幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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子供に見せられないシーンがこのあと始まる、ようなそうでもないような


第百二十五話

「そもそもエミル、あの時の大胆さはどこいったんですか?」

 

 バクスとの相談も一応終わった帰り道、スロウがそんなことを言いだした。あの時、と言われてもどの時だ? などと思いながらスロウの話を聞くと、スライム騒動の時に思い切りキスした時だと告げられる。ああ、そういやあの時はなんというかもう大分精神状態も変だったからな。

 

「わたしはエミルにキスされて嬉しかったし、気持ちよかったですけど」

 

 エミルは違うんですか、と問い掛けられる。嬉しいとかその辺はあの時に感じる余裕はなかったな。気持ちよかったかどうかも、正直そこまで覚えてない。

 そう素直に話すと、スロウの機嫌が目に見えて悪くなった。まあそうだろうな。流石に俺でもそれは分かる。

 

「じゃあエミル、はい」

 

 ば、とハグ待ちのポーズを取る。それに誘われるがままスロウを抱きしめると、じゃあどうぞ、とスロウはゆっくり目を瞑った。これは、まあ、そういうことだろう。

 流石にここで止めるほどへたれが天元突破はしていない。まあギリギリだろうと言われればそうなのだが、俺はゆっくりとスロウに顔を近付け、そのまま口付けをした。

 

「……」

「……」

「……え? 終わりですか?」

「え?」

 

 そうしてスロウとキスをしたが、当のスロウは何やら不満そうに唇を尖らせている。何だ、何を間違えたんだ? 終わりかって言われても、キスしてくれって言ったからキスしたよな。

 

「舌! 舌入れてくれなかった!」

 

 ぶぅぶぅと文句を言いながらそんなことを言い出すスロウ。どうでもいいがただでさえ街角で何やってんだっていう状態なんだから、そういうのを大声で言うのは止めて欲しい。

 

「むぅ。でもそれはエミルがきちんとしてくれてれば問題なかったんですよ」

「きちんとの基準が分からん」

「今言ったじゃないですか。じゃあはい、もう一回」

 

 そう言って抱きついてきたスロウは再度キス待ちの顔になる。ぐぅ、とその勢いに圧されつつ、分かったと頷きゴクリと喉を鳴らした。そういえばあの時は勢いでやってしまったが、いざ冷静になってからスロウとの濃厚なキスって緊張するな。若干心臓の音が煩いような気がしながら、俺はもう一度スロウの唇に自身の唇を触れさせる。そうしながら、今度は自分の舌をスロウの口内へと侵入させた。スロウの舌と自分の舌が絡み合い、くちゅくちゅと口内で音が鳴る。

 そのまま暫く舌と舌を絡ませ合っていたが、やがてどちらともなくゆっくりと離れた。長い間そんなことをしたせいか、離れた唇同士の間につつっと唾液の糸ができる。

 

「えへへ。どーですかエミル。気持ちよかったですか?」

「あ、ああ。気持ち、よかったな……」

 

 なんというか、脳髄が痺れるとはこの事を言うのかもしれない。そんな思いを感じつつ、じゃあこれ以上のことをしたら俺は一体どうなってしまうのか、と戦慄した。そして、間違いなくスロウと一緒ならばその先が出来るわけで。

 そういえば、バクスがこんなことを言っていたな。最初は拙いもんだ、もしすぐに果てても情けないとか思うんじゃないぞ。そういうのも経験だ。とかなんとか。正直言っている意味を本当に理解していたか怪しかったが、このキスを経験してから改めて考えると、何だか非常に自分に当てはまっている気がしてくる。

 大丈夫か俺? スロウとそういうことをした時、ちゃんと満足できる結果になるのか?

 

「さ、じゃあ戻って……続きを、しましょうか?」

「お、おう……」

 

 スロウの《テレポート》で村に戻る。そのまま家に戻って、自分の部屋に戻り、そして。

 それについてきたスロウが、俺の部屋の扉をゆっくりと締めた。

 

「エミル……」

「スロウ……」

 

 スロウが自身の服に手をかける。元々糸で作ってあるんだし、そんなことをしなくても脱げるんじゃないかと思わないでもなかったが、こういうのはムードが大事だとスロウに怒られた。

 

「エミル、どーですか、わたしのおっぱい」

 

 ぷるんと揺れるそれを見て、俺は思わずゴクリと喉がなる。ゆっくりとそこに手を添えると、想像以上の柔らかさが手の平に伝わった。むにゅり、と俺の手で形の変わるスロウの胸を見て、俺は思わずそこに顔を埋める。

 

「ひゃん。もう、エミルったら、おっぱい好きなんですね」

 

 偽物の時とは違う、本物のスロウのそれを見て、俺も大分我慢の限界だった。ベッドに押し倒すようにスロウを横たわらせると、ツンと張りの良い形のその胸にむしゃぶりつく。

 

「ぁん。エミルぅ……」

「スロウ、俺は」

 

 そう言いながらスカートを捲った。スロウのパンツが顕になって、俺はそこにゆっくりと手を。

 

「エミルくん……! 大変だよぉ……!」

 

 そのタイミングでシトリーが扉をノックしそのまま開いた。そういえば鍵はかけてなかったな、などと思いながら、慌てて入ってきたシトリーと俺達は目が合って。

 

「わ、わわわわ……お邪魔しましたぁ……!」

 

 顔を真っ赤にさせたシトリーが慌てて扉を締める。バタン、という音がやけに大きく響いた気がした。

 

「……どーします?」

「何か大変だって言ってたな……」

 

 流石にここでじゃあ続けるか、という風にはならない。まあとりあえず一旦お預けだ、と思いながら、俺達は衣服を整えると部屋を出ようとした。

 

「あ、ところで」

「ん?」

「今度は、どっちの姿がいーですか? なーんて」

「俺は別にどっちでもいいぞ。ちゃんと興奮する」

「……それはそれでエミルの性癖が心配になりますね」

 

 

 

 

 

 

「ふぇ……!? お、終わったのぉ……!?」

「違う、落ち着け」

 

 部屋を出てシトリーを探すと、リビングで小さくなっていたので声を掛ける。邪魔しちゃったし、とかなんとか言いながらあわあわしているシトリーを宥めながら、さっき大変だとか言っていたけどどうしたんだと問い掛けた。

 それを聞いたシトリーはさっきまでとは違う意味で慌てだす。そうだ、大変なのだ。そんなようなことを言いながら思い切り立ち上がった。

 

「コカトリスとバジリスクが出たんだよぉ……」

「……どこに?」

「この村にだよぉ……!」

「はぁ!?」

 

 俺も思わず立ち上がった。コカトリスもバジリスクもどちらも石化の能力を持つ強力な上級モンスターだ。強力な個体はそれこそ準魔王級にあっさりと認定されかねない厄介な相手である。

 それが、この村に現れた? どういうことだと問い掛けると、シトリーはついさっき聞いたのだけれどと話を始めた。

 

「村の近くで、モンスターが石化しているのが見付かったんだよぉ……」

 

 こんな場所に石像を作っておいておく悪戯なはずもなし。間違いなく石化能力を持つモンスターだと判断した村のおっさん連中が即座にギルドに報告、ついでに調査をもすると言って森の方へと足を踏み入れて。

 戻ってこない、と心配になった別の冒険者が探しに行ったところ、石化しているのを発見したのだとか。

 

「その石化したおっさんたちは!?」

「ギルドに運ばれてるよぉ……」

 

 とはいっても、石化の解除が出来ていないので石像のままだけれども、とシトリーは続け、スロウを見た。コクリと頷いたスロウは、じゃあちょっと行ってきますかと立ち上がる。俺もそれについていくと述べ、シトリーも一緒に行くと告げ。

 そのまま俺達はギルドへと向かった。扉を開けると、いつもより慌てた様子のお姉さんがそこにいた。が、俺達の顔を見ると安心したように息を吐く。

 

「良かった。スロウちゃん、お願いしてもいいかな?」

「はい、話は聞いてますからね。っと」

 

 ギルドに置かれていた石像に状態異常回復をかける。石化の解除はある意味蘇生と同じくらいの難易度だと聞いたことがあるが、まあ蘇生をあれだけポンポンぶっ放せるスロウにとっては誤差だろう。さくっと石化を解除されたおっさん連中は、呼吸が出来るのを確認してへたりこむ。そうしながら、助かった、とスロウに口々にお礼を述べていた。

 

「それでおっさん、コカトリスとバジリスクって」

「ああ、そうだ。村のすぐそこにやつらがいる」

 

 石化された張本人が言うのだから間違いない。それも話しぶりからするとどちらかという話でもなく、両方がいるらしい。なんでだ、縄張り争いでもしてるのか。

 

「確かにそんな感じはしていたが」

 

 おっさんはううむと首を傾げる。どうにも様子がおかしかった、と言葉を続けた。通常の縄張り争いは、まあお互いに戦闘行為で勝負をつけるものだ。同じ種族同士で行う特殊な事例、例えば角の大きさ比べとか、でもない限りはだ。

 が、目撃した限り、その二体は戦闘行為を行っている様子がなかったのだとか。

 

「どういうことだ?」

「なんというか、お互い石化を競い合っていた感じだったんだ」

「石化を競い合う?」

 

 何だそりゃ。意味が分からんと眉を顰めた俺を見たおっさんも、そうだよな、と苦笑した。けど、実際見た感じそうとしか思えない行動をしていたのだ、とおっさんは語る。

 えっと、じゃあ何だ。今この村のすぐそこにいるらしいコカトリスとバジリスクは、お互いの縄張り争いのために石化の数なり質なりを競い合っている、と。そういうわけか。

 

「でも、そーなると」

 

 なんだそれ、と状況を飲み込むのに難儀している俺とは違い、スロウは即座にそういうものだと判断して話を進めようとしている。まずいですね、と呟くと、お姉さんに視線を向けた。

 

「村の人たち、すぐに避難させたほうがいいです」

「え、ど、どういうこと?」

「石化を競い合ってるってことは、石化させたものが向こうにとって勲章みたいな扱いですよね。で、それを持ち出したってことは」

 

 まさか。俺もお姉さんも、そしておっさん連中も同じ結論に達した。縄張り争いのための証拠が取られたとなれば、間違いなく怒り取り返しに来る。あるいは、新しく作ろうと村を襲う。

 

「直ぐに村の人を避難させるわ」

 

 お姉さんとおっさん連中が動き出す。そうしながら、俺達には村にやってきたコカトリスとバジリスクの討伐を頼むと告げられた。

 言われるまでもない。村に危機が迫っているのにのんびりしているほど俺も薄情じゃないんだ。ギルドの受付にいたアリアも集合し、ギルドから飛び出し避難誘導とは別の場所へと向かう。森にいたというのならば、やってくるのはそちらの方向だ。

 

「とはいっても、森ってだけだと絞りきれないな」

「石化した場所聞いておけばよかったですね」

「ギルドに石化した人達を持ってきた時も、森としか言ってなかったわね」

「森の中、探すのぉ……?」

 

 シトリーの提案に、どうしたものかと迷う。村に攻めてきたのを迎撃するのが確実ではあるが、相応の被害が出てしまう。それを防ぐには、こちらから打って出るほうがいい。

 そうは思うが、それで見つからなかった場合のリスクが怖い。どちらも一長一短とはいえるが、より確実な方法を取るべきか。それとも。

 

「とりあえず村の近くで探索しよう。何かあった時分かるように」

 

 了解、と頷いたスロウ達とともに森に入り込む。普段ならば大したことのないこの場所が、コカトリスやバジリスクが潜んでいるというだけで一気に緊張感のある場所へと早変わりだ。

 ガサガサと木々をかき分ける。普段ならばミミックロウラーの一匹や二匹でもいそうなものだが、不気味なほどに静かであった。

 

「森のモンスター、みんな石化しちゃったんですかね」

「だとしたら余計にまずいな」

「石化できるものがなくなったら、次を探すってことね」

「村が狙われちゃうよぉ……」

 

 こうしちゃいられない、と慌てるシトリーを落ち着かせながら、俺達はもう少し奥へと行ってみるかかと歩みを進めた。やはり森は静かで、鳥の声すら聞こえてこない。

 パキ、と音がした。何だ、と足元を見ると、そこには石化した木の枝が。

 

「石……じゃない、これ木だ」

 

 慌てて周囲を見渡す。ここにそんな物が落ちているということは、少なくともこの辺りにいたはずだ。今はどうかは知らないが、もしまだ付近にいるとしたら。

 

「あいたっ。って、これ木の実? 石化してます……って!?」

 

 危ない、とスロウが俺を突き飛ばす。俺が立っていた場所がまるで切り取られたように石になった。

 

「スロウ!? 大丈夫なのか!?」

「状態異常は効かないですし、って、あれ?」

 

 そこに身代わりとなったスロウを見ると、平気平気と笑っている。が、靴とスカートが見事に石化していた。成程、本体は状態異常無効でも身に付けているものはその限りではない、ということか。

 そんなことを思っている間にズルリと巨大なヘビのようなモンスターが現れる。こっちにいたのはバジリスクか。チロチロと舌を出しながら、新しく現れた獲物だと嬉しそうに目を細めていた。

 

「エミル、気を付けてください!」

「俺はいいけど、そっちは大丈夫なのか?」

「現状支援でしか耐性を持ててないエミルが一番危ないんですよ。わたしは、えいっ」

 

 石化した靴とスカートを砕き、裸足にパンツ丸出しとなったスロウが俺に寄り添う。あの、その、格好もうちょっとどうにかなりませんか?

 

「今糸で新しく作ってる暇なさそうなんで我慢してください」

「いや我慢しろって言われても」

「馬鹿なこと言ってないで、来るわよ!」

 

 バジリスクが大口を開く。こいつの石化は眼光から放つものだが、それ以外にもブレスがある。毒性のあるそれを食らうと、生物は麻痺をして動きを止め、そして眼光の餌食となって石化するのだ。

 まあスロウ達は耐性があるので麻痺は効かないんだけど。だとしてもブレスを喰らいたいかと言えばもちろん嫌なわけで。それらを回避した俺達は、石化の眼光を食らう前に討伐してしまおうと武器を構えた。

 バジリスクが吠える。巨大な尻尾を振り回し、周囲の木々を薙ぎ倒した。地形が凸凹になり回避が難しくなるのを確認したバジリスクは、ニヤリと笑うと石化の眼光を放ってくる。だから俺以外は効かないって言ってんだろ。そんなことを思いながらそれらを回避したが、逃げ遅れたシトリーに直撃してしまった。

 

「シトリー!?」

「だ、大丈夫だよぉ……あ、でも、服は駄目かもぉ……」

 

 ぺしょぺしょになりながら石化した服を大剣で砕く。そうして下着姿になったシトリーは、恥ずかしい、とモジモジしていた。

 

「じとー」

「何で俺を見る」

「シトリーちゃんのおっぱい見てましたね?」

「いやそうじゃなくて、一応疑似餌の体の部分は服と同じ扱いじゃないんだな、って」

「疑似餌そのものは、雌しべの部分だからねぇ……」

 

 成程な。で、服はそこに纏う別パーツの扱いだから疑似餌とは別になる、と。そういうわけか。しかしそうなると、スロウ達三体の中で石化を一番受けるとまずいのはアリアってことだな。

 

「まあ、あたしの服は自前じゃないから、石化したらおしまいね」

「エミル、ちょっと期待してませんか?」

「何でだよ」

 

 そもそもその辺はもうスライムの時の色仕掛けで懲りてるんだよ。シトリーの裸も、偽物だったけど丸出しを見たんだからある程度耐性はついてる。

 

「エミルくんの、えっちぃ……」

「あ、いや、そういうつもりじゃなかったんだけど」

「ぶー。エミル、ほら、わたし、パンツですよ! 脱ぎます?」

「対抗しないでくれ。ただでさえ色々限界なのに」

 

 そもそもやってる場合じゃないし、それこそ場合によっちゃその下着も石化する可能性あるんだからな。馬鹿なことやってないでさっさとケリを付けるぞ。そんなことを言いながら、俺はバジリスク相手に剣を構えた。

 

 

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