幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百二十六話

 村の森の中で遭遇したバジリスク相手になんて格好だ、と思わなくもないが、不可抗力なので諦めてもらうしかない。スロウはパンツ丸出し、シトリーに至っては下着姿である。何か逆に服を着ている俺やアリアがおかしいんじゃないかと思い始めてきた。

 

「落ち着きなさいエミル。あたし達が普通よ」

「あ、そうだよな」

 

 飛行をしているおかげでバジリスクの石化の眼光を回避出来ているアリアと違って、俺の方はバジリスクが薙ぎ倒した木々のせいで回避し辛い状況だ。ついでに言うとアリアは食らっても服が石になるだけで済むだろうが、俺の場合は一発アウトである。いや、スロウの状態異常耐性が一応あるから二発アウトくらいには軽減されてるかもしれないが。

 

「っとぉ」

 

 バジリスクが噛み付いてきた。コカトリスもそうだが、こいつらの問題は石化だけじゃない。それぞれの攻撃がどれもこれも状態異常を引き起こす塊だということだ。じゃあ状態異常対策出来れば怖くないかと言えば、それはそれとしてモンスターの攻撃力は普通に強いので生半可な冒険者では倒される。少しでも強い個体であれば準魔王級になりかねない、というのはそういうところからだ。

 

「せー、のぉ……」

 

 下着姿のシトリーがバジリスクを受け止めた。今だ、とばかりにアリアがその顔面に向かって鱗粉を飛ばし、爆破させる。目を潰せば石化は出来ない。バジリスクやコカトリスを討伐するのに一番有効な手段だ。

 

「こいつ……結構硬いわね」

 

 が、その爆発を受けてもバジリスクはピンピンしていた。むしろカウンターで尻尾を放ってくるほどである。太く強靭なそれを上空に飛んで躱したアリアは、それならばと連続で爆発を放った。

 が、それがむしろ仇となる。鱗粉をばらまくその隙を狙われ、ブレスが吐かれた。状態異常は通じないが、直撃したことで動きが一瞬止まってしまう。そのタイミングで、アリアに石化の眼光が放たれた。

 

「し、まっ」

 

 ドレスが石化したアリアが落下する。が、途中で持ち直して空中で停止した。したはいいが、石化ドレスを纏っているせいで移動以外の行動が何も出来ない。羽を使って鱗粉をばらまくことは出来そうだが、状態異常の鱗粉はバジリスク相手には効果が薄い。

 

「アリアちゃん!」

「あたしのことは気にしないで。いいからそこのバジリスクを!」

 

 ついでに言えばその石化ドレスを破壊することも出来ないわけで。だれかしらに処理をしてもらわない限り、アリアは現状戦闘不能である。本体は石化しなくても、結局こういう結果にはなるわけだ。

 

「シトリー、あいつ食えるか?」

「食べごたえはありそうだけど、ちょっと硬いよぉ……」

 

 踊り食いは中々にキツイ。そういう判断らしい。そうなるとまあ普通に倒すしかないわけで。せめてある程度ぶった切るなりして体力を減らさないといけない。

 ふう、と息を吐いた。スロウの支援も貰っているし、体力もまだ残っている。一気に意識を集中させると、周りの動きをゆっくりに感じながら一足飛びでバジリスクの顔面に距離を詰めた。一撃で潰せないほど硬いなら、二重の斬撃を、何度でも。魔力を込めたそれをバジリスクの目玉に叩き込み、片目が切り裂けたのを確認してから集中を解いた。

 

「さすがエミル。大好き」

 

 悶えるバジリスクから距離を取ったタイミングでスロウが俺に抱きついてくる。あの、パンツ丸出しなの忘れてませんか。その状態で抱きつかれると、非常に。

 

「あっ」

 

 スロウが何かを察して一歩離れた。流石に今は戦闘中ですもんね、と微笑むが、それはどういう意味なんでしょうか。いや止めて、言わないで。死にたくなるから。

 

「まだ片目残ってるんだから、後にしなさい!」

 

 こうなったらしょうがない、と服の上半身部分をシトリーに破壊してもらったらしいアリアが叫ぶ。そうしながら、残っている片目に連続で攻撃を叩き込んでいた。

 

「こいつ、かったいわね」

 

 上半分は下着姿になったアリアが舌打ちをする。それに合わせるように、シトリーが今なら、と大剣を片目に突き刺していた。そのままアリジゴクの顎もそこに突き刺すと、目玉を抉り出して捕食する。

 

「栄養たっぷりだよぉ……」

 

 これで両目を潰されたバジリスクは石化が出来ない。後はでたらめに暴れるのを避けながらとどめを刺すだけ。そう思っていたタイミングで尻尾が直撃した。盛大に吹き飛ばされ、木にぶつかってへし折れた。

 

「エミル!? 大丈夫ですか!?」

「まあ、一応」

 

 げふ、と口内の血を吐き出しながらそう答える。こいつ、目玉潰されたのにこっちの位置を認識出来るのか。そういえば、バジリスクやコカトリスは石化の眼光を持っている分、位置の特定を別の器官で行ってるとか以前習ったような。だとしてもあれだけのダメージを負っているのに正確に位置を定めるとか、やっぱり普通の上級じゃないな。

 まあとりあえず石化してこないだけで攻撃は変わらずやってくるという認識でいいだろう。そんなことを思いながら俺は一気に距離を詰め、その邪魔な尻尾を切りに掛かる。

 バジリスクはコカトリスと違って、ヘビのモンスターだから手足がない。そのため、どうしても攻撃手段が限られる。噛みつきか尻尾、あるいはブレス。石化の眼光を除けばそのくらいのバリエーションだ。それでも十分脅威ではあるのだけれども。

 尻尾を切り裂く。が、ダメージは与えているが傷がつくだけで切断には至らない。

 

「大丈夫だよぉ……!」

 

 そのタイミングでアリジゴクが大剣を咥えた状態で尻尾に襲い掛かった。顎と大剣、切り裂かれた傷に齧り付くようなその一撃は、そのまま尻尾の肉をこそぎ落とす。

 

「尻尾部分はさっぱりしてるよぉ……」

 

 シトリーが食レポをしている中、尻尾の肉が半ば無くなったことでバジリスクが悲鳴を上げる。盛大に流れる血が地面に触れるとシュウシュウと音を立てていた。

 

「バジリスクの血にも微弱だけど石化効果があるわ、気を付けなさい」

「ぞっとしないな」

 

 石化の眼光ほどの強力ではないが、口に入ったら割と洒落にならないくらいには問題があるらしい。そんなバジリスクを平気で食したシトリーの豪胆さは流石というべきか。いや、俺も最初に食えるかって聞いたけどさ。

 ともあれ、尻尾も破壊され、両目も潰されたバジリスクはもはや攻撃手段は殆ど残っていない。ブレスを躱し、その頭部に剣を思い切り突き刺した。バジリスクは暫く悶えていたが、やがて倒れ動かなくなる。

 ふう、と息を吐いた。とりあえずこれで村にいる片方は討伐出来た。後はもう片方、コカトリスを始末出来れば。

 

「一旦村に戻りましょう。村の人を石化したのがどっちか分かりませんし」

 

 スロウの言葉に頷き森から出る。そのまま村の人を避難させている場所へと急いで向かった。何もなければそれで良し。もし既に来ているなら。

 そうして避難場所へと辿り着くと、同期の冒険者はおっさん連中、そしてお姉さんが指示を出しながら村の人の人数を確認しているところであった。大丈夫か、と声を掛けると、皆こちらを向き、そして目を見開く。

 

「え、え、エミル! お前どこで何やってた!」

 

 最近頑張ってるらしい三馬鹿の一人がそう言って食って掛かってきた。どこで何をって、森でバジリスクを一体仕留めてきたんだよ、見れば分かるだろ。

 

「何をどう見れば分かるんだよ。一人はパンツ丸出し、一人はブラジャー丸出し、一人は上下下着姿。お前が三人とよろしくやってたようにしか見えん!」

「は? あ、いやほら、石化! アリアのスカート石化してるだろ!」

 

 そういえばすっかり忘れてたが、スロウ達は服が石化したせいで色々丸出しだった。なまじっか中身がモンスターのせいである程度恥じらいを持たないのが災いしたというか。

 どうりで、元同期の冒険者達は動きを止めていたわけだ。

 

「まあ戦闘に恥じらいを持って負けるのはアリアンロッテらしくないとは思うけれど」

 

 とはいえ流石にこのままはちょっとな。そんなことを言いだしたアリアは、一旦着替えてくると踵を返した。それに合わせるように、まあこのままでいる理由もないからとスロウとシトリーは服を作る。元同期達はそんなスロウ達をじっと目に焼き付けていた。おい、人の彼女と俺の仲間を邪な目で見るな。

 

「ふざけるな! そもそも、お前とスロウちゃんが付き合ってるってだけでも許しがたいのに、あんな美少女のアリアちゃんとシトリーちゃんとパーティーを組んでいる時点で万死に値する」

「うるせえよ。そもそもこいつら正体は虫だぞ。知ってるだろ」

「知ってるけど、まあ擬態は美少女だしな……。そんなことより、どうせお前使役モンスターとかいう権利を使ってあんなことやこんなことをさせてるんだろ」

「しとらんわ!」

「でもスロウちゃんとはしてるんだろ?」

「……」

 

 いやまあ、していると言えばしてるとも言えるし、まだちゃんとしてないと言えばその通りだし?

 そんなことを思って思わず目を逸らした俺に向かい、元同期はこいつ殺すと襲い掛かってきた。お前ら今はそんなことしている場合じゃないだろ。バジリスクは倒したが、まだコカトリスが残ってるんだぞ。

 俺のツッコミに合わせるようにおっさんが割り込んだ。元同期達を睨むと、エミルの言う通りだと説教を始める。コカトリスがもし来た場合、勇者級であるエミルくらいしかこの村では対抗出来ない。そんなことを言いながら、分かったら避難誘導の続きをしろと元同期達を追い払った。

 

「エミル。お前達ももう少し格好は気にしろ」

 

 そうして今度は俺達の番である。いやまあ確かにそれはその通りだ。とはいえ、戦闘が終わって村の様子が気になったのですぐ来たわけで、こればっかりは仕方ないと思って欲しい。

 ともあれ。とりあえず村にモンスターが襲ってくる前に間に合うことは出来た。二体同時に戦う、ということもこの感じだとなさそうだし、被害は最小限に抑えることが出来たと思っていいだろう。

 

「っ!?」

 

 鳥の鳴いた甲高い声が響く。それにより一瞬に緊張を取り戻した俺達は、おっさんに避難を頼むと伝えると即座に声の方向へと走った。声を聞いて戻ってきたアリアと合流し、そのまま一気に駆け抜ける。

 

「いた、コカトリスだ」

 

 蛇の尻尾を持った巨大な鳥。コカトリスがキョロキョロと獲物を探しているのが見える。さっきのバジリスクはこちらが襲撃されたが、今度はこちらから攻撃をさせてもらう。こくりと頷き合うと、足に力を込め一足飛びでコカトリスへと距離を詰めた。

 こちらに気付いたコカトリスが甲高い声で鳴く。その声を真正面から聞いた俺達は、その煩さに思わず動きを止めてしまった。これは状態異常とかそういうのではなく、単純な鳴き声の効果だ。しまった、と思った時にはもう遅い。バジリスクに勝るとも劣らない蛇の尻尾が俺の眼前に迫っていた。激突し、盛大にふっ飛ばされる。さっきからこんなんばっかりだな俺。

 げほ、と咳き込みながら立ち上がる。バジリスクとコカトリスはどちらが上か、という話題になると、基本的にコカトリスが上だということになる。実際はバジリスクの血液の石化作用など一長一短の部分も多いのだが、単純な手数の多さではコカトリスに軍配が上がるのもまあ分からないでもない。

 実際こうやって対峙すると、なるほど眼の前の相手のほうが厄介な気がする。

 

「石化、注意してくださいね」

 

 状態異常耐性を俺に掛け直しながらスロウが述べる。分かってる、とは答えたものの、さっきのこともあるので細心の注意を払ったほうがいいだろう。

 コカトリスが口を開いた。そこから吐き出されるのはブレスである。バジリスクの麻痺ブレスとは違い、単純な攻撃力を持つ火球だ。連打されるそれを躱しながら、俺達はコカトリスに攻撃を加えるべく武器を構え。

 

「あー、もう!」

「うるさいよぉ……」

 

 再びの甲高い咆哮で動きを止めてしまった。そこを狙って石化の眼光が迫る。咄嗟に鞘の能力を使って光の盾を出したので、俺は無事だったが、しかし。

 

「うぅ……まただよぉ」

「今度はわたしもですね」

 

 直撃したシトリーとスロウが服を石化させられていた。アリアは遠距離に徹していたおかげで無事のようだが、なら安心かと言えばそういうわけでもなく。

 もう、と再び下着姿になったシトリーと、今度は完全な下着姿になったスロウがコカトリスから距離を取る。せっかく作り直したのに、とぼやきながら俺の横にスロウが寄り添った。

 

「あの咆哮が厄介ですね」

「そうだな」

「バジリスクと違って遠距離もありますし、何より飛ぶのがめんどーですね」

「そうだな」

 

 出来るだけスロウの方を見ないようにしながら答える。何で見ないかって、それはまあ、察して欲しい。今は戦闘中であり、そんなことに思考を割いている余裕がない。

 

「そー思ってるのに余計なこと考えちゃう感じです? なら少し時間を稼いでくれれば、わたしもシトリーちゃんも服作り直しますよ」

「……じゃあそれでお願いします」

 

 そう言いながらコカトリスに突っ込む。火球を弾きながら、相手の顔面へと攻撃を叩き込んだ。切り裂けるか、と一瞬思ったが、予想以上に硬い鱗と羽毛に弾かれる。ギョロリ、とこちらを向いたコカトリスは、目を見開くと石化の眼光を放ってきた。

 咄嗟に横っ飛びをする。ギリギリのタイミングでそれを躱した俺は、もう一度攻撃をするべく地面を蹴った。

 そこに追従するシトリー。服を再度作り終えたらしく、いつもの服装に戻ったシトリーとともに剣を叩き込む。

 

「硬いよぉ……」

「こいつ、さっきのバジリスクより全然硬い」

 

 俺とシトリーの同時攻撃でもびくともしないその硬さは、少なくとも一撃一撃では決して切り裂けない。それならこれで、とアリアが鱗粉を爆発させたが、火球を放つだけあって火属性の攻撃にはある程度の耐性もあるらしい。ケロリとした表情で、俺達に鋭い嘴を突き刺さんと振り上げていた。

 

「あっ、くぅ……!」

「シトリー!?」

 

 それを受け止めたシトリーが弾き飛ばされる。こいつ、強いな。間違いなく準魔王級はある。場合によっては魔王級も視野に入れるレベルだ。なんでそんなのがこの村にやってきたのかとぼやきたくなるが、ここにいなくともどっちみち勇者級に討伐依頼が出されたであろうモンスターなので、早いか遅いかだろう。

 いや、その場合バクス達が受けた可能性もあるか。

 

「どーしましょうか」

 

 ううむ、と難しい顔でスロウがコカトリスを見やる。現状こっちが負けることはないとは思うが、向こうに決定打が与えられない。俺やシトリーの攻撃では奴の鱗と羽毛を突破出来ず、アリアの攻撃は耐性持ちで通りにくい。何度も繰り返せばいけるだろうが、そのための隙があのコカトリスには少ないわけで。

 

「一気に集中して」

「エミル、さっき使ったばかりですよね? 倒し切るまでいけます?」

「……流石にキツイか」

 

 限界まで振り絞っても石化の両目を潰すくらいか。それはそれで大きなアドバンテージになるが、別段向こうは石化がなくとも戦う手段はあるし、バジリスクと同じく獲物を探知する能力もある。そして硬いのは変わらず、となると、そこで俺が戦えなくなるのは中々に大変だ。

 

「集中はいざという時に使うとして。エミル、魔法剣だとどーです?」

「あっちの斬撃か。いけるかどうか分からんが」

 

 シトリーを呼び、少し囮やってくれと頼んだ。そのままシトリーがコカトリスの気を引いているうちに、一気に間合いを詰める。そうして無防備の状態の顔面に通常と魔力の斬撃を。

 

「これでもギリギリか」

 

 なんとか通った。その一撃で片目に傷を付けられたコカトリスは咆哮を上げ、そして所構わず火球をぶっ放し始める。危ない、とそれを躱した俺だったが、そこで。

 

「しまっ――」

 

 ギョロリ、と傷付けられた片目が未だ健在だったことに気が付いた。石化の眼光が浴びせられ、状態異常耐性のおかげで何とか耐えきる。

 そこにコカトリスが踏みつけをしてきた。ぐふ、と肺の空気を押し出され、一瞬視界が暗くなる。そうしながら、コカトリスは再度俺に石化の眼光を。

 

「エミル!」

 

 ヤバい、今度は耐えきれな――

 

 




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