幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

122 / 123
RPGにたまにいる味方のコピーを召喚してくるボス的なやつ


第百二十二話

「エミル!?」

 

 視界がぼやける。熱を持った体はそろそろ動かなくなるし、手足の感覚も鈍い。そんな中で俺を心配するように、泣きそうな表情で俺に抱きついてくるスロウの姿を見て、ああ、やっぱり本物のスロウじゃないと駄目だな、なんて思ったりもして。

 

「……ちょっと無茶しますね。せーっの!」

「ぐふぅっ!」

 

 そんな俺の思考を完全に断ち切るスロウのボディブローである。迷宮の管理者から習った体術に剛腕の鍛冶師から貰った手甲が合わさって、その威力は俺の胃の中身をぶちまけるほど。げほげほ、とあの偽スロウから口移しされたスライムを吐き出した俺は、念入りにそれを叩き潰しているアリアやシトリーを見ながらぼんやりとしていた。

 スロウに回復され、ゆっくりと立ちがある。ふう、と息を吐いている二体に向かって歩みを進めた俺は、そのままアリアとシトリーを抱きしめた。

 

「なっ。いきなりどうしたのよ!?」

「エミルくん……!? びっくりだよぉ……」

「良かった、生きてる。本物だ……」

 

 俺の呟きで何かを察したらしい。アリアもシトリーもしょうがないな、という表情で俺にされるがままになってくれた。ぽんぽん、と頭を撫でられ、どこかくすぐったい気持ちになる。

 

「わーたーしーはー!? エミル、わたしの偽物も出たんですよね!? ほら本物ですよ! 元気ですよ!」

 

 ぶうぶう、と文句を叫ぶスロウ。そんなスロウに向き直ると、俺は思い切りスロウを抱きしめた。ちょっとした軽口のつもりだったらしいスロウは、俺がそんなことをしたせいでわわわと慌てている。

 だが待たない。俺はそのまま、半ば強引にスロウに口付けした。

 

「へうっ!?」

 

 それもちょっとしたやつじゃなくて、割とガッツリしたやつを。くちゅ、と水音がするくらい舌と舌を絡ませた俺は、そこで満足してふう、とスロウの唇から離れた。ぺたん、とスロウはへたりこんで、顔を真っ赤にしたままこちらを見上げている。

 

「な、何するんですかいきなり!? いや別に嬉しいか嬉しくないかでいえばはちゃめちゃに嬉しいんですけど、でもこんな場所でっていつもエミルが言ってることですよね?」

 

 もー、とか言いながら立ち上がったスロウは、それでどうします、と問い掛けてきた。どうするって何の話だ。そう問い掛け返すと、決まっているじゃないですかと胸を張る。

 

「続き、します? えっちなこと」

「何でだ」

「何でって、エミル、えっちなことしたくなったからキスしたんですよね?」

「違う。俺はただ、あの偽物に口移しでスライムを流し込まれたから、スロウのキスで上書きしたかっただけだ」

「言ってること大分アレね」

「うんうんうん……」

 

 呆れたようにアリアとシトリーがこちらを見やる。そうしながら、その調子だと自分たちの偽物にもなにかされたんじゃないか、と問い掛けてきた。

 アリアのその言葉で、偽物ではあったが、アリアとシトリーの裸をがっつりと見てしまったことを思い出した俺は思い切り顔を背ける。いやまあ、正確な裸は虫状態のことを言うんだろうけれど、そういう意味ではとっくに見たことはあったんだけども、そういうのとはまたちょっと違うあれそれがですね。

 ジト、とアリアとシトリーの視線が突き刺さる。まあ、とりあえずはそんなことより今の状況だ。

 

「ごまかしたわね」

「まあいいです。確かに状況が状況ですしね」

 

 それで、何がどうなってエミルはあんなボロボロになってたんですか。そう言われて、俺はとりあえず自分の身に起こったことを出来るだけ隠さずに話した。結局藪蛇であった、と後悔しながら、半ばやけになってである。勿論アリアとシトリー、スロウの偽物が全裸で迫って来たことも話した。

 が、思ったほど軽蔑の視線とかゴミを見る目で見られるとかそういうのは無かった。別に見られたいわけじゃないのでそれならそれで良かったのだが。

 

「にしても、エミル本当にお人好しですね」

 

 はぁ、とスロウが溜息を吐く。いや、俺だって十中八九罠だとは思ってたよ? 思ってたんだけど、どうしてもスロウの姿をしているとつい。あの場で、助けて、とこちらを見るスロウを見捨てる選択肢は取れなかった。

 

「わたしはここにいますよ」

「ああ」

「エミルの足手まといになるくらいなら、自分から死にます」

「死ぬな。そこは生きてくれ。お前がいないと俺は」

「わがままですね、エミルは。でも、そんなエミルが大好き」

 

 そう言って抱きついてくるスロウをギュッと抱きしめ返して、俺は本物のスロウの温もりをこの身に感じる。話の途中だったな、とそうしながらスライムの罠に嵌って体内にスライムをねじ込まれたこと、身動きが取れなくなって捕食されかけたことを話した。

 

「で、絶体絶命だったんだが」

 

 その寸前でスロウが言っていたことを思い出した。何かあったら指輪で飛んできてくれ、という言葉の通り、残る力を振り絞って指輪を起動してスロウの下へと移動して今に至るというわけだ。

 そこまで話すと、はぁ、とスロウが溜息を吐く。直前でもとにかく思い出してよかった。そんなことを言いながら、心配したんですからねとプンプンと怒りながら指を突き付けた。

 

「いきなりエミルが転送されてきたかと思ったら、何だか死にそうで。診てみると体内にスライムが入ってて。もうちょっと遅れてたら手遅れだったかもしれないんですよ」

「ごめん、悪かった」

 

 そう言って改めて謝罪とそして助かったありがとうとお礼を述べると、俺は改めて今いるこの場所を確認した。昼間も来た村のギルドで、その周囲にはおそらく冒険者のスライムだったものが散らばっている。建物内を掃除して、一旦安全な場所として使えるようにしたのだろう。

 そういえば、元々合流する場所としてここを指定していたはずだ。偽スロウに促されて直接本体に案内されていたのですっかり忘れていた。

 

「アリアちゃんやシトリーちゃんの裸が原因だったりしません?」

「いやまあ、それもあるかもしれん。完全に冷静さを欠いてた。後案内してくれる偽のスロウも裸だったから、つい」

「えっち」

「すけべ」

「えっちだよぉ……」

 

 女性陣の視線が突き刺さる。まあこればかりは自分の責任なので甘んじて受けるしかないし、何よりそれで大ピンチになっているので弁明のしようがない。申し訳ない、ともう一度謝罪をして、話を進めてもいいだろうと皆に問い掛けた。

 勿論、と頷かれたので、俺は件の本体のいる場所のことを述べた。村長の家、というか屋敷そのものが擬態したスライムで、そこで分体が生み出されているらしい。

 

「まあそうなると、取る手段は一つね」

 

 ふむ、とアリアが述べる。この村全体が奴の捕食場となっている以上、このまま村の住人を倒し続けていてもキリがない。場合によっては再びスロウ、アリア、シトリーの偽物を投入してくる可能性だってある。

 そうなる前に、あの本体を叩き潰す。

 

 

 

 

 

 

「あれ? 逃げたんじゃなかったんですね」

 

 今度は全員で村長の家に向かう。既にスライムであることを隠そうともしていないそこに辿り着くと、巨大な本体の横にスロウが立っており、俺を見るなりそんなことをのたまった。急に消えたからびっくりしましたよ、と言いながら、偽スロウ――スライムは微笑む。

 

「でも、戻ってきたってことは、食べられる決心がついたってことですよね?」

「抜かせ。今度はさっきみたいにはいかないぞ、きっちりとお前を討伐してやる」

 

 そう言って剣を構える。それに合わせるように、スロウ、アリア、シトリーも戦闘態勢に入った。

 そんな俺達を見てスライムはきゃあ怖い、と笑う。ゆっくりと巨大な本体に近付くと、そこから数体のスライムを生み出した。村人の姿をしたそれを俺達にけしかける。

 が、今更その程度のスライムが通用するはずもない。あっさりとドロドロの粘液に変えられたそれを見たスライムは、それでも余裕を崩さずに、じゃあ今度は、と別のスライムを生み出していた。

 スロウ、アリア、シトリーだ。それぞれが三体ずつ、同じように武器を構えてこちらに向かってくる。

 

「エミルは下がって」

「もう大丈夫、ってわけでもないが、ちゃんと戦えるようにはなった」

 

 そう言いながらスライムで出来たスロウに肉薄する。え、と目をパチクリとさせている偽スロウに向かって、俺は思い切り剣を振り抜いた。

 

「な、んで……? エミル、酷い、わたし、体、溶けちゃ、い」

 

 ドロリと偽スロウの体が崩れる。ドロドロと溶けながらこちらに縋ってくる偽スロウを一瞥すると、今度は、と偽アリアに視線を向けた。

 

「スロウ!? 何であんた、こんな酷い――」

「黙ってなさい、偽物」

 

 こちらを責めるような言葉を言いながら襲い掛かってきた偽アリアは、その前にアリアによって爆破された。下半身が吹き飛びビチャビチャと粘液が飛び散り、驚愕の表情を浮かべていた上半身もそのまま溶けて地面に落ちる。

 

「スロウちゃん……! アリアちゃん……! そんなぁ……」

 

 地面の染みになった二体を見て嘆いた偽シトリーであったが、所詮そういう揺さぶりのポーズでしかないことはよく知っているし、皆にも伝えた。本物のシトリーはそんな偽物が泣いているのを気にすることなく、流砂に巻き込むと思い切りアリジゴクの顎で偽シトリーを両断した。

 ぎゃぁ、と言う悲鳴を上げて両断された偽シトリーが溶けていく。ベトベトの液体を体にかけながら、これ食べごたえがない、とシトリーは少しだけ不満そうであった。

 

「仲間を躊躇なく殺すんですね」

 

 本体の傍らにいるスライムがそんな光景を見ながらパチパチと手を叩く。まあまだ二体ずついますし、と言いながら再度スロウ、アリア、シトリーをけしかけてきたが、基本スペックがスライムに毛が生えた程度でしかなく本物に遠く及ばない連中では俺達を止めることなど出来はしない。

 鱗粉代わりに状態異常の粘液をばらまく偽アリアの一体は、それらを剣で切り払い両断した。大剣を持っている程度で盾役として機能していると思っている偽シトリーは、その大剣ごと腕を切り裂く。

 

「痛いよぉ……エミルくん、助け」

「だからそういうのはもう効かないんだって」

 

 本当は結構効いているが、それを表に出すこともなく、俺は偽シトリーに剣を突き刺す。ドロドロと溶けていく偽シトリーを視界に入れずに、俺は残っている偽スロウのいる場所を見た。

 

「エミル!」

 

 そのタイミングで声。スロウが俺の隣に立ち、ぎゅ、と俺を抱きしめる。大丈夫ですからね、と耳元で囁き、そしてゆっくりと俺の頭を撫でた。

 

「はいおしまい。エミル、これ多分本体の方をどうにかしないと終わらないですよ」

「まあ、そうかもしれないな」

「とゆーわけで。エミルは本体を担当してください」

 

 ささ、と押し出される。こっちの偽物はこっちでなんとかするんで。そんなことを言われた俺は、皆の気遣いに感謝しつつ分かったと巨大な本体へと足を進めた。

 

「あ、エミルがここに来たんですね」

 

 スロウの姿のまま、スライムがそんなことを述べる。やっぱり仲間殺しは大変なんですね、などと笑いながら抜かしやがったスライムは、視線を俺から本体に向けた。

 

「でも、この本体からいくらでもそれは生み出せるんですよ?」

「そんなもん無視して本体をぶった切ればそれで終わりだろ」

「あはは。確かにそーですね」

 

 スロウの顔のままスライムが楽しそうに笑う。その表情を急に真面目なものに変えたスライムは、でも、いいんですか、と俺に問い掛けた。

 

「この村の人、それだとみーんな死んじゃいますよ?」

「は?」

「ではエミルに問題です。捕食した村の人は、今一体どこにいるでしょう」

 

 そう言って首を傾げるスライム。何を言っている、と俺が問うと、分かりませんかねと笑みが返ってきた。

 それと同時に、スライムの中にブクブクと村人が生み出されてくる。

 

「それはお前が作ったスライムだろ」

「そーですよ? でも、捕食した魂はまだ残ってます。スライムの体に、村人の魂を入れれば、はい蘇生の出来上がり。わたしってば、聖女ですね」

 

 そうして作られた村人を見ながら、スライムは楽しそうに笑う。嘘だ、間違いなくこいつは嘘を吐いている。そうは思うのだが、もし万が一、という可能性が捨てきれない。

 

「さ、どーします? わたしを殺すと、村の人達もみーんな死んじゃいますけど」

「……ちっ」

 

 俺が本体を攻撃するのを躊躇ったのが分かったのだろう。スライムはそのまま村人を生み出して、はいではどうぞ、と俺にけしかけてきた。さっき言ったことが本当ならば、今この村人スライムの中には。

 

「わたしを討伐するために、もう魂だけの村人のことなんか気にしちゃ駄目ですよ」

「やかましい」

 

 村人スライムを蹴り飛ばす。それだけでぐしゃ、と潰れて粘液になったのを見て、俺は思わず目を見開いた。その隙を狙われ、本体の触手が俺をぶん殴る。鞘に魔力を込め光の盾で防いだが、流石にスライムとはいえ、あの質量の攻撃は脅威だ。

 

「あーあ、村人一人死んじゃった。……なーんちゃって。大丈夫ですよ、魂を本体に保存しておかないと能力ダウンしちゃいますからね。わたしがそんな聖女みたいなことするわけないじゃないですか」

 

 だからそこのスライムは全員倒しても平気。そう言って笑ったスライムは、まあでも、と今度はスロウたちのスライムを生み出し戦闘態勢を取らせた。ポンポンとスロウ、アリア、シトリーが生み出され、最初の連中を片付けたスロウ達に向かって更に追加で襲い掛からせる。

 

「さ、向こうからの邪魔者は入りませんし。エミル、そこのスライムたちと気持ちいいことしながら、じっくりと溶かされて魂になってください」

 

 そうすれば、本物のエミルのスライムも作れますから。そんなことを言いながら、スライムが指示を出す。何体ものスロウ、アリア、シトリーが俺に向かって迫ってきた。

 

「エミル! だいじょーぶですか!?」

 

 そんなスライムを捌いている中、向こう側から声がする。スロウの本物の声だ。それにまあ大丈夫だと答えつつ、本体は理由があって倒せないと伝えた。スライムの秘密を大声で語っているが、スライム自体はそれについて何も口を挟んでこない。

 

「いいのか? お前の秘密を仲間と共有しても」

「いーですよ? むしろその方が変に攻撃されなくなりますしね」

 

 そう言ってクスクスと笑ったスライムは、どっちみち何も方法なんかないですからと言葉を続けた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。