スロウが探知のために糸を吐き出す。同時にアリアも街を見渡せるように空高く飛んだ。
『いた』
同時に声を出す。あっちだ、と同じ方向を指差した二体は、そのまま案内するとばかりに駆け出した。片方は飛んでるけど。
そのままスロウとアリアに案内されるまま街を駆ける。城下町や王都と比べれば段違いに狭い街だ。たとえ移動されてもそう掛からずに追い付くことが出来る。件の四人組らしき人影が見えたことで、見付けた、と俺達は叫んだ。
「誰だ!?」
向こうのパーティーの剣士が俺達を見てそんなことを述べた。名を騙っている割には本人の顔も知らないのかよ。そんなことを思い、思わず溜息を吐く。
「見付けたぞ、偽物」
「はぁ?」
そうしながら、俺は向こうの四人組に指を突き付けた。当然というべきか、向こうはそんなことを言われて即座に認めるわけでもなく。何を言っているんだお前、というような表情を浮かべていた。
「勇者級エミルの偽物ってことですよ」
ずびしぃ、と同じように勢いよく指を突き付けたスロウがそう宣言するが、向こうの四人組はやはり何を言っているのかといった感じで肩を竦めている。
「そういうそちらはどちらさんだ?」
「あんた達が騙ってる勇者級エミルのパーティーよ」
「……は、はははっ、面白い冗談だ」
碌な装備もしていない男女五人組が何を言っているのやら。そんなことを言いながら、詐欺集団の剣士は笑みを浮かべる。人数すら合っていない集団をどうして本物だと認定出来るのか。そんなことを続けながら顎に手を当てた。
「偽物はそっちだろう? いや、偽物とも言えないごっこ遊びか。そんなに憧れているのならば、もっとちゃんとした装備でもして、きちんと冒険者のランクを上げるんだな」
「ワタシ達、これ以上冒険者のランクは上がらないよぉ……?」
子供に言い聞かせるようなそれに、シトリーが真面目なツッコミを入れる。まあそうなんだけど、向こうのそれに対する言葉としてはもっとこう、怒るとかあるような。俺達が本物だ、みたいな。
「失礼。私はこちらのパーティーのメインメンバーではありませんわ。エミルさんのパーティーは層も厚いもので、他にも多数のサブメンバーがいることもご存知でしょう?」
そんなことを思っていると、今度はセフィが口を開いた。剣士にそんなことを告げると、動きが一瞬止まったが、自分のことだから知っていて当然だろうと返す。
「そうですか。では、誰か連れてきてくださいませんこと? こちらは私、セフィーリア・ベルンシュタインが担当いたしますので」
ざわ、と詐欺集団の顔色が変わった。が、すぐに呆れたような表情になる。勇者級冒険者を騙るだけでなく、公爵令嬢の名前まで出してしまうとは。そう言いながら、もう話すには値しないとでも言わんばかりに踵を返した。
「こちらは君達のような子供に構っている暇はない」
「お前らにはなくても、こっちにはあるんだよ偽物」
というか、そもそもの問題として年齢設定おかしいだろ。一応これでも最年少の勇者級だったはずなんだけれども。他のインパクトが強過ぎてその辺完全に薄れてるんだろうか。
そこまで考え、いやそもそも、と神官を見た。俺のパーティーのインパクトで言うならば一番でかいのがあるだろう。
「なあ、あんた」
「な、何でしょう?」
「勇者級エミルのパーティーだって言うなら、大魔王級のモンスターのはずだよな?」
「は? え?」
「エミルパーティーは聖女が大魔王。他の諸々を見逃しても、これだけは絶対に見逃せないはずだ。なんせこれでギルドがしっちゃかめっちゃかになったんだからな」
「変な難癖をつけるな。それでそっちが本物になるわけでもないだろう。剣士はともかく、神官服も着ていない自称聖女、ドレスを着ている魔法使いとも思えない悪役令嬢、私服の盾役。これのどこが勇者級だと?」
まあ見た目はな。鎧らしい鎧なんかまったく着てない俺も含めて、ぶっちゃけ全員私服みたいなものだしな。冒険者嘗めてるのかって言われても不思議ではない。というかよく今まで指摘されなかったな。
「エミルさんとアリアさんの装備も少し考えた方がいいのかもしれませんね」
ふむ、とセフィがそんなことを述べている。スロウとシトリーは自分で服作ってるから除外するとして、俺達も冒険者らしい装いに。いや、アリアは絶対しないな。それが分かっているのか、セフィも見た目はそのままで防具としての性能を上げる方向で考えているっぽいし。
話が逸れた。今重要なのは俺達のこれからの防具ではなく、眼の前の偽物達だ。とりあえず見た目でこちらを偽物判定しているが、向こうは一番肝心な大魔王聖女がいない時点で正直詰みだ。俺達が勇者級としてやっていけてる一番の原因はスロウの馬鹿みたいな支援と回復あってのことだし。二番は仲間の強さである。自分で言ってて俺の貢献度低くて悲しくなるな。
「エミルがいないと集まらなかったんですよ? だからエミルが一番です」
「そもそもあんた、言うほど弱くないのよ」
「エミルくんは、ちゃんと強いよぉ……」
「私よりずっと活躍できますわ」
そう言われるとちょっと照れるが、最後のセフィは絶対嘘だと思う。
まあともあれ。本物でございみたいな雰囲気をいくら出そうが、本物である証拠を出せるのはこちらな以上、偽物は素直に観念するべきだ。何より、ギルドの捜査員はこちらを本物認定している。このまま時間が経てばギルドの人達も来てお前達が偽物認定されて終わりだ。
「ギルドが? どうしてお前達みたいな連中の話を真に受ける!?」
「そりゃ、俺達が本物だからだよ」
このやり取り何度目だ。そんなことを思いながら溜息を吐いた俺は、もういいか、と詐欺集団に尋ねた。このまま大人しく捕まればよし、そうでなければ。
ち、と剣士が舌打ちをした。まさかそんな、と呟いた。
「偽物にまんまと出し抜かれるとは」
「俺達が本物だって言ってんだろ」
「そんなことはない、こちらが本物だ、どう見てもそうだろう!?」
なぁ、と騒ぎで集まってきていた野次馬に向かって剣士は叫んだ。まあ見た目だけなら向こうの方が圧倒的に冒険者らしい格好だ。どっちが偽物、と問われたらこちらに票が入りそうではある。
「街の皆! どうか偽物を――」
「でも、向こうの人達に助けてもらったし」
「――は?」
「偽物探しのために格安で依頼してるって言ってたな、そういえば」
俺達が依頼を受けた街の人がそんなことを口々に述べる。そういうことなら、と街の人は俺達より向こうの詐欺集団の方に視線が向いていった。
「騙されるな! それが詐欺の手口だ! 最初は格安で依頼を受け、信用を得たところで法外な請求をするんだ。更に本物の名声も貶めるという卑劣な手口なんだ!」
「やってんのそっちだろ」
思わずツッコミを入れたが、街の人達は剣士のその言葉に少し迷っているようであった。まあ確かに、詐欺の最初の手口ってそういう感じだしな。何か意図せず自分達で墓穴を掘っている気がしてきた。
確かに助けてくれたけど、そう言われるとそうかも。そんな雰囲気になりつつある状態の中、剣士はさあ向こうの偽物を捕まえる手伝いをしてくれと街の人達を促す。その声の勢いに押されて思わず動いてしまった街の人は、やがて野次馬全員を動かす波となって。
「この隙に逃げる、とかさせるわけないだろ!」
そんな街の人の波を避けながら、俺はこの場を去っていこうとする詐欺集団へと追い付いた。これでも勇者級冒険者だ、その程度出来ないでどうする。街の人も俺達のその動きを見て、これは本当に勇者級だと意見を一致させていた。
「そんな、馬鹿な」
「馬鹿なのはそっちだよ。さあいい加減観念しろ」
そう言って詐欺集団に指を突き付ける。同じように波を避けながらやってきていたセフィや空を飛んで躱したアリアも、そんな俺の横に立った。
「よいしょ、っと」
「大変だよぉ……」
ちなみに避けられなかったスロウとシトリーは後で合流である。
く、と剣士が歯噛みする。こうなったら、と四人は武器を構えるが、お前こんな街中で戦闘する気かよ。仕方ないとこちらも武器を構えながら、出来るだけ被害を少なく、と皆に告げた。まあ当然、と全員頷いてくれる。
「そうなるとあたしはちょっとキツイかしらね」
そう言いながらアリアは向こうの魔法使いの放つ呪文を躱し、鱗粉を飛ばす。麻痺の鱗粉を四人に舞い散らせたが、それで状態異常を起こすものはいなかった。一応あの神官服が聖女役をしているだけあって、その手の耐性は付けているのだろう。む、と顔を顰めたアリアは、さてどうするかと顎に手を当てた。
「それにしても」
アリアが向こうの魔法使いに視線を送る。虫の羽を顕現させて宙に浮いているアリアを見て驚いていたところを見ると、モンスターであることも知らなかった、あるいは尾ひれのついた噂だと思っていたようである。
となると。俺は視線をアリアからシトリーに向ける。
「シトリー」
「ふぇ? どうしたのぉ……?」
向こうの攻撃を受け止める、というか食らいながらびくともせずにこちらを向いた。そっちはどうだと尋ねると、見ての通りだという返事が来る。
「このくらいなら、平気だよぉ……」
「ば、化物……!?」
剣士の攻撃を一応大剣を盾にしつつ体で受け止めているシトリー。そんな彼女を見て剣士は思わずそんな声を上げていた。盾役の全身鎧も攻撃に参加しているが、やっぱりびくともしない。あの感じからすると、実力は勇者級には遠く及ばないようだ。上級にもなってない可能性がある。
「よい、しょっとぉ……」
「がぁ!」
カウンターの大剣で剣士がふっ飛ばされた。盾役は受け止めていたが、鎧の奥から小さな悲鳴が聞こえてきたので無傷とはいかないのだろう。
ううむ、と武器を構えたまま戦況を見た。ぶっちゃけ出番がない。向こうの自称聖女は支援に徹しているし、魔法使いはアリアが相手している。剣士と盾役をシトリーが受け止めたおかげで余ってしまった。横ではセフィも同じように手持ち無沙汰に立ったまま苦笑していた。
「ぶっちゃけ私の支援もいらない感じですね、これ」
ちょっと向こうに参加してきましょうか、と腕をぐるぐる回すスロウを落ち着かせながら、俺は向こうの剣士に声を掛けた。間違いなくこのまま戦えば俺達の勝ちだ。
「どうする? 大人しく捕まる気になったか?」
「そんなわけないだろう! お前達みたいな偽物に、勇者級に化けたモンスターなんかに負けるわけにはいかない!」
そう言って剣士は武器を構える。うーむ。本気なのかどうなのかよく分からないが、とりあえず俺達が本物であるという点は未だに認められていないらしい。
まあ剣士以外モンスターの擬態なんです、なんて勇者級パーティーがいたら普通は疑う。疑うが、その辺諸々既にギルドは了承済みのはずなんだけどな。少なくとも王国の上級冒険者は勇者級エミルの情報をしっかりと持っているはずだ。
そうなるとこいつはギルド所属じゃないモグリの冒険者か、あるいは。
「なあ、あんたら他国の下級や中級で燻ってる冒険者だったりしないか?」
ピクリと剣士が反応した。他国の、そう大して活躍していない冒険者だったりすれば、その辺の内情に疎くても仕方ない。この調子からすれば噂程度の情報しか手に入らない田舎辺りか。
「それじゃあ情報も碌に知らないだろ。勇者級エミルのパーティが実はモンスターの集団だ、とかな」
「そ、そんなはずないだろう!? 勇者級だぞ!? 冒険者の頂点だぞ!?」
「本当にその辺の街の人レベルの情報しか知らないんだな」
いやまあ王国でも下級や中級の冒険者が正体を知っているかは微妙だけど。ギルドのゴタゴタの際の通達もあったし、流石にスロウが大魔王級だってことくらいは知ってるか。
つまりそれすら知らないレベルとなると、ギルドにもそんなに足を運んでない可能性があるな。まあ詐欺に手を染めるくらいだからそんなもんかもしれないけど。
「どっちでもいいか。さて、いい加減観念しとけ」
「ま、まだだ。俺達はまだ」
「分かった分かった。んじゃ来い」
一歩踏み出して剣士と向き合う。シトリーは向こうの全身鎧をじゃあちょっとこっちに、と手を引っ張って移動させていた。
こっちからは攻めない。あくまで向こうが攻撃してくるのを迎え撃つ形で立つ。剣士が気合を入れてこちらに肉薄してきたが、遅い。向こうの斬撃をあっさり受け止めると、そのまま持っていた剣を弾き飛ばし、蹴りを叩き込んだ。最初のアルにちょっと及ばないくらいだから、まあ実際は中級くらいなんだろう。吹き飛んだ剣士を自称聖女が回復させているが、それで立ち上がったところで勝負ありには違いない。
「げほっ、げほっ」
咳き込みながら剣士がこちらを見る。まだやるか、と剣を突き付けると、びくりと反応し自身が剣を持っていないことを知って項垂れた。
「終わった?」
アリアがこちらに声を掛ける。魔法使いの方は適当にあしらって魔力切れを狙ったらしい。魔力が尽きてへたり込んでいる魔法使いを一瞥すると、アリアはこちらに合流した。当然というか、息も切れていない。
「そういうわけだけど、まだやるのぉ……?」
離れた場所で観戦していたシトリーも全身鎧にそう述べるが、全身鎧はゆっくりと首を横に振って、へたり込んだ魔法使いの救助に向かった。
「やはり、最初から受けるんじゃなかった」
魔法使いを抱きかかえ、全身鎧がそんなことを呟く。どうでもいいがシトリー役を担っていたからまあ当然だったのかもしれないが、声からすると女性のようだ。
それはともかく、今ちょっと気になることを言ったぞ。何だかまるでこの詐欺事件は誰かに依頼してやっていたような。
「……そうだ。ギルドの上層部だって名乗る連中から頼まれた」
「はぁ?」
観念したのか、剣士が両手を上げて降参する。そうしながら、今回の件について語り出した。
曰く、ギルド上層部を滅茶苦茶にした勇者級の乱暴者をどうにかして捕まえたい。なので多少手荒な真似をしてでも奴らに前科を付ける必要がある。そんな感じで、勇者エミルが詐欺事件に関わっていると誤認させるよう動いていたのだとか。
とはいっても、ギルドは最初から勇者級を騙る詐欺事件として調査してたぞ。勇者級が詐欺をはたらいた、にはなってなかった。
そのことを伝えると、剣士はガクリと肩を落とした。最初から捨て駒だったわけだ、と溜息を吐いた。
「まあこんなことをさせるくらいだし、そうだとは思っていたが」
「じゃあ何で受けたんだよ」
「まあ金に目がくらんだのは認める。後は……偽物とは言え、勇者級が名乗れるならと」
冒険者の憧れである勇者級として活動してみたい。不真面目な冒険者でもそういう気持ちは多少なりともあるらしい。
「それにしても」
持っていたポーションで魔法使いを回復させた自称聖女が口を開く。噂の勇者級の正体がこんな、と呟いていた。
「まさかモンスターの群れだったなんて」
「それって、依頼受けた時に聞かなかったんですか?」
ひょこ、とスロウが口を出す。確かに、本物と遭遇した時にその辺知らないと酷い目に遭うのは分かりきっていたはずだ。まあその辺りも含めて捨て駒だったのかもしれないけど。
「となると、上層部、というのも怪しいですね」
セフィがそんなことを述べる。確かにあれだけ属性頂点やら他の勇者級やら国のお偉いさんやらに抗議されて、それでそんなことをするだろうか。実際ギルドは詐欺事件として調査依頼をこっちに回している。それも含めて向こうの作戦だったとして、待っているのは今度こそギルド上層部の崩壊と迷宮の管理者がトップに立つ未来だ。
「その上層部を名乗った連中の顔は分かる?」
「ああ、別段顔を隠してはいなかったし」
何たる杜撰。じゃあやることは一つだな。
上層部の面々と顔を合わせて確認。そしていなかった場合は。
「恐らく、この間追放された面々の誰か、ということになるのでは」
セフィも同じ結論に達したらしい。まあ俺達を逆恨みしてそうなギルドの連中っていうとその辺だしな。今いる面々は多少思うところはあったとしても、さっき言った理由から手は出さないだろう。
「よし、じゃあ協力してもらうぞ。それで少しは罪を軽くするよう頼んでやるから」
そう剣士に述べた俺は、セフィと視線を合わせ頷きあった。
主犯はこのままナレ死