幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百十三話

 気を取り直して。と言っていいのか分からないが、ともあれ俺の体調が万全になってから改めて出発するということになった。とはいえ、別にそんなに時間の掛かるものでもない、魔力を回復させるだけならば、最長でも一日あれば事足りるはずだ。

 ある程度の回復をすればそれでいい、と述べた俺に対し、スロウ達はどうせ向こうでもなにか無茶する可能性があるんだから休め、と言われてしまった。そんなわけで子爵領でもう一日休み、それで改めて向かうことに。

 ここで休んでいるその一日に何か問題が起きて、という展開を想像したりもしたが、まあそんなようはことはなく。

 

「あ、ぶっ飛びましたね」

 

 まあ正確には嫌がらせが失敗したシオンさんの元婚約者が乗り込んできたりもしたのだが、結果は見ての通りである。権力を使った嫌がらせが出来なかったなら今度は直接害しに、という思考自体はまあ小物悪役のパターンなので分からないでもないが。

 

「本当につまらぬものを切ってしまったでござる」

 

 何をどうすると勇者級の妹がいる場所に乗り込めるのか。冒険者の最高峰だぞ、魔王級と真正面から戦える相手だぞ。ちょっと腕が立つ程度の貴族がどうにか出来ると本気で思っていたのだろうか。雇った傭兵なのか冒険者なのか分からないが、アスカさんを見た時点で戦意喪失してたし。

 まあそれでも突っ込んでいけたという元婚約者の蛮勇だけは評価しておこう。ただの無謀かもしれないのでやっぱりなし。

 

「で、どーしますあれ?」

 

 あれ、とぶっ飛んだ貴族をスロウが指差す。別段死んではいないので、無理に回復させる必要もないだろう。そう判断し、まあ放っておけばいいんじゃないかと返す。

 

「ぐ、い、いいのか!? この僕をここまで痛めつけたとなると、我が家が黙ってはいないぞ!」

「成程。じゃ、殺しときます?」

 

 す、とスロウが立ち上がる。そんな脅しに屈する自分ではない、と元婚約者が喚いているが、残念ながら脅しでもなんでもないんだよな。そこの芋虫、何だかんだ思考がモンスターなんで、そういう時は躊躇わないぞ。まあそんなところも可愛いんだけどな。

 

「えっへへ。じゃあ殺しましょうか」

「何を!? ……ん? す、スノーティア・ド・ロプロ名誉枢機卿!?」

「ん?」

 

 一発グチャッといっときますか、と拳を振り上げたスロウを見た元婚約者は、そこで顔をまじまじと見ると露骨に怯え始めた。そうして上げた名前がそれである。そういえば、その辺の人はスロウとスノウの区別がつきにくいんだったっけか。シオンさんは最初にスロウだって紹介されたから分かってたみたいだけど、その辺知らないこいつからすれば取るに足らない観客だと思ってたのが教国のお偉いさんだったと判明する事態なわけだ。勘違いだけど。

 いやまあ、どっちにしろスロウはスロウで教国では有名な聖女だし、勘違いじゃなくても詰みか。

 それはそれとして、どうするか。勘違いさせたままでいくとして、スロウにそんな器用な真似が出来るとは思えない。それならばいっそ本物に来てもらった方が。

 

「あ、そうか。スロウ、ちょっとスノウ呼んできてくれよ」

「はい? ああ、そーゆーことですか。ちょっと待っててくださいね」

 

 そう言って《テレポート》で即座に消え去る。そうして数分後、一人の人物を連れて戻ってきた。スロウは笑顔で、呼ばれてきたスノウは何とも嫌そうな顔である。

 

「いきなり呼ばれて何の騒動だと思えば……いや本当に何の騒動ですこれ?」

 

 スノウの眼の前にはぶっ飛ばされてズタボロの貴族が一人。そしてそれらを取り囲む俺達。まあ状況からするとこっちが悪者に見えなくもないな。事実、元婚約者はスノウに縋るように自分が被害者だと訴えている。じゃあ何でこんな場所に、それも用心棒雇って乗り込んでいるんですかね。

 

「えっと……?」

 

 急な展開に混乱しているスノウが俺を見る。まあ呼ぶように頼んだのは俺なので、そこら辺は素直に説明することにした。そこの男はシオンさんの元婚約者で、浮気者のクソ野郎で、婚約破棄をした挙句こちらに嫌がらせをして、それが失敗したと見るや用心棒を引き連れて子爵領の屋敷に乗り込んでくるどうしようもない奴で。

 最終的にシオンさんには勇者級の義妹であるアスカさんがいたのでボコされた。

 

「で、今度はそれを棚に上げて自分の家を使って更に何かしようとしてるわけだけど」

「どうしようもないですね」

「め、名誉枢機卿!? そんな奴らの言うことを聞くのですか!?」

「ええ、まあ。友人ですし」

 

 さらりと言ってのける。なあスノウ、こっちとしては助かるけど、それはそれでお前も大分どうしようもない奴だぞ。いいのか名誉枢機卿の立場的に。

 そんなことを思っていると、いいんですよと彼女は胸を張った。その辺りは自覚してますので、と言葉を続けた。いやよくねえよ。

 

「こほん。ともかく、そちらのやったことは名誉枢機卿として看過出来ません。ですが、これ以上手出しをしないと約束するのならば、今回は許しましょう」

 

 そうでなければ、とスノウはシオンさんの元婚約者に告げる。それに怯えた元婚約者は、はい、と返事をすると一目散に逃げていった。ボロボロなのに元気だな。

 ちなみに雇われていた冒険者達もお疲れ様ですと帰っていった。もう金に釣られて変な依頼受けるんじゃないぞ。そう声を掛けると、身に沁みましたと苦笑していた。

 

「ふう。まあざっとこんなものですね」

「悪い、助かった」

「気にしないでください。あの時は色々助けられましたので」

 

 それよりも、とずずいとスノウが迫る。ついに付き合ったって本当ですか? そんなことを言いながら、目を輝かせて俺を見た。

 なんでそのことを、とスロウを見ると、えへへ、と笑っていた。どうやら来る途中にその辺の話をしたらしい。いや、じゃあ知ってるんだろ、わざわざ俺が言わなくてもいいだろうに。

 

「本人の口から聞きたいんですよ」

「ああそうかい。スロウは俺の彼女だ。これでいいか?」

「へたれを卒業したんですね」

 

 しみじみ言うな。大体お前その辺のやり取り見たのほんの少しだろうに。その少しでへたれ認定されたんだからまあ相当だったんだろうな当時の俺。

 ともあれ。それで用事は終わりましたか、という問い掛けにそうだと返した俺達は、じゃあ帰るんで送ってくださいというスノウの要望に答え《テレポート》を行った。どうでもいいが、こんな理由でこんな短い時間名誉枢機卿引っ張ってきて良かったんだろうか。

 理由のあるサボりって最高、とか言ってたんで、良かったんだろうな、うん。ついでなんで街中にしてくださいとか言っていたのは聞かなかったことにした。

 ともあれ。まあ問題らしい問題はこんな程度で、休息の一日は滞りなく過ぎていく。

 

「そういえば」

「どうしたのぉ……」

「嫌がらせの件も彼女に最初から頼んでいれば問題なかったんじゃ?」

「あ」

 

 

 

 

 

 

 休息も終わり、魔力も回復した。そんなわけで教国の首都に戻り、こちらに出張してきている竜のおっさんの下へと向かう。首都から少し離れた場所にある飛竜港の街にいるらしく、そちらへと移動することになった。首都とはまた違う活気のある飛竜港は賑やかで、街の人も忙しそうに動いている。

 場所を聞き、目的地に行くと、丁度竜のおっさん――頂きの古龍が立っていた。部下に何やら話をしているようで、というか、これはあれだな、怒鳴っている。

 

「問題あるなら言えっつっただろうが!」

「す、すいません会長!」

「儂ぁそういうのが一番許せん。言えばもっと早く対処が出来たってのに。いいか? 儂が若い頃には――」

 

 何か話が長そうだな。どうしようか、待ってるのも何か違う気がするし、かといって声を掛けるのもな。いっそとりあえず竜のおっさんと話すのは後回しにして、手伝いの内容だけ他の人に聞くってのもありか。

 スロウ達にそんな提案をすると、それでいいかもしれませんね、という返事が来たので一旦竜のおっさんに気付いているかは分からないが頭を下げておく。そうして、建物の中へと足を踏み入れた。

 どうしましたか、と受付に聞かれたので、この間竜のおっさんに仕事を手伝って欲しいという依頼を受けていたと告げた。

 

「失礼ですが、お名前は?」

「エミル。こっちは俺の仲間で、スロウ、アリア、シトリーだ」

 

 ふむふむ、と聞いていた受付の人の顔色が変わる。勇者級の、と呟くと、会長を呼んでこないとと立ち上がる。

 が、外で説教してたぞ、という言葉を聞いて腰を下ろした。

 

「暫くお待ちください」

「あ、はい」

 

 これ以上は聞くな、と言わんばかりの笑顔である。何となくそれを察したので、俺は素直に引き下がることにした。

 

「何かあったんですか?」

 

 が、それを気にしないのがスロウである。受付の人に迷うことなく尋ね、相手が非常に苦い顔をしていた。だからこういうのは聞くもんじゃないんだってば。

 

「いえ、そうですね、お待たせする原因にもなりますので」

 

 そう言うと受付の人は俺達をソファへと案内した。お茶を用意し、俺達の前に出しながら、ご存知の通り、と話を切り出す。

 

「うちの飛竜商会の会長は風属性頂点です。基本は王国ですが、他国にもある程度影響力を持っています」

 

 こうして教国に呼ばれた際に臨時の事務所を用立てられるくらいには。そこまで述べると、そんな素晴らしい会長ですが、と溜息を吐いた。

 

「少々、怒りっぽいところがありまして」

「はあ……」

「説教長いんですよあのお爺さん。しかも喋っている間に怒りは沈む割に説教はどんどん調子良くなっちゃって、一度始まると止まらないんです。途中で遮られると機嫌悪くなっちゃうし」

「た、大変ね」

「本当大変なんですよ。今だって運送の仕事の問題が残っているのに、説教が始まったらそれで業務止まっちゃうし」

「そいつは悪かったな」

「いや本当にぃっ!? か、会長!?」

 

 途中から愚痴になっていたそれだが、夢中になっていて竜のおっさんが来ていたことに気付かなかったらしい。どかりと横に座っている竜のおっさんに気付いた受付の人は、もうこれ以上ないというくらい脂汗をたらしている。

 対する竜のおっさんは笑顔だ。いやまあ額に十字のマークが見えてるけど。

 

「……はぁ。まあいい、今はそんなことより仕事だな」

「か、会長。申し訳ありませんでした!」

「こっちがもう良いって言ってんだから流せ。だからお前は――」

「竜のおっさん」

「あぁ? 何だ?」

 

 ジロリとこちらを睨まれる。成程、今まで食らってなかったプレッシャーが一気に押し寄せてきた。ぶっちゃけ怖い。加減はしているだろうとはいえ、属性頂点の怒りの睨みとか普通に死ねる。ひょっとしてこれを常日頃受けながら飛竜商会の人や竜は仕事をしているのだろうか。だとしたら相当だ。

 

「それで、俺達の依頼って、何なんだ?」

「……おう、そうだったな。悪い悪い、年食ってくるとすぐ頭に血が上っちまうのよ。気を付けようとは思ってるんだけどな」

 

 そう言って竜のおっさんは笑う。そうしながら、それで依頼の話だったなと髭をさすった。

 

「最近空路の邪魔するモンスターが増えてきてな。それを討伐する冒険者の人数も足りない」

 

 主な粗雑魔王級は教国の勇者級であるクロード達が倒しているが、それでも手が回らない連中がそこそこいるのだとか。この間俺達が倒したワイバーンもそうだ。

 そんなわけで、今までの空路とは違う安全なルートを使っているらしいが、それだとやはり時間がかかる。それを補うために飛竜運送の本数を増やし、人手の足らない分を竜のおっさんの飛竜商会が埋めているというわけだ。

 

「だがまあ、こっちも出張してきている身だからな。当然ずっと教国にいるわけにもいかない。ならいっそ、元の空路を安全に戻してしまおうと考えたわけだ」

 

 これまで使っていた最短距離の空路を竜のおっさんの飛竜商会で使う。そして、そこの障害を排除する。言ってしまえばそれだけの簡単な仕事である。相手が魔王級かそれに準ずるモンスターだということを除けば、であるが。

 

「ある程度落ち着いたら同じようなことを教国の勇者級がやる予定ではあるらしいんだが、そんなチンタラしていたらいつまで経っても儂ぁここにいることになる」

「で、俺達がいたから丁度いいってことか」

「おう、どうだ? 相手が相手だから、当然報酬は弾むぞ?」

 

 そうだな、とスロウ達を見る。まあ元々受ける予定だったようなものなので、ここで反対するような面子はいない。スロウは俺の思うままでいい、と言っているし、アリアやシトリーも言い方は違うが大体似たような意見だ。

 よし、と俺は頷き、竜のおっさんに依頼を受けると告げた。それを聞いた竜のおっさんも、そいつは良かったと笑みを見せる。

 

「じゃあ早速だが、ルートを通る配送の依頼がある。まずはそれの用心棒をやってくれ」

「了解」

 

 竜のおっさんが受付の人に指示を出す。こっちです、と荷物の籠まで案内してくれた後、受付の人は小声で助かりましたとお礼を述べた。いやまあ、単純に長くなりそうだったから止めただけで、そう感謝されるほどでは。

 

「どうした?」

「い、いえ。なんでもないです会長」

 

 ビクリと反応した受付の人は、じゃあ自分はこれでと去っていった。そんな受付の人から配達の籠に視線を移す。籠、とは言うがサイズも作りも大きな馬車くらいある。飛竜が運ぶのだからまあ当然だが、俺達が乗った上で荷物も入れてもまあ大丈夫くらいではあるだろう。

 問題はこの状態で戦闘になった時だ。籠から乗り出して戦うとなると、どうしても遠距離戦がメインとなる。正直シトリーは役に立たないと見ていいだろう。

 

「まあ、必然的にあたしがメインアタッカーよね」

 

 空を飛べる上に遠距離攻撃が出来るアリアが間違いなく今回の主軸だ。俺もアスカさんから魔法剣の基礎を教えてもらったので多少援護は出来るだろうが、そのくらいか。

 そんなことを考えていると、竜のおっさんがまあそんな難しく考えることはないと笑っていた。

 

「この籠を運ぶのは儂だ。荷物の心配はする必要がないからな」

「古龍のおじさんが運ぶんなら、護衛いらないんじゃないですか?」

「儂だけ突っ切ってもしょうがないだろう。空路をある程度正常化させんといかん」

 

 その辺は一応頂点としてのギリギリのラインってことか。直接竜のおっさんが倒すこともしない、と。まあそれで済むならとっくにやってるだろうしな。

 まあ、ともあれ。空路の障害を取り除く仕事とやらを、やってみるとしますかね。

 

 

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