幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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コンプリート


第百十二話

 ギルドに連絡して粗雑魔王級のワイバーンの死骸を回収してもらうことになったのだが、いかんせん大本のワイバーンの他にもレッサーワイバーンの群れの分もあるため、そう簡単にはいかない。

 最終的に飛竜商会に連絡して纏めて回収、ということになった。運送会社の方も慣れたもので、群れもワイバーンもテキパキと片付けていく。

 そんな光景を見ている中、見知った顔を見かけたので思わず声を掛けてしまった。本来ならばこんなところにいるはずのない顔である。

 

「竜のおっさん」

「ん? おう、エミルじゃないか」

 

 声を掛けると、竜のおっさんはこちらに笑顔を見せてくれた。そうしつつ、周囲の飛竜や人に指示を飛ばしていく。

 

「っと、悪いな」

「いや、こっちこそ仕事の邪魔してごめん」

「気にするな。ああやって指示出しはしてるものの、本当の部下ってわけじゃあねぇからな。儂が怖いから従ってるだけで、本当は鬱陶しいとか思ってんじゃないのかね」

「そうは見えなかったけど」

「はっはっは! そう気ぃ使わなくてもいいぞ。にしても、こいつらお前さんがやったのか」

「へ? ああ。まあ勇者級のアスカさんにも手伝ってもらったけどな」

「魔王級ワイバーン自体を倒したのはエミルさん達でござるよ、頂の古竜様」

 

 頭を掻きながらそんなことを言っていると、横合いから声が掛かる。アスカさんが、自分は雑魚散らしをしただけで、成果は基本俺達だ、という説明を竜のおっさんにしていた。

 それを聞いた竜のおっさんは大笑いである。やっぱりお前さんがたじゃねぇか、と俺の背中をバンバンと叩かれた。痛い。人型になってるとはいってもドラゴンの膂力だ、普通に痛い。

 

「にしてもあれだな、ちゃんと勇者級やってんじゃないか」

「といってもまだ駆け出しだよ」

「そう謙遜するなって。このワイバーンだって最近のガバガバ判定とはいえ一応魔王級だぜ? それをこうあっさりとぶち殺せるんだ、胸を張ったって何の問題もない」

 

 そう言ってまた大笑いする竜のおっさん。そうやって言われると、俺も何だか認められた気がして少しこそばゆい感じがする。横を見ると、うんうんと同意するように頷いているアスカさんの姿も見えた。

 それはそれとして。俺が勇者級になったっていうのはそんなに有名なのだろうか。竜のおっさんが知ってるのはまあセフィの関係かもしれないけど。

 そんなことを疑問に思ったので問い掛けると、まあそっちからも情報は一応入ってきたな、と竜のおっさんは笑う。

 

「儂が聞いたのは月の大聖女、傀儡人形、妖精姫どもからよ。お前さんの勇者級試験の時にいたんだろ?」

「ああ、まあ」

 

 あの推薦で一気に勇者級になったといってもまあ過言ではない。結果的に感謝をするべきなのだろうが、どうにもしにくいというか。

 

「まあそう気にするな。本当は全員で行っても良かったんだが、流石にそれはって押し留めたのがあいつらなんだからな。むしろ感謝しておいたほうが良いぞ」

「全員……? え? あの時属性頂点が全員推薦者としてくるかもしれなかったのか!?」

「おうよ。儂も仕事休む準備をしてたからな」

 

 豪快に笑う竜のおっさんを見ながら、いくらなんでも属性頂点全員とか勘弁して欲しいと俺は思い。

 そして、ん? と眉を顰めた。今竜のおっさんなんつった?

 

「竜のおっさんも?」

「おう。……ん? どうしたそんな顔して。……おお、ひょっとして儂ぁお前さんがたに名乗ってなかったか?」

「……そういえば、竜のおっさんで慣れてたからきちんと聞いてない、ような」

 

 そんなことを言いながら、俺は何だか猛烈に嫌な予感がした。これはそうだ、これまでに何度も味わっている感覚で。具体的には七回、起きているような。

 

「はっはっは! すまんすまん。なら改めて、儂ぁ風属性頂点、頂の古龍だ。まあ今は飛竜商会会長にして生涯現役飛竜の、ただの竜のおっさんの方が通りが良いがな」

 

 マジか。いや、こんな場面で嘘を吐いても何の意味もないので本当なのだろうけど。しかしそうなると、俺はこれで晴れて全ての属性頂点と知り合ったことになる。

 いや、実際はとっくの昔に知り合っていたという方が正しいんだが。成程、頂点達が以前俺はもう全員と知り合っていると言っていた理由がこれか。傀儡人形は絶対に知っててあえて教えなかっただろ。

 とはいえ、まあもう竜のおっさんがじつは属性頂点だったとか言われても、俺の中では竜のおっさんで固定されているので態度は変えようもない。属性頂点ワースト連中よりは全然話が通じそうだし。

 気を取り直して。そういえば、と気になっていることを俺は尋ねた。教国の運送に何で竜のおっさんが関わっているのか、と。

 

「おう、それか。最近教国の人手が足らなくて、こっちにも協力要請が回ってきたのさ」

 

 そこで暇している自分がちょっくら部下引き連れてやってきた。そう続けた竜のおっさんは、よし、と肩を回すとそろそろ行くと俺に告げた。確かに無駄話をして仕事の邪魔をしてしまった。そう謝ると、気にするなという声とともに再び背中をバンバンと叩かれる。やっぱり痛い。

 そうしながら、竜のおっさんはふと何かを思いついたように顎に手を当てた。そうだな、と頷くと、勇者級がする仕事じゃあないかもしれないが、とこちらを見る。

 

「どうだエミル。ちょっと飛竜商会で働いてみないか?」

 

 

 

 

 

 

 さて、どうしたものか、と俺はスロウ達に相談をすることにした。まあスロウならエミルの好きなようにとか言いそうではあるが。

 

「別にエミルがやりたいならやってもいーんじゃないですか?」

「予想通りの答えだな」

「むー。でも本心ですよ? やりたいならやる、やりたくないならやらない。そんなもんでいーじゃないですか」

 

 スロウらしいモンスターの意見だよな、と言ってのけるのもちょっと違う気がしないでもないが。今の俺は勇者級、場合によっちゃ断れない仕事というのも出てきてしまう立場になっている。

イゼルブ討伐とかの依頼がそうだ。まあこれは断る気が元々ないから何の問題もないんだが。

 

「もったいぶったこと考えてないで、結局自由なんじゃないの」

 

 呆れたようにアリアが肩を竦める。いやまあ確かに現状は割と自由だ。だからこんな風に一風変わった仕事を受けるか受けないか迷うということも出来ている。

 

「でも、エミルくん……。何か問題あることなのぉ……?」

 

 頂の古龍、竜のおっさんからの依頼がそんな問題かといえば、まあ話を聞く限りでは言うほどではない。飛竜商会で働く、といっても、積み荷の下ろしとかそういう雑用というよりは道中の用心棒という意味合いの方が強い。なんでも教国にはさっきみたいな飛竜の魔王級が増えていて、レッサーワイバーンの群れが空路の邪魔をすることが多々あるのだとか。

 

「そういう細かい事情に属性頂点は口出さない、じゃなかったかしら」

「まあ竜のおっさんの場合、自分の仕事だからだろうな」

 

 飛竜商会の会長という立場のことを考えると、自分のことだから口も手も出す、という感じなのだろう。それを踏まえても竜のおっさんは色々なことに口出してそうな気もしたが。以前言っていた妖精姫の評価で風がギリギリ、というのはその辺の部分もあるのかもしれない。

 まあだとすると、その評価した妖精姫も大分人に関わってるんでギリギリになるんだけど。まあいいか。

 

「それで? どーします?」

「まあ、とりあえずはアスカさん達を子爵領に送ってからだな。竜のおっさんにもその辺は伝えてある」

 

 というわけで護衛再開である。子爵領まで後僅か。流石にあれ以上の問題は起きないので、残りの道中はのんびりとしたものであった。竜のおっさん――頂きの古龍とのやり取りについての会話から発展して属性頂点全てと知り合い、という部分でシオンさんには驚かれたりしていたが、まあ精々がそのくらいだ。

 そうして辿り着いた子爵領で、俺達は改めて二人からお礼を述べられた。そんなに大層なことはしていない、と返すと、そんなことはないとシオンさんに言われる。

 

「おかげで、道中怪我をすることもなく、こんなに早く到着することが出来ました」

「そうでござるよ。エミルさんはもう少し自分を誇ることを覚えてもいいでござる」

 

 姉妹揃ってそんなことを言われると、なんというか逆に恐縮してしまうというか。スロウ達も二人の言葉にうんうんと頷いているところを見て、俺は頬を掻きながら視線を逸らした。

 さてではすぐに向こうの仕事の手伝いに行く。なんてことを一瞬考えはしたが、そこまで急ぎではないとも言われているので、シオンさんやアスカさんのお言葉に甘え子爵領で一泊させてもらうことにした。

 その翌日、アスカさんに呼ばれ子爵の屋敷の練兵場にやってきたわけなのだが。

 

「エミルさん、魔法剣の基礎を習ってみないでござるか?」

「へ?」

 

 開口一番そんなことを言われる。魔法剣っていうと、アスカさんがこないだのレッサーワイバーンを薙ぎ倒していたあれのことだろう。そんな一朝一夕で身に付けられるようなものじゃないと思うんだが。

 俺の心配を他所に、アスカさんは大丈夫、あくまで基礎だ、と言いながら俺にずずいと迫ってくる。いや、勢いが凄い。あと何だかんだ美少女なのでちょっと、こう。

 

「にしても、何でいきなりエミルなんですか?」

 

 ぐい、とアスカさんに割り込む形でスロウがそんなことを問い掛けた。悪い、助かった。そう思いながらスロウを見ると、若干むくれているのが見える。別に心配しなくても俺はお前の彼氏だよ。

 

「あらあら。アスカ、婚約者のいる殿方に無闇に近付いてはいけませんよ」

「はっ。ご、ごめんなさい。つい熱くなって」

「え、いや、確かに俺はスロウが彼女だけど婚約者ってわけじゃ」

「エミルはわたしが婚約者じゃ嫌ですか?」

「……嫌じゃ、ない、けど」

 

 そう言ってそっぽを向くと同時にスロウが抱きついてくる。また始まった、という表情のアリアとシトリー。一気に進展したんですね、と目をキラキラさせているアスカさんなどを見なかったことにしながら、俺は咳払いをして話を元に戻そうと述べた。

 どこまで戻すかっていうと、あれだ。スロウが言っていた部分だ。何で俺なんだ?

 

「まず基本的に、シトリーさんは魔法が使えないので、魔法剣を覚えることが出来ません」

「そうだねぇ……」

「スロウさんとアリアさんは魔法が使えますが、武器が剣ではないので」

「ま、そーですね」

「どうでもいいけど、口調普通になってるわよ」

「はっ。こほん。なので、剣と魔法がバランスよく使えるエミルさんに教えようということになったでござるよ」

 

 もっと大まかな理由、それこそそもそも何で教えるという考えに至ったかという部分は、今回のお礼の一つだと思ってくれればいいという答えが返ってきた。一応子爵家で受け継がれている技だとかいうのを聞いたことがあるし、そうやすやすと教えるものではないのは何となく分かる。

 しかし、本当にそれ聞いてもいいやつか?

 

「ご心配なく。基礎程度ならば門外不出というわけではござらん」

「子爵家に嫁いでもらう、なんてことにはならないから、安心してちょうだい」

 

 シオンさんののほほんとした言葉を聞いて、スロウの警戒が少し下がる。それを見たアスカさんは少し苦笑し、だから人の婚約者はとらないでござるよ、とスロウに述べていた。

 

「でも、アスカもそろそろ良い人がいるといいのだけれど」

「お姉様の方が優先でござるよ」

 

 まあ婚約破棄するわ自領に戻るのを邪魔するわのクソ野郎がこれまで隣にいたことを考えると、そうなるのも仕方ないというか。アスカさんは一応勇者級冒険者としての肩書もあるしな。

 ともあれ。そういうことならと頷き、アスカさんの教えを聞く。

 

「魔法剣はその名の通り魔法と剣を組み合わせたものでござる。剣を振るだけで魔法の詠唱と剣技を同時に行う、一石二鳥の技なのでござるよ」

 

 そう言うとアスカさんは剣を抜き放つ。訓練用の人形に向かって剣を振るうと、斬撃と氷の刃が同時に襲い掛かった。まあこんな感じでござる、と笑みを浮かべたアスカさんは、では早速と俺を訓練用人形の前に立たせる。

 

「待て。何をどうすればいいのか何も聞いてないぞ」

「さっきのは基礎の技の一つでござる。魔力と斬撃を同時に放つ、これが出来ると様々な応用に進むことが出来るのでござる」

 

 たとえば、とアスカさんは訓練用人形に突きを放つ。それと同時に雷撃が人形を襲った。いや、無理だよ。閃光のような突き、で本当に雷光が放たれることあるんだ。

 

「これまで子爵家で魔法剣を使える人は一属性だったのだけれど」

 

 流石ね、とのんびりとした口調でアスカさんが複数の属性を扱えることをシオンさんが褒める。それほどでも、と照れるアスカさんは、まあこれは応用なので、基礎としては斬撃に魔力を乗せることだと述べた。さっきの氷も自分が一番使いやすいので使ったが、本来の基礎は何も呪文を撃たず、魔力だけを乗せるのだと続けた。

 

「と、言われてもな」

 

 なにをどうすれば魔力が乗せられるのかさっぱり分からない。適当に剣を振ったところで、普通の斬撃になるだけだ。

 そんな俺を見ていたアスカさんは、ふむ、と顎に手を当てた。そうしながら、俺の持っている武器を指差す。

 

「エミルさんにこれを教えようと思った理由は、もう一つあるでござる。その『悪徳の剣』と鞘。それらは、魔力を使って呪文とは違う能力を使っているでござる」

 

 だから、基礎に到れる素質は既に持っているはずだ。そんなことを続け、アスカさんは笑った。

 剣と鞘。それらを使うのと、魔法剣の基礎が似ている。そんなことを言われた俺は、まずは鞘を手に取る。そこに魔力を込め、そして振るった。鱗粉の爆発が剣に纏わり付き、炎の剣が生み出される。

 

「これとは、違うんだよな?」

「原理としては似たようなものでござる。エミルさんはそれを道具を介してやっているので、己の中だけで完結させるのでござるよ」

 

 そういいながら、アスカさんは剣を鞘に納めた。一足飛びで訓練用人形に向かうと、無手の拳をそのまま振るう。打撃と炎の渦が同時に生まれ、訓練用の人形を吹き飛ばした。

 

「それさえ出来れば、こうやって剣がなくても魔法剣が撃てるのでござる」

「魔法剣じゃないだろもうそれは」

 

 そんなツッコミを入れつつも、まあ何となく理屈はわかった。鞘に魔力を込めて能力を使うように、剣に魔力を通して。

 

「わ、悪徳の剣が光ってます」

「そういえばあれ、エミルの心情に反応するんだったかしらね」

「だ、大丈夫かこれ!?」

「あ、消えたよぉ……」

 

 いきなり剣が光ったのに驚いて集中を解いてしまった。光るなら光るって前もって言っておいてくれ。久しぶりなんだから特に。などと文句を言いつつ、俺は再度集中する。こいつが光るってことは、俺のやり方は多分、間違っていない。

 真っ直ぐ前を見て、剣に魔力を通し、集中。そして。

 

「……お見事」

 

 離れていた訓練用人形が真っ二つになる。これが、と目を見開いた俺は、そのまま同じように剣に魔力を通しそして振るった。自分でも驚くくらいビュンビュンと斬撃が飛ぶ。

 

「流石でござる。基礎の一撃とはいえ、ここまでの精度の斬撃が出せる冒険者は中々いないでござるよ」

「流石は勇者級ですね」

 

 アスカさんもシオンさんもそんな評価をくれる。それを聞いて調子に乗った俺は、このまま斬撃を連打し、訓練場の人形を軒並み吹き飛ばす。

 

「あ、あれ?」

「エミル!?」

 

 そして、気合を入れてデカい一撃をぶっ放したところで視界がチカチカして膝から崩れ落ちた。慌ててスロウが支えてくれるが、立ってられなくてそのまま倒れる。心配そうな顔のまま、スロウが手早く膝枕をしてくれた。

 

「魔力切れですよね」

「そうでござるな」

 

 ぺちぺち、と俺の頬を軽く叩きながらスロウがそう述べる。ああそうか、魔力を斬撃にして飛ばしてるんだから、当然魔力を使うわけで。いつぞやに鞘の能力を連打した時と同じ状況に陥ったわけだ。

 

「訓練で良かったわね。本番で調子乗って連打してぶっ倒れたは洒落にならなかったわよ」

「うんうんうん……」

 

 アリアとシトリーも倒れた俺に駆け寄ってそんなことを述べる。表情は心配した、と言わんばかりなので、申し訳ないと素直に謝った。

 

「まあでも、これはこれで色々と使えるぞ」

 

 この間のワイバーン戦みたいな、空にいる相手を待ち構えることなくあの時のアスカさんのように攻撃が出来る。何より、魔法や遠距離攻撃ではなくあくまで斬撃なので、イゼルブの反射を掻い潜ることも可能なはずだ。

 ありがとう、と倒れたままアスカさんにお礼を述べる。どうしたしまして、と返しつつ、元々こちらのお礼なので気にしないで欲しいと彼女は言葉を続けた。

 

「……それはそれとして」

「そうね。飛竜商会の手伝いはすぐには無理ね」

「体調を万全にしてからだよぉ……」

 

 スロウとアリア、シトリーがこちらを見る。何だか責められている気がして、申し訳ないと俺は思わず視線を逸らした。

 

「心配してるだけですよ」

「そうよ。変な無茶ばっかするんだら」

「うんうんうん……」

 

 本当に申し訳ない。

 

 

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