「じゃあセフィちゃん先輩の武器作れないんですか?」
スロウの言葉にセフィは難しい顔になる。完全に解析出来ないのは確かですが。そう続け、俺に悪徳の剣を返却した。
「現在の魔道具武器との差異は確認できました。剛腕の鍛冶師様が鍛え直した部分を踏まえて、ですけれども。とりあえずこれで多少は武器製造の強化が見込めます」
「あ、じゃあまったく無駄ってわけじゃなかったんだな」
「はい。とはいえ、通常の魔道具武器の強化は出来ましたが、私の武器はといえば」
やっぱり多少の強化じゃ無理か。魔王級と一対一で戦える聖女、はもう勇者級と言ってもおかしくないが、まあそのくらいのレベルになってくると武器も普通じゃ駄目なわけだ。
そんなことを思っていると、いえ、とセフィが苦笑する。
「正確には、私の戦闘スタイルが原因ですわ」
そう言うと壊れたレイピアに視線を落とす。ああ、そうか。セフィの武器は刺突剣で、本来はそこまでの強度を必要としないものだ。これはセフィの戦い方がおかしいという意味でもあるけど。何でレイピアで敵の攻撃を受け止めて弾いたり押し返したりするんだよ。
まあ聖女だし、バーサーカーだし、しょうがないのかもしれないけど。
ともあれ。これが頑丈な剣であったり、あるいは巨大な斧であったりとかそういうゴツい武装ならば問題ないのだが、セフィの武器は通常のレイピアと比べればゴツいとはいえ所詮は刺突剣。現状の技術ではセフィに合った戦い方を十全にこなせる強度が確保出来ない、というわけだ。
「そーなると、武器を変える、とかですかね」
「それも考えましたが、やはり出来れば馴染んだ戦い方の出来る武器が望ましい、と思うので」
「まあ、そりゃそうだよな」
俺も突然武器を変えろとか言われたら嫌だってなるしな。鞘を追加、みたいに今ある武器のままスタイルを追加するならともかく、この場合はまったく違う戦闘スタイルに変更するようなものだし。
セフィの場合、武器を変えたほうがしっくり来る気もしないでもないが。いや違うか、レイピアの素早さと刺突の威力を使いつつ真正面からのぶつかり合いもするんだし、普通の剣だと少し勝手が違うわな。
「でもそうなると、現状では武器の作成は難しいのでは?」
「はい。ですので、どうすれば」
アリアの言葉にセフィは考え込む。こうなれば予備を常に何本か携帯しておいて使い捨てのようにして戦うというスタイルにするしかない。そんなことを真面目に考えている始末だ。まあそれが出来るのは流石はお嬢様、公爵令嬢って感じだけど。
「あ」
「ん? どうしたシトリー」
「うん……今思ったんだけどぉ……」
そんなタイミングでシトリーがそうだと声を上げる。何か思い付いたような顔をしたシトリーは、自身の武器を取り出した。あの時もそうだったし、今回もいけるのでは。そんなことを言いつつ、シトリーは自身の考えを述べる。
「剛腕の鍛冶師様に、作ってもらえないかなぁ……」
「え? それは……可能なのですか?」
「そうだな……セフィは俺達の仲間だし、頼めばいけるかも」
「いーですねそれ。行ってみましょう」
そんなわけで。スロウが早速と《テレポート》を唱える。目的地は剛腕の鍛冶師の工房。
さあ出発、と俺達と一緒にセフィを押し込んで、横に控えていたコイナも。
「って、あれ? コイナちゃんついてこないんですか?」
「私はまだメイドの仕事がありますので。皆さんがいればセフィーリア様も安全でしょうし」
ではいってらっしゃいませ、とコイナに見送られながら、俺達は帝国へ移動するのであった。
そういうわけで剛腕の鍛冶師の工房である。特に訪問の連絡もせずにやって来た俺達を見た工房の職人は苦笑していたが、まあエミルさん達ならば、と迎えてくれた。申し訳ない、次からはちゃんと連絡してから来ます。
「おうエミル。で、どうした? 何か依頼か?」
そのまま案内されて剛腕の鍛冶師と対面した俺達は、実は、と今回の経緯を語った。成程な、と頷いた剛腕の鍛冶師は、セフィと、そしてへし折れたレイピアを見て暫し考え込む。
「結論から言うと、今この工房に嬢ちゃんに合う武器はねぇ」
「そーなんですか?」
「レイピア自体はある。勿論頑丈さはある程度自信はあるが、この嬢ちゃんの戦い方に沿った運用ができるかって言やぁ、ちょいと断言はできねぇな」
「まあ普通の戦い方じゃないからな、セフィ」
剛腕の鍛冶師は持ってきた折れたレイピアを見ながら、これはそういう意味ではよく出来ていると褒めた。刺突剣のしなりのある柔らかさと、攻撃と打ち合ってもへし折れない頑丈さ。その二つが程よく調和している、まさに彼女専用ともいえる武器。
「こいつを作った奴ぁ相当の職人だな。うちの工房に欲しいくらいだ」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「が、まあ確かにこれ以上となると素材からもう見直さなくちゃならねぇな」
「素材から?」
「おうよ。しなりと頑丈さを両方持ち合わせるためには、それ相応の素材がいる。そうじゃなきゃ、そいつよりちょっと頑丈程度にしかならん」
じゃあその素材があればいいんだな。そう尋ねると、剛腕の鍛冶師はニヤリと笑った。勿論だ、と言葉を紡いだ。
「だがな。今ある在庫で鍛えたら無くなっちまう。そこでだ」
無くなった分の補充をして欲しい。剛腕の鍛冶師は笑みを浮かべながらそう述べた。勿論武器を作った後で構わないので、調整も兼ねて。そんなことを言いながら、剛腕の鍛冶師はセフィを見る。
「構いません。剛腕の鍛治師様に武器を鍛えていただけるのですもの。その程度のお使い、こなしてみせますわ」
「ははははっ、言うなぁ嬢ちゃん。よしじゃあ、セフィーリア、お前に」
「待った待った。わたしも行きますよ!」
ずずい、とスロウが会話に割り込む。セフィちゃん先輩が行くなら当然、と剛腕の鍛冶師の前で胸を張った。そんなスロウを見て、俺はやれやれと肩を竦める。
俺? 勿論行くよ。
「エミルさん!?」
「何で驚いてんだよ。元々そういう依頼だろ?」
「いえ、それは」
「それに。普段セフィには世話になりっぱなしなんだから、たまにはこのくらい手伝わせてくれよ」
「そうですね。セフィーリア様、あたし達も同行します」
「うんうんうん……」
そんなわけで俺達も同行するぞ。そう剛腕の鍛冶師に述べると、そうでなくちゃな、と笑っていた。元々そうなるつもりで話をしていたらしい。
じゃあちょっと待ってろ、と剛腕の鍛冶師は工房の棚から素材を取り出す。キラキラと輝くそれは、明らかに普通の金属ではないように見えた。
そいつをもらうぞ、と折れたレイピアを手に取る。これとこの素材を合わせることで、手に馴染んでいた武器を鍛え直し強化する。そういう方向で行くらしい。
そうしてケルベロスの状態に戻った剛腕の鍛冶師は、ガンガンと折れたレイピアを打ち直しながら件の素材を入れて強化していく。みるみる内に完成していくそれを見て、セフィは思わず声を上げた。
「っと、まあ、こんなところか」
そうして出来上がったセフィの新たなレイピアは、これまでと同じような形状をしながら、その輝きが明らかに違っていた。例の貴重な素材をぶち込んだからなのか、そこに宿る力もこれまでより数段増しているように見えて。
そっとセフィがそのレイピアを手に取る。一瞬目を見開いたセフィは、剛腕の鍛冶師に少し試し切りをしたいのですが、と問い掛けていた。
「おう、こっちだ」
工房の裏手。そこに広い空間があった。試作品の試し切りをする場所なのだろう、そこにはターゲットになる物体が鎮座している。工房の職人も何人か試し切りしているようであったが、剛腕の鍛冶師が現れたので皆手を止めていた。
「ありがとうございます。では」
す、とレイピアを構える。周りの職人が見学している表情を眺めた剛腕の鍛冶師は、面白いものが見れるとばかりに笑みを浮かべていた。
刹那、セフィの姿が掻き消える。次の瞬間、ターゲットの人形が弾け飛んだ。そこには既に剣を手元に引き寄せているセフィの姿が。
いや待って。今の何? 移動はかろうじて目で追えたが、突きをぶっ放している瞬間はもう見えなかったんだけど。流石に一発で吹っ飛んだわけじゃないよな、多分数発はぶち込んでる。
「この試し切り用の人形も特別性だったが。やるなぁ、セフィーリア」
はっはっは、と笑う剛腕の鍛冶師。そんな剛腕の鍛冶師に向かい、武器が素晴らしいのです、とセフィは頭を下げていた。
ちなみに見ていた工房の職人達は完全に目を丸くさせていた。何が起こったか分からない、という顔をしている。
「全力で武器が振るえる……久しぶりにこの感覚を味わいましたわ」
「そいつぁよかった」
ありがとうございます、とセフィは剛腕の鍛冶師に再度頭を下げる。そんな彼女を見て気にするなと述べた剛腕の鍛冶師は、大変なのはこれからだからな、と笑う。
「さっきも言っただろう? 素材が無くなったから取ってきてもらうってな」
「はい」
「それで場所なんだが、帝国のダンジョンの深層だ」
ダンジョンの深層、というと相当深くまで潜らないといけないということか。なるほどたしかにそれは面倒だ。そんなことを考えていると、心配するな、と剛腕の鍛冶師は手をヒラヒラとさせた。
「深層への直通門もある。勿論通るには規制があるが、勇者級なら心配いらねぇだろ。オレの署名も渡すしな」
ただ、素材を見付けるのは相当大変だぞ、と剛腕の鍛冶師は表情を少し真面目なものに変えた。なにせ、モンスターのドロップ品だからな。そう続けた。
「へー。セフィちゃん先輩の武器に使ったこれ、モンスターの素材だったんですか」
「おう、ユニコーンとバイコーンの準魔王級以上からしかはぎ取れない貴重なオリハルコンよ」
ユニコーンとバイコーン、どっちも上級モンスターだが、そんな素材が取れるなんて聞いたことがない。というか魔王級になると取れる素材とか変わるのか。
「わたし達もはぎ取れる素材違ったりするんでしょうかね」
「知らんし、知りたくもない」
何を言ってるんだこいつは、と呆れた俺がそんなツッコミを入れたが、剛腕の鍛冶師は良いところに気付いたなとばかりに笑っていた。そうしながら、剥ぎ取りとは違うが、とスロウを指差す。
「スロウ、お前の出す糸。それで装備も作れるぞ」
「はえ?」
「どういうことだ?」
「どういうことも何も、そのままの意味だ。スロウの吐く糸やアリアの鱗粉、シトリーの葉とかを使えば相当の能力を持った防具も作れる」
服飾はちょっと専門外だから誰かに頼むことになるが。そんなことを言いながら、剛腕の鍛冶師は俺を見た。それはまあつまり、俺の冒険者としての服をスロウ達の素材で作ってみないか、ということにほかならないわけで。
「どうする?」
「いや、どうすると言われても。剛腕の鍛冶師じゃできないんだろ?」
「まあ俺が出来るのは素材として加工するところまでだな」
「それでしたら、ベルンシュタインの魔道具技師なら可能です」
じゃあそれで、と何が何だか分からない内に話が決まっていく。まず当事者の話を聞けよ。俺はともかく、素材を提供するスロウ達とか。
「エミルがわたしの糸で作った服を着る……滅茶苦茶いーじゃないですか!」
「あたしは別に構わないわよ」
「ワタシも、エミルくんの役に立つならいいよぉ……」
思い切り乗り気である。じゃあ早速、と剛腕の鍛冶師に素材を提供し始める三体。おい、いいのか、これからダンジョン潜るんだぞ。ここで疲れたら後々大変だぞ。
そんな俺の不安は、別にそう大した労力じゃないという言葉で撃沈した。
「もう大魔王ですしね、わたし」
「スロウほどじゃないけど、あたしも魔王級だもの」
「うんうんうん……」
そうして用意されたスロウの糸、アリアの鱗粉、シトリーの花弁。それらを使って俺の新しい冒険者の服の素材にするらしい。これはこれでオリハルコンと同じくらい良い素材だ、と笑っている剛腕の鍛冶師を見ていると、これお前がただ加工したかっただけじゃないだろうなと心配になる。
「がはははっ。そりゃ多少はあるけどよ、てめぇの防具が貧弱だからって思ったのも原因だぞ。スロウの支援がない状態で油断すると一撃死しちまうだろ?」
「ぐっ」
実際以前スライムでは死にかけたし、コカトリスの魔王級相手にいたってはまさに文字通り一撃死している。防御が貧弱、は確かに自分でも多少自覚はあった。
「今回のダンジョンには間に合わないから、そこで死ぬなよ?」
「だからもう死ぬのはこりごりなんだよ」
「そりゃそうか」
そう言って笑った剛腕の鍛冶師は、じゃあこれらは加工して素材にしておくから、そっちはよろしくと言葉を続けた。
それに頷いた俺達は、じゃあ早速とそのダンジョンの深層に繋がる門のある場所へと向かう。ダンジョン、ということは迷宮の管理者の制御下にあるんだろうか。そんなことを思いながらその場所に向かうと、当然ながら一度止められた。勇者級であること、剛腕の鍛冶師からの紹介状があることなどを伝えると、ではお気を付けてと通される。
「勇者級とはいえ、無理は禁物です。危なくなったらすぐに帰還してください」
門番のそんな言葉に頷きながら、俺達は一気にダンジョンの奥へと転移した。成程出口もそのまま残っていて、帰る時はこれを通ればいいのか。モンスターが通れたら大変なことになるので、その辺はきちんと管理をしてあるのだろう。
「って、まさか」
「どーしました?」
「スロウ、アリア、シトリー。お前達はこの門通って戻れるのか?」
「へ?」
どういうことだ、とスロウが扉を開けようとしたが、びくともしない。試しに、と俺とセフィが扉に手をかけるとあっさり開いた。なら、と扉を開けた状態でスロウを通そうとしたら、ゴン、となにか見えない壁にぶつかった。成程さすが迷宮の管理者、こういうフォローもバッチリだ。
「いや言ってる場合か。帰れないじゃないか」
「別に《テレポート》あるからへーきですけど、確かに問題ですね」
今度迷宮の管理者にスロウ達は通れるようにしておいてもらわないと。そんなことを思った矢先、出入り口の門が薄く光った。
「あ、通れるようになりました」
「迷宮の管理者様に連絡がいったみたいね」
「対処早いよぉ……」
何だか既に緊張感が欠片も無くなっている気がするが、ともあれ、ここはダンジョンの奥深く。強力な魔物も潜んでいるという話だ。気を抜いていたらやられる、特に俺は。
「ええ。私は特に、皆さんの足手纏いにならないよう、頑張りますわ」
特に俺は!