「ははは、面白いことをするね彼女は」
爆発四散した試作兵器とやらを見ながら、出番のなくなった俺の横で迷宮の管理者が笑う。まあこれで僕の出番は終了かな、とか言いながら自身の眼鏡のズレを直していた。
「出番って」
「後のことは向こうに任せても大丈夫だろう?」
「まあ、そうかもしれないけど。そもそも色々と忙しく動いてるって聞いてたぞ」
いざ出会ってみると言うほど忙しくなさそうだった。そんなことを迷宮の管理者に伝えると、貼り付けた笑みのままふむ、と頷いた。
「それは一体誰に言われたんだい?」
「誰って、そりゃ」
悲鳴彫刻家だ。……ひょっとしてあれ嘘か? いや、一応動いてはいたから嘘ではなかっただろうけど、誇張して話されたのか。その方が驚くから? まさか。
「いや、まあ実際問題どう諭したものかと悩んではいたよ。処分自体はギルドの方で行うだろうから僕は口出ししないつもりだったけれど」
根本的な勘違いから始まっていたのは困ったね。さっきまでの向こうの連中とのやり取りを思い出しているのか、迷宮の管理者はそんなことを述べた。
というか、その辺りの話し合いってしなかったのか? そんなことを問い掛けると、別にしていないねという返答が来る。
「基本的に僕は頼まれなければ見守るだけです。今回の場合、魔王級の増加について意見を求められたので返答したけれど、その後の行動については何も助言を求められなかったからね」
そうしたらこの騒ぎ。それでこれは流石にちょっと口出しをしようかと思っていた矢先に、どうやら俺達が動いているらしいということを聞いて。
「そのついでに傀儡人形が僕の迷宮を使って君達を改めて見極めたい、とか言うから、それならばもう少し見守る方向に行こうかと」
「……結局、最初から傀儡人形とグルだったのかよ」
「あら、今更?」
傀儡人形が口を挟んでくる。いや、まあ迷宮を貸し出している時点でそうだとは思っていたけれど。しかしそうなると、色々絶妙に出鱈目を吹き込んだ悲鳴彫刻家も一味ってことでいいんだよな。
「彼女は彼女で好き勝手に動いていただけだけよ」
「碌でもねえ……」
「ははは。とはいえ、協力者という意味では間違っていないよ。悲鳴彫刻家には君達のサポートをお願いしたからね」
「一番頼んじゃいけないやつに頼んでないかそれ」
「そうでもないですよ。彼女は他者を驚かせることを趣味としているし、基本的に煙に巻く会話を好んでいるけれども。それでも信頼している相手にはとても協力的だ」
ついている装飾のおかげでそれいい方向に進まないやつだな。そんなことを思い顔を顰めると、迷宮の管理者は貼り付けた笑みの上で更に笑った。大丈夫だ、と言葉を続けた。
「信頼している相手、というのは君達のことだよ」
「信用できん」
「あらあら、悲鳴彫刻家が泣くわよ」
嘘泣きだろうけどな。そんなことを思いつつ、話を戻そうと俺は述べた。とはいってもそこまで戻す話はないけれども。
結局のところ、迷宮の管理者はギルドの様子を見守ってただけってことか。
「概ねはね。こうして話し合いの場を用意するくらいの協力はしたし、さっきのように少しばかり説教じみた話もしたけれど」
「俺達に署名をくれたのは」
「勿論、大事な友人だからですよ。ことそれに関しては、それ以上の意味はない」
変わらず笑みを貼り付けたまま、しかし本心からであろう笑顔で迷宮の管理者はそう述べる。それを聞いた俺は、小さく溜息を吐き、まあそれならそれでいいかと呟いた。余計な策謀とか、そういうのは傀儡人形だけで十分だ。
視線を迷宮の管理者達から向こうに移動させる。バクス達も問題なく試作兵器を残骸にしたようで、終わった終わったとこちらにやってくるところであった。
そうして全員がほぼ無傷の状態で合流した俺達は、改めて連中を見る。拠り所であった兵器があっさりと倒されたことで呆然としている連中は、もはや反論や抗議をする気力も残っていないようであった。
ブライアンさんとアルガスさんは先程と同じ沙汰を下す。まあ最後の糸が切れたわけなので当然だが、ギルドに多大な迷惑を掛けた責任を取ってクビ、ということになった。項垂れたまま反応しない連中を見ながら、さて、と傀儡人形はその沙汰を下した二人を見やる。
「貴方達は、どうするのかしら?」
その言葉に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる二人。流石に元凶を始末してはいおしまい、とはいかない事態になっているらしく、しかしブライアンさんもアルガスさんもその一歩を踏み出せずに口を噤んでいた。まあ自分自身の処分を考えて口にするんだから、当然とも言えるが。
「まあ僕としてはどういう答えを出しても構わないとは思うけれど。ただ、抗議をしてくるであろう月の大聖女や妖精姫、後は頂の古龍辺りかな。この辺りが納得できる答えを出すべきだと思いますよ」
二人の顔が益々険しくなる。この辺り、ギルドの派閥闘争とかはよく分からないので俺としては何とも言えない。責任取って辞任、みたいなのが一番手っ取り早いのだろうか。まあクビじゃないだけマシとか思ってしまうんだけれども。
「人ってのはそう簡単に今の地位を投げ出したくないもんだしな」
バクスが俺の考えを見透かしたようにそう述べる。まあ確かにそうか、俺みたいにそういうしがらみがない人間だとその辺分からないからな。
「勇者級の称号はどうでもいいのかネ?」
「(ぱちくり)」
「スロウ達と一緒にいるために必要だからまあそれなりに、かな。今回みたいなことがあるなら別にいらない」
勇者級がスロウ達と俺を引き離すものになったのならば、俺は迷うこと無くその称号を捨てるだろうし。
そんなことを述べると、バクス達はそりゃそうかと笑っていた。
まあ俺の話は今はどうでもいい。向こうの二人のことだ。いやまあ、あの二人がどうなっても別にこっちにとってはそこまで関係がないことではあるんだけど。
「そーですね。ぶっちゃけもう帰ってもいいと思いますよ」
「スロウほどじゃないけれど、まあギルドの派閥闘争の行く末なんかに興味はないわね」
「あの兵器は食べられなかったから、ちょっとお腹すいたんだよぉ……」
そしてスロウ達の意見もこれである。確かに、つい流れで見学していたが、もう件の連中はクビが確定したし、今回の声明についての問題はほぼほぼ解決したと思って問題ない。ならば、別段ここにいる必要もないわけで。
「なあ、迷宮の管理者、傀儡人形」
「どうしたんだい?」
「つまらない話を延々と聞かされるのに飽きたのかしら?」
「まあ、そんなところだ。俺達もう帰ってもいいか?」
その言葉にブライアンさんとアルガスさんは一瞬目を見開き、しかしそれもそうかとばかりに溜息を吐いた。そうしながら、こちらに向き直り自分達は構わないと思うと述べる。
「確かにもう君達には関係ない話だものな」
「我々の進退をわざわざ見せる必要もないだろう」
そんなことを言い出す二人は、さっきまでの悩んでいた姿から、どこか憑き物が落ちたような状態に思えた。答えは出ました、と二体に向かって迷うこと無く述べていた。
「我々は――」
「はい、《テレポート》。エミル、帰りますよー」
「ん? ああ、今行く」
向こうの話がそこまで気になるわけでもなし。俺達は一足先にスロウの《テレポート》で帰宅させてもらうことにした。
ギルドから新しい声明が出たのはそれからすぐ。大魔王級認定は結局通ったが、ギルド管理下の話も監視の話も、勿論俺達パーティー解散の話も全て無くなった。同時に、現在の魔王級の増加について属性頂点が語った理由というのも公表された。
とりあえず今回の件はこれで一旦終了ということでいいだろう。大魔王級のモンスターという称号にしても、傀儡人形が言っていたようにそうなった理由が聖女としての性質の強いものだったこともあり、どちらかといえば尊敬の度合いが強いものになりそうであった。
「お疲れ様」
そんなわけでようやく一息つけるようになった俺は、村のギルドでぐだりとだらけていた。お姉さんがカウンターで作業をしながらそんな俺を眺めている。
「確かに色々めんどくさかったですもんね」
同じく俺の隣でぐだりとしている芋虫が一体。丸まった状態のまま、多足だけをわしゃわしゃさせていた。
「まあ、エミルの場合はただ疲れただけじゃなさそうだけど」
お姉さんの隣で資料の整理をしていたアリアが笑う。そうよね、寂しがり屋さん、とか言われ、俺は舌打ちしながら視線を逸らした。
マイア姉さんがそんな俺を見て笑う。なんだよ、なんか文句あるか。
「いや、文句っていうか。エミルくんは変わらないなぁって」
「なんでだよ。いやまあ、昔も今も捻くれたガキなのは否定しないけど」
「そういうところがね。私がまだ冒険者していた頃から今までずっと一緒」
「そーですね。とゆーか、エミルが寂しがり屋とか、今更言わなくてもとっくの昔に分かってましたし」
そう言うと上半身をもぞりと持ち上げたスロウが笑う。アリアちゃんもシトリーちゃんも、気付いていたんじゃないですか? 笑みを浮かべたまま、スロウはそう続けた。
アリジゴク状態でギルドのソファで寝っ転がっていたシトリーは、その言葉を聞いて器用にポリポリと頭を掻く。言葉にはしなかったが、その行動が色々と物語っていた。
そしてアリア。そりゃそうよ、と迷うこと無く述べると、大体、と言葉を続けた。
「月の大聖女様に言われた『悪徳』、一人でいたら駄目になるだなんて、寂しがり屋の極地みたいなものじゃない」
まあ言われてみれば、その通りだと思わないでもない。ぐぬぬと顔を顰めていると、アリアはまあそれ以外にも理由があると笑っていた。
「あんた、あたし達のこと大好きでしょ」
「何だいきなり」
「む、エミルは渡しませんよ?」
唐突なそれを聞いてスロウがぐねりと俺にまとわりつく。アリアはそんなスロウを見て、大丈夫取らない取らないと笑っていた。
が、それはそれとして、とジェスチャーをする。
「勿論エミルの一番はスロウ。だけど、それはそれとしてあたし達が危機に陥ったら迷うこと無く助けに入ってはくれるわよね」
「いや、それはみんなそうだろ」
「そーですね。わたしだって助けますよ?」
そんなことで寂しがり屋判定されたらたまったものではない。そんなことを思いながらアリアを睨むと、やれやれと肩を竦められた。何でだ。
「あんたやっぱりもう捻くれ者だったこと忘れてるわよね」
「は?」
「確かに最近のエミル君は捻くれ者要素薄くなったよね。大人になったな、とか思ってたけど、そっかそっか、本当は寂しがり屋だったからなんだね」
「……」
そういうのやめてくれますか? ぶっちゃけ滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。
「まあからかうのはこの辺にして。あんた捻くれてる割にそういうところは素直じゃない? だから本質は、どっちかといえば捻くれ者というより寂しがり屋なのかなってのは薄々」
えっと。もうそのへんで止めてくれますかね。別の意味で死にたくなってきた。
というかじゃあ、あの時の心の迷宮で自分と向き合ったのを見てた時、アリアもシトリーも今更かい、みたいな感想を持ってたってことかよ。あの時の気まずさはそれか。
あれ? 何だか更に死にたくなってきたぞ。
「拗ねない拗ねない。エミル君が捻くれ者でも寂しがり屋でも変わらないよ」
そう言って俺の頭を撫でてくるマイア姉さん。何かそうやってお姉さんに慰められると、何だか無性に自分がガキになった気がしてくる。いや実際まだ子供で、大人に慰められるガキではあるんだけど。
「けど、お姉さんと俺は言うほど年離れてないだろ?」
「四つ以上離れていれば十分でしょ」
ワシワシと再度頭を撫でられた俺は、強引にその手を振り払った。そうしながら、もうこの話はやめ、と強引に話題を止めさせる。
「はいはい。じゃあ問題も片付いたことだし、なにか新しい依頼でも受けてみる?」
「何でだよ。疲れたって言ってんだろ」
「これでもギルドの職員だからね」
とはいっても、とギルドの依頼掲示板を見る。こんな村にある依頼は相変わらず初級かよくて中級。勇者級である俺達が受けるような依頼は何もない。
それを分かっているだろうに、お姉さんはわざわざそんな話をしてきたということは、つまり。
「ここんとこギルドの連中に色々されたんだから、少しは休みたいんだけどな」
「まあ、そうだよね。でもこれ、指名依頼なんだよね、エミル君宛ての」
それも魔王級に関する依頼。そう言われ、はいこれ、と差し出された依頼書を思わず受け取ってしまった俺は、渋々ながら目を通すことにした。
えっと、場所は帝国で、依頼者は。
「ん? アイラさんとリィンさんだ」
「あ、ほんとですね」
ひょこ、と俺の隣で覗き込んだスロウも頷く。今回の騒動で知り合った帝国の勇者級で、会って間もない俺達を信用して署名をしてくれた美人姉妹。そんな二人からの依頼となると、流石に無視するのはまずい気がするな。
「あんた本当にそういうところダダ甘よね」
「やかましい。で、内容は」
アリアの言葉に文句を返しながら、依頼内容を確認する。えっと、最近帝国で人々に束縛をそそのかす変態が闊歩しているので捕縛の手伝いをして欲しい、と。
「……」
「キララちゃんじゃないですか? これ」
間違いなくキララだ。あいつ帝国で何やってんだ。いやまあ強引に束縛しているわけじゃないだけまだ穏当、か? いや違う、穏当の基準が限りなく低くなっている。
というかイゼルブを束縛しておけよ。
「まあ、束縛はしてるんでしょうね。最近出没した話も聞かなくなってるし」
「ついでに吸血もされてる可能性もあるかもだよぉ……」
まあ、それはもう行動不能と言ってもいいだろうな。哀れイゼルブ、そのうち止めを刺しに行ってやるからな。
まあそれはそれとして。イゼルブだけで満足出来なくなったキララがついに無差別に獲物を探し始めたというわけか。現状希望者だけなのが幸いか。
「とりあえず、準備をしたら行ってみるか」
「そーですね」