上級とはいえコカトリスは石化を使ってくる厄介なモンスターだ。ハーピーとは別の意味で面倒だし、脅威度で言えばこちらが上。
何より、スロウがいないので石化に対処する手段がない。
「オル。お前状態異常耐性はできるか?」
「一応できるけど、石化は分からないわよ」
「それでもいい、一応自分とアルにはやっといてくれ」
「お前は?」
「当たらなければ別に」
溜息とともに俺にも状態異常耐性が掛けられる。石化に効くかは分からないから、と念を押されたが、俺は素直に礼を言っておいた。
さて、そういうわけで俺達はコカトリスへと攻撃を。
「助けて!」
「助けて!」
しようとした矢先、ハーピーが数体こちらに攻撃を行ってきた。お前らやっぱりそういう役割か。そう思いぶっ飛ばしたが、どうやら攻撃してくるハーピーはそう多くない。成程、群れの中でもコカトリス側とそうでない側がいるってことか。ということは、縄張りを追われて、向こう側につくやつと縄張りを移動させるやつとで分かれて、縄張りを移動させるやつが商人を襲って。
これどっちも迷惑なやつだな。さてどうするか。
「どうするもこうするも」
オルが舌打ちしながら糸を吐く。ハーピーに放たれた糸は蜘蛛の巣を展開して絡め取った。ジタバタもがくがどうにもならず、バリ、と背中から現れた蜘蛛の足を動かすと同時にハーピーも動く。
「まとめて経験値にしてやるわよ」
そうして操ったハーピーをコカトリスへと突っ込ませた。自分の子分になっていたハーピーが急に反旗を翻したことに驚いたコカトリスだが、しかし気を取り直して尻尾でハーピーを薙ぎ払う。そうはいかないと糸で操ったハーピーを回避させたオルは、もっと数がいるなと周囲のハーピーを更に糸で絡め取った。
「おねえちゃん、凄い!」
「ふふん。私だって魔王級なんだから。このくらいは」
言いながらハーピーを急降下させる。コカトリスが鬱陶しそうにそれらの攻撃を捌いている内に、アルが一気に肉薄しコカトリスの片目を剣で切り裂いた。追撃とばかりに蜘蛛の糸を吐き、片目を完全に見えなくさせる。悲鳴を上げるコカトリスを見ながら、オルとアルはどんなもんだとハイタッチをしていた。
「どうやら向こうは大丈夫そうだな」
コカトリス側についていたハーピーはオルが蜘蛛の巣で操っているし、そうでないハーピーはこちらの様子を伺っているので攻撃はしてこない。
なので、俺も眼の前のコカトリスに専念出来るわけだ。
「っと、あぶない」
石化の眼光を跳んで躱す。上級だとか魔王級だとか関係無しに、こいつだけはまずいので食らうわけにはいかない。逆に言えば、これにさえ気を付けておけば以前と比べて雑魚である。
剣で切り裂くと普通に攻撃が通るし、ブレスもあの時の魔王級に比べてしょぼい。従えている部下もいない。まあしいて言えばハーピーだろうが、もう既に対処されている。
「流石にこれに苦戦するわけにもいかないよな、っと」
嘴の攻撃を躱し、石化の眼光を避け、俺は魔力を込めた二重の斬撃をコカトリスの首へと叩き込んだ。斬、とあっさり切断された首が宙を舞い、そして地面に落ちる。血を吹き出していた体も、ヨロヨロと数歩後ずさるとそのまま倒れて動かなくなった。
「うそ、そんなあっさり?」
「さすがはエミルさんです」
驚き目を見開いているオルと、笑顔で俺を褒めてくれるアル。そんな姉妹の反応を見ながら、そっちはどうだと声を掛けた。苦戦するようなら助けるけど。
そんなことを言った俺に対し、二体は心配いらないと揃って言葉を返した。
「見ていてくださいエミルさん。私だって、やればできるんです!」
糸を吐く。それを足場にしてバネのようにしたアルは、弾丸のように射出されるがごとく一気に突っ込んだ。コカトリスを切り裂き抜けたアルは、即座に糸を吐きコカトリスと接続。ぐるんと回転するように再度間合いを詰めて相手を切り裂いた。
そこにカウンターを合わせるようにコカトリスが石化の眼光を放ってくる。が、させないとオルが操っていたハーピーを射線上に割り込ませた。アルの代わりに石化したハーピーを足場にし、アルはコカトリスの潰れている片目の方へと移動する。石化の眼光はこれで放てない。
「やぁぁぁぁぁ!」
コカトリスの首を切り裂いた。俺みたいに真っ二つにはならなかったが、それでも深く切り裂かれたそこから血が吹き出る。最後の抵抗とばかりに暴れるコカトリスであったが、オルの操っていたハーピーが抑え込むように突撃し、それも無駄に終わった。
ドスン、とコカトリスが倒れる。そうしてそのまま動かなくなったコカトリスを見て、オルとアルはやったぁとはしゃいでいた。
「あの時サラマンダーにボコされていたのが嘘みたいだな」
「そうでしょう? 私達は成長してるのよ」
「ありがとうございます、エミルさん」
そんなことを言いながら、そういえば、とふと思う。オルは自身の元々の特性を使った戦い方をしていたが、アルは何か違わなかったか、と。確か修行の時はもう少し元々の蜘蛛の特性っぽい動きをしていたはずなんだが。
それを問い掛けると、オルがジロリと俺を見る。アルはあははとどこか恥ずかしそうに笑っていた。
「お前のせいよ」
「俺の?」
「アルってば、エミルさんみたいになりたい、とか言い出して、お前の戦い方を真似するようになったのよ」
「俺の、戦い方、ねぇ」
とはいっても割と真っ直ぐ突っ込んでぶった切るみたいな戦い方しかしてない気がするんだけど。そう述べると、それよそれ、とオルに睨まれた。
「エミルさんに近付きたくて、真っ直ぐに突っ込んでいく戦い方を身に着けたんです」
「な、なるほど?」
蜘蛛の糸を使った弾丸射出とか、敵に糸をくっつけての近距離戦とか。どっちかというとアル特有の戦い方な気がしないでもないが、その根底が俺の戦い方だというからには、まあそういうことなのだろう。確かに以前と全然動き違ったしな。
けど、多分これ姉としては心配だろうな。そんなことを思いながらオルを見ると、再度ジロリと睨まれた。
「心配なんてもんじゃないわよ。毎度毎度突っ込んでいくんだもの」
「あぅ……ごめんなさい、おねえちゃん」
「まあいいわ。あんたの尊敬する相手に近付きたいって思いを無下にはしたくないもの」
尊敬する相手がこいつなのは気に食わないけど。そんな言葉を続けてやっぱり俺を睨んだオルは、そこで表情を緩めると、さてそれで、と二体のコカトリスの死体を見下ろした。
「こいつどうするの? 剥ぎ取りして放置?」
「まあ、多分そうなるな」
放っておいても多分そこのハーピーが片付けてくれるだろう。そんなことを思いながらそう述べた俺に、アルがでももったいないですよね、と呟く。
「もったいない?」
「コカトリスって結構美味しいお肉になるって、マスターが言ってましたよ」
まあ確かに鳥のモンスターだから鶏肉にはなるだろうけど、こいつ食えるのか。モンスターだから、というわけでもなく帝国ギルドのマスターが言っているからには人でもいけるんだろう。
そういえば魔王級のコカトリスの討伐料やたらと高かったな。肉代も含まれてたのかあれ。
ともあれ。まあそういうことなら、流石に二体は持っていけないが、片方くらいならなんとかなるだろう。
そんなことを思いながら、俺はこちらの様子を伺っているハーピーに声を掛けた。
「おいハーピー。コカトリスの片方は置いてくから好きにしろ。あと、もし今度街道を襲うことになったら、俺達も容赦しないからな」
まあ上級モンスターだし、俺の言葉もある程度理解出来たのだろう。それを聞いたハーピー達は羽をバサバサとさせ、そしてそのまま俺達を見送っていった。
「ありがとう」
「大好き」
そんな鳴き声を発しながら。
「お前本当にモンスターたらしね」
「エミルさん……」
「誤解だ誤解」
そういうわけで依頼は完了。スパイスとついでに解体して肉になったコカトリスを乗せた馬車もハーピーに襲われることはなく、無事に王都に辿り着いた。
そこでようやくスパイスと、ついでに美味しいらしい肉も手に入った俺は、ついに料理へと向かうことになるわけなのだが。
「お前達は来ないのか?」
「スロウさんのための場所に私達が行ってどうするのよ」
「そこはちゃんとスロウさんを労ってください」
そうは言っても、アリアとシトリーも多分一緒だぞ。そう述べたのだが、オルもアルもそれとこれとは違うの一点張りであった。まあそこまで言うなら無理には誘わないが、色々と助けてもらったお礼はまた今度個別にさせてもらうと二体に告げた。
「はいはい。じゃ、期待してるわよ」
「また帝国に来てください」
勿論、と返事をし、もう一度お礼を述べてからオルの《テレポート》で村へと帰る。よし、と気合を入れると、俺は荷物を持ったまま家へと戻った。
「あ、おかえりなさい」
ひょこ、とスロウが顔を出す。その表情は満面の笑みである。まあ分かっているからだろうけれど、それはそれで期待の視線がなかなかに痛い。
「あーっと、スロウ」
「はい。どーしました?」
「これからちょっと料理を作るんだけど」
「はいっ!」
滅茶苦茶キラキラした表情で返事をしてくる。可愛い。が、今はそれどころではない。その料理がちゃんと出来るかどうかが大問題なのだから。
「大丈夫ですよ」
「ん?」
「エミルの作る料理なら、なんだって美味しいですから」
スロウの作る料理にダメ出ししていた俺との対比で死にそうになる。が、まだここで死ぬわけにはいかない。せめて料理を作ってからだ。
ともあれ。そういうわけでスロウには待っていて欲しいと伝え、俺は早速キッチンへと向かう。頑張りなさいよ、と既に旅行から帰ってきた俺の両親も完全に見守りモードなので、俺自身の力でやるしかない。
素人がやるには一番難しいとされるスパイスの調合は、購入ついでに既に向こうで済ませてもらったので、後は手順を間違えなければ俺でもそこそこの料理が出来るはずだ。
そんなことを思いながら、まずは材料を切る。野菜とコカトリスのもも肉を適当な大きさに切った。ここでいきなり手を切って大惨事、みたいな真似をするつもりはないが、緊張しているので若干危ないところもあった。落ち着け俺、やること自体は難しくないので、冷静になれば何の問題もないはずだ。
材料を切り終えた。次は。
「エミル、あんた本当に大丈夫?」
アリアが緊張している俺を見てそんな声を掛けてきた。ここで大丈夫と突っぱねるのは簡単だが、しかし実際緊張しているのは確かなわけで。
「まあ、一応」
とはいえ、大丈夫じゃないかと言えばそうでもない。そんな曖昧な返事をした俺は、次の工程に行こうと鍋を取り出した。次は材料を炒める。焦げないように気を付けながら炒めて、スパイスを投入。いい感じに火が通ったら、今度は煮込む用のスープを作って、と。
「ど、どう……? 大丈夫ぅ……?」
今度はシトリーもやってきた。だから大丈夫か大丈夫じゃないかと言われると大丈夫じゃない寄りではある。けど、全く持って大丈夫じゃないわけではないので、そこは心配しないで欲しい。そんなことを思いながらシトリーにもまあ一応と返事をして、出来上がったスープと材料を混ぜ合わせて後は煮込む。
「あ、結構美味しい匂いしてきましたね」
ふんふんふん、と鼻歌を歌いながら待っていたスロウがそんなことを述べる。途中母さんが俺の鍋を覗き込んだが、まあいいでしょうと頷いていたので一応失敗はしていないはずだ。
そうして焦げないように気を付けながら時々かき混ぜ、煮込んで暫く時間が経った頃。中身にとろみが付いてきたので、そろそろいいかと火を止めた。
後はこいつ用にバターで炒めたライスを盛り付けて、そこにこれを掛けて。
「出来たぞ」
完成、とスロウの前に皿を置く。いい感じに煮込まれた料理とバターライスが混ざりあって結構美味そうな香りがした。
「エミルエミル! 食べてもいーですか?」
「ああ、一応味見もしたから、とんでもなくまずいってこともないはずだ」
「エミルの作った料理なら何でも美味しいんですってば。じゃあ、いっただきまーす」
あむ、とスロウがスプーンで掬って料理を口に入れる。瞬間、ぱぁぁっとその表情が輝いた。
「美味しいですよエミル! あ、お世辞じゃないですよ?」
「いや顔見りゃ分かる。……ふぅ、よかった」
「いやでもこれ本当に美味しいです。いくらでも食べられますよ!」
そう言いながら本当にバクバクと料理を食べていくスロウ。あっという間に皿を空にしたスロウは、おかわり、と俺にそれを突き出した。
「はいはい」
「アリアちゃんもシトリーちゃんも食べてみてくださいよ。本当に美味しいですから」
「そこまで言うなら」
「ちょっと楽しみだよぉ……」
スロウのおかわりとアリアとシトリーの分を用意しながら、俺は思わず口角を上げていた。こんなに喜んでもらえるのならば、確かに料理をするのも悪くない。
はいどうぞ、と三体に料理を渡す。いただきます、と皆スプーンで掬ってそれを口に入れた。
「あら、本当に美味しい」
「ちょっと辛いけど、美味しいよぉ……」
「ですよね?」
ふふん、とスロウが自慢げに胸を張る。まるで自分のことのように喜んでくれるスロウを見て、俺は思わず笑ってしまった。両親にも食べさせたが、いい感じじゃないかときちんと高評価を貰ったので、これで晴れて問題なしの料理となったわけだ。
「おかわりください!」
「いいけど。大丈夫かスロウ、お前そんなに食う方じゃなかっただろ」
「だってエミルの料理ですよ?」
「意味が分からん」
まあ彼女の頼みとあればとおかわりを出したが、三杯目を食べ終えたスロウは目に見えて顔色が悪くなった。ほら見ろ、お前食べ過ぎなんだよ。
「うぅ……お腹、痛い……」
「いわんこっちゃない」
流石に食べ過ぎは状態異常じゃないから無効にもされないし、回復も出来ない。胃薬持ってくるから待ってろ、と俺は溜息を吐いた。
そのばん いもむしは、
おなかが いたくて なきました。