ギルドのゴタゴタも大分収まったんだろうか。そんなことを思いつつ、別段その辺りは興味も湧かなかったから聞くこともなく。
そんな生活を続けているある日、お姉さんからこんな注意喚起をされた。
曰く、勇者級を騙る詐欺事件が起きている。
「別に実力でバレるんじゃないのか?」
「まあそうなんだろうけど。軽い仕事をさも重大そうに言ってお金をぼったくるのがほとんどらしいからね」
それもギルドを通さない依頼ばっかり。そう話したお姉さんは、まあ最近ギルドゴタゴタしてるからね、と溜息を吐いた。
「あれ。まだあの辺のゴタゴタ終わってなかったんですか?」
「いや、一応ギルドの派閥のお偉いさんはどっちも辞任して大まかな派閥闘争は終わったみたいだけど」
まあそれでこれまでの確執がなくなるわけでもなし。グダグダと小さな論争は起き続けて、そのおかげかギルドの上層部は未だしっちゃかめっちゃからしい。ギルドマスター辺の人達が通常業務をこなしているから何となかっているが、やっぱり迷宮の管理者にまとめてもらった方がいいんじゃないかと言われるほどの迷走ぶりなんだとか。
「で、しょうがないからって迷宮の管理者様がお手伝いをしてようやく落ち着き始めた、って感じ」
その過程で勇者級詐欺事件が起きているのが分かったらしい。とはいえ、まあそれで発覚したのならばギルドで管理して終わりだろ。詐欺勇者もそのうち捕まるだろうし。
「それが」
「ん?」
「はいこれ」
ぴらり、と一枚の書類を俺に手渡す。何々と俺の横のスロウもそれを覗き込んで、んげ、と顔を顰めた。
書類は勿論依頼書であり、その依頼内容は、まあこの流れからするとそうだろうなと思わせる内容だ。
すなわち、詐欺勇者の捕縛。
「何で俺達にやらせるんだよ」
「まあ詐欺とは言え勇者級ってことは、ひょっとしたら相当の実力を持っている可能性があるってことじゃないかな」
俺の文句にお姉さんがそう述べる。そうしながら、それに、と依頼書に書かれている一部分を指差した。
剣士、支援役、魔導師、盾役。パーティー構成はその四人であり、それぞれ、エミル、スロウ、アリア、シトリーを名乗っている模様。そこにはしっかりとそう書かれていて。
「俺達の偽物!?」
「まあ正確にははっきり名乗ったわけじゃなくて、エミル君達のパーティーだと誤認させるような物言いをしていたって話だけどね」
「いかにも詐欺って感じね」
話に加わったアリアも眉を顰めながらそんな感想を漏らす。まあ確かに、人の名前を勝手に使って詐欺行為をしているとなると、ギルドが何とかしてくれるだろと悠長に構えている場合ではない。
「でも、どーするんですか? 詐欺行為って、どこかに現れるとか分からないですよね」
「そうだな」
スロウの言う通り、モンスターの討伐とは違って、出現位置の特定とかそういうレベルではない労力が掛かる。というかギルドで話題になったことで一旦行動をやめる可能性だってある。そうなるとまた動き出すまでどうにもならない。
「とりあえず、詐欺の被害に遭った人達に聞き込みしてみましょうか」
アリアの言葉にそうだな、と頷いた俺は、シトリーを拾って被害者のいる場所まで向かうことにした。
被害に遭った町に向かう。それほど大きくもなく、城下町や王都にも連なっていない場所だ。まあ詐欺をするなら丁度いい場所とも言えるだろう。王国勇者級といえばバクス達と俺達。だがある程度活動しているバクス達と違って、俺達は名前はともかくまだそこまで顔が知られていない。勇者級を騙るならまさにこいつ、といった具合だろう。
そんなわけで情報収集しようと町にやってきて、件の詐欺に遭ったという依頼者へと出会ったのだが。
「えっと?」
流石に顔まで似せているわけではないらしい、俺達の顔を見ても別段反応はなかった。仕方ないので名前を名乗ると、被害者は目を見開き、嘘だ、と呟いた。
「嘘じゃない」
「じゃ、じゃああんたが剣士だとして。そこにいる美少女達が残りのメンバー?」
そんなことを言いながらスロウ達を見た被害者は、しかし怪訝な表情を浮かべた。以前会った勇者級のパーティーと比べて、それっぽくない。そんなようなことを述べた。
それっぽいって何だ? そんなことを思いながら問い掛けると、以前現れた勇者級はもっとちゃんとした人達だったと言葉を続ける。
「剣士はともかく。聖女様はもっと神官らしい格好だったし、そんな悪役令嬢みたいなドレスを着た魔法使いなんか見たこともないし。そもそもそこの明らかに戦う気のない服とスカートの美少女が盾役? 騙すならもっとちゃんとしてくれ」
いや俺達が本物なんだけど。そうは思うが、確かにイメージを考えると俺達の格好は間違いなくそれっぽくない。スロウはまあ別に元々聖女ではあっても神官ではないのでしょうがないとして、アリアの場合はそもそも正確には魔法使いでも何でもない悪役令嬢ロールプレイなのでまあこれも置いておく。シトリーは言い訳のしようもない。胸の下辺りをベルトで止めたようなブラウスとブレザー、短めのプリーツスカートにタイツ。この格好で盾役ですとか言われても何の冗談だと鼻で笑われるだろう。でも実際盾役なんだよ。
しかし俺達の噂というかその辺だけで構成した詐欺パーティーは、どうやら信用を得られるような見た目をしているみたいだな。そして俺達はいざこういう時にはあまり信用を得られるような見た目じゃないというのが理解出来た。
ちなみに勇者級であるという証明証を見せたが、向こうも勇者級であるという同じ物を見せていたので意見は覆らなかった。
「どーします?」
「どうするって言われてもな」
俺達が本物であるという証明がこれでは出来ない。いや、詐欺の被害に遭っているのでまた偽物が来たと疑うのはまあもっともではあるのだが。
「とりあえず、依頼何か受けてみたらどうかなぁ……」
「詐欺に遭った依頼を代わりにこなすってことね」
成程。シトリーの意見に頷いた俺は、被害者にそういうわけだから何をどう詐欺されたのか問い掛けた。が、依頼自体は既に終わっているからもういいという返事が来る。どうやらこの被害者は仕事はされたが依頼料をぼったくられたタイプらしい。
そうなるともうこちらとしてはお手上げである。信用されない以上、何か情報をもらうことも出来ないし、次の被害者のいる場所へと移動した方がいいかもしれない。
スロウに《テレポート》を出してもらう。あまり聖女っぽくないと思っていたであろうスロウが軽い調子でそんな呪文を唱えたことで被害者は目を見開いていたが、まあ正直こっちとしてももうやることはないので気にしない。帰り際に、詐欺には気を付けて、と伝えることが精々だ。
そうして次の被害者のいる場所へ。今度は村で、場所はさっきの町から少し離れた場所。この近辺を狙いにしていたと見ていいんだろうか。だとすれば周囲に話を聞けば詐欺勇者も見付かるかもしれない。
そんなことを思いながら被害者の話を聞く。やはりというかなんというか、ここでも俺達の格好を見て次の詐欺勇者が来たと誤解された。証明証を見せても同じである。
幸いと言っていのか知らないが、こちらの詐欺被害は依頼料を前金だけ取られて依頼をせずに逃げられたという代物だったので、代わりに受けることで証明とした。
村の入り口付近にモンスターが現れるようになったのでどうにかして欲しい、というやつである。どらどらと入り口付近を探索すると、ツリーオークが暴れていたので適当にボコして追い払った。正直討伐するまでもない、ちょっとしたはぐれだろう。そんなようなことを伝えると、被害者の依頼人は目を見開いた。
「魔王級が村に近付いているから、とか言われたのに」
「魔王級の気配はなかったですね。準魔王級もいなさそうでしたし、あれ単純にはぐれでしたよ」
念の為、とスロウとアリアに村の周囲を探知してもらっているので間違いない。魔王級の影響で村の入り口付近までモンスターがやってきたなどという事態は存在していないし、村に脅威が迫っていることもない。
そう伝えたのだが、お礼を言われたもののどうにも信じ切ってはいなさそうであった。まあ一回詐欺に遭ってるし、そこら辺疑うよな。
ともあれ、一応詐欺勇者の情報自体は教えてもらえた。剣士、支援役、魔法使い、盾役の四人組。剣士は男性、支援役は女性、魔法使いも女性、盾役は鎧を着ていたから分からないとのことで。
「格好は確かにそれっぽいですね」
ううむ、とスロウが教えた貰った特徴を聞いて考え込む。支援役、聖女を自称したその女性はきちんとした神官服を身に着けていたらしい。さらりとした金髪がきれいな女性であった、とのことだが。
「でも、ぶっちゃけわたしたちの知ってる聖女でちゃんと神官服着てるのって」
「いたかなぁ……」
一応、リナさんが神官服っぽいものを来ていたような気がしないでもないが、あの人の場合服装より持っている獲物の方がインパクトありすぎて説得力を台無しにしている。身の丈ほどもある大斧だぞ。
まあ聖女の服装については置いておいて。次、魔法使い。こちらも魔法使いらしい帽子を被り、ローブを着た女性とのことだが。まあアリアとは似ても似つかないだろう。
「そもそもあたし魔法使いを名乗ったことあったかしら?」
「悪役令嬢を名乗ったことしか無い気がするな」
「アリアちゃんの場合、攻撃が魔法使いっぽく見えるってゆーのが原因じゃないですかね」
まあ一応魔法も使うしな。そんなことを思いつつ、スロウと比べると明らかに本物と乖離しているな、という結論になった。
「それを言うなら一番はシトリーでしょ」
全身鎧をまとった盾役。まあ盾役でイメージするのはそういうやつだよな。こんな普段着みたいな格好で盾になるシトリーがおかしい。まあそもそもシトリーの場合、格好も何もこのポヤポヤした美少女自体が疑似餌の囮なわけだけど。
そういう意味では絶対に人間には真似出来ないので、偽物がそうなるのもまあ必然というか。
ともあれ。詐欺勇者の格好は分かった。人相も少しだけだが分かってきた。後はどうやってその連中を見付けて捕まえるか、だが。
「んー。てきとーに探してたら見付かりませんよね」
「そうね。出来ることなら先回りして直接現場を押さえたいところだけど」
「どこに来るかなんて、分からないよぉ……」
そうなんだよな。特定のモンスターみたいにはいかないし、相手は人、ある意味どういう行動を取るか分からない。俺達が動いていることを覚って逃げる可能性だって全然あるわけで。
「あ、そーです」
そんな中、スロウがぽんと手を叩いた。何かいいアイデアでも思い付いたのだろうか。そんなことを思いながらスロウを見ると、ふっふっふとドヤ顔で胸を張っている。
「まあとりあえず、この辺をカモにしているとして」
「そうだな」
「わたしたちもやりましょう」
「何を?」
「勝手に依頼受けて解決するんです。先回りするんですよ」
「あなた達があの勇者級?」
「そーです。勇者エミルのその仲間たちです」
近くの街に移動して、困っている人を探すことになった。ギルドの依頼をまだしていない潜在依頼人を探し出すと、自分達は勇者級であると伝え、もしよかったら力になると述べる。ギルドを通さないので依頼料はこれこれこのくらい、と直接交渉をして、そして依頼を解決。
うーん、やってること詐欺勇者と全く一緒だ。
「まあでも依頼料は殆ど取ってないし、依頼もちゃんとこなしているから問題ないんじゃない?」
「捕まえるための方法ですから、文句言われる筋合いもないですしね」
「そうかなぁ……」
シトリーの不安はもっともである。俺もぶっちゃけ心配で仕方がない。これどっちかって言うと最終的に俺達も捕まる流れじゃないのか。
ちなみに依頼の殆どは下級から中級だ。ギルドに依頼しようか迷っている仕事なんか基本そんなもので、だからこそ詐欺勇者も問題なくこなせているのだろう。
「にしても」
「どーしました?」
「これ、儲かるのか?」
「そうね。手間暇の方が掛かってる感じするわね」
詐欺勇者のやっていることを先んじて潰している、という名目のこの行動だが、正直これで稼ぐくらいなら素直にギルドの依頼を受けた方が楽だ。
そうなると、金を稼ぐ以外にも別の目的がある、と見た方がいい。
「でも、一体別の目的って何よ」
「そこなんだよなぁ」
「ワタシ達に関すること、かなぁ……?」
「まあわざわざわたしたちの偽物してるってことは、そーゆーことなんでしょうね、っと、どーしました?」
「あ、あなた達が何でも屋の勇者さん?」
「そーですよ。何か依頼ですか?」
行く先々でそういうことをやっていたおかげで、ここ数日で多少は顔も知られてきた。これなら詐欺をしていた方の連中は大分動き辛くなってきたはずだ。
いや待った。動き辛いとそのまま犯人逃げるんじゃないのか?
「はいこれ、依頼料はこのくらいね」
「え? こんな安くていいんですか?」
「ワタシ達はお金が目的じゃないからねぇ……」
そんな疑問はさておき、とりあえず依頼をこなして依頼者に渡す。簡単な採取依頼だったのでサクッと終わり、依頼料も大してもらわない。ありがとうございます、と去っていく依頼者を見ながら、俺は次の町へと移動しようと。
「失礼。ギルドのものですが」
「ん?」
「最近ギルドを通さずに異様な安値で依頼をこなす勇者級がいる、との通報を受けまして。何かしらの詐欺じゃないか、と疑われています」
「……」
「失礼ですが、本当に勇者級でしょうか?」
「エミル?」
「ええっと、どこから説明したほうがいいんだこれ」
まずは勇者級の証明証を見せる。そうしながら、最近自分の名前を騙って詐欺行為を働く偽物がいるため、囮捜査を兼ねて行動している。
そこまでを説明すると、やってきたギルドの捜査員は何とも微妙な表情を浮かべた。
「失礼ですが。貴方達が本物の勇者級エミルであるという証拠は出せますか?」
「は?」
「実は、詐欺行為を働いている可能性がある偽物の勇者級がいるという通報は、勇者級エミル殿から行われているのです」
「はぁ!?」
「ですので、何か証明できるものがあれば」
そう来たか。囮に引っ掛かったのは間違いないが、それはそれとして俺達も罠に掛かった感がある。とりあえずこれを乗り越えれば捜査は一歩近付くが。
「セフィちゃん先輩ですかね」
「まあ、一番手っ取り早いのはそれだろうな」
毎度毎度迷惑掛けるな。そんなことを思いながら、俺達はギルドの捜査員にベルンシュタイン公爵令嬢に連絡をつければ一発だと述べた。
が、流石にそう簡単に公爵令嬢に連絡はつかないと突っぱねられる。まあ普通の捜査員だとそうなるか。
「仕方ないですね《テレポート》」
「何をっ?」
「ちょっとセフィちゃん先輩呼んできます」
本当にセフィに迷惑掛けてるな。そんなことを《テレポート》で消えていったスロウを見て思う。暫くして戻ってきたスロウはセフィを連れて来ており、捜査員も思わず目を見開いていた。ベルンシュタイン公爵令嬢が証明してくれたことで、捜査員もこちらが本物のエミルパーティーであると納得してくれた。
「しかし、それにしても。囮だとはいえ、流石に格安過ぎです」
納得してくれたが、それはそれとしてギルドを通さない依頼を受けたことについては説教を食らった。囮だってことは説明したし、一回限りで、みたいなことは言ったんだけど。
そう言い訳をしたが、ならせめて値段はギルドの依頼相応にしてくださいと怒られる。まあ言われてみればそうか。前はこの値段でやってくれたぞ、ってのが大量に押し寄せたらギルドも困るしな。
申し訳ない、もうしません。項垂れながらそう述べる俺達を見た捜査員は、まあ今回は仕方ないですと溜息を吐いた。
「それで、偽物の方ですが」
恐らくまだ近くにいるはずです。そう述べる捜査員にお礼を告げると、俺達はすぐさま行動を開始するのだった。
「せっかくですので、私も参加させてもらいます」
「セフィちゃん先輩!」
「たまには実戦もしないと、腕が鈍ってしまいますもの」
そう言って微笑むセフィを見ながら、こいつまた強くなってんじゃないだろうな、と冷や汗をかいた。
同じ穴の狢