魔王級がこれだけ揃っている以上、実践形式で模擬戦をすれば自ずとレベルも上がってくる。のは分かるが、いざ戦うとなるとどうするかが問題となった。
基本的に妖精姫の加護、というか抗体の薬というかで、うちのモンスター達は状態異常に耐性を持っている。正体が短剣のラティは薬を飲んでいないが、まあ種族的な意味で状態異常が効きにくい。コイナの戦闘スタイルと圧倒的に合わない面子しかいないのだ。
そうなると、コイナは状態異常以外の戦闘スタイルを身に付けるしかないが、まあ急にそんなこと言われても無理だろう。
「で、これか」
「すいません」
ペコリとコイナが頭を下げる。コイナの眼前には俺。まあつまり状態異常の効く相手と戦闘をしようという話になったのだ。残りの面々は観客である。スロウも今回は支援とかせずにこちらを見守る方向だ。
「そういえば」
「ん?」
「きちんとエミル様と戦うのはあの時以来でしょうか」
「まあ普通は仲間になったら戦わないしな。それに、正直ちゃんと戦ったって言うほどでもないし」
あの時は、戦いにくいと俺が零したら悲鳴彫刻家が代わりに退治してあげますとか言ってコイナを瀕死にさせて。なんだかんだ助ける方向になって、それで俺達の仲間になって、今に至るわけだが。
「そういえば」
「はい?」
「あの時使ってた変装とかは擬態とは違うのか?」
「あれは本当に変装ですからね。ツタや草、葉や花を使って一時的に、といった感じです。実際、悲鳴彫刻家様を完全にコピーしていたわけではありませんでしたし」
試しに、とコイナが手をかざすと、その顔がスロウに似たものに変わる。スロウそっくりというほどでないだろうが。
そんなことを述べると、観客からそれはエミルだからだという野次が飛んだ。
「エミル様ならそう言うと思っていました。では、これでは?」
す、と手をかざすと今度はアリアの顔になる。おお、凄いな、今度はそっくりだ。
「同じよ同じ。さっきもそうだったのよ」
アリアが物凄く不満そうにそう述べる。いやそう言われても、スロウとはずっと一緒にいるからそういうのが分かるってだけで。
惚気てないで真面目にやれ、とアリアが睨んだ。その横ではラティがもっと見たかったと不満げに唇を尖らせている。
ともあれ。とりあえずその擬態とはまた違う変装は変装で何かに使えそうだな。そんなことを思いながら、後は何か攻撃方法はないだろうかとコイナに問い掛けた。
「マンドラゴラは基本的に状態異常がメインですので、攻撃といっても」
コイナの足元からツタが伸びる。それが刺突剣のような形に変化して、コイナの前に構えられた。
「こんなものしかないのですけど」
「まあ、とりあえずそれと状態異常で俺をどうにか出来るかやってみるか」
分かりました、とコイナは表情を真剣なものに変える。俺から攻めるのは一旦待つことにして、まずは向こうの出方を待った。
刺突剣型のツルが迫る。それを剣で弾いた俺は、即座に反応して横っ飛びでその場所から離脱した。アリアの鱗粉よりも強力なマンドラゴラの花粉は、状態異常耐性のない俺ではすぐに勝負が決まってしまう。
「これならっ!」
ぶわ、と更に花粉が舞う。俺の周囲をすべて覆うようなそれに、しかし俺は慌てずに鞘を構えた。アリアの能力で爆発を起こし、周囲の花粉をまとめて吹き飛ばす。
そのまま距離を詰めようとしたタイミングで、再度刺突剣の一撃が繰り出された。が、その程度の攻撃なら対処できる。剣で軌道を逸らした俺は、そのまま一気にコイナに肉薄した。
「迎げ――」
「遅い」
剣を振り上げる。体をかち上げられたコイナは、そのまま吹っ飛び砂浜に転がった。とりあえず勝負あり、である。まあコイナも俺もあの時より強化されているが、俺の強さのほうが少し上回っていたらしい。
こんなもんか、と剣を仕舞ったと同時、ぱさりと布が落ちてきた。なんだこれ、とそれを手に取ると、どう見ても水着の上部分で。
「やっぱり強いですね、エミル様」
思わずコイナの方を向いた。コイナ自身は気付いていないようで、倒れた状態から苦笑しながら体を起こしているところだ。
えっと、まあつまり丸見えである。ぷるんとしたそれが、俺の視界にがっつり映った。
「エミルのえっち!」
「いや誤解だ! というかやっぱり水着で戦うのは駄目だろこうなるから!」
「でも着替えるのも面倒ですし、海なんですから水着がいいですよ」
「そうかもしれんが。じゃあこうなることも見越せよ」
「むー。そうですね。コイナちゃん、とりあえずおっぱい隠してください」
「え? きゃぁ!」
ば、と慌てて手で胸を隠すコイナ。俺はそんなコイナをなるべく見ないようにしながら、俺の眼の前に落ちてきた水着を返そうと彼女に近付いた。
次である。俺との勝負で大体コイナの単体戦闘能力を計ったので、後はどういう方向に伸ばしていくかだ。伸ばし方は結局実戦なんだけれども。
「状態異常はトップクラスなんですよねぇ」
ううむ、とスロウが述べる。ちなみにその辺を計るために俺が食らっては治療食らっては治療を繰り返した。確かに食らった感想としては、アリアの鱗粉より効果が高い。というか生半可な状態異常耐性ならぶち抜いてくるだけの威力がある。ここの面子が最高クラスの状態異常耐性を持っているから目立たたないだけで、正直それだけでも十分な戦力だ。
まあコイナ自身はそれでは満足いかないらしい。それこそ俺達みたいに状態異常耐性が強力な敵が出てきた場合役に立てないのが嫌なのだろう。
しかしそうなると。
「新しい戦い方を身に付けるのがいいのかしらね」
「とはいっても、どうするのぉ……?」
「難題」
「そんなにすぐ出ないわよ」
アリア達の言う通り、状態異常以外の戦い方を手に入れる必要がある。が、とうぜんそんなものをいきなりといっても中途半端なものにしかならないわけで。
一応あの刺突剣みたいになるツタを鍛えれば少しはマシか。そんなことを思い、コイナに伝えた。分かりました、とさっきと同じようにツタで武器を形作る。
「とはいっても。これでどーやって戦うんです?」
「そうだな……」
俺の戦い方では間違いなく合わないし、武器の性質も違う。参考にするならこういう武器を使っているやつで、かつコイナも想像しやすい相手がいいんだけど。
そんな奴いるのか? ううむと俺は頭を悩ませた。
「あ、そーですよ」
そんな中、スロウは何か思い付いたようでポンと手を叩く。滅茶苦茶身近にいましたよ、と笑顔を見せた。
「誰だ?」
「セフィちゃん先輩です」
「……? あ、そういや武器レイピアだった」
刺突剣というカテゴリを逸脱するような行動しかしていないから頭から抜け落ちていた。成程、確かにコイナにとってはかなり身近で同じ武器カテゴリだ。……同じ武器カテゴリか? まあいい、同じだということにしておこう。
ともあれ。セフィを参考にすればまあ確かに戦闘力は劇的に跳ね上がるだろう。あの動きが出来るのならば、それこそ状態異常が効かかなくても何の問題もない。
「む、無理ですよぉ」
そう。問題はそれが出来ないということだ。あんな動きが真似れるのならば最初から悩んでいない。
まあしかし、真似られるかどうかはともかくとして、あの動きや攻撃を参考にすることは出来るんじゃないかと俺も思う。
それに、準魔王級の殻を破るんなら、それくらいやってみる覚悟も必要だ。
「わ、分かりました」
なんだかんだ一緒に訓練などをしているという話は聞いている。上級から準魔王級に上がったのもその成果だろう。ならば、それを思い出し、参考にし、自分なりに昇華出来れば。
「……むむむ」
まあそう簡単に出来れば苦労しないな。セフィの動きを参考に、という意識を持ったことで刺突剣型のツタの動きは目に見えて良くなって来た。来たが、ならこれで大丈夫かというと、ちょっと弱い。自衛能力は確かに上がった。まあ元々が後衛のデバフ要員なのでそこに自衛能力が加わったのならばかなりの成長なのだが、あくまでまだ準魔王級の域を出ない感じもする。
いや、でも実際はどうなんだろう。あの状態異常の強力さは既に準魔王級を超えているような気もするし。大魔王級のスロウがいるからその辺の感覚狂ってるんだよな俺達。
ともあれ。コイナの修行はこの辺りで一旦終了。少しではあるが成長出来たことで、コイナの迷いも少しは晴れたみたいだし、まだここでのバカンスは時間がある。あせらずしっかりとやればいい。
そろそろ日も沈むし、明日に回そう。そんなことを言いつつ、俺達はリゾートのコテージへと戻る。海水でベトベトしているし、軽くシャワーを浴びてさあ部屋に戻ろうとしたタイミングで、スロウが何を言っているんですかと腕を振り上げた。
「温泉行きますよ!」
「ああ、そういやそっちも楽しめるとか言ってたっけか」
言われるがまま着替えを持って温泉施設へと向かう。反対する面子はいなかったので、全員揃って歩みを進めると、思った以上に立派な温泉施設がドドンと建っていた。
男湯、女湯、そして混浴。そんな三つの入口を見た俺は、とりあえず男湯へと足を踏み入れる。
「えー。エミル、一緒にお風呂入りましょうよー」
「何でだよ」
別に温泉に入るだけなんだからいいだろう。そう思って皆を見たが、まあ俺とスロウなら、みたいな空気を出された。いや入らないよ!?
「姉様」
「どーしました?」
「確認。女湯、混浴、接続。移動、可能」
そんな空気の中、一足先に女湯に入っていったクーヤがひょこりと戻ってそんなことを言いだした。え? 男湯と女湯から混浴に移動できるの? それ分けてある意味なくない?
「じゃあ遠慮なく混浴入れますよね、エミル」
それはつまり混浴で入って嫌だったら男湯に逃げればいい、とそう言っているのか。それはそれで何か馬鹿にされている気もする。スロウは笑顔なので、単純に俺と温泉に入りたいと思っているだけだろうけど。
「そもそも」
「何だよ」
「散々えっちしてますし、わたしの裸とかもう見慣れてません?」
「そういう問題じゃないんだよ」
後別に見慣れていません。後半は心に仕舞いつつ、ああもう分かった分かった、とスロウの手を取った。こっちに入ればいいんだろう、と混浴の入口の前に立った。
「他のみんなも、こっちに来たかったら来てくださいね」
何でだよ。そんなツッコミをしながら混浴の入口を突き進んだ俺達は、脱衣所でそれぞれの服を脱ぐ。といっても水着のままなのですぐなのだが。
「……なあ、スロぉう!?」
「どーしました?」
水着、明日も使うだろうからどこかで乾かしたほうがいいよな。そう思い、意見を聞こうと振り返った俺の視界には、既に全裸になっていたスロウの姿が。いやまあ、そういうことをするたびに見ているとはいえ、やっぱりいまだに愛する彼女の一糸まとわぬ姿はドキドキする。
ぷるんと揺れる胸も、くびれた腰も、それなりに肉付きのいい太ももも、形の良いヒップも。俺を魅了して離さない。
「エミル、ジロジロ見すぎですよ」
「あ、わ、悪い」
「なーんて。ま、わたしはエミルに見られるなら全然いーんですけど」
そう言うとスロウは俺に近付く。全裸のスロウの胸がむに、と俺の胸板に押し付けられ、そして俺の足はスロウの足に挟まれて。
「あ、んっ。もー、動かさないでくださいよ」
「いや、お前が」
「あ、何だかすっごく元気ですね」
「それもお前が」
どうしましょうか、とスロウが上目遣いで俺に問い掛ける。いや、どうするもこうするも、こんな状態で温泉に入るのもあれだし。ぐい、とスロウを押しのけると、目を瞑り、大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。
「いーんですか? わたし手伝いますよ?」
「今から温泉に入るんだろうが」
「それもそーですね」
そう言いながら、スロウをなるべく見ないようにしながら気持ちを落ち着かせる。ふう、と息を吐き、改めて全裸のスロウの横に立った。
よしじゃあ入るか。そんなことを言いながら扉を開ける。思った以上に大きな温泉が出てきて、俺達は思わず声を上げた。
「エミルエミル。お風呂で泳げそうですよ!」
「泳ぐなよ」
「えー。あ、でもこれなら」
ぐねり、とスロウが芋虫に戻る。この状態なら文句は言わないだろう、とスロウはドヤ顔をしながら温泉に飛び込んだ。何で芋虫なら問題ないと思えるんだお前は。
ぱしゃぱしゃと音を立てながら温泉を泳ぐ芋虫を見て、俺は溜息を一つ吐く。ざぶりと湯船に入った俺は、そのまま泳いでいる芋虫をガシリと掴んで捕獲した。
「何するんですかエミル」
「泳いでるアホを捕まえたんだよ」
「この姿なら必然的に移動は泳ぎですよ。しょーがないんです」
じたばた暴れながらそんなことをのたまうアホ。というかそこまでして泳ぎたいか。今日一日海で遊んだのに。
そんなことを問い掛けると、それとこれとは話が別だと言いやがった。
「お風呂で泳ぐのは海で泳ぐのとはまた違う格別さがあるんですよ」
「ああそうかい。アホ」
「愛しの彼女に何たる言い草!?」
てい、と俺の捕縛から逃れたスロウは、温泉を再度泳がんと湯船に飛び込む。ざばん、とそのお湯が俺にかかった。
もう許さん。このやろう、と湯船を掻き分けながらのんびり泳ぐスロウを再度捕獲した俺は、そのままシャワーに運ぶとスロウをひっくり返した状態で蛇口を捻った。
「あ、ちょ、シャワーが内側にかかって」
「よし、じゃあ洗うか」
「や、エミルっ、だめっ、あんっ、内側の柔らかいところは敏感、やんっ、なのぉ」
手に泡を付けてスロウの内側をわしゃわしゃ擦る。どうやら思った以上に効果があったようで、スロウは悶えながらぐったりとしてされるがままになっている。
それはそれとして、洗っている間のスロウが悶える姿は俺にも効果があったわけで。
「エミル、背中に、当たってますよ」
「……スロウが悪い」
「むー。……じゃあ、責任持って処理してあげます」
ぐるん、と向きを変えたスロウは、そのまま俺の元気なそれを多足で包み込むように覆った。そのまま多足で刺激を与えてから、虫の口でゆっくりと咥えて、そして。
カット!