「エミル、おはようございます」
そんな声で目覚める。ゆっくりと目を開くと、えへへ、と柔らかな笑みを浮かべている愛しい俺の彼女、スロウの姿が。
「……」
「どーしました?」
「いや、夢かと一瞬思って」
「夢じゃないですよ。昨日はエミルと一緒に寝ましたし」
そう言って抱きついてくる我が彼女。そんなスロウを撫でながら、俺は昨夜の出来事を思い出す。
まあ、色々とやったわけなんですが。その証拠というか、俺は何も着ていないし、スロウだって服を着ていない。というか芋虫だ。
「もー、エミルがいっぱい出すから」
わしわしと多足を揺らしながらスロウが述べる。いや、そう言われても。俺だって初めてだから勝手が分からなかったし、そこはまあしょうがないと思って欲しい。後スロウが可愛いのが悪い。
「結局この姿でもエミル興奮してましたしね」
もぞもぞしながら芋虫姿のスロウが俺にキスをする。人のキスとは違う、虫特有の口内を俺は堪能すると、ゆっくりと顔を離した。つつ、と虫の口と俺の唇とを唾液が糸を作って繋ぐ。
「あ、エミル、朝から元気ですね」
「しょうがないだろう。お前が可愛いのが悪い」
「さっきも言いましたよそれ。もー、しょうがないからちょっと鎮めましょうか」
そう言って芋虫がゴソゴソと俺の大事なところに移動していく。朝から何やってんだと思わなくもないが、しかしもう昨日の内に何度もやってしまったんだから今更だ。人に擬態した状態でも、本来の芋虫姿でもだ。人型のスロウとの行為は勿論気持ちよくて最高だったが、芋虫のスロウとのそれも勿論最高だった。
だから今こうして俺の元気になってしまったアレソレを鎮めんと咥えてくれる芋虫のスロウを見ているだけで、俺は更に。
「わ、おっきくなった」
「ごめん」
思わず謝る。が、スロウは別に気にせずにそのまま俺の処理を続けてくれた。
そうして一旦落ち着いた俺は、とりあえず起きるかと体を起こす。スロウも同じように芋虫の上半身もそりと起こした。
「……あれ?」
「ん? どうした?」
「あ、いや、えっと」
ぐねぐねと体を動かしながら、スロウが首を傾げる。どうしたんだともう一度尋ねると、これはちょっと問題があるかもしれないですという返事が来た。
「擬態できません」
「は?」
「何ででしょうか。エミルとえっちしたから?」
「いやでも、昨日は何ともなかっただろ?」
「そーですよね。芋虫に戻ってしたり、また擬態してしたり、人型でやってる途中に擬態戻したり、芋虫でやってる途中に擬態したり……考えるとめちゃくちゃやりましたね」
「やったな……」
あれだけ言っておいて盛ってたら一直線で欲望をぶつけまくってしまった以上、何を言われても頷くしかない。
ともあれ、それが原因だというのならば、やってる最中に気付いてもおかしくないわけで。いや、その結果という可能性もないことはないか。
「まあ確かにその可能性はありますね。ちょっとエミルとのえっちで無茶しすぎたのかもしれません」
それはそれでどうなんだと思わないでもないが。普段の戦闘より俺との行為の方が体力使ってるってことか?
俺の問い掛けに、そういうわけではなくて、とスロウがぐねぐね揺れた。
「ほら、エミルとわたしは深く繋がったわけじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「やっぱり人間とモンスターですし、その際に色々と普段と違う何かが起きた可能性があると思うんですよ」
成程。まあミミックロウラーと人の行為の記録なんかどこにも残ってないし、ミミックロウラー側だって初めての経験だろうからな。何が起きても不思議じゃないってことか。
「そーですそーです。これが例えば、マンドレイクみたいに記録が残っていれば話は早いんですけどね」
実際レアみたいなハーフの例もあるモンスターなら色々と対策なりなんなりが出来るけど、ってことだな。というかモンスターとのそういう事例ってマンドレイクくらいなんじゃないのか?
「どーですかね? 人型になるのが当たり前とか、その手のタイプなら事例があるかもしれないですけど。ヴァンパイアとかならあるかもですね」
「ヴァンパイアねぇ……参考にはならなさそうだな」
「後は、ひょっとしたらトラップレシアとか」
「トラップレシアか……」
あるのなら割と身近だし参考になるのかも。そんなことを一瞬だけ考え、いやならんならんと頭を振った。身近だからなんだというのか。
「シトリーちゃんとえっちなことする想像しました?」
「しとらんしとらん」
そもそもトラップレシアってシトリーみたいなのが特別例で、基本は話し合いとか出来ないやつだろ。どうやってそういうことするんだ。ペットみたいに飼い慣らして、それからとかだろうか。
「エミルのえっち」
「何でだ」
「シトリーちゃんをペットにするって」
「言ってない言ってない」
ともかく、情報を集めようとギルドに向かうことにした。が、いかんせんこの間のコカトリスの騒動からしばしギルドは休業している。まあマイア姉さん一回死んだしな。蘇生されたから大丈夫、でいつも通りに勤務は中々酷いだろうし。
そんなことを思いながら、しかしついついギルドへと足を進めると、建物に明かりがついているのを見ておや、と首を傾げた。そのままスロウと揃って扉に手をかけると、鍵も掛かっておらずいつものようにドアが開く。
「あれ? エミル君?」
「何やってんだよ。休暇中じゃなかったのか?」
そうして中に入ると、いつものようにカウンターにお姉さんがいた。とはいえ、仕事をしている様子もなく、ただ座ってだらりとしているようだが。
ともあれ。俺のそんな問い掛けに、お姉さんはまあまあと手をヒラヒラさせた。休みって言っても暇だし、つい。そう言葉を続けると、お姉さんは俺達に座るように促す。
「そういうエミル君達だって、ギルドについ来ちゃったわけでしょ?」
「まあ。といってもちょっと事情があったんだけど」
「事情? どうしたの?」
「ああ、実は」
こいつ、と芋虫を指差す。そうしながら、スロウが擬態出来なくなったことをお姉さんに述べた。思い至る原因は多分スロウを抱いたことだろうということも、まあ今更隠すことでもないのでそのまま伝えた。
「で、ギルドのデータにモンスターとそういうことして、何か影響が出たっていう話残ってないかなって」
「残っててもそういう場合はどっちかというと人側だと思うよ」
あはは、と苦笑しながらお姉さんは述べる。それに、と一応資料を探してくれつつも、流石にミミックロウラーとエッチした資料はないんじゃないかなと言葉を続けた。
暫く冒険者症例みたいな資料とにらめっこしていたお姉さんであったが、小さく溜息を吐くと首を横に振る。どうやら該当するような資料はなかったらしい。
「でも、一応モンスターとの性行為についての資料はいくつかあったよ」
「あったのかよ」
「一番多いのはマンドレイクだね。まあ普通に街の人として認定されているから当たり前といえば当たり前なんだけど。まあでも、この資料だと子供が出来ることは稀である、みたいな話くらいで、性行為後になにか問題がって話は出てないね」
人とそっくりの姿をしているマンドレイクですら、人とは根本的に種族が違うため子供が出来にくい。そうなると、芋虫であるミミックロウラーとならばどうなのだろう。これからスロウと結婚し、子供が欲しくなった時にどうすれば。
「エミル?」
「ん? どうした?」
「いや、何か難しい顔してたんで。どーしたんです?」
「あーいや、お前と結婚した後の、こと、を」
今なんか物凄いことを口走らなかったか俺は。そう思ってももう遅い。動きを止めたスロウは、しかし次の瞬間がばりと俺に抱きついてきた。多足をわしわしとさせながら、結婚結婚と騒いでいる。
「そこまで進んでるのね。お姉さんびっくりだわ」
「いや言葉の綾だ。まだ早い」
「まだ、なんですね」
えっへへ、と笑いながらぐねぐねと俺にまとわりつく我が最愛の芋虫。そんなスロウに一発デコピンを叩き込んで大人しくさせてから、それで資料は他にはなかったのか、とお姉さんに問い掛けた。
「んー、後は所謂獣姦扱いというか、使役モンスターと性行為をしてモンスターに攻撃されたとか、そういう話がほとんどだね。野生のトラップレシアと性行為をしてそのまま捕食された冒険者、みたいな記録もあるけど」
まあ役に立たなさそうだな。となると、もう後は詳しい誰かでも探して聞くしかなくなる。とはいえ、いるのか、そんなモンスターとの性行為に詳しい相手が。
そこまで考えたタイミングで、ああそうだ、とスロウが体を揺らした。何か思い付いたのか、と問い掛けると、その通りとばかりに頷く。
「帝国に行きましょう」
「帝国に? 何で?」
「妖精姫さんと隠れ潜む百花さんなら、その手のに詳しいんじゃないでしょうか」
どや、と胸を張るスロウを見ながら、俺は何でだと首を傾げた。いやまあ、属性頂点に聞いてみるというのは確かに正しい意見だとは思う。けど、何でその二体何だ、という疑問が消えないわけで。
妖精姫とか、一・二を争うくらい何かそういう話題に弱そうなイメージがあるんだけれど。隠れ潜む百花なんか論外だろ。
「そーでもないですよ」
もぞりと動きながらスロウが述べる。まあとりあえず教えてはくれそうだけど面倒だということで傀儡人形と悲鳴彫刻家は外した。そういう話題に疎そう、という理由で月の大聖女、迷宮の管理者、剛腕の鍛冶師も外す。デリカシーなさそうという理由で竜のおっさん――頂の古龍も却下。そうなると残ったのが妖精姫と隠れ潜む百花、ということらしいが。
いやだから妖精姫も疎そうだし、隠れ潜む百花にデリカシーはないだろ。
「今の説明だと残ったから、みたいな扱いですけど。元々選ぶとしても妖精姫さんと隠れ潜む百花さんなんですよ」
「だから何でだ?」
「忘れちゃってません? 隠れ潜む百花さんは虫系モンスターです」
「まあ、カマキリの鎌出してたしな」
「で、帝国の第三皇子さんに惚れられてる」
「あ」
そういえば棲み家が妖精姫に破壊されてから第三皇子のところに居座ってるとかいってたっけか。なんだかんだ上手くいってるらしいっていう話は聞いてたけど。
成程。つまり、先駆者、かどうか知らないが、似たような状況の相手のところに話を聞きに行くってわけか。
そうと決まれば早速、とスロウに《テレポート》を出してもらおうとしてふと動きを止めた。そういえば擬態が出来ないって言ってたけど、それ以外はどうなんだ?
「へ? そーいえば試してなかったですね、《テレポート》!」
普通に魔法陣が現れた。ちゃんと起動して光っているところを見ると、何かおかしいところもなさそうで、となると本当に擬態が出来ないだけか。
スロウを抱きかかえ、じゃあ行ってきますと魔法陣の中に入る。無事移動出来た俺達は、飛竜港で帝国に来た手続きを済ませ、そのまま帝都に移動、ギルドへと向かった。多分こっちのほうが早いと併設された喫茶店の方に行き久しぶりだとマスターに挨拶を済ませると、早速だけどと妖精姫の場所を問い掛けた。
「妖精姫様に何か用事かい?」
「まあ、ちょっとした相談というか」
視線をスロウに向ける。芋虫状態のスロウを連れている、ということに何かあったのだと察したマスターは、少し待っていてくれと席を立った。
そうしてしばし喫茶店で待っていると、一人の少女がやってくる。こちらを見ると、その表情がぱぁと明るくなった。
「エミルさん、スロウさん、どうしたんスか?」
その少女、妖精姫はそのまま俺達が座っていた席の隣に座る。そうしながらそんな問い掛けをしてきたので、俺達は素直にスロウが擬態出来なくなったと語った。へ? と素っ頓狂な声を上げた妖精姫は、そのまましばし目を瞬かせる。
「……えっと? 冗談では、ないんスよね?」
「わざわざそんな冗談言うために帝国まで来ないって」
「そ、そうっスよね。……うーむ、そんないきなり擬態ができなくなるなんて。何か心当たりもないんスか?」
「一応、あることはある」
「というと?」
「スロウと性行為をして」
「ちょちょちょちょちょっと待ってくださいよ! え? エミルさんとスロウさんが?」
そうだ、と頷くと、妖精姫は再び目を瞬かせ、そして目を見開いた。いやまあ付き合ってるならいつかやるとは思ってたけれど、そんなことを言いながら、妖精姫は溜息を吐く。
「そうっスかぁ……。やっちゃったんスねぇ……」
「何か知ってるのか?」
「あ、いや、ただ感嘆しただけっス。……というかそれ、普通に性行為のし過ぎで一時的に擬態能力が落ちてるだけなんじゃないんスか?」
「でも、昨日までは全然問題なかったんですよ」
「連日盛ってればプツリときても不思議じゃないっスよ?」
「連日ではないですよ。……一日に沢山しましたけど」
そう言ってスロウは多足をツンツンしながら俯いた。俺も妖精姫から思わず視線を逸らす。それなら似たようなもんスよ、と呆れたような顔をした妖精姫は、まあいいとばかりに立ち上がる。とはいえ、この予想が本当かどうかは分からないので。そう続けながら、行こうと俺達を移動するよう促した。
「どこに行くんだ?」
「多分お察しの場所、第三皇子の場所っスよ。そういうことなら、多分あちきよりあいつの方が詳しいっスからね」
「それって」
隠れ潜む百花に会いに行く。クーヤの修行以外で会いたくないんだけど、とぼやきながら、妖精姫は俺達にそう述べた。