していたが、今思うと相当アレだ。

 別に、もったいなかった、と思っているわけでは決してない。

 

「エミル、スロウと付き合うようになってからちょっとスケベになった?」

 

 ふむ、とラティが突然爆弾発言をした。何故そんなことを言うのやら、俺にはさっぱり皆目検討もつかないので、そういう勝手な憶測はやめていただきたい。本当にやめてください。

 そんな俺の心の懇願は勿論届くはずもなく。ラティはスロウに向き直ると、どうなの? と尋ねていた。やめろ、彼女にそういうこと聞くのは間違いなく駄目だろ。

 

「そーですね。付き合ってから何回か押し倒されましたよ」

「きゃー!」

 

 おい、盛り上がるな。そうツッコミを入れたかったが、いかんせんこの話題に踏み込むのは俺にとって藪蛇でしかないのでどうしようもない。誰か助けを、と思い視線を動かしても、シトリーは完全に蚊帳の外だし、アリアは何だかジト目で見てくるしで味方がいない。お姉さんはワクワクしながら聞いているので向こう側の論外だ。

 

「それでそれで?」

「それだけですね」

「……へ?」

「その先はないです」

 

 ぐりん、とラティの視線がこちらに向く。怖い、なんか凄い表情でこっちを見てくる。極上の食材を見付けたと思ったらお預け食らった、みたいな顔してる。そんな顔されても俺にはどうにも出来ないのだけれども。

 盛大なラティの溜息が聞こえた。まあこいつらだしそんなものだよな、と言わんばかりのそれを、抗議をするのも違うしとりあえず見守る。一応欲しいものは貰ったしいいか、と気を取り直したらしいラティは、小さく息を吐くと椅子の背もたれに体重を掛けた。

 

「とりあえず、暫くラティもここにいようかしら」

「なんでだよ」

「エミルとスロウを見たいから」

「別に面白いものはないぞ」

「いいのよ。彼氏彼女の日常が見たいだけだもの」

 

 それはそれで非常に厄介なのだけれど。そんなことを思いつつ、しかしだからといって帰れと言えるほどの理由もなく。

 村に暫くラティが居座ることと相成った。

 

 

 

 

 

 

 ラティが居座って一週間。割と本気で俺達の日常を見ているだけらしく、暇潰しの道場の稽古とかにもついてきたりと基本的には大人しい。まあこいつの場合魔王級とはいえ基本的に人の話は聞くし善性だしでその辺りの心配はしていなかったが。

 そんなわけで今日もギルドでのんびりとしている俺達である。勇者級の仕事も別段なく、イゼルブも最近は大人しいというか強制的に大人しくさせられているというかで問題もない。

 芋虫のスロウを膝に乗せ、依頼掲示板には仕事がないということを確認する作業を終えると、後は暇だ。今日は別段道場に行く気もないしな。ちなみにラティは俺の膝の上でのんびりしているスロウを見てうんうんと満足そうに頷いていた。

 

「エミル分ががっつり補給されてます」

 

 頭を撫でられながらそんなことをのたまっているスロウを見つつ、さて今日もここでのんびりするかと思っていた矢先の出来事である。ん? とお姉さんが送信されてきた依頼書を見て表情を変えていた。

 

「エミル君エミル君」

「どうした?」

「これ、エミル君用の依頼じゃない?」

 

 これ、と渡された依頼書は、教国のとある子爵令嬢の護衛を頼みたいという旨のことが書かれていた。出来れば上級冒険者以上が望ましい。そんな注釈のあるそれは、成程確かにこんな村に回ってくる依頼としては異質である。ここに回される上級以上、ということは必然的に勇者級である俺達向けということになるが。

 しかし子爵令嬢の護衛、ねえ。なにか特別な人なんだろうか。そんなことを思いながら詳細を見てみると、令嬢は姉妹であり、教国の首都から自領に向かうまでの護衛を頼みたいということ。護衛はこの依頼を受けたものだけの少数精鋭であることなどが書かれていた。そして、その子爵令嬢の名前も記されていた。何かそれが重要なのだろうかと思いながらその姉妹の名前を確認したが、そこで俺は動きを止める。

 

「アスカ……?」

 

 妹の名前に物凄い聞き覚えがある。そういえば、と家名を確認すると、俺の知っている子爵令嬢のアスカと一致した。まあつまり、この令嬢の妹はアスカさんだ。

 

「護衛、いるんですか?」

 

 俺がその確認をしていたのを膝の上で見ていたスロウもそう述べる。そうだよな、普通に考えてこの子爵令嬢アスカが俺の知っているアスカさんだったとしたら、冒険者の護衛なんぞ必要ない。

 なにせ、本人が勇者級冒険者なのだから。

 

「子爵家の令嬢として移動しなければならない、という理由だとしても」

 

 アリアも依頼書を見て、そして俺と同じようにアスカさんの名前を見て、同じ事を考える。そう、もしアスカさん自体は戦えないという状況で護衛を頼むのだとしたら。

 

「クロードとリナさんを呼べばいいだろ」

 

 アリアの言葉を引き継いでそう述べた。教国の勇者級パーティー、クロードの仲間なのだから、普通に考えてそっちに頼る方が早いし確実だ。だというのに、何故わざわざ。

 

「何か他の用事でもしているのかしら」

 

 何気ない様子でラティが述べる。確かに、何か他の用事、それこそ魔王級に関することでもしていれば話は別になる。

 そこまで考えて、おいまさか、とラティを見た。

 

「急にいなくなったラティを探してるから、とかはないよな?」

「だからラティはちゃんと手続きをしたって言ったじゃない」

 

 失礼しちゃうわ、と怒るラティに謝罪をしつつ、そうなると何か別の依頼かと思考を巡らせる。イゼルブ関係、は俺達に一任されているから違うとして、そうなると粗雑な魔王級の討伐か。落ち着いてきたとはいえ、相変わらずこれまでとは出現頻度は桁違いだ。イリスの言っていたように雑に認定された魔王級ではあるが、流石に中級や上級の下や中には荷が重い。

 となると、この護衛依頼も、道中には粗雑な魔王級がやってくる可能性を加味して、というやつか。

 

「ラティ」

「何?」

「教国の最近の魔王級はどんな感じなんだ?」

「別に他の国と大して差はないと思うわよ。あ、でも、集まって暴れる連中が出てきてちょっと厄介かもしれないわね」

 

 上級に毛が生えたような魔王級だから、群れているんじゃないか。そんなことを続け、ラティは少し考える素振りを取った。そろそろ戻って街の治安の確認もしたほうが良いかな。そう結論付けるように述べると立ち上がる。

 

「エミルとスロウのラブラブも摂取したし。ラティはフレデリクとセフィーリアの婚約者同士の淡い思いの摂取に戻ろうかしら」

「何だかんだそういう自分勝手なところは魔王級だな」

「そうよ、だってラティはモンスターだもの。自由気ままが信条よ」

 

 そういえばあの二人候補から正式に婚約者になったのか。まあ確かにラティが好きそうだな、そういうの。そんなことを考えつつ、じゃあそろそろ帰るわね、と言うラティにひらひらと手を振った。

 そうして残された俺達だが、その眼の前には先程の依頼書が。

 

「どーします?」

「まあ、知り合いだし。受ける分には何の問題もないが」

 

 ピラリとそれを手に取る。やるならすぐ手続きするよ、とお姉さんは言うが、さてどうするか。視線をスロウに向けると、まあいつも通りというか俺に任せると返される。

 ならアリアとシトリーに、と意見を聞いたが、どっちでもいいので任せるというまあ予想通りの答えが返ってきた。

 そうなると。ううむと唸る。別に忙しいわけではないので受けるのは問題ないが、これって本当に俺達が受けていいやつなのだろうか、とも思うわけで。

 本当は、クロード達に向けて出したものじゃないのか。そんな事も少し考えてしまう。

 

「だったら直接頼んでるしょ」

「……まあ、そうか」

 

 アリアのその言葉に成程と頷いた。であるならば、いっそ知り合いである俺達が受けたほうが向こうも気楽ではないか。よし、と依頼書をお姉さんに渡し、その依頼を受けると述べた。了解と依頼書に承認印をつけ、じゃあ頑張ってね、と笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 というわけで教国である。ラティがいなくなったと思ったら今度は俺達がラティのいる場所へと来ることになるとは。そんなどうでもいいことを思いつつ、教国の首都の依頼書に記されている場所へと向かった。セフィの時と比べると流石に劣るが、そこそこのタウンハウスにやって来た俺達は、そこで家令に案内され子爵令嬢の下へと向かう。

 

「おや皆さん、お久しぶりでござる」

 

 そこにいたドレス姿の令嬢の片方から発せられた言葉がこれである。冒険者の時限定でとかそういう感じでもなんでもないわけだ。そんなことを思いながら、久しぶりだなアスカさんと挨拶をした。

 そうしながら、今回の依頼の護衛を務めさせてもらうと続ける。それは心強い、とアスカさんは笑顔を見せていた。

 

「お姉様。こちらはエミルさん、スロウさん、アリアさん、シトリーさんといって、王国の勇者級冒険者です。皆さんすっごく強いんですよ!」

「あらあら。アスカがそう言うからには、本当にお強い冒険者なのね」

 

 頬に手を当てながらもう片方の令嬢が述べる。ピンクブロンドのアスカさんとは違い、彼女のお姉さんの髪は金髪である。そういえばアスカさんは後妻の連れ子とか言ってたっけ、お姉さんと血は繋がっていないのか。

 アスカさんがどちらかというと小動物系の可愛らしい美少女だとすると、お姉さんの方はキリッとした冷たい美貌の美人、といった感じだ。だが、口を開いて出てくる言葉や口調からすると、どうやらおっとりとした人のようである。姉妹揃って見た目と口調が若干合ってないが、まあ似た者同士ということなのだろう。

 

「はじめまして。アスカの姉で、シオン、と申しますわ」

 

 す、とカーテシーをするアスカさんのお姉さん――シオンさんにこちらも挨拶を返すと、それで今回の依頼は、と問い掛けた。書類の通りならば自領までの護衛、それもこの依頼を受けた者だけで。という何だか少し怪しいものだ。

 その辺りを尋ねると、アスカさんが微妙な表情を浮かべた。

 

「その辺りは少し事情があるでござるよ」

「事情?」

「はい。実はわたくし、婚約破棄されまして」

 

 困りました、とのほほんと述べるシオンさん。いや待て、それって大分大層なことじゃないのか。そう思ってアスカさんを見ると、何とも言えない表情を浮かべている。以前アスカさんには家族は困ってそうと思ったことがあったが、この感じからすると義姉は義姉で似たような感じなのかもしれない。子爵家大丈夫だろうか。

 

「まあ、でも。あの元婚約者は普通に浮気者のクソ野郎だったし、お姉様の婚約者じゃなくなって清々したござるよ」

「ふふ、ありがとう、アスカ」

 

 そう言ってシオンさんはアスカさんの頭を撫でる。血の繋がりはないみたいだけど、姉妹仲は良好みたいで良かった。

 それはともかく。そこから話がどう繋がるんだ?

 

「あのクソ野郎、無駄に権力はありやがるおかげで、こちらに嫌がらせをして帰るための道中の護衛が付けられなかったんでござる」

「それって、月の大聖女さんとかに言ったらなんとかなったりしないんですか?」

「属性頂点様は、家同士の諍いには基本手を出されないので」

 

 そういえば前に傀儡人形も似たようなこと言っていたな。調停者であり超越者たる存在なので、細かい部分には手出ししないとかなんとか。

 それはそれとして、そういう輩は気に食わないであろう月の大聖女が訓練と称して性根を叩き直すくらいはするそうだが。

 まあそんなわけで最近忙しいクロード達も呼べず、出来たのは冒険者ギルドに最低限の護衛を依頼することくらい、と。成程、事情は分かった。それならば護衛の依頼、きちんと遂行しようじゃないか。

 

「本当だったら拙者も参戦するつもりだったんでござるが。エミルさんたちならその心配も無用でござるな」

「あらあら」

 

 うんうん、とアスカさんは頷いているが、正直信頼が重い。確かに勇者級になったし、その強さにある程度の自信は持てたが、まだクロード達やバクス達ほど経験があるわけでもない駆け出しには変わりがない。ぶっちゃけアスカさんの方が強いと思うんだが。

 そんなことを思ったし実際言ったが、当のアスカさんはまたまた、と笑っていた。

 

「拙者はクロードやリナと比べると未熟でござる。そういう意味では、皆さんと大差ないでござるよ」

「そう、かなぁ……」

 

 シトリーが納得いかないような表情をしていたが、俺もそれには同意である。そもそも俺達はクロード達が真面目に戦っている場面をまだ見ていないのだ。それでも十分の実力を感じていたのに。

 

「ははは。じゃあこうするでござる。もし道中に魔王級でも出たら、拙者も少し参戦するでござるよ」

「そう簡単に魔王級と出会ってたまるかよ」

 

 そうは言いつつ、ラティの話を聞いていた俺は、何だか猛烈に嫌な予感がするのであった。

 

 

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