「それでそれで!?」
視線を横に向ける。腰のホルスター以外は全裸のラティが滅茶苦茶ワクワクした表情でこちらを見ていた。はむはむしている芋虫のスロウも、俺が果てたのを確認すると咥えていたものを口から取り出す。
「今ラティちゃん見て出しました?」
「何でだ」
もぞりとスロウが上半身を持ち上げる。ワシワシとした多足が不満げに蠢いていた。
俺はとりあえずそんなスロウを宥めんと芋虫の体を抱きしめる。きゃー、という横合いからの声は聞かなかったことにした。
「こーゆーことすればごまかせるとか思ってません?」
「そんなことはない。こともない」
「しょーじきですね。まあそういう素直なエミルが好きなんですけど」
しょうがないから誤魔化されてあげます。そんなようなことを言われながら、スロウは俺に抱きしめられえへへと笑った。そんなスロウを見て、そういや俺もスロウも今裸だったな、と思い出し。いやまあ芋虫のスロウは常に裸みたいなもんなんだけど。
「なんかまたえっちなこと考えてません?」
「そこそこ?」
「今は温泉を楽しむときですよ?」
「まあ、そうなんだけど」
この状況でそう簡単に考えられるほど俺も精神が出来てないわけで。スロウと離れ、なんとか精神を落ち着かせようと息を吐き。
「もう終わり? もっとイチャイチャしててもいいわよ」
どどん、とラティが視界に入り込んだ。おい隠せ、丸見えなんだよ。水着の時はもっとしっかり恥じらいがあっただろ。
「お風呂は別にこういうものでしょ?」
「そうだけど。俺がいるだろ!」
「エミルはスロウ一筋でしょ?」
「そうだけど! それでも!」
俺だって美少女が裸で突っ立てたら色々と困る。いいからタオル巻くか女湯に戻れ。そう告げると、分かった分かったとラティは自身の身体にタオルを巻き付けた。
「エミル、そっちにラティが行ったけど……遅かったわね」
「もう一通り終わった後だよ」
アリアがこちらに声を掛ける。その声にツッコミを入れながら、とりあえずこいつ回収してくれよと言葉を続けた。
仕方ない、という声とともに残りの面子もこちらにやってくる。何でだ。ラティの回収だけなら誰か一体でいいだろ。
「誰かだと大人しくしてくれない可能性もあるから」
そう言って溜息を吐くアリア。どうでもいいが、他の面々はきちんとタオルを巻いていた。よかった。
いや、約一名タオル巻いていても凶悪な状況のがいるが。俺は極力シトリーを見ないようにしながら、さっさとラティを回収してくれと言葉を紡いだ。
「エミルくん……? どうかしたのぉ……?」
「な、何でだ?」
「何だかワタシを見ないようにしてるからぁ……」
だからそれは、タオル巻いててもそれはそれはもうすっごいからだよ。水着の時はまだギリギリだったけど、その状態だともうこぼれそう、っていうかはち切れそう。
「じー」
「何だよスロウ」
「シトリーちゃんのおっぱい見てますね」
「だから見ないようにしてるんだろうが」
「まあ確かに」
ならしょうがないですね、とうんうん頷くスロウに向き直り、とりあえず俺は男湯に行くと伝えた。温泉で疲れを癒すはずが、逆に疲れ切った気がした。
「義兄様」
「なんだよ」
「男湯、移動。自己、発散?」
「するかっ!」
何だか余計疲れた気がする温泉での一幕も終わり、その後は特に問題なく時間も過ぎた翌朝。
目が覚めて、伸びをしながら体を起こそうと横に手を。
「あんっ」
むに、と柔らか感触がした。どういうことだと視線を横に向けると、そこには俺に胸を鷲掴みにされたスロウが。
「もう、朝からお盛んですねエミル」
「え、いや、ちがっ」
むにむにとスロウのおっぱいを堪能しながら言っていても説得力の欠片もないが、とにかく違う。そんなことを言いながらスロウの胸から手をどけた俺は、そこでふと気付いた。
何でお前がここにいる。
「なんでって、昨日エミルと」
「何も約束してないはずだし、お前昨日自分の部屋に行ったはずだろ」
「そーなんですけど。やっぱりエミルと一緒に寝たくなって来ちゃいました」
そうかい。えへへ、と笑うスロウは非情に可愛らしく、思わずそのまま抱きしめたくなるような魅力があった。
まあそれはそれとして。せめてじゃあ俺の許可を取ってからにしよう。
「だってエミル疲れてたのか寝てて起きなかったんですもん」
「まあそりゃ色々あったしな」
今日も今日とて色々あるのだろうと察している俺は、少しでも寝て体力を回復しないと、と思い早めに就寝した。まさかそれが徒となるとは。いやまあそんな重い話でもないが。
ともあれ、昨日スロウは俺と一緒に寝たらしい。で、そんなことを知らない俺が起きようとして横に手を伸ばした結果スロウの胸を鷲掴みにしたというわけだ。
「そーゆーわけです。それでエミル、続きします?」
はいどうぞ、と体を起こしたスロウが俺に胸を差し出してくる。別に服は着ているのだから何の問題もないが、いや、問題だよ。朝っぱらから彼女の胸を揉んでも――彼女の胸だったら別に揉んでもいいのか、スロウも許可してるし。
「……馬鹿なこと言ってないで起きるぞ」
「はーい」
このままスロウのペースに巻き込まれたら色々とまずい。そんなことを思いながら、俺は伸ばしかけた手を押さえつけて言葉を紡いだ。スロウも素直に引き下がり、ようやく朝らしい雰囲気が戻ってくる。
「ところで、今日は何します? また海で遊ぶのもいーですけど」
「そうだな」
着替えながらそんなことを述べる。スロウは別に部屋に戻らずともその場で着替えられるので荷物から服を探しているのは俺だけだが。しゅるしゅると糸でいつもの服装になっていくスロウを見ながら、さてどうするかと考えを巡らせた。
海で引き続き遊ぶのもまあ、ありだろう。コイナの泳ぎの練習も兼ねて、といった感じになるが、少なくとも昨日よりは迷いも少なくなっているし、コイナも楽しめるはずだ。
「まあとりあえず引き続き海か」
「そーしますかね」
そんな話をしながら部屋を出る。皆と合流しながら、さっきスロウと話していた今日の予定をどうするかと話を振った。せっかく海に来たのだし、と引き続き海で遊ぶことに反対する面子はいなかった。
そんなわけで再び海である。せっかくなので昨日とは違う場所で泳ごうと反対側にやってきていた。
「こっちのほうが波が穏やかですね」
遊泳禁止区域が一部あるが、それ以外ではどこでも遊べる感じになっているこの島らしく、場所で色々と特色も変わるらしい。こちらは浅瀬が広く、波も穏やかだ。コイナの泳ぎの練習をするならこっちの方がいいかもしれない。
「というわけで、練習するか」
「は、はい」
ラティやクーヤは砂浜で何やら砂を積み上げている。見てなさいよ、とか言っていたので、よく分からんが多分何かしらを作るのだろう。そんな二体を見ながら、俺とスロウ、シトリーでコイナの泳ぎを見ることになった。アリアはついでだからと練習に付き合っている。
「アリアちゃんはもう余裕ですね」
「そうかしら」
スロウの言う通り、アリアの泳ぎはもう既に俺達と遜色ないほどになっている。やっぱり下半身の動きがぎこちなかっただけらしい。自由に動かせているアリアの下半身を見ながらそんなことを思う。
「アリアちゃんのお尻見てました?」
「違う。わけでもないけど、違う。アリアの人型の下半身ってそうそう見ないけど、やっぱり窮屈なのか、と」
「まあ、あたしの場合昔からあれだから慣れてるっていうのはあるわね。でも、もう今はどっちでも問題ないくらいにはなってるわよ」
流石に泳ぎは慣れていなかったけれども。そんなことを言いながらぱしゃりと足で水しぶきを上げる。
成程、と頷いた俺は、視線をアリアからスロウに戻した。戻して、そういえば、と再度視線をアリアに移す。
「どうしたのよ」
「いや、人型で泳げるのは分かったけど、虫に戻っても泳げるのかなって気になって」
「蛾よ、あたし。さすがに泳げるわけないじゃない。今だって羽濡れたから乾くまで飛べないし、結構不便なのよ」
そう言いながら、いきなりどうしてとアリアは俺に問い掛けた。いや、昨日風呂で芋虫のスロウが泳いでたから他の面々はどうなのかなって気になったんだ。そう述べると、それはスロウだからだという返事が来た。
「多分クーヤも虫だと泳げないんじゃない?」
「そんなもんか。ちなみにシトリーは」
コイナの泳ぎの練習を見ているシトリーに声を掛ける。いきなりのそれに一瞬驚いたシトリーだったが、質問を改めて聞いてふむ、と顎に手を当てた。
「ワタシの場合……性質は植物寄りだけど、虫の要素もあるから、どっちにしろ海水はちょっと苦手だよぉ……」
「やっぱりそうか」
「でも、海辺で食料調達はしたから、それなりに慣れたんだよぉ……」
どういう理屈かは分からないが、とりあえずシトリーは本体でも泳げないことはない、くらいらしい。まあそうなるとやっぱりスロウが特殊ってことか。
視線をスロウに戻す。別にいいですよ、と俺が言いたことを察したのか、ぐねりと芋虫に戻るとそのままバシャバシャと泳ぎだした。芋虫の多足で推進力を強めて泳いでいるので意外と速い。
ただ絵面が凄い。巨大芋虫が海で水しぶきを出しながら泳いでいるそれは、虫嫌いの人にとってはトラウマになりそうだ。
まあこんなものですか、と戻ってきたスロウは再び人型に擬態する。ちゃんと水着だ、よかった。
「あ、エミル。今わたしが裸にならないか気になりましたね」
「そりゃな」
「お望みなら脱ぎますけど」
「お望みじゃないんで脱ぐな」
というか人の社会で暮らしてるから常識を学んだとか昨日言ってなかったか? なんでここで脱ごうとするんだよ。おかしいだろ。
「大好きなエミルのお願いなら、恥ずかしいけど、聞いてあげようって」
「お、おう。……いや違う、さっきも言ったが別に望んでない! 勝手に俺を、自分の彼女を人前で全裸にさせようとする趣味の人みたいに言うな」
「えー。じゃあアリアちゃんやシトリーちゃんとか、コイナちゃんのが見たいんですか?」
「なんでそうなる」
見たいか見たくないかで言えば、ええと、その、ノーコメントでお願いします。そんな俺の思考を読んだらしいスロウは、ふーん、と少しだけ不満げに唇を尖らせた。
「エミル様が見たいのなら」
「言ってない言ってない」
そんな中真に受けたコイナが水着に手をかけていたので慌てて止める。昨日事故で見ちゃった時点であれなのに、今度は自分から脱いで見せられたら色々と駄目になる、罪悪感とかで。
ごほんと咳払いを一つ。そうしながら、話題を変えるように、ところで、とコイナを見た。泳ぎの練習は順調か、とそう問い掛けた。
「あ、誤魔化した」
「やかましい。元はと言えばお前が変なこと言ったのが悪いんだろうが」
「エミルはわたしたちの裸みたいのかな、っていう純粋な疑問じゃないですか」
「どこが純粋だどこが」
はぁ、と溜息を吐きながら、それでどうだとコイナに聞く。俺達の頭の悪い会話をなかったことにしてくれたコイナは、はい順調ですと笑顔で答えてくれた。
「皆様のおかげで、なんとか泳げるようになりました」
そう言って拳を握るコイナ。どうやらこれで海で遊ぶ際の心配事はなくなったと見ていい感じだな。
よしじゃあ一旦戻るか。そんなことを言いながら砂浜に戻ると、そこには砂で出来た謎の物体が鎮座していた。横ではやりきったという顔でラティとクーヤが座っている。
「おい、クーヤ、ラティ」
「義兄様?」
「どうしたのよ」
「なんだこれ」
これ、と砂浜に立つ物体を指差す。俺のそんな行動を見た二体は、どこか不満げに表情を変えた。
「見て分からない?」
「スロウだな、原寸大の」
「正解」
「分かってるじゃないの」
「そうじゃなくて、何でこんなモン作った」
「エミル、今わたしのことこんなもん扱いしました?」
「あーもう今そこ問題にしてないだろ!」
むぅ、と割り込んでくるスロウをちょっと持っててくれとアリア達に渡した俺は、再びクーヤとラティに向き直る。
「砂山を積んで、せっかくだから何か作ろうって話になったの」
「それで?」
「相互、理解。共通」
「で?」
「じゃあ何にしょう、好きなものがいいかしらって話をしたのよ。で、クーヤが」
「姉様」
「……お前は?」
「ラティもエミルとスロウのイチャイチャが好きよ、って答えて、じゃあ作るしかないって話になって」
その結果出来たのがこのスロウの砂像ってわけか。いやまあよく出来てる。ひと目見てスロウって分かるからな。
問題は、何で裸なのかって話でだな。
「こういう芸術って裸婦像でしょ?」
「同意。芸術、完成」
「お前らの芸術像どうなってんだよ」
とにかく、リゾート地の砂浜に変なもの作るんじゃない。俺は砂で出来たスロウを指差しながら片付けるように告げる。当然というべきか、クーヤもラティもぶぅぶぅと文句を言った。
「別にいーんじゃないですか?」
「お前自分の裸の砂像勝手に作られてその態度って逆にすごいな」
「今はここ、わたしたち以外にお客いないですしね」
「姉様、許可。義兄様、文句、不許可」
「そうね。スロウがいいって言ったんだし、別にいいわよね」
いえい、とハイタッチするクーヤとラティ。なんかいつの間にか仲良くなったなお前ら。
まあ確かにスロウがいいと言っちゃえばいいのか……? いや違う、と俺は縋るように残りの面々を見た。アリア、シトリー、コイナ、お前達なら何か。
「いやまあ、当事者がいいって言ってる以上、あたしが文句言ってもね」
「うんうんうん……」
「スロウ様がいいのなら……」
ぐぅ、やっぱりか。俺はちらりとスロウの裸婦像を見て、もう一度大きな溜息を吐く。まあ所詮砂で出来てるし、そんなに長く残ることもないだろう。そう結論づけ、もういい、と諦めたように言葉を紡いだ。
「やったぁ! あ、これラティとクーヤで頑張ったから耐久性も抜群よ」
「クーヤ。強度、強化。風化、不能」
「帰るまでに絶対片付けろ」