幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

139 / 163
ギルドにカチコミ


第百三十九話

 ギルドの本部は王国にある。王都に隣接する飛竜港の街の一番大きな建物がギルドの本部だ。王国の飛竜港、ということは、当然ながらそこには竜のおっさんのいる飛竜商会もあるわけで。

 

「おお? 何で傀儡人形がこんなところに?」

「あら頂の古龍、ごきげんよう。別に大した用事ではないのよ、エミル君の付き添いだもの」

「はぁ……? おいエミル、なんだってこんなやつを付き添いに?」

 

 本部に向かう道中ばったり会った竜のおっさんにそんなことを問われる。そう言われても、俺も何だか分からない内に流されてこうなったとしか言いようがないわけで。

 俺のそんな表情を見てまあ察してくれたのだろう。やれやれと肩を竦めると、竜のおっさんは傀儡人形に向かって余計なことをするなよ、と釘を刺していた。

 

「大丈夫よ。余計なことはしないわ」

「ならいい」

 

 竜のおっさん、これ絶対余計なことするやつだ。そうは思ったが、そこで話を締めた竜のおっさんは、まあ頑張れと俺の背中を叩いて行ってしまった。これ間違いなく竜のおっさんと出会ったのも偶然じゃないな。

 

「あら、貴方にとっては余計なことをしないという言質を取ったのだから喜ぶべきことでしょう?」

「余計なことの範囲が曖昧すぎる」

「ふふっ。心配しなくても、本当に余計なことはしないわよ」

 

 傀儡人形との会話はそこで途切れる。そのままギルド本部の入口近くまでいくと、待っていたとばかりにバクス達が手を振っていた。

 

「って、あれ? 傀儡人形様?」

「ごきげんよう。今回はエミル君の付き添いよ。そこまで気にしないでくれていいわ」

「まあ、そういうことなら。気にしないでおきますネ」

「(こくこく)」

 

 それで流すのかよ。そうは思ったが、傀儡人形がアレなのは別に周知の事実じゃないし、そもそも知っていてもバクス達にとってはこういう場では頼りになる相手でしかないわけで。警戒しているのは俺達、というか俺だけというわけである。

 

「まあ、ここまできたらもういいんじゃないですか?」

「……かなぁ」

 

 スロウの言葉に曖昧に頷きつつ、俺は合流したバクス達といっしょにギルド本部の入口の扉を開けた。突然やってきた勇者級の集団と水の属性頂点に、本部の受付はビクリと震える。

 俺はそんな受付に、ちょっと本部の上層部に用事があるんだけどと伝えた。

 

「は? え? え、っと、流石に突然ですと、難しいかと」

「勇者級エミルが抗議の署名を持ってきた。それで通じないか?」

 

 そう言って受付のカウンターの上にバンと署名を置く。その数二十二枚、属性頂点八枚と勇者級八枚、国のお偉いさん六枚という豪華仕様だ。

 受付はちらりとそれを見て、そこに書かれている名前を見て顔色を変え、少々お待ちくださいと慌てて奥に引っ込んでいった。残された他の受付は涙目である。うん、まあ悪いのは今回の声明を直接出した連中だけなんで、そこら辺は勘弁して欲しい。

 暫くすると一人の男性がこちらにやってくる。困ったような表情をしたその男性は、俺達を見るとまずは場所を移動しましょうと受付の場所から応接室の一室へと案内した。

 

「さて、今回の件ですが」

「それはいいけど。何であんたなんだ? この声明を出したのは別の派閥だろ?」

 

 男性が口火を切るタイミングでバクスがそんなことを述べる。そうなのか、と問い掛けると、お前はその辺知らないよな、と苦笑された。しょうがないだろ、勇者級認定って言われても所詮俺は田舎の村の冒険者なんだから。

 

「ギルドは基本的にこっちのおっさんの派閥ともう一つの派閥がメインだ。まあよくある話で、どっちも派閥闘争でお互いを蹴り落とそうと画策してるってやつでな。勇者級もよくどっちの派閥につくかどうかみたいな論争の種になるんだよ」

 

 ちなみに勇者級は基本どちらの派閥にもついていないらしい。ああ、俺が特殊で他はどっち派閥とかなってるのかと思った。

 

「強いて言うなら、その二つの派閥を見守ってる迷宮の管理者様の派閥ってところか。話が逸れたな。で、だ。今回の声明や前回の魔王級の杜撰な認定とかやってた派閥が」

「全てが向こうというわけではないさ。やらかした中にはこちらの派閥の者もいるし、向こうの派閥も今回の件で頭を抱えている連中がいる。そんなわけで、こちらとしても頭の痛い問題なのですよ」

 

 バクスの言葉を引き継ぐように男性がそう述べ溜息を吐いた。どうやら今回の件はどっちかの派閥とかで分けて考えられない事態らしい。

 とはいえ、割合で言えば向こうの派閥の方が多いのだとか。そんなわけで、ここで男性の派閥の面々で解決してしまえば、相手の派閥の力を大幅に削ぐことが出来る、と。だから先んじて俺達に接触したと。

 

「結局派閥闘争か」

 

 げんなりした声で呟いた俺を見て、男性はハハハと笑う。まあギルドの上層部なんてものはそんなものですよ、と返した男性は、しかし表情を戻し言葉を続けた。

 

「とはいえ。今回の件は流石に度が過ぎている。こちらも向こうも、やらかした連中を切り捨てる覚悟は出来ています」

「あら、随分のんびりとした判断ね」

 

 出された紅茶を飲みながら傀儡人形がそう述べる。その言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた男性は、これでも最速で事を進めたのですが、と苦笑した。

 

「その結果がこれ、は笑えないのではなくて?」

 

 これ、と積まれた署名を指差しながら傀儡人形が笑う。ぐ、と唸った男性は、分かっていますと項垂れた。ギルドへの不信感が高まっているのは重々承知です、と言葉を紡いだ。

 

「こちらも向こうも、一度迷宮の管理者様にギルドの指揮権を渡してはどうか、という意見が出たほどです。ですがギルドはあくまで人の組織。協力者として動いてもらうならまだしも、全権を与えてしまえば、もう二度と人の組織には戻らない」

「迷宮の管理者はそんなに心の狭い相手じゃないわ。真面目にしていればすぐに人の組織に戻れるわよ」

 

 そんな事は知っているでしょう、と傀儡人形が笑う。男性は力ない笑みを浮かべることしか出来ず、傀儡人形と視線も合わせられない。

 まあつまり、向こうも分かっているんだろう。今のギルドの運営状態だと、迷宮の管理者が満足して手放す状態にはならないのだ。なんだ、結局どっちの派閥も似たようなもんじゃないか。

 

「でもまあ、とりあえず今回やらかした連中をどーにかすればこっちとしてはどーでもいいんじゃないです?」

「まあな」

 

 スロウの言う通り、今回みたいなことを起こさないでくれるのならば、俺としてはどの派閥がどうだとか関係ない。別に派閥闘争もやりたければ勝手にやればいいし、その結果俺達に迷惑がかからなければどうでもいい。

 まあ今回は迷惑がかかりまくっているので、そこだけはどうにかしないといけないわけなのだけれども。

 

「それで? そのやらかした連中は今どうなっているの?」

 

 アリアのその問い掛けに、男性はこほんと咳払いを一つした。男性の話によると、流石に賛同した下っ端連中まで全て集めることは厳しいが、主だった連中は本部に集まっているとのこと。

 

「これだけの署名があれば間違いなく今回の声明を打ち消すことが出来るでしょう。加えれば、連中の処分も――有り体に言えば、クビにすることも出来ます」

「あら、それだけ? 迷宮の管理者は既に乗り込んでいるのでしょう?」

 

 傀儡人形が楽しそうに笑う。それを聞いて表情を歪めた男性は、視線を逸らしてはははと乾いた笑いを出すことしか出来ない。ああ、なんだ。さっきはまだギリギリ大丈夫そうな感じで話していたけど、もう駄目なんじゃないか、ギルド。

 いいえ、と男性は首を横に振る。あくまで派閥の統合・再編成を要求されているだけで、完全に全権を向こうに渡すわけではない。そう絞り出すように述べた。

 よく分からんが、結局それは派閥闘争を咎められたってことじゃないのか。

 

「まあ、どっちにしろあんたも今の椅子に座ってられる余裕はなくなったか」

「前回処分を徹底しなかったツケが回ってきた感じネ」

「(こくこく)」

 

 バクス達はそんな感想を零している。ある程度の知り合いみたいだが、別段そこまで肩を持つとかそういう感じではなさそうだ。そんなことを思って尋ねると、別に直接世話になったわけじゃないからなという答えが返ってくる。

 

「王都のギルドのマスターとか、ギルド職員とか、そういうもう少し身近な連中ならともかく、この辺のおっさんとなるとな」

 

 そう言って男性を指差したバクスは、そっちの目論見も潰れたことだし話を進めろと促した。目論見って、何かあったのか。

 

「あわよくば、自分の陣営に取り込もうと考えてたネ、そこのおっさん」

「(こくこく)」

「い、いや、そこまで大層なことは」

 

 ヴェルの言葉に首を横に振る。そもそも、傀儡人形様がいらっしゃる時点で、とか小さく呟いているのが聞こえ、俺は思わず横を見た。微笑みながら紅茶を飲んでいる傀儡人形は、俺の視線に気付くとその笑みを強くさせる。

 

「余計なことはしなかったでしょう?」

「……そうだな」

 

 勇者級だけなら、ひょっとしたら向こうの派閥になし崩しに取り込まれる可能性があったかもしれない。が、属性頂点がそこにいることで、相手の目論見は簡単に崩れ去る。何とか説得したくとも、よりもよってその属性頂点は水、傀儡人形だ。これがお人好しの妖精姫だったら、万が一説得されていた可能性もなきにしもあらずで。

 まあつまり、余計な手間を傀儡人形は付き添うという行動で省いてくれたというわけだ。この一点だけは、流石に彼女に感謝をするしかない。

 ともあれ。派閥のお偉いさんである男性の方は俺達の取り込みも失敗し、話すことも無くなったのか大きく溜息を吐いた。そうしながら、では、ご案内しますと席を立つ。

 

「恐らく、全員そこに集まっていると思われるので」

 

 そう言って扉を開け、部屋を出る。そのタイミングでついこの間と同じ感覚がした。これは、と思うよりも早く、気付くとだだっ広い部屋に移動させられている。

 

「どこかの部屋、か?」

 

 一見するとギルド本部の会議室か何かのように見えるが、周囲の感じからすると少し違う。照明もきちんとしてはいるが、窓が見当たらない。まるで地下かどこかにまるごと部屋を移動させた、あるいはそこに模して部屋を作ったかのような。

 

「ここは……っ!?」

 

 そんな俺達は別の一角。向こう側では見知らぬ男性達が狼狽えていた。視線をさっきまで一緒にいた男性に向けると頷かれたので、あれが件の声明を出した上層部の派閥の中でもやらかした連中なのだろう。

 

「ブライアン」

「アルガスか。どうだ向こうは」

「話は通したが、まだ何かと言い訳をしていたのでどうしようもないな。ここに呼ばれても結局自分達は悪くないの一辺倒だ」

 

 俺達と一緒にいた男性――ブライアンさんに声を掛けたアルガスとかいう人は、話しぶりからしてもう一つの派閥のお偉いさんなのだろう。まあつまりこの二人で向こうの連中に沙汰を下す、とそういうわけか。

 す、とアルガスさんの視線が俺達に向けられた。俺、スロウ、アリア、シトリーを見て、深く溜息を吐くと深々と頭を下げる。

 

「申し訳ない。今回の事態の責任は私にある」

 

 何だかそうやって滅茶苦茶潔く頭を下げられると、こちらとしても責める気が減るわけで。まあ多分それを狙っているのもあるんだろうけど。

 

「エミル君の性格を把握されているのよ」

「くっ」

 

 クスクスと傀儡人形が笑う。どうやら手腕は向こうの方が上手のようね、と傀儡人形はブライアンさんを見た。苦い顔を浮かべたブライアンさんは、ごほんと咳払いをするとアルガスさんに視線を向ける。ああ、と頷いたアルガスさんは、改めて向こうの男性達を呼び寄せた。

 

「ブライアン、アルガス、ここは一体」

「臨時で作ったちょっとした会議室だよ」

 

 向こうの連中がこちらに来て騒ぎ始めたタイミングで声。気付くと笑みを貼り付けた表情の迷宮の管理者がそこに立っていた。もし何かあった時に、ギルド本部だと片付けが大変だからね。そう言って笑った迷宮の管理者は、用意されていた椅子の一つに座ると、机に肘を置き指を組んだ。

 

「今回の僕はこの部屋を用意しただけだ。その意見が覆されるかどうかは、この後の話し合い次第ですかね」

 

 そう述べた後、迷宮の管理者はこちらに向かって手を振る。それに軽く手を上げて返事をした俺達は、さて、と改めて向こうの連中に視線を向けた。

 

「あんたらがスロウに余計なことさせようとした連中か」

「よ、余計なこと?」

「大魔王級の認定はまあいいとしても。スロウをギルド管理下に置くだのギルドで監視するだの、そういう余計なことを考えた連中かって聞いてんだよ」

「そ、それの何が余計なことだ。魔王級を超える存在はその危険性を考えると、きちんと管理下に置くのは妥当な判断だろう!?」

「別段何もしていない、むしろ協力的な相手に突然パーティー解散を命じてギルド管理下に置く命令を出す。それのどこが妥当な判断だというのだ」

「それも相手は勇者級だ。しかも教会の認定を正式に受けた聖女だぞ。強制執行などしたらどれだけの相手を敵に回すか」

 

 連中の言い分にアルガスさんとブライアンさんが反論する。そうしながら、実際問題これだけの抗議の署名が来ているのだと先程出した署名の束を連中に見せた。

 

「署名……? たかだか二十数枚程度の署名で何を――ぞ、属性頂点!?」

「全属性頂点と、そこにいる勇者級バクスを始めとした多数の勇者級パーティー、教国のスノーティア名誉枢機卿とアンブル侯爵家、帝国第三皇子リベルト皇子、そして王国では第四王子オーウェン殿下と双翼の公爵家、ベルンシュタインとフォーマルハウト両家からの署名だ。たかだか二十数枚ではない、一枚でも相当なものが二十数枚来ているのだ」

 

 アルガスさんのその言葉に、目を見開き動きを止める連中。まあ自分でも結構頑張って集めたと思う。これ以上を目指すとなると、もう後は教国、帝国、王国のトップとかその辺になってくるからな。流石に俺も教皇や皇帝や国王に繋がりはないし。

 ともあれ。件の連中は署名を改めて確認すると顔面を蒼白に変えた。流石にこれをこんなもの扱いは出来ないと判断したのだろう。そして同時に、これがある限り自分達に勝ちはないとも。

 

「し、しかし! 大魔王級を一介のパーティに組み込んでいては何が起こるか! 何より、こちらも聞いているのですよ! 大魔王の影響で最近の準魔王級の増加に繋がっているという話を」

「そんなものはないよ」

 

 話を聞いていた迷宮の管理者がきっぱりと言い切る。そうしながら、おかしいな、と笑みを貼り付けたまま、ゆっくりと立ち上がった。

 

「まあ、確かに勇者級が強くなっているから、世界の均衡が保たれるために魔王級が多少増加しているという話はしたけれども。その原因を大魔王級――スロウに押し付けるなんてのは初耳ですね。まさか、強い勇者級というのをエミル達だけだと考えていたりは、しないよね?」

「あ……え?」

「勘違いかい? 話を都合のいいように解釈するだけではなく、額面通りに受け止めるように気をつけるべきではないかな?」

 

 迷宮の管理者のお墨付き、という噂があったのはそういうことか。というかちゃんと説明貰ってんじゃないか。貰っててこれだと救いようがないぞ。

 

「そ、それでは……」

「そちらの言い分に道理はない、ということで問題ないな」

 

 よろめく連中にブライアンさんがそう言い放つ。まさかそんな、と項垂れる連中を見ながら、アルガスさんは溜息を吐いた。今回の件は流石に看過出来ない。そう続け、相応の処分が下されると述べた。

 

「ま、待った。待ってくれ! そ、そう、勘違いだったんだ! まだ情状酌量の余地が」

「あるわけないだろう。そもそも、勘違いだとしても、その勘違いが起こした声明でこれだけの抗議の署名が集まったんだ。ギルドの評価を地に落とすと言っても過言ではない行動をしておいて、勘違いでしたで許されるわけ無いだろう」

「そ、そんな……」

 

 縋るように二人を見ていた件の連中は、それも無理と覚ると今度はこちらに向き直った。土下座せんばかりに頭を下げながら、申し訳ない許して欲しいと謝罪をしてきた。

 はぁ、と俺は溜息を吐く。この流れはもう二回目だ。おまけに前回謝ってきた連中はちゃんと土下座をした。ついでに言えば、今回の方が正直怒り度は上なわけで。

 

「スロウ」

「はい?」

「お前はどうする?」

「エミルの好きにしていーですよ?」

「いや、今回はお前が一番の被害者だし、お前に決めて欲しいんだ」

「そーですか? じゃあ」

 

 そう言うとスロウは笑った。頭を下げている連中を見て、にっこりと微笑んだ。そんな可愛らしい笑みのまま、スロウはゆっくりと沙汰を下す。

 

「絶対に、許してあげない」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。