幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百十四話

「風が気持いーですねー」

「呑気だな」

 

 竜のおっさんの竜籠に乗せられ、俺達は現在上空である。現在使えない空路をどうにかするため、というのが依頼内容なわけだが、実際どうなんだろう。

 

「どういうことよ?」

「いや、確かに空路にモンスターが居座っているのは確かだとして、そう都合よく来るか?」

「来ない可能性もある、ってことぉ……?」

 

 シトリーの言葉に俺は頷く。まあ毎回毎回邪魔をされているからその空路を使えなくなったんだとすれば話は別だが、流石にそこまでひどい状況ではないだろう。

 そんなことを思いながら竜のおっさんに尋ねると、まあそうだな、と返事が来た。

 

「来ない時は来ない。まあそんなもんだ。後は、そうだな」

 

 襲う相手を見極めている可能性もある。そんなことを続け、だとしたら今回は何も来ないかもなと竜のおっさんは笑っていた。そりゃそうか。襲う相手を選んでいるとしたら、間違いなく属性頂点は狙わない。選んでそれだとただの馬鹿だ。

 そうなると今回の空路は何の問題もなく行ける可能性があるか。そんなことを思い、油断は禁物だがそこまで張り詰める必要もないかと息を吐いた。

 

「でも、そーなると。依頼自体は達成できなくないですか?」

「確かに、そうだな」

 

 スロウが首を傾げながらそんなことを述べる。言われてみれば確かに、空路を安定化させるための討伐依頼で討伐対象が現れない竜籠に乗ってるとなると、何の意味もないただの空の旅になってしまうわけで。

 どうしたもんか。そんなことを考えながら竜のおっさんに尋ねると、まあその時は違う竜で試すしかないという返事が来た。

 

「あんまり乗り気にはならんがな。部下を危険に晒す行為は」

「そーゆーとこはちゃんとしてるんですね」

「ははは、そりゃそうだ、儂ぁこれでも飛竜商会の会長だからな」

 

 そう思うならあの圧を掛けた説教何とかしてやればいいのに。そうは思ったが、そこら辺は自分でも直せるようなもんじゃないんだろうな。今なら妖精姫がギリギリ、といっていた意味が何となく分かる。

 そんなことを話している間に、空路の問題の箇所に辿り着いた。ここからがモンスターの襲撃を特に受ける箇所だ。

 

「……来ませんね」

「来ないな」

 

 が、件のモンスターはこちらに襲ってくる素振りがない。遠目に何やら飛んでいる連中は見えるが、攻めて来るつもりがないのか、そのまま素通りしていった。

 

「となると、やっぱり相手を選んでいる可能性がありそうね」

 

 様子を見ているかのようなそれを見て、アリアが呟く。俺もぐんぐんと遠ざかっていくモンスターの姿を見て、同じ結論に至った。

 竜のおっさん、と声を掛ける。俺達の会話を聞いていたのか、そうだな、と少し考え込むような返事をした竜のおっさんは、本当はやりたくないんだがな、とぼやいた。

 

「うちの若い奴でこの空路を行かせてみるか」

「大丈夫なんですか?」

「危険だろうな。だから」

 

 もしもの時は人型で自分も同乗する。そう言って竜のおっさんは笑った。

 

 

 

 

 

 

 というわけで目的地に到着である。荷物を下ろし、今度は向こうに持っていく荷物を貰い。そして、再び同じ空路で突き進む。

 

「まあ今度こそ狙われるって可能性もないことはないがな」

 

 竜のおっさんはそう言うが、まあ無いだろうな、と思っているのが口調から感じられた。

 実際、再びその区間に入ってもモンスターは襲ってこず、やはり遠巻きに見ているだけである。これは確定とみていいのかもしれない。

 

「あ、でもそーなると」

「どうした?」

「結構強い竜なら通れるってことですよね」

 

 言われてみれば。成程、竜のおっさんは風属性頂点だからまあ論外としても、ある程度の強さを持った竜ならば襲われない可能性が高い、と。

 その辺は確認してないのか。そう竜のおっさんに尋ねると、そりゃそうだと返された。

 

「そんな実験して被害が出たらたまったもんじゃないからな」

「そりゃそうか」

 

 言われてみれば。飛竜運送にしろ竜籠にしろ、冒険者じゃない。多少の荒事は想定していても、まともな戦闘行為を踏まえて仕事をするなんてことはまずないだろう。ましてや、それを前提にした行動なんてもってのほかだ。

 

「とはいえ、それを確かめるなりなんなりしないとまずいか……?」

 

 竜のおっさんも考え込むような口調になる。自分で言ってなんだが、かといってそんな実験みたいなことをするのは流石に、と思わないでもない。余計な被害が増える可能性も全然あるのだ。

 

「だよなぁ。儂としても部下に変なことはさせられないしな」

 

 やるとしても、と竜のおっさんは言葉をそこで止めた。そのまま目的地、最初の飛竜港へと戻ってきた俺達は、荷物の確認をしている従業員を見ながら何かを考えている竜のおっさんに声を掛ける。

 

「どうしたんだ? 竜のおっさん」

「ああいや。さっき言ってた件だが」

 

 誰にしたもんか、と竜のおっさんは呟いた。そうしながら、次の荷物はどこだと部下に声を掛けている。話を聞く限り、モンスターに襲われるであろう危険箇所は空路の中で最短距離が複数交わる場所。一番利用のされる空間らしい。まあ粗雑な魔王級とはいえ、そのくらいの知識はあるんだろう。

 逆に言えば、そこさえどうにか出来れば空路の問題は八割方解決するというわけだ。

 

「しょうがない、おぉい」

「はい、どうしました会長?」

「次の配達、こいつら乗せて例の空路で行ってみてくれ」

「え? 大丈夫なんですか?」

 

 声を掛けられた部下の竜は怪訝な表情を浮かべる。それに対し、竜のおっさんも難しい顔ではあったがお前さんなら大丈夫だろうと返した。先程の空路での出来事を述べ、強さで襲う対象を決めているのならば問題はないはずだ、と告げる。

 

「分かりました。もし何かあったら、彼等が対処してくれる、でいいんですよね?」

 

 視線を向けられたので、勿論だと頷いた。頼まれたんだから全力は尽くす。そんな俺達の返事を聞いて、部下の竜はもう一度分かりましたと頷いた。

 そういうわけで空の旅第二陣である。竜のおっさんほどではないとはいえ、この部下の竜も大分快適な空の旅だ。スピードも十分だし、安定感もある。これなら。

 そんなことを思っていると例の空域に差し掛かった。先程とは違い、モンスターの距離が近い。近いが、それでも襲ってくるような感じではなく値踏みをしているような視線だけを感じていた。

 そうして緊張した空気のまま空域を通り抜ける。部下の竜はぷはぁ、と止まっていた呼吸を再開するかのような息を吐いた。

 

「確かに襲っては来なかったな」

 

 しんどい、と溜息を吐く部下の竜に、大丈夫かと声を掛ける。俺達の声を聞いて、まあいざとなったら助けてくれるって言ってくれていたしと笑っていた。

 そうして第二陣も目的地に着く。荷物を下ろし、向こうの荷物を貰い、そして再び空を飛ぶ。この辺りで空はすっかり夜、真っ暗だ。

 

「何にも見えませんね」

 

 夜空が広がるばかりで、星の光だけだと昼間のようにモンスターの影がさっぱり分からない。竜籠に搭載されている魔道具のランプのおかげで俺達は大丈夫だが、周囲の様子はどうにもならず。

 そんな状態で例の空域に突入した。明かりが点いているこの竜籠は向こうにとっては良い的だろう。だから、と各々武器を構えて敵の襲来を待った。

 

「わわっ!」

「スロウ!」

 

 衝撃、それによってスロウがすっ転んだ。慌ててスロウの体を支える。そうしながら周囲を見ると、夜の闇とは違う影が取り囲んでいるのが見えた。成程、多少強くても夜なら行けると踏んだか。

 

「スロウ、支援頼む。シトリーはスロウの援護。アリア、行くぞ!」

「りょーかいです」

「分かったよぉ……」

「ええ、行くわよ!」

 

 部下の竜にはそのまま飛ぶよう伝え、俺達は竜籠から外に出る。大きめの御者台のようになっているスペースに身を乗り出すと、迫ってきていたレッサーワイバーンに斬撃を飛ばした。翼をぶった切られたモンスターはそのまま失速していく。その横では、アリアが鱗粉を飛ばし一体燃やしているところであった。

 

「アリア、大丈夫か?」

「流石にこの速度だと空中に出たら置いていかれるわね」

 

 ぼやきながら、でも、と視線を動かす。どうやら向こうも深追いはしないらしく、二・三体倒した時点で連中は去っていったらしい。ふう、と息を吐くと部下の竜に大丈夫かと声を掛ける。

 

「こっちは大丈夫だ」

 

 あんたらのおかげで怪我もない、と部下の竜が笑う。そいつは良かったと返し、俺達は再び竜籠の中に入っていった。

 しかし、あの調子だと、戦う場合もう少し動けるサイズの竜籠が欲しいな。そんなことをぼやくと、じゃあ次は特大で運ぼうかなどという軽口が頭上から降ってきた。

 飛竜港に辿り着く。荷物は無事、ある意味実験も成功。まあつまり向こうも確実に襲える相手を狙っているらしいということが分かった。竜のおっさんにそれを告げると、やっぱりそれしかないか、などと髭を触っている。

 そして翌日である。

 

「な、なななんで私が!?」

「しょうがない、お前さんが連れてきている中で一番へっぽこだ」

 

 昨日言っていた動くスペースの用意された特大籠の前で、昨日の受付の人が涙目で立っていた。竜のおっさんもそこそこ苦い顔で、そんな受付の人を見ている。

 ひいん、と泣きそうになっている受付の人。いや、というか話を聞く限り人じゃなくて竜だったみたいだな。受付をやっていた理由は、まあ竜のおっさんの言う通りなんだろう。

 

「あの空域のモンスターをぶちのめすには、囮になる弱っちい竜が必要だ」

「直接的に罵倒されてる!? いやまあ確かに私は弱いですけれども」

「そうだな。だからドラセナ、お前さんが必要だ」

「こんな場面で会長からその言葉を聞きたくなかった!」

 

 やっぱり泣きそうな受付の人、もとい竜。ドラセナさんは涙目でこちらを見てきたが、しかしそんな顔されてもどうにもならない。とはいえ、流石にここまでだと俺達も心配にはなるというか。

 

「なあ、竜のおっさん」

「何だ?」

「えっと、そのドラセナさん? は、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないですよ!? 私飛竜商会でも下から数えたほうが早いくらいにはダメダメですからね!? だから飛行はやらずに人型で受付やっていたのに」

 

 ずずい、と迫るドラセナさん。どうでもいいが一応人型の状態だと美人さんなのでそうやって近付かれるとですね。

 ごす、とげんこつが落ちた。痛い、と頭を押さえて蹲る彼女を見ながら、いや本当に大丈夫なのかと視線を竜のおっさんに向ける。髭を触りながら、ううむ、と苦い顔になっていた。おい、おっさん。

 

「いや、へっぽことはいえ竜。能力自体はあるはずなんだ」

「……無理ですよ?」

「やかましい、それでも儂の孫娘か」

「孫娘?」

 

 ということは属性頂点の系譜ってことか? それなら確かに能力自体はあると言われてもまあ納得は出来るが。

 竜のおっさん曰く。沢山いる孫の中の一体で、まあ素質や能力はあるはずなのにどうにもへっぽこ。なので修行も兼ねてと働かせていたところでこれだ、丁度いいとばかりに抜擢したのだとか。

 

「落ちますよ!? 墜落しますよ!? お爺さんは可愛い孫娘が地面に叩きつけられて肉の塊になってもいいというんですか!?」

「風の竜が落ちるな。はぁ、じゃあこうしよう。儂も行くから」

「お爺さんが行くならお爺さんが運べばいいじゃないですかぁ!」

「それじゃあ意味がないと言っているだろうに。後仕事中だ、会長と呼べ」

「先に孫娘扱いしたくせに」

 

 ぶすう、と膨れるドラセナさん。そんな彼女を見て溜息を零した竜のおっさんは、ガリガリと頭を掻くと分かった分かったと頷いた。分かってくれましたか、とドラセナさんの表情が明るくなる。

 

「儂はついていかんから、自由に飛べ」

「そこが一番の問題なんですよぉぉぉぉ!」

 

 全力の拒否である。流石にここまで嫌がられると、俺達も無理にさせようとは思わないというか。そんなことを竜のおっさんに告げたが、しかしな、と難しい顔をされた。

 これを除くと、あくまで出張で連れてきた面子なので弱いやつがいない。そうきっぱりと言い切られた。

 

「そうなると結局昨日と同じ事が起きるだけだしな」

「根本的な解決にはなりそうにないな」

 

 成程。そうなると、確かに囮になりそうで、しかも身内、というドラセナさんは今回の役目にぴったりなわけだ。

 問題は当事者が滅茶苦茶にやりたくなさそうなことだが。

 

「というかもし本当に落ちたらどうするんですか? 勇者級の冒険者も一緒に死んじゃいますよ? いいんですか?」

「そこら辺は心配してない。お前さんなら落ちんし、エミル達も死なん」

 

 迷うことなく竜のおっさんはそう言い切った。ドラセナさんはそんな竜のおっさんの言葉に少しだけ気圧され、ぐぬぬ、と表情を変える。何だかんだそうやって信頼をされているのを感じ、少しだけ天秤が傾いたようだ。

 

「さ、さっき落ちるって言った時はそんなこと言わなかったじゃないですか」

「風の竜が落ちるな、とは言ったぞ」

 

 それってそういう意味なのか。まあよく分からんが竜特有の言い回しなんだろう。

 ともあれ。ドラセナさんは竜のおっさんの言葉を受け、諦めたように溜息を吐いた。どうやらこれ以上何を言っても状況は変わらないという判断をしたらしい。分かりました、と頷いた後、竜のおっさんに指を突き付ける。

 

「その代わり、この仕事終わったら何か一ついうこと聞いてもらいますからね、お爺さん!」

「仕事中だから会長と呼べって」

「孫娘としての交渉をしてるんです。どうなんですか?」

 

 キッ、と真っ直ぐ前を見てドラセナさんがそう述べる。はぁ、と息を吐いた竜のおっさんは、分かった分かったと了承していた。

 そうした後、じゃあ早速準備をしろ、とドラセナさんに告げる。分かりましたよ、とあんな交渉をしても尚渋々準備を始める彼女を見ながら、竜のおっさんは溜息を吐いた。

 

「悪いな、じゃあちょっくら、そこのへっぽこに揺られて来てくれ」

「ああ」

「どうせへっぽこですよぉだ」

 

 人型から竜に戻ったドラセナさんは、特大の竜籠へと向かっていく。準備が出来たら行きますよ、という彼女の言葉に従い、俺達もその特大竜籠へと乗り込んだ。

 

 

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