幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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判決


第百四十話

「さて、では君達の処分も決まったところで」

 

 迷宮の管理者が貼り付けた笑顔のままそんなことを言い出す。スロウが絶対に許さないと宣言したことで、まあこの連中の処分がどうなるかは確定だろう。

 何故、どうして、と騒ぎ始める連中だが、むしろ何をどうすると疑問に思える箇所が出てくるんだろうかと不思議に思う。根拠は迷宮の管理者が否定して、当事者であるスロウは完全に謝罪を拒絶した。ここから救われる手段はないだろ。

 

「さあ、大人しくするんだな」

 

 アルガスさんがそんなことを述べながら連中に声を掛ける。今回の騒動の責任をお前達には取ってもらう。そう続けると、ブライアンさんと共に連中への沙汰を言い渡した。

 まあ当然のことながらギルドをクビ、言い方を変えれば追放である。それでも尚ギルドに関わるならば、再び下級の一冒険者としてやり直せ、という温情なのかなんなのか分からないのも付け加えられた。連中はそれを聞いて崩折れる。膝をつき、もうおしまいだ、と頭を掻きむしる者もいた。

 

「私達は、ただ、ギルドの繁栄のために」

「そこしか見えていなかったのが問題だろうね。現場を、当事者を全く顧みなかった結果がこれです」

 

 迷宮の管理者が連中にそう述べる。もう少しきちんとこちらの言葉を聞いていれば、もう少し現場の方を向いていれば、もう少し、もう少し。

 そのもう少しの積み重ねが、積もり積もって自分達の立場を盛大に崩したというわけだ。

 そんなことはない、と連中の誰かが叫んだ。現場はきちんと見ていた、と主張した。

 

「そのために、対魔王級の兵器の開発もしていたんだ!」

 

 あれか、とアルガスさんとブライアンさんが苦い顔を浮かべる。どういうことだと問い掛けると、大魔王級をこちらの懐に入れる際に冒険者達の個人的な戦力の低下を心配し、魔王級にも対抗出来る人造兵器の開発に乗り出したのだとかいう説明がきた。

 何だそりゃ、というかそもそも最初から大魔王級を、スロウを変にギルド管理にしなきゃ戦力の低下もクソもないだろうに。

 

「まあ、それはあくまで表向きだろう」

「表向き?」

「いや、それは」

「二人が言いにくいのならば僕が言ってあげようか? 対魔王級、ということは、つまり勇者級にも対抗出来るだけの強さを持った兵器を作ることさ。そして、ギルドにいる魔王級、ないし大魔王級をいざという時に始末するための手段にもなる」

「……スロウやアリア、シトリーを殺す用ってことか」

「あくまで念の為、くらいで、本来の用途は二人が言ったように戦力増加だろうけどね」

 

 全く考えていないわけではない。早い話がそういうわけだ。迷宮の管理者のその言葉を聞いた俺は、連中を射殺さんばかりに睨みつけた。バクス達も、それは流石に頂けないな、と不機嫌さを隠そうともしない表情で連中を見ている。

 

「まあ、とはいえ。所詮机上の空論。出来上がったものは到底戦力にならない程度のものです」

「迷宮の管理者様、流石にそれは過小評価では?」

 

 やれやれ、と肩を竦める迷宮の管理者にアルガスさんがそう抗議をするが、意見を変えるつもりのない迷宮の管理者は、妥当な評価だと思うけれど、と視線を傀儡人形に向けた。

 

「そうね。見なくとも分かるわ。現場を知らないのは皆一緒のようね」

 

 アルガスさんとブライアンさんを見やる。属性頂点二体にダメ出しされたことで、二人は苦い顔を浮かべながら引き下がった。

 一方ヒートアップしたのが向こうの連中だ。いくら属性頂点様といえどもこれは聞き捨てならない。我らの開発した兵器は机上の空論などではない。残っている拠り所に縋るように、連中はそんなことを喚き出した。

 

「そうだ、この兵器さえあれば、魔王級だろうと大魔王級だろうと何の問題もない!」

「勇者級が何だ。我らは勇者級相当の力をいくらでも開発できるのだ!」

 

 立ち上がりそんなことをギャーギャーと騒ぐうるさい連中を見て、俺はだったら持ってこいよと言い放った。そんなに自信あるんなら、俺達を倒してみせろよ。そんな言葉を続けた。

 

「ちょっとエミル」

「いーじゃないですか。わたしもだいぶムカついてますし」

「暴れるのも、ありかもだよぉ……」

「あんた達……まあ、あたしも気持ちとしては同じだけど」

 

 スロウはともかく、アリアやシトリーも割とノリノリで俺に言葉に賛同してくれる。ならば何も問題ない、と俺は連中を見やる。ほれ、さっさとそのガラクタを用意しろよ。

 ぐ、と連中は後ずさる。兵器はギルド本部の倉庫に用意してあるので、ここには無い。悔しそうにそう述べたのを聞いた迷宮の管理者は、安心していい、と貼り付けた笑みのまま言葉を紡いだ。

 

「君達の兵器ならば全て持ち込んであります。結果がどうなるか、自分たちの目で確かめてみるといいよ」

「あら、せっかくだからこういう条件をつけてもいいのでは? もし本当に勇者級が必要ないほどの能力だったのならば、処分は取り消し、いえ、貴方達の意見を全面的に支持してあげますわ」

 

 迷宮の管理者と傀儡人形のその言葉に連中が色めき立つ。おい、傀儡人形、余計なことはしないんじゃなかったのかよ。そんなことを思いながら奴を睨むと、当の傀儡人形は涼しい顔で微笑むばかり。何か余計なことをしたのだろうか、と平然と言い放った。

 

「いいこと? そもそも、大魔王級――スロウちゃんは現状勇者級パーティーで倒そうと思っても相当の戦力が必要になるわ。それに加えて、実際に討伐するとなったら貴方達はスロウちゃん側につくでしょう?」

「当たり前だ」

「となると、必要戦力は更に倍増。第一線の勇者達を用意しないとまともな勝負にすらならないわ。――ねえ、エミル君。貴方、あの連中が作った兵器がそこまでの強さを持っていると、本当に思っていて?」

 

 そう言われると、まあ、思わないけど。そんな返事をすると、傀儡人形は微笑み、そしてもう一度述べた。何か余計なことをしたのだろうか、と。

 小さく舌打ちし、分かったよ、と傀儡人形に告げる。視線を向こうの連中に向けると、さっさとそのガラクタを出せと叫んだ。

 

「が、ガラクタだと? 我々の対魔王級兵器は、勇者級にも匹敵する力を――」

「なら早くそれを見せてくれよ。俺達も見たいんでな」

「そうネそうネ。こっちも暴れたくてウズウズしてるんだからネ」

「(こくこく)」

 

 ザッ、と俺達の隣にバクス達が立つ。どうしたんだ、と問い掛けると、せっかく来たんだし参加させろと笑みを浮かべられた。

 

「何より、ありゃ勇者級全体を馬鹿にしてるんでな」

「ここらで一発かましてやろうと思ったネ」

「(ぷんすこ)」

 

 そういえば署名を貰いに行った時点で乗り込んで暴れる気満々だったなこいつら。そんなことを思いつつ、まあいいか、と息を吐く。

 丁度いい、ここで完膚なきまでボコボコにして、残っている自信もへし折ってやる。

 

 

 

 

 

 

 場所を移動し、迷宮の管理者がガラクタ兵器を持ってきた空間に向かう。そこで整備された兵器がきちんと存在しているのを見た連中は目を輝かせ、これで我らの勝ちだと意気揚々に兵器を起動させた。

 ブオン、と起動音が鳴り、止まっていた兵器が動き出す。基本四足歩行の、角張った人型に近い姿をしたそれは、皆一斉にこちらを見た。排除対象にでもなったのだろうか、無機質なカメラレンズのついた頭部がまるで睨みつけているように見えて。

 

「まあでも、そこまでの脅威には感じないな」

 

 連中の恨みつらみの籠もった視線は鬱陶しいが、この兵器自体にはそれほどの恐ろしさはない。対魔王級、と言っていたが、俺の知っている魔王級とぶつかったら間違いなくこいつらがスクラップになる。

 

「準魔王級、ってほどでもなさそうだけど」

「ぶっちゃけザコですね」

「でも、一応上級くらいはあるよぉ……」

 

 アリア、スロウの感想もボロクソである。シトリーもフォローのような事を言っているが、対魔王級という名前の兵器がそれでは話にならない。

 横を見ると、バクス達も拍子抜けしたように目の前のガラクタ兵器を眺めていた。

 

「おいおいおい。本気で言ってんのか?」

「実は中々強敵で、とかちょっと思ってたんだけどネ」

「(ぱちくり)」

 

 大体俺達と同じ感想である。上層部ってのは魔王級も勇者級もこのくらいに考えてたのか、と溜息を吐いたバクスは、さっさと片付けるかとヴェルとメリィを見た。

 

「ふざけるな!」

「だからふざけてるのはそっちなんだっつの」

 

 一足飛びで兵器との間合いを詰めたバクスは、そのまま一体を袈裟斬りにする。一撃で切り裂かれたそれは、強さどころか動きを見せること無く沈んだ。

 一歩遅れて兵器達が行動を開始するが、遅い。飛んできた矢がバクスの隣に立っていた兵器を正確に貫き、沈黙させた。見たこともない兵器の致命傷となる部分を一瞬で見極めて矢を叩き込むその姿は、なるほど流石は勇者級。

 歌声が聞こえた。いつの間にか竪琴を持っていたメリィが、それを演奏しながら歌を歌う。それと同時に、俺達の能力が上昇していくのを感じ、そして兵器達がなにかに侵されたように崩れ落ちた。この歌、支援と攻撃を同時にやってんのか。

 

「バクスが第一線の勇者級だってのがよく分かった」

「ん? 何だ、今更か?」

「まあ、たまには活躍しないとネ」

「(こくこく)」

 

 そんなことを言ったバクス達は、このままだと全部獲物を頂くぞ、と笑う。確かに、正直見学していても終わりそうではあるが。

 

「エミル! わたしたちも行きますよ!」

「そうね」

「うんうんうん……」

 

 ノリノリのこの連中を止める気もないので、俺達も参加させてもらおう。

 というか、そもそもスロウが自分に支援を掛けて前線に突っ込んでいっている時点でもう滅茶苦茶である。溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、全力のドロップキックを兵器に叩き込んでいた。具足が装備されたことで威力の増しているその蹴りは、眼の前のガラクタ兵器を正真正銘のガラクタへと変えていく。

 

「さ。じゃあ、あたしもやらせてもらおうかしら」

 

 扇を一振り。鱗粉を周囲にばらまいたアリアは、パチンと扇を閉じるのと同時にそれらを爆発させる。数体纏めて吹き飛んでいくそのさまは、まさに圧巻といったところだ。

 

「い、くよぉ……」

 

 シトリーはブンブンと大剣を振り回し、迫りくる兵器を叩き潰していく。それでも負けじと兵器も攻撃をするのだが、シトリーの防御を崩すことは出来ず、それこそアリジゴクの本体を出さずに次々とスクラップを量産していた。まあこんなの煮ても焼いても食えないしな。

 そんな俺も、魔法剣の斬撃で兵器を一刀のもとに切り捨てていく。しかし、なんというか、弱い。弱すぎる。いや、シトリーも言っていたが一応上級モンスター相当の強さは持っているのだろうけれど、ここのところ準魔王級や魔王級の連中と戦い続けた成果、普通の上級程度だと大したことのないように感じてしまうのだ。

 

「ははは。そりゃお前、大分活躍してるからな」

 

 俺のその感想が顔に出ていたのだろう。バクスが笑いながらそんなことを言っていた。ちなみに向こうも片手間で倒している。

 

「知ってるぜ? 魔王級スライムと魔王級コカトリスの話、ありゃどっちもお前らだったからこその成果だ」

「まあそのせいで大魔王級認定なんて面倒な事態になったんだしな」

 

 溜息を吐いた俺を見てバクスが盛大に笑う。そうしながら、まあ強くなっていることは誇ればいいと言葉を続けた。

 ともあれ。大量に用意されていた兵器も、勇者級パーティー二組の前ではガラクタも同じで。あっという間に全滅の憂き目に相成った。

 そんな馬鹿な、と呆然としている連中を見ながら、まあ当然の結果だろうと眺めていた迷宮の管理者と傀儡人形は笑う。

 

「そこの二人も、予想外という顔をしているね」

 

 ブライアンさんとアルガスさんを見る。迷宮の管理者の言う通り、まさかここまでとは、という表情を浮かべていた。

 

「少しは通用するかも、と思っていたかい?」

「恥ずかしながら、もう少し苦戦するかと」

 

 ブライアンさんはそう言って頭を掻く。おいおい、それは流石に俺達を嘗め過ぎではないか?

 が、そんな言葉を聞いて、迷宮の管理者は満足そうに頷いた。そうだね、以前の戦力ならばそうかもしれないね。そう言葉を続けた。

 

「これが今の勇者級さ。言っただろう? 魔王級の増加は、勇者級の強さが上がってきたためだと。だから、そうだね――今の勇者級を全員引退させる、とかでもしない限りは魔王級の増加は抑えられない」

 

 兵器を破壊され呆然としている連中を見る。そういう意味では、魔王級を減らすための行動としてはまだ温い。そんな評価を下した迷宮の管理者は、ブライアンさんとアルガスさんに視線を戻した。

 

「傀儡人形は、何か言うことがありますか?」

「あら、私は別にそこまでギルドに思い入れはないもの。迷宮の管理者のように優しく諭すようなことはしないわ」

 

 そう言いながら、まあ魔王級の増加をどうにかしたければ、と笑みを浮かべる。口元を三日月に歪めながら、迷宮の管理者の言ったことを実行するしかないでしょうねと言葉を紡いだ。

 

「それで? 勇者級パーティーを全員、ギルドから追放するのかしら?」

「まさかそんな。たとえ魔王級の増加に影響しているとしても、そんな恐ろしいことは実行できません」

「そう。じゃあ残念ながら、貴方達の考えていたように、向こうの連中の成し得なかったことを成功させて権力を増す、という目論見は外れることになるわね」

「……何のことでしょうか」

 

 ブライアンさんもアルガスさんも傀儡人形から視線を外す。そうしながら、大きく溜息を吐き、自分達の椅子も危ういか、と呟いていた。

 

「ま、まだ試作品が残っている!」

 

 そんなタイミングで、連中の一人がそんなことを言いだした。どうやらガラクタ兵器にはまだ隠し玉があったらしい。あれはまだ制御が、とか割とこの手の流れのお決まりのセリフが聞こえてくるが、向こうはもはや死なば諸共と起動をしたらしい。

 部屋の奥から、先程の兵器達より一回り大きく多数の装備を纏ったものが二体、歩いてくる。成程、言うだけあってさっきまでの兵器よりは強そうだ。

 

「けど、まあ、せいぜい準魔王級だな」

 

 強さで言うならば、魔王級には及ばない。まあつまり対魔王級兵器としては失格なのだが、向こうの連中はこれに一縷の望みを賭けているようである。

 ガシャリ、と向こうの腕の兵器が起動した。銃弾が盛大にばらまかれ、俺達のさっきまでいた場所を一瞬にして蜂の巣にする。

 

「お、中々やるな」

「さっきよりは歯ごたえありそうネ」

「(こくこく)」

 

 向こうの血の気の多い連中はやる気満々である。こっちは貰ったぞ、と一体に向かって三人で駆けていった。

 さて、そうなると残った一体を相手するわけなのだが。

 

「わたしがぶっ飛ばしますか?」

「落ち着け。いやまあ出来ないことはないだろうけど」

「所詮準魔王級だものね」

「どっちにしろ食べられないよぉ……」

 

 シトリーの嘆きはまあ聞かなかったことにして、俺達は俺達でさっさとこのガラクタを片付けようと武器を構えた。それに合わせるように、向こう側も先程の銃弾とは別の武器が起動し、爆弾のようなものが次々に発射される。

 

「わ、わわ」

 

 回避が間に合わなかったシトリーが爆発に巻き込まれた。が、まあシトリーなのでその程度ではやられない。大剣を盾代わりにダメージを抑えたシトリーは、そのままズルリとアリジゴクの本体をまろび出し流砂を生み出した。四足歩行で安定感を醸し出していた兵器も、流石に流砂では足を取られバランスを崩す。

 

「いくよぉ……!」

 

 アリジゴクの顎が足を一本へし折った。グラリと倒れかけた兵器は、しかし残りの三本の足でなんとか持ち直す。

 まあなんとか持ち直すっていう時点ですでに詰んでいるのだが。

 

「さ、一気に攻めるわよ」

 

 武器の装備されていた部分が大爆発を起こした。爆弾や銃の部分がアリアの攻撃であっという間にズタボロになる。火薬兵器を積んでいたのが仇となったか、少しの爆発でも盛大なダメージになったようである。

 パチン、と扇を閉じると、仕上げはこちらに任せるとばかりにアリアは後ろに下がる。じゃあ遠慮なく、と魔法剣で本体を真っ二つに。

 

「ありがとうございますアリアちゃん。いっきますよー!」

 

 する直前、とう、と横にいたスロウが盛大に跳び上がった。自身の支援を最大限活用した、己の肉体の限界を超えた一撃を放つべく、スロウはガシガシと呪文を掛ける。

 そして、完成した最強スロウは、そのまま兵器のボディに向かって全力の飛び蹴りを叩き込んだ。メキョ、とボディが凹み、そしてそのまま勢いは殺されず。

 そのままボディを貫いたスロウは、跳び蹴りの姿勢のまま貫通し、そして地面に着地した。

 

「どーです!」

 

 いえい、とポーズを決めるスロウの背後では、ガラクタとなった兵器が盛大に爆発をしていた。

 あれ? 俺の出番無し?

 

 




ラ◯ダーキック
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