幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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エミルたちは空中戦じゃ分が悪すぎるでしょ……!


第百十五話

 特大の竜籠は、特大というだけあってその大きさはかなりのものだ。見た目は四角い箱のような形だが、上部分が柵の付いた甲板のようになっており、十分動けるスペースが確保されている。襲撃が来た場合、ここに乗っていればある程度動くことが出来るだろう。

 まあ問題はその竜籠を支える竜なのだが。

 

「行けるか? ドラセナさん」

「は、はい。やってみます」

 

 体と竜籠を接続させる器具を纏い、竜籠と繋がる。そのままおっかなびっくりと飛び立ったドラセナさんは、若干頼りない飛行をしながらも上空へと舞い上がっていった。

 一番へっぽこ、とか竜のおっさんがいっていたので身構えてしまったが、まあ確かに昨日の飛行には劣るものの別段問題があるようには思えない。このくらいならばのんびりと空の旅を楽しむ余裕もあるくらいだ。

 

「み、みなさん。大丈夫ですか?」

「ああ、ドラセナさんの方は大丈夫か?」

「わ、私は、はい、今のところは、何もなければ」

 

 何もなければ、か。まず間違いなく何かあるのでまあつまりはこれから大丈夫じゃなくなるということだ。どうしたもんか、とスロウ達を見たが、なるようにしかならないと皆その辺りは覚悟を決めている。

 

「にしても、本当広いですね、これ」

「昨日までの竜籠も大きいやつだったが、こいつは特別だな」

 

 これ、ちょっとした部屋くらいはあるんじゃないか。囮の役目を担っているので荷物もそこまで乗っていないこともあり、俺達だけだと広さを持て余すほどだ。

 

「寝っ転がっても全然平気ですね」

「やめなさい」

 

 ででん、と盛大に横になったスロウをアリアが咎める。お前な、一応ここは教国でお前は聖女なんだから多少の慎みとかそういうものをだな。とか芋虫に言ってもまあ無駄だろうけど。後どうでもいいけどパンツ見えてる。

 

「エミルのえっち。でも見たいなら遠慮なく見ていーですよ」

「見ない見ない。いいから仕舞え」

「えー。可愛い彼女のゆーわくに抗うんですか?」

「ここでやってもしょうがないだろ。じゃなくて」

 

 キョトンとした表情のスロウが笑みを浮かべる。えへへ、とこちらに抱きつきながら、じゃあ人のいない場所でやりますね、と耳元で囁いてきた。お前さ、いや彼氏彼女の関係だから別にいいのかもしれないが、そういうことを言われると。

 

「惚気るのもいいけど、一応今は依頼の最中よ」

「まあ、いつも通りだけどぉ……」

 

 やれやれ、とアリアが肩を竦める。うんうんうんと頷きながらシトリーもそんなことを述べていた。慌ててスロウから離れた俺は、気を取り直すようにコホンと咳払いをする。

 そうしながら、窓の外を眺め、そろそろ例の空域にはいるだろうかと表情を戻した。

 

「ドラセナさん」

「はい?」

「大丈夫か? 予想だとそろそろ襲われるぞ」

「だ、大丈夫か大丈夫じゃないかで言うなら全然大丈夫じゃないですけど、もうここまで来たらどうしようもないんで」

 

 盛大な溜息と共にそんな返事が来る。開き直っているわけでもなく、どっちかというと諦めているような返答であった。成程確かにこれは大丈夫じゃない。

 そんなことを思っている間に空域に突入する。竜のおっさんと来た時は遠巻きに見られているだけだった。その部下の竜の時は、夜で視界が悪いのを理由に襲われた。

 ならば、へっぽこ竜だと分かるくらいの飛行をしている相手ならば。

 

「来たな」

 

 レッサーワイバーンが値踏みをするまでもなく迫ってくる。一目でどうにかなると判断されたのだろう。そのまま竜籠に向かって一直線だ。

 一直線ということは、非常に迎撃がしやすいという意味でもある。アリアの鱗粉の爆発によって、あっさり撃墜され落ちていった。どうでもいいが突然レッサーワイバーンが落下してくるとか地上は大丈夫だろうか。

 

「その辺りの連絡は頂の古龍様がやってるでしょ」

「それもそう、か、っと!」

 

 斬撃を飛ばす。遠距離で袈裟斬りにぶった切られたレッサーワイバンは、横にいた仲間を巻き込み墜落していく。あっという間に倒されたことで、レッサーワイバーンも攻撃を止めて周囲を飛び回るようになった。

 

「そーいえば、ドラセナさん止まってません?」

「え? げ、迎撃するんですよね? 振り切るんじゃないなら、その方が戦いやすいかなと」

「いや、確かに、その方が助かる」

 

 荷物を届けるのが最優先ならば話は別だが、今回は空路の敵を片付ける方が優先だ。滞空してくれるのならば、こちらとしても動きやすい。

 問題は、向こうもそれを察知して撤退してしまうということだが。まだ周囲を飛び回っているところからして、竜自体は大したことのない相手だと判断しているらしい。乗っている冒険者である俺達は向こうにとってはおまけ程度の扱いなのだろう。

 それならそれで助かる。さっきは迎撃だったが、今度は攻撃だ。アリアと視線を合わせ、周囲を飛び回る群れの何体かに狙いをつけた。剣に魔力を込め、斬る。飛ばされた斬撃にぶち当たったレッサーワイバーンが落ちる。その横では扇を構え、何体かのレッサーワイバーンを爆殺しているアリアの姿も見えた。

 包囲網のようになっていたレッサーワイバーンの群れが欠けるにつれ、向こうの距離もどんどん遠くなる。普通の群れならば撤退してもおかしくないが、そうでないということは、つまり。

 

「な、何か来ます!」

 

 ドラセナさんが悲鳴のような声を上げる。周囲を飛び回る群れの連中とは違う『何か』、間違いなく親玉で、まあ魔王級だろう。粗雑なものかどうかは分からないが。

 そうしてやってきたのはワイバーン。こいつはあの時の、アスカさん達を子爵領まで届ける途中に出会った時のもう一体か。どうやら空路を封鎖していたのはあの時の二体で、封鎖している場所に獲物が来なくなったことで別の場所に獲物を探して、といった感じだったらしい。

 そんなことを思っていると、今度は反対方向から声。なんだ、とそちらに視線を向けると、ワイバーンとは別のモンスターが同じように向かってくるところであった。

 グリフォン。上級の鳥獣モンスターで、その強さはワイバーンに勝るとも劣らない。一部のグリフォンは竜と同じように人語を解し対話も出来るとは聞くが、どうやらこのグリフォンはそこまでの領域に達してはいないようだ。それでも凶暴性や溢れ出る殺気は十分。上級の上澄み、あるいは粗雑魔王級に認定される程度には強さがありそうではある。

 ワイバーンが吠える、グリフォンも吠える。そしてそのまま二体が空中でぶつかりあった。

 

「な、なんだ?」

「縄張り争いか何かですかね」

 

 ひょこ、と甲板に出てきたスロウがそんなことを述べる。しかし成程、縄張り争いか。

 

「どうする? アリア」

「この隙に両方片付けるか、勝った方を叩き潰すか、の二択ね」

 

 どちらもそう上手くは行かないだろうけど、とアリアが続ける。まあ俺としては後者を選びたくはあるが、こんな獲物の眼の前でやり始めてどちらかが倒れるまで、とか普通はやらんだろうしな。

 案の定というべきか、何度かぶつかりあったワイバーンとグリフォンはそこで一度距離を取った。そうして変わらずここに留まっているへっぽこ竜を見て、眼の前の相手より優先する獲物があるではないかとばかりに咆哮を上げる。

 

「ひぃぃ、やっぱり来るんですね!?」

 

 ドラセナさんが悲鳴を上げる。まあそりゃそうだろうと思いながら、じゃあ改めてと武器を構え直した。状況的には二対二といっても過言ではない。スロウは支援に回ってもらっているし、シトリーは空中では能力の発揮が殆ど出来ない。

 

「シトリー、荷物の魔力回復薬を頼む」

「了解だよぉ……」

 

 ひょこ、と甲板に顔を出したシトリーが俺に薬を手渡す。そのついでに、盾にはなれるからと俺達の隣に立った。

 

「大丈夫か?」

「今回は攻撃の役には立てないから、このくらいはしないとぉ……」

 

 ふんす、と気合を入れるシトリーを見ながら、じゃあ頼んだと声を掛ける。

 スロウがわたしもわたしも、と騒いでいたが、お前は今回完全支援なんだから中にいろと押し込んだ。

 

「むー、じゃあとりあえず皆にガッツリ支援しときますね」

 

 体に負担のない程度のほぼ最大級の支援が飛んでくる。相変わらず自身で自覚できる能力の上がりっぷりに驚きながらも、これなら単独でもどうにかなるかとアリアを見た。同じ感想を持ったのか、コクリと頷くと羽を出現させワイバーンへと飛んでいった。

 ということは、と俺はグリフォンを見る。こっちの相手が俺というわけだ。まあ確かにグリフォンの攻撃に遠距離はないので、ブレスを放ってくるワイバーンよりかは空の飛べない俺には戦いやすい。

 そんなことを思っている矢先、グリフォンが突進してきた。それをばっ、と前に出てシトリーが受け止める。が、衝撃で竜籠が左右に揺れた。

 

「あ、わわわ……」

「シトリー!?」

 

 バランスを崩したシトリーを慌てて支える。思わず抱きしめるような格好になってしまったが、そのまま揃って空中に投げ出されるということにならずに済んだ。

 

「あれはあれでやっかいだな」

「う、うん……。あの、エミルくん……」

「どうした?」

「そのぉ……」

「あー! エミルがシトリーちゃんのおっぱい揉んでます!」

 

 へ、と視線を下げると、成程確かに抱きしめる形になったおかげでシトリーの豊満な胸を思い切りわし掴んでいる状態になっていた。慌てて離れるが、スロウに言われるまではわりとガッツリ揉んでいたわけで。

 

「わ、悪いシトリー」

「う、ううん……ワタシは大丈夫だよぉ……」

 

 そもそもこれ疑似餌だし、と言いつつ少し照れたような顔をしているシトリーに俺はもう一度謝ると、視線をグリフォンに向ける。

 の、前に。甲板に出てきてほれ揉め、とばかりに胸を突き出してくる我が可愛い彼女にチョップをお見舞いした。

 

「何するんですか!」

「今戦闘中だ! そういうのは後にしろ!」

 

 はーい、と素直に引き下がったスロウを見ながら、今度こそ視線をグリフォンに向ける。そのまま即座に斬撃を飛ばしたが、流石に推定粗雑魔王級。空中で身を翻してそれを躱すと、再度こちらに、というか竜籠に突っ込んできていた。

 

「さっきので分かったから、次はそうは行かないよぉ……!」

 

 籠の中へと疑似餌を置き去りにして簡易的な錨にすることで、アリジゴクの本体がグリフォンの突進を受け止める。先程よりも揺れは少なく、そしてそのままグリフォンを掴んだシトリーは一気に顎を突き立てるとグリフォンの体に噛みつく。今だ、と援護のように斬撃を飛ばし、グリフォンに一気にダメージを与えていった。

 

「あっ……」

 

 その矢先、暴れたグリフォンはシトリーごと竜籠から離脱する。疑似餌と繋がっているため盛大に竜籠も引っ張られ、俺は思わずバランスを崩した。シトリーは慌ててグリフォンから離れるが、疑似餌と繋がっている雌しべもそろそろ限界で。

 ぶつり、と茎が切れた。その衝撃でがくんと揺れた竜籠の甲板に立っていた俺も、おもわぬそれに踏ん張りがきかず。

 

「シトリーちゃん!? エミル!?」

 

 俺達は揃って空中に投げ出された。何とかギリギリシトリーを掴むことは出来たが、そこまで。後は地面に落下するのみ。

 

「大丈夫だよぉ……エミルくんは、ワタシが命にかえても守るから……」

 

 そう言って自分がクッションになるように下に移動するシトリー。何でだ、お前がそこまでする必要なんかないだろ。むしろ俺をクッションにして持ち前の耐久値で生き残れよ。

 

「馬鹿っ! どっちも死なせないに決まってるでしょうが!」

 

 そんな落下が途中で止まる。見上げると、アリアが全力で俺達を掴んで飛んでいるところであった。スロウの支援に感謝しなさい、と言ってはいるが、節足は出ているわ顔は半分虫になっているわでアリア自身も余裕がないことが窺える。

 そのままゆっくりと甲板まで移動していくアリア。だが、当然のごとくそんなフラフラ飛行する虫をワイバーンやグリフォンが見逃すはずもない。ワイバーンが撃ち落とさんとブレスを放とうと咆哮を上げた。まずい、俺達がいないアリアならともかく、今の状態だと回避が出来ない。

 

「アリアちゃん……! ワタシを落とせば避けられるよぉ……!」

「うるさい! いいから黙って運ばれてなさい!」

「でもぉ……! ワタシが余計なことをしたから、アリアちゃんがぁ……!」

 

 火球が迫る。当たれば間違いなく燃えて、そして纏めて落ちてグシャリだ。そういう意味では確かに誰かを見殺しにして回避を優先するのは理にかなっている。

 だが。だが、しかしだ。俺は、決してそんなことをさせるわけにはいかない。

 

「こん、ちくしょう!」

「エミル!」

「エミルくん……!」

 

 幸いさっき魔力は薬で回復した。だから、これくらいはやれるはず。鞘に魔力を通し、火球を防げるほどの光の盾を生み出した。妖精姫の能力を普段より強力に呼び出しているのだから、ゴリゴリと魔力が減っていく。だが、かまうものか。それでアリアとシトリーが助けられるのならば。

 そのままフラフラと飛行していたアリアは甲板に辿り着いた。ドサリと俺とシトリーを下ろすと、慌ててこちらに駆け寄ってきたスロウに即座に回復をされる。ダメージというより、どちらかというと体力の消費が激しかったのか、回復を受けて尚アリアはゼーハーと息を吐いていた。

 

「エミル、あんた大丈夫なの?」

 

 そんな状態でも、アリアは俺の心配をした。いやお前の方がよっぽど大丈夫じゃないからな。そんなことを言いながら、俺は魔力切れ寸前でふらつく体を無理矢理立たせる。そうしながら、スロウ、と声を上げた。

 

「無茶はダメですよ」

「無茶じゃない」

 

 はい、と渡される魔力回復薬。それを一気に飲み干すと、こちらを攻撃しようとしているワイバーンとグリフォンに向き直った。意識を集中させ、相手が攻撃してくるよりも早く、これ以上皆が傷付かないように。

 甲板を蹴った。突っ込んでくるグリフォンに合わせ、肉薄する。翼を両断し、そのまま首を蹴り飛ばした。その勢いで突っ込むのは残っている手負いのワイバーン。迎撃しようと向こうが放ったブレスは光の盾で防いた。勢いを殺さずワイバーンの背中に着地した俺は、そのまま魔法剣の基礎、通常の斬撃と魔力を伴った斬撃を同時にぶっ放す。

 これで後は、あ。

 

「エミル!?」

 

 集中が切れた。墜落するワイバーンととも俺の体も落下していく。今からこいつを足場に飛んでも間に合わない。というか集中の切れた状態ではどのみち無理だ。やばい、今度こそ。

 

「エミル! 指輪を!」

 

 スロウの声が聞こえる。指輪? 指輪って。

 あ、と左手の薬指を見た。そうだ、これはスロウとのペアリングで、婚約指輪だとかスロウが言ってたやつで。

 相手のところに、移動出来る魔道具だ。

 

「エミルっ!」

 

 指輪の効果でスロウの眼の前に《テレポート》した俺は、即座にスロウに抱きしめられた。無茶はダメだって言ったじゃないですか。そんなことを言われるが、まあ確かに無茶をしたかもしれないので素直に謝る。

 

「わたしだけじゃないです。アリアちゃんとシトリーちゃんにも謝ってください」

 

 そう言われ、確かにそうだと二体にも謝る。アリアもシトリーも心配はしたけど無茶はお互い様だからと苦笑していた。

 

「うん、でも……みんな無事でよかったよぉ……」

「まあ、そうね。流石に今回はちょっと危なかったわ」

「そーですよ! わたしみんなの蘇生をする覚悟しかけましたからね!」

 

 まったくもう、とスロウが腰に手を当てて怒る。そんなスロウに皆ごめんと謝りながら、気が抜けたように笑みを浮かべた。親玉を倒したことでレッサーワイバーンも逃げていったし、とりあえずこの空域はひとまず解決したといってもいいんじゃないだろうか。

 そんなことを思いながらドラセナさんに声を掛けたが、返事がない。

 

「あれ? ドラセナさん?」

「…………はっ! あ、み、皆さん無事なんですか!?」

 

 どうやら途中から意識を飛ばしていたらしい。それでも滞空を続けていた辺り、成程そこはちゃんと風属性頂点の孫娘なんだなと思わせる。

 ちゃんと全員無事だ。そうドラセナさんに告げると、彼女は心底ホッとしたような息を吐いた。

 

「え、えっと。とりあえず親玉らしきのを倒したので、私はこのまま空路を使って荷物を配達すればいいんでしょうかね」

「だろうな。念の為帰りも確認する必要があるし」

「うぅ、そうですよね」

 

 よよよ、と嘆きながら、ドラセナさんが動き出す。それを確認しながら、俺達は籠の中へと戻っていった。そうして、追手が来ないことを確認してから力を抜く。

 

「お疲れ様です、みんな」

「ああ、流石に疲れた」

「そうね」

「ヘトヘトだよぉ……」

 

 はしたない、と言っていたのに、皆揃ってごろりと寝転ぶ。ドラセナさんに目的地に着いたと言われるまで、俺達はそんな状態のままであった。

 

 

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