幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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8章スタート


8章
第百十七話


「魔王級の見直し、ですか?」

「そうそう。いくらなんでも魔王級認定が多すぎるってギルドでも問題になって」

 

 いつものように村のギルドで暇を潰していると、お姉さんがそんなことを言い始めた。ここのところの魔王級の増加をどうにかしないといけないとギルドの方でも頭を悩ませていたらしく、それを解決するための策を編み出したのだとか。

 それが魔王級の見直し。ギルドの認定基準を引き上げることで、結果的に魔王級の数を減らそうという寸法である。何の意味があるんだそれ。

 

「うーん。正直私としてもお役所仕事だな、以外の感想は出てこないね」

 

 だろうな。俺みたいなその辺の冒険者でもツッコミ入れたくなるような施策だ。働いているお姉さんなんか余計にだろう。

 

「それで? 結局基準を引き上げるとどーなるんですか?」

 

 ひょこ、と隣の我が愛しい芋虫彼女が会話に参加してくる。もぞり、と芋虫の上半身を持ち上げながら、お姉さんが机に置いた資料とやらを覗き込んだ。ふむふむ、とそれを見て頷いていたスロウは、成程と納得したようにこちらを見る。確かに何の意味もなさそうですね。そうして出した答えでバッサリいった。

 

「まあ実際エミル君やスロウちゃんの言う通りなのよね。これまで魔王級認定していた連中を魔王級にしなくなったからといって、そいつらが消えてなくなるわけじゃないし」

「上級冒険者に任せられるように、って言っても、実際これまでの粗雑認定魔王級の強さってそれなりにありましたしね。場合によってはふつーに死にますよ、その上級冒険者」

「そうよねぇ……」

 

 はぁ、とお姉さんが溜息を吐く。さっきは消えてなくなるわけでもない、とお姉さんは言っていたが、同様に基準値を下げた分その元魔王級が弱くなるかといえばそういうわけでもない。結局のところ、厄介な強さを持ったモンスターがうじゃうじゃいるという状況には何の変わりもないわけで。

 

「何か原因でもあるなら、それを取り除いて、とか出来るんだろうけど」

 

 そんな魔王級を生み出すようなのがいたとしたらそれこそ大魔王とかそういうレベルである。勇者が束になって勝てるかどうか分からないような存在を想像上とはいえ生み出すのにゾッとしながら、お姉さんのその意見を否定した。

 

「まあそれに、本当にそんなのがいたなら流石に属性頂点も動くだろ」

 

 世界の調停者が静観を決めているということは、所詮ちょっとした流れの一部に過ぎない、ということに他ならない。まあ普段の生活の邪魔になって鬱陶しいな、とかそういうことくらいは考えてそうだが、逆に言うと向こうにとってはその程度の事柄なのだろう。

 

「そうね。ということは、まあもう暫く辛抱するしかないのか」

 

 冒険者達が大変なんだけどな。そんなことを言いながら、お姉さんは資料を纏め始めた。今回のその魔王級の見直しについてのそれらを確認しつつ、そいうわけで、と俺にペラリと紙を渡してくる。合計六枚、なんだこれ。

 

「なんだも何も、エミル君のパーティーのモンスター等級見直しの案内」

「は?」

 

 なんですと、とそれを見ると、成程確かにスロウ、アリア、シトリー、クーヤ、コイナ、ラティの名前がそれぞれ記されている。魔王級の見直しに伴って、使役モンスターの等級も再審査するらしい。この間やったばかりだろ、何でまた。そんなことを思いはしたが、これもまあお役所仕事の一環ということなのだろう。ああ面倒くさい。

 そんな俺の表情を見たお姉さんが苦笑する。手伝ってあげられなくてごめんね、と謝られても、まあお姉さんのせいでもないからしょうがないと思うしかない。

 

「どっちみちエミル君達の等級は上がることはあっても下がりはしないだろうしね」

「そうなのか?」

「そうそう。というか、たとえば今更スロウちゃんが下級モンスターだなんて認定されたら流石に属性頂点から物言いが届くでしょ」

「そこまでギルドの認定が変になってないといいんだけどな」

 

 そう言いながら、俺は何だか非常に嫌な予感がした。いやまあ、流石にないだろ、うん。

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、再度書類上の使役モンスターになっている面子全員集合である。それに加えて、セフィとアンゼリカ嬢、そしてレアもいた。どうやらレアがモンスターのハーフということでこのお役所仕事の認定に引っかかったらしい。

 

「私は別にどのくらいの強さかとか全然興味ないんだけど」

「だとしても、流石に公爵家だからという理由でギルドの要請を無視するのも問題ですから」

 

 ぶぅたれるレアにアンゼリカ嬢がそう述べる。確かにそうなんですけど、と面倒くさそうに溜息を吐いているあたり、どうやら相当乗り気ではないようだ。まあ一度死ぬまでは普通の人として生きてきて、蘇生されてメイドになってからもモンスターとして扱われたことはなかっただろうから仕方ないとも言えるが。

 あれ、でもそうなると王都にいるマンドレイクとかその辺にも今回の手続きって届けられてるんだろうか。

 

「話によると、確認出来る者には全て送っているらしいですわ」

 

 だからレアにも連絡が来た、と。それなんか余計面倒なことになってないか?

 そんなことを思いつつ俺達の番である。まずはレアが手続きの紙にマンドレイクのハーフであると記入、それを証明するための実践、という流れを行う。別段何も問題なかったようで、マンドレイクの種族に則って上級モンスターという判定が出た。本人は改めてモンスター扱いされたことに何となく嫌そうな顔をしていたけれども。

 さて、では俺達だ。受付に六枚の手続き書類を提出する。ミミックロウラーが二体、トリックモス、トラップレシア、マンドラゴラ、クイックシルヴァーが一体ずつの計六体を判定してもらわなくてはならないのだが。

 

「えー、ミミックロウラーなら下級ですね」

「ん?」

 

 書類の種族欄を見ただけで判定が終わった。というか証明も何もせずにポンと判子が押される始末。

 

「それからトリックモスとトラップレシアは中級、マンドラゴラ、クイックシルヴァーは上級です。はい、お疲れ様でした」

「ちょ、ちょっと待った」

 

 同じようにポンポンと判子が押されていき、俺の仲間達の判定はそこで終わり。こちらを見ることすらしなかった。だから思わず声を掛けるが、受付の人は何かあっただろうかと怪訝な表情を浮かべるのみ。

 

「書類、ちゃんと見たのか?」

「はい、見ましたよ。見ての通りですよね? 何の問題が?」

「さっきは実践して証明とかしてたけど」

「あれはモンスターのハーフという特殊な事例でしたので。こちらは別に特別なことは何も」

 

 何もない? 本気で言ってるのか? あまりにもなそれに思わず動きを止めてしまった俺を見て、納得してくれたと判断したらしい受付ははいでは次の人と俺達をどかしにかかった。

 

「お――」

「ちょっと! 何でラティが上級になってるのよ!」

 

 おいふざけるな。そんなことを言おうとした矢先である。もう勘弁ならんという勢いでラティが飛び出した。急に現れたそれに受付は驚きのけぞるが、どうされましたか、と対応を始める。どうやらラティを普通の人間だと思ったらしい。まあ見た目なら美少女だしな。

 

「どうしたもこうしたも。ラティが上級モンスターなんて認めないわよ!」

「は、はぁ……?」

 

 ラティとは? と首を傾げた受付にラティとは自分のことだと己を指差したラティは、次いで腰の本体を取り出し突き付けた。ひぃ、と急に短剣を突き付けられた受付は悲鳴を上げる。

 

「これがラティの本体よ。どうなの? これでもラティは上級モンスターなの?」

「な、なにを言っているのか……」

「さっきの! 認定がおかしいって言ってるのよ!」

 

 本体である短剣を仕舞ったラティが吠える。バンバンと机を叩きながら叫ぶその姿は完全にただいちゃもんを付けに来た奴以外の何物でもなかったが、まあ俺自身も同じ心情なので止めない。

 

「いーんですか?」

「いいんだよ。ラティが騒がなきゃ俺が暴れてた」

「別にわたしは下級モンスターに戻っても別に構いませんよ? それで何かなるわけでもないですし」

「彼女が、いや、皆が、仲間が正当に評価されないのは俺が嫌だ」

 

 ぶすっとした表情のままそんなことを述べると、スロウは最初目をぱちくりとさせていたが、次いで満面の笑みを浮かべながら俺に抱きついてきた。何だよいきなり。そんなことを思いながらスロウの頭を撫でつつ、ふと視線を動かすと、残りの皆も全員似たような表情になっている。

 しまいにはさっき騒いでいたラティまで分かってるじゃないの、と機嫌を良くしていた。

 そのタイミングでラティの抗議が止んだので受付もふうと息を吐く。そうしながら、一体全体何なんですかとこちらを睨んだ。

 

「何だもなにも。そっちが適当な認証をするから悪いんだろう?」

「適当? マニュアルに則った正当な認定ではないですか?」

「ああそうかい? じゃあ、この世界から魔王級は消え去ったってわけだ」

「何を言っているのですか? 魔王級? 魔王級がどこにいるんですか?」

「そりゃあんたの目のま――」

 

 爆発音が響いた。なんだ、と音のした方を見ると、同じように設置されていた受付が一つ吹き飛んでいる。そしてそこで仁王立ちしているのは。

 

「イゼルブ!? 何でお前ここにいるんだ?」

「ん? 貴様、エミル! なぜ貴様がここに!?」

「だからこっちのセリフなんだよ! 俺は冒険者なんだからモンスター等級認定の会場にいてもおかしくないだろうが」

「む。確かに言われてみればそうだな」

 

 そう言いながら、イゼルブは自分がここにいる理由はこれだと横であちゃあと手で顔を覆っているシスター、ラミューを指差した。こんなことなら来るんじゃなかった、と嘆いているところからすると、どうやら町で暮らしているモンスター判定をされたラミューには手続きの紙が来ていたらしい。

 で、どうやら手続きの場にイゼルブがついてくることになって。

 

「それで、なにがどうなったんだ?」

「知りたい?」

「うわっ!」

 

 背後から声。慌てて振り返ると、見たことのある日傘を差したツインテールの美少女の姿が。クスクスと笑いながら、久しぶり、とこちらに手をヒラヒラさせていた。ちなみに視線は俺と、そしてアリアに向けられている。

 

「あたしは会いたくなかったわ。何? 今度こそトドメ刺して欲しいの?」

「違うわよ。ほら、今日は血を吸ってないし」

 

 そんなことよりあの惨状の理由でしょ。そう言いながらその美少女――イリスは笑う。そうしながら、まあそれについては自分も思うところがあるとばかりに腕組みをした。

 

「私は帝国住みだから向こうで手続きしても良かったんだけど、イゼルブがどうしてもっていうから」

「我が!? いや貴様の方から、丁度こちらに来ているし暇だからついてくるとか言い出したではないか!」

「細かい男は嫌われるわよ。そう思わない? ねえラミュー」

「私に振らないでください! ああ、こんなことなら自分だけでこっそり行くんでした……」

 

 何かに祈るように両手を組んで項垂れるラミュー。うん、まあご愁傷様。それはそれとして、それで何がどうだったんだ? イリスも何が思うところがあるんだ? さっぱり流れが分からない。

 

「あらそう? そっちも似たような状態になってない?」

「へ? あ」

 

 ひょっとしてそういうことか? ラミューの手続きをした際に、サラマンダーなので上級ですねハイ終わり、みたいな対応をされたのか。

 

「そうそう。おかしいわよね? 普通のサラマンダーが美少女のシスターに擬態して町で生活していると思う? 思わないでしょ」

 

 そう言ってイリスは腰に手を当てる。そうしながら、何より許せないのは、と己を指差した。

 

「私を十把一絡げのヴァンパイアと同じ扱いにしたことよ。粗雑魔王認定よりも尚酷いわ。魔王級ですらないなんて、せっかく人の世で大人しくしていてやったのに、恩を仇で返された気分よ」

 

 はぁ、と溜息を吐いたイリスは、まあそういうわけだからイゼルブが暴れている、と締めた。何がそういうわけなのかはいまいち分からないが、とりあえずラミューとイリスの認定が気に食わなかったから暴れているという認識で多分いいのだろう。

 さて、困った。流石にあそこまでではなかったが、俺も心情的には現在似たようなものである。スロウ達をここまで虚仮にされている状態でやる気なんか出るわけがない。

 

「た、助けてください!」

 

 隣が吹き飛んだんで危機感を覚えたんだろう。受付がそう言ってこちらに縋り付いてくるが、そんなこと言われても俺の仲間は下級や中級モンスターがほとんどなんで、魔王級にはとても敵いませんよ。そう言って向こうの頼みを突っぱねた。

 

「いーんですか?」

「いや、だって向こうが認定したんだろ。ちゃんと責任は自分で取ってもらわないと」

「エミルそーとー頭にきてるんですね」

 

 まあ別に後で蘇生すればいいか。そんなことを結論付けたスロウも受付の助けをそのまま聞かなかったことにした。よし帰るか、とそんなことを言いながら、その場から離れようとする。

 

「エミル様、本当によろしいんですか?」

「義兄様、本気?」

「流石に帰るのはまずいか?」

 

 怒りに任せるにしても、流石にこの場からいなくなるのは駄目かもしれない。イゼルブもほったらかしにしておくわけにも、まあ、いかないか。

 しょうがない。イゼルブ、と奴の名前を呼ぶ。

 

「何だエミル。我は今貴様にかまっている暇はないぞ」

「ああそうかい。いやまあ、俺も正直帰ろうかなとは思いはしたけど」

「なら帰ればいいだろう。我はもう少し暴れたら帰る」

 

 そう言いながらこっちの受付席を吹き飛ばした。手続き用紙も受付と一緒に吹き飛んだおかげで、スロウ達が下級モンスターだという証拠が消滅してしまった。

 

「どーします? 証拠、吹き飛びましたよ?」

 

 そう言いながらスロウが戦闘態勢を取る。同じように、アリアやシトリー、クーヤにコイナ、ラティも戦う準備を整えていた。

 まあ、しょうがないな。本当ににしょうがない。そんなことを言いながら、俺も同じように悪徳の剣を抜き放つ。

 

「イゼルブ」

「む、どうした?」

「ちょっと暴れすぎたらしいわね。向こうが止める気みたいよ」

「まあそうなりますよね。うう、お姉ちゃん先生、今日帰り遅くなるかも……」

 

 イリスの言葉に、ラミューもこちらを見て戦闘態勢になる。イゼルブも俺達がやる気になったことで、受付会場の破壊より俺達との戦闘に舵を切るようであった。

 向こうは三体、こっちは一人と六体。単純な頭数ではこちらが有利だし、魔王級の数でもこちらが有利。討伐する気はなくとも、とりあえずぶっ倒して大人しくさせる程度ならば問題なく出来るだろう。

 そんなことを思っていた矢先。

 

「おーっほっほっほ!」

「む? 誰だ!?」

 

 どこからか声。イゼルブがキョロキョロと辺りを見渡すが、誰もいない。

 そんな空間に、天井からゆっくりと糸が垂れてきた。その先端には、グルグル巻きにされたどこかで見たような美少女が一人。おいなんでここにいるんだよ、お前確か教国の道端に転がってただろ。

 

「仲間を探しにブラブラとしていたら、いつの間にやらこんな場所にまできてしまいましたの」

「馬鹿だろ」

「何やら賑やかなのでちょっと混ざろうと下りてきてみれば、まあびっくり。こちらは多勢に無勢ではありませんか」

「嘗めるな。我がいればこの程度の数の不利など覆せる」

「なのでワタクシは思ったんですわ」

「聞いてないみたいね」

 

 イリスが目の前のグルグル巻きを見て溜息を吐く。そうしながら、まあこっちに協力してくれるらしいから受け取ったら? とイゼルブに述べていた。

 

「ほう、つまり我の仲間になると? いいではないか、気に入ったぞ」

「あらそれは良かったですの。では」

 

 するりとグルグル巻きから脱出した乱入者は、そのままこちらを見る。そうしながら、す、と変態には似つかわしくないカーテシーを行った。

 

「では改めて。束縛の使者、キララ、行きますわよ」

 

 そんなわけの分からない名乗りと共に、変態――キララはバリバリと背中から節足を二対生み出す。こいつ、ただの変態じゃないと思っていたが、やっぱり魔王級モンスターか。

 とはいえ、魔王級の数は一緒になっても頭数ではまだ有利、悪いが、纏めてぶっ倒させてもらうぞ。

 

 




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