というわけで逆恨みしていた犯人、元上層部の連中の一部はがっつりとお縄になった。これでギルド追放だけでなく普通の生活ともおさらばである。勇者級の名前を貶めようとした詐欺事件の主犯とか、まあ普通に考えてギルドが許すわけもない。恐らく二度と表に出てくることはないだろう。
依頼された方も逮捕はされたものの、素直に罪を認め、主犯を捕まえる際に協力的だったので情状酌量をされたらしい。まあこれを機にちゃんと冒険者として頑張ってくれると幸いだろう。
なんて柄にもないことを考えてしまうのは、俺も段々と大人になってきたからだろうか。そんな風に考える時点でまだ子供だと言われそうだけど。
「エミルエミル、どーしました?」
ともあれ。事件は解決、俺達は調査の過程の件についてちょっとだけ不満を零されたがまあそれくらいで。無事にいつも通りの日常に戻ったわけなのだが。
「いや、これどうしたもんか、と思ってな」
「別に素直に受ければいーんじゃないです?」
今俺の手には一枚のチケットと手紙がある。ギルド上層部から、追放した連中の一部の暴走で再度迷惑を掛けたお詫びが送られてきたのだ。詐欺事件をこっちの依頼にしたことについても、まさか犯人があいつらだったとは夢にも思わなかったという謝罪付きである。
前回ギルドに乗り込んだことがよっぽど堪えたみたいだけど、別に今回はそれほど腹が立ったわけでもない。まあ何だそれとは思ったが、精々そのくらいだ。
「まあいいじゃない。これまでの積み重ねだと思えば」
アリアもそのチケットと手紙を見てそんなことを述べる。確かにアリアの言う通り、これまでの向こうのやらかしを積み重ねれば、とは思う。
よし、と俺は頷いた。じゃあせっかくだし行ってみるか。そんなことをスロウやアリア、シトリーに述べた。
「それにしても、ギルドも中々やるねぇ」
ちなみに今いる場所は村のギルドである。お姉さんもそんな俺達を見ているわけで。チケットを眺めながらそんなことを述べていた。
貰ったチケットは、ギルドが保有する島をレジャー施設に改造した場所。海と温泉が両方楽しめる南の島バカンス、とかいう触れ込みで、最初は冒険者用に解放し、後々一般でも楽しめるように進めていく予定らしい。ギルドの新しい資金調達の手段だとか言われているが、まあ利用するこちらとしては別段関係もない。
そんなバカンスのチケットのプレオープンの招待客として、俺達が選ばれたわけだ。
「お詫びとモニターを同時に済ませる作戦だね。上層部もしたたかだわ」
「迷宮の管理者の可能性もあるけど、まあどっちでもいいか」
後者の場合、傀儡人形が関わる可能性も出てきて不安になるしな。まあとにかく、そんな不安は置いておいて、結局ただで遊ぶことが出来るってわけでいいんだよな。
「そうなるわね。チケットを見る限り、これエミルのパーティーとして登録されてる全員分あるみたいよ?」
アリアがピラピラとチケットを数えながら呟く。成程確かに、俺とスロウ、アリア、シトリーだけでなく、クーヤ、コイナ、ラティの分もある。
「セフィちゃん先輩の分はないんですか?」
「サブメンバー扱いではあるし、強さは突出してるけど、セフィはあくまで公爵令嬢だしな。冒険者としても扱いは引退だったはずだし」
「むー。残念です」
それに、ベルンシュタイン公爵家は抗議の署名を送った一人だ。そちらも混ぜるとじゃあ他の署名の面々も、となるから仕方ないのだろう。今回の詐欺事件の際にも手伝ってもらったんだから、何かしらお礼はしたいところだけど。
「あ、でもリゾートの出資は王国の両翼も行ってるって話だし」
そんなことを思っていると、お姉さんが思い出したかのように言い出した。王国の両翼っていうと、言わずもがなベルンシュタイン公爵家とフォーマルハウト公爵家だ。まあつまりセフィは出資側の人間ということになるわけで。
「何か今度お礼考えたほうがいいな」
「そーですねー」
それはそれとして。チケットはありがたく使わせてもらうとしよう。とりあえず今いる面々は大丈夫だから、残りのクーヤ、コイナ、ラティに声を掛けにいくか。
クーヤとラティは二つ返事であった。残るコイナもエミル様達の誘いならば、と頷いてくれた。
その際にセフィにリゾートのことを聞くと、ええその通りという返事をもらった。
「せっかくなので、楽しんできてください。私は私でアンゼリカ様達と共に既に視察をしていますので」
「成程。そういうことなら全力で楽しませてもらうぞ」
「ええ。それでもし気に入ったのならば、今度は皆さんと一緒に遊びに行きましょう」
そう言って笑顔を見せるセフィに勿論だと返し、俺達は公爵家を後にする。それなら後は準備をして出発するだけだ。とはいっても着替えくらいで基本普段の冒険と変わらないんだけど。
翌日。全員揃って王都横の飛竜港から出発。南の島までひとっ飛びだ。一回辿り着いてしまえばスロウの《テレポート》で移動し放題なのだが、流石にそれはまずいような気がしないでもない。まあ移動費節約くらいは問題ない、か?
「わー! エミルエミル、砂浜ですよ!」
「そうだな」
こうして遊びで海に来ることなんか初めてだ。大抵は依頼の際に立ち寄る程度だったので、こうして見る砂浜は確かに新鮮に見える。
そんなことを思っていると、突然スロウが脱ぎだした。何やってんのお前。
「何って、泳ごうとしているだけですけど?」
「裸で?」
「……エミル、わたしのこと何だと思ってます?」
「芋虫」
「そーですけど、そーゆー意味じゃ……え、そーゆー意味で?」
「まあ、そういう意味で」
そう返すと、スロウが大きく溜息を吐いた。そうしながら、あのですね、と俺に説教でもするように指を立てる。
「わたしももう人間社会で暮らすようになって二年は経ってます」
「そうだな」
「ビーチで突然裸で泳ぐほど常識知らずではないです」
「……そうか」
「水着になるに決まってますよ!」
「いやでもなぁ」
以前依頼で海に入った時真っ裸になったこと忘れてないからな。そんなことを告げると、スロウはそれはそれです、とどこかに置いておくジェスチャーをした。
とりあえずスロウはきちんと水着を着る、というか水着に変化するが正しいのか? まあどっちでもいいが裸で泳ぐようなことはないと。じゃあ一安心だ、と思いながら、ハッと気付いた俺は他の面々を見た。
「シトリー」
「さ、流石にもう裸にはならないよぉ……。恥ずかしいしぃ……」
「クーヤ」
「心配、無用。水着、着用」
とりあえず心配だった二体を見る。シトリーは昔を思い出しながらもじもじと返事をし、クーヤは大丈夫だと両手の親指を立てた。ふぅ、じゃあ大丈夫か。流石にコイナやラティが真っ裸で泳ぐなんてことはないだろうからな。
「……ないよな?」
「流石にそれは」
「ラティのこと何だと思ってるのよ」
コイナには苦笑され、ラティはジロリと睨まれた。やっぱりこの二体は最初からそこら辺の常識を持ってくれているようで一安心だ。
そんなわけで。いきなり泳ぎに行ったスロウを一旦置いておいて、俺達はリゾートの部屋へと移動した。それぞれ個室が用意され、その部屋も中々快適な空間である。窓から見える海が綺麗で、ウッドデッキから直接海へと向かえるようになっていた。
ちなみにスロウの荷物は俺が運んだ。
そうこうしてるうちに俺も水着に着替え、そしてスロウと同じように海へと向かう。おお、なんかこうして遊ぶためだけに海に入るって新鮮だな。
「ですよね!」
ひょこ、とスロウが現れた。すでに海に入っているためか、スロウの水着は水でしっとりと濡れて、体に張り付いている。
「む。エミル、今えっちなこと考えましたね?」
「まあな」
「今は遊ぶんですよ! えっちなことはまた後です」
「そうだな」
そう言いつつ、むに、と濡れた水着だけなのでほぼダイレクトに伝わる胸の感触を腕に味わう。いかんいかん、と頭を振った俺は、よしじゃあ泳ぐか、と海に入ろうと足を踏み出した。
「いきなり泳ぐと危ないわよ。準備運動くらいはしなさい」
そう言って現れたのは水着のアリアである。フリルの付いた水着を着たアリアは、普段悪役令嬢スタイルで露出が少なめなので新鮮に映る。今回は下半身もしっかり人型である。
「水着を着るからには下も必要でしょ」
俺の視線に気付いたのか、アリアはそんなことを言いながら小さく溜息を吐いた。そうしながら、あんまり淑女の下半身をじっと見るものじゃないと言葉を続ける。
「スケベ」
「あー、エミル。アリアちゃんと浮気してる」
「どっちも誤解だ」
いやアリアの下半身見てたのは誤解じゃないんだけど、そういう意味じゃなくてだな。
そんな風に慌てていると、どうしたの、と背後から声がした。どうやらシトリーがやってきたらしい、と振り返り、そして思わず動きを止めた。
「ど、どうしたのぉ……?」
すっごい。何が凄いってもう水着がはち切れそう。そんでもってその調子で気にせずいつもの調子でぽやぽやとしてるもんだからこう、ゆっさゆっさばるんばるんと。
「エミル」
「エミル、あんたってやつは」
「はっ。いや、違う。いや違わないか。すいませんでした」
素直に謝る。スロウはそんな俺を見て、むー、とむくれると俺に抱きついてきた。いやだから濡れてる状態でそれは割とダイレクトなんですけど。そんなことを思っていると、わざとですという返事が来る。
「アリアちゃんもシトリーちゃんも魅力的なのは分かるんですけど、エミルの彼女はわたしなんですからね」
「分かってるよ。俺の愛しい彼女はお前だけだ」
我慢出来なくなったのでスロウにキスをする。海水で湿ったスロウの唇は、少しだけしょっぱい味がした。
「それよそれ! ラティそれが見たかったの!」
横合いからやかましい声が聞こえてくる。振り向くと、水着のラティが目をキラキラさせながら俺達を見ているところであった。その横には同じく水着姿のコイナとそして水着のクーヤがいる。ちなみにこいつらも騒ぎはしなかったが俺とスロウのキスシーンを笑顔で眺めていた。
そのままラティはずずいとこちらに近付いてきて、そういうのもっとちょうだいとねだってくる。そんなこと言われても、精々こうやって肩を抱き寄せるとかそのくらいだぞ。
「きゃー! 恋人同士って感じ! あ、恋人恋虫? まあいいわ」
それで満足らしい。ラティはふう、と息を吐くと、よしじゃあ自分も遊ぶかと準備運動を終えた面々を見ながら海に突撃しようとしていた。
「そういえば、ラティ、お前は海大丈夫なのか?」
「当然よ。ラティのボディは海で泳いでも全然平気の特別製なんだから」
ふふん、と胸を張るラティだが。うん、まあそっちはともかく、と俺は腰に差してある短剣の方を指差す。お前の本体は錆びないのか? そう問い掛けると、ラティはちらりと自分自身を眺めた。
「ラティは一応魔法生物だし。まあ後で洗えば問題ないわ」
そういうわけだから、と海に突撃していく。ラティがいいって言うならまあいいか。そんなことを思いながら、じゃあ俺達も泳ぐかとスロウを見た。勿論、と笑顔を見せたスロウは、そのまま俺を引っ張って海まで駆け出す。
「わ、ちょ、ちょっと待ってくれよスロウ」
「待ちませんよ! さあエミル、ざばーん!」
「わぷっ」
そのまま海へと突っ込まされる。級に水が顔にかかりびっくりした俺は、思わず変な声を上げていた。そんな俺を見てスロウが笑う。笑ったが、しかし少しだけ不安な表情になった。
「エミル、大丈夫ですか?」
「何だいきなり」
「思ったより深刻な顔してたから」
「まあそりゃ急に水がかかったからな。あとしょっぱい」
「海ですしね」
俺のその言葉にホッとした表情になったスロウは、じゃあ泳ぎましょうとじゃぶじゃぶ進んでいく。あんまり深いところに行くなよ、と思いながら俺はそれについていって。
「エミル、そーいえば泳げるんですか?」
「冒険者訓練でやったくらいだな。そういうお前はどうなんだ?」
今更だが、芋虫って泳げるのか? そんなことが気になった俺はスロウに尋ねてみたが、別にその辺は問題ないという返事が来た。
「まあそれ言うと、トリックモスやトラップレシア、マンドラゴラも大分怪しいですけどね」
「言われてみればそうだな」
クイックシルヴァーのラティも合わせて、俺のパーティーメンバーが全員海に入って大丈夫かと不安になる面子ではある。まあとはいえ見る限り今のところそのへんで問題になっていそうなのはいないようなので一安心だが。
「そーです……あれ?」
そんなことを思っていたが、スロウが向こうで何かを発見したらしい。向こう側、というか俺達以外の面子が泳いでいる場所である。
「どうした?」
「アリアちゃんとコイナちゃんの様子が」
「ん?」
スロウに言われ、向こうまで泳いでいくと、成程確かにアリアとコイナの様子がおかしい。否、様子がおかしいというか。
「アリア」
「何よ」
「お前泳げなかったのか」
「悪役令嬢アリアンロッテが泳げないはずないでしょう! ……ちょっと苦手なだけよ」
まあ普段から虫の下半身だし、完全人型で足も使うっていう泳ぎが苦手なのはまあ、仕方ないとも言えるか。この際だから克服して見せる、と意気込んでいるのでまあ大丈夫そうではある。
問題はこっちだ。
「コイナの方は」
「あ、あははは。メイドの業務に泳ぎは入っていませんから……」
そう言って力なく笑うコイナ。他の面々が泳げる中一体だけ泳げないのは流石に凹むのだろう。なまじっかさっき隣にいたクーヤが万能型だったおかげで余計に、といったところか。
「水泳、苦手?」
「お恥ずかしながら。そもそも泳ぐという経験自体がなかったので」
そんなクーヤがコイナに声を掛けている。コイナのそれを聞いて、ふむ、と何かを考え込むように顎に手を当てたクーヤは、ぽん、と手を叩いて眼の前の彼女を見た。
「特訓」
「はい?」
「水泳、特訓。苦手、克服」
これだ、と言わんばかりに拳を握るクーヤ。一方の言われた方であるコイナは目をパチクリとさせている。
「姉様」
「どーしました?」
「特訓、協力、要請」
「いーですよ。コイナちゃんを泳げるようにしましょう」
「あ、じゃあついでにアリアも混ぜてやってくれよ」
「はぁ? いやまあ、泳ぎを教えてくれるのなら助かるけど」
「じゃあ決まりだな。よし、頑張ってくれ」
「何を言ってるんですか?」
俺は向こうでのんびりしてるから。そんなことを言おうとした矢先、スロウにガッシリと手を掴まれた。
笑顔である。うん、可愛いな、俺の彼女は。じゃなくてだ。
「とーぜん、エミルも一緒ですよ」
「いや俺はほら、向こうの面々と見学を」
「どうしたのぉ……?」
「何々? ラティも混ぜて」
向こう、と指差したが、シトリーもラティもこっちに混ざってきてしまったので結果として見学組は誰もいなくなった。というかお前らは何で泳げるんだよ。
「ラティのボディは万能だもの」
そんな問い掛けに理由になっているようななっていないような返答をするのはラティ。はいはい分かった分かった、と流した。
その一方で、シトリーは何故だか不満げな表情を俺に向けていて。
「……ワタシ、一応海沿い育ちだよぉ……」
そうでした。全面的に俺が悪かったです。って待った。言うほどお前海入ってないだろ。そう指摘すると、それでも忘れてたのは酷いと言われた。まったくもってその通り。