「なーんて、助けてもらったお礼もありますし、絶対死なせませんけどね」
そう言って回復呪文を展開させるスロウ。みるみる内に真っ二つになっていたアリアが繋がっていく。流石に服は回復の対象外なので破れたままだが、あっという間に普段通りのアリアへと再生した。
「ありがと。……またドレスが破れちゃったわ」
スカートはボロボロ、腹は丸見え。そんな状態の自身の服装を見ながらアリアは顔を顰める。普段キッチリしているアリアのそういう姿は色々と目に毒なので極力視界に入れないようにしつつ、回復してよかったと俺はアリアに述べた。
「なによ。水着も見たし裸も見たでしょ? 今更恥ずかしがるようなもんじゃないでしょうに」
「いや、お前がそういうの気にするかなって」
「あたしはもう気にしないわ」
「エミル、やっぱりアリアちゃんと浮気を!?」
「何でだよ。アリアもスロウをからかうな」
はいはい、とアリアは笑う。ぶぅぶぅ、と文句をいうスロウを宥めながら、今はこうやって和んでいる場合じゃないと視線を戻した。さっきユニコーンは倒したから、後はバイコーンを。
そんなことを思っていると、ユニコーンが淡く光り再び立ち上がった。回復された、とはちょっと違うな。いや、自動回復ではあるようだけれども。
「恐らく、バイコーンが健在ならば何度でも立ち上がる、そういう性質なのでしょう。そして同じくバイコーンもユニコーンが健在ならば、といったところでしょうか」
ふうむ、とセフィが今の状態を考察しながらそんなことを述べる。それはつまり、片方を倒して蘇る前にもう片方を倒す必要があるということか。一番手っ取り早いのは両方同時に倒せ、という感じだろう。
「しかし、ユニコーンとバイコーンにそんな特性があるなどと聞いたことはありません」
「魔王級に成ってあの姿になった時に生えた、ってやつか」
俺の言葉にセフィが頷く。魔王級ってのは本来まあそのくらいの理不尽さがあって然るべきなのかもしれないな。そう考えると、うちの魔王級連中は本来のモンスターとしての特性をぶち破ったのばかりでさもありなん、となるわけだが。
「まあいい。とにかく同時に倒せばいいんだから、一気にいくぞ」
セフィとともに剣を構える。相手の騎士もそれに合わせるように武器を構えた。
そこに、後方のアリアが爆発をぶっ放す。さっきのお返しだとばかりに、ユニコーンとバイコーンに爆発の連打を叩き込んだ。
「ちぃ」
その途中でアリアが舌打ちをする。あまり効いてない、と俺達に伝えると、一旦下がり準備を整え始めた。通常の攻撃で駄目ならば、特大で。そういう腹積もりだ。
「足止めは、任されたよぉ……!」
突っ込んできたバイコーンをシトリーが受け止める。何度もぶつかっているので慣れたのか、シトリーも押し負けずにバイコーンを文字通り足止めさせた。勿論その隙に、とユニコーンが突っ込んでくるが。
「させるかよ!」
「行かせませんわ」
俺とセフィがユニコーンを吹き飛ばす。そのタイミングで、アリアがいけるわ、と叫んだ。シトリーを連れて一気にアリアの方まで下がる。
剥き出しの腹から虫の節足が飛び出し、ボロボロのスカートの下半身は虫の下腹部に戻る。ギチギチと虫の顎を鳴らしながら、複眼気味の瞳は真っ直ぐにユニコーンとバイコーンに向けられて。
風の壁が二体を閉じ込める。鱗粉を満たし、そして。
「弾けろ!」
ダンジョンが揺れるほどの大爆発が起こった。パラパラと破片が飛び散っているところを見ると、どうやら見事木っ端微塵になったようだ。
ふう、と俺は息を吐く。そうしながら、いや木っ端微塵になったら素材取れないじゃないかと本来の目的を思い出して。
「アリア」
「心配いらないわよ……まだ来るわ」
バイコーンが身を挺してユニコーンを守ったらしく、ボロボロの黒の鎧が地面に横たわっているが、白の鎧は健在であった。どっちか生きていれば大丈夫という特性を使った非常に面倒くさい戦法である。
いや、バイコーンが復活する前にユニコーンを倒せばそれで問題ないか。
「セフィ!」
「はい!」
一気に駆ける。さっきのユニコーンのことを考えると、復活するまでにはある程度の時間がいる。それまでにユニコーンを始末出来れば。
そう考え突っ込んだ俺達をすり抜けるようにユニコーンは駆け抜ける。前衛と真正面から打ち合うのを避け、先に後衛を叩き潰す気だ。が、そんなもんさっきやったんだから、同じ手が通用すると思うなよ。
「させるか!」
集中。無理矢理足を止めると、即座に反転し、ユニコーンに追い付いた。スロウの前に立つように移動すると、相手の剣を弾き飛ばし全力で袈裟斬りをぶっ放す。
集中が途切れると同時、切られたユニコーンは吹き飛び倒れたバイコーンの上に落ちた。
「……ふぅ」
大きく息を吐く。とりあえずこれで復活される前に倒したってことでいいのかな。そんなことを思いながら、折り重なって倒れているユニコーンとバイコーンを見下ろして。
「エミルさん!?」
突如突き出されたランスの一撃が肩を抉った。しまった、油断した。倒れて動かないからもうてっきり二体とも討伐終了したものかと。
そんなことを思いながら肩を押さえる。ざっくり抉られたのでもう使い物にならない。
「油断大敵ですよエミル」
そんな肩だが即座にスロウに回復された。しかしやっぱり肉体だけなので服は千切れ飛んだままだ。スロウの回復や支援があるから割となおざりになっていたけど、確かに防具は心もとないな俺。勇者級としての装備のレベルじゃない。
そういう意味ではアリアもそうなんだけど、あいつの場合は中身がモンスターだからってのと悪役令嬢をやるって時点でドレスに固定されるからな、しょうがないというか。
ともあれ。ゆっくりと起き上がるバイコーンとユニコーンを見ながら、やっぱり同時に倒すしかないのかと俺は顔を顰めた。
「ですが、向こうも流石に完全回復には至っていないようです」
確かに、よく見るとどちらの鎧も細かいヒビが見て取れる。とはいえ、悠長にやっていたらその部分も回復される可能性がないこともないだろうが。
とにかく、今のうちに二体を仕留めよう。そんなことを思いながら何度目かの戦闘態勢を取る。
「セフィ、いけるか?」
「ええ、勿論」
セフィがバイコーンへと駆けた。神速の走り込みで間合いを詰めたセフィは、真っ直ぐにバイコーンを睨み、そして狙いを一箇所に絞って突きを繰り出す。普段ならば五連撃は急所を狙うのだが、今回セフィが狙ったのは急所ではなく。
ガシャン、と鎧が砕ける音がした。バイコーンのガントレットと一体化した盾部分の鎧を、セフィがその突きで破壊したのだ。これでさっきのように体を張った防御は出来ない。後はセフィが真正面からねじ伏せて終了だ。
そんな向こうを見ながら、俺はユニコーンの剣撃を弾く。二刀流の騎士剣は中々に厄介だが、流石にもう慣れてくる。ダメージも蓄積しているからか、最初ほどの脅威も感じない。変形展開する前くらいまでに弱っているようにも思える。
そんなことを考えていたからだろうか。ユニコーンが嘗めるなとばかりに吠えた。白い鎧の展開した部分に黒い線がはしり、そこが淡く光る。同時に、持っていた騎士剣も展開、変形を始めた。
「なっ」
そしてもう一段階速さと威力が増した。攻撃するたびに向こうの鎧が軋む音が聞こえるので、ユニコーンとしても限界以上の力を発揮している状態であろうが、しかし相手を倒すだけならばそれでも十分といえる。現に俺はそんなユニコーンの攻撃に押され始めていた。
「エミルさん!」
セフィがこちらを見て叫ぶが、その隙を逃さぬとばかりにバイコーンも同じように限界突破の変形を始めた。より凶悪に展開変形をしたランスがセフィを襲う。当たれば間違いなく、久しぶりにセフィがミンチになる。
が、こっちもこっちでセフィを心配している余裕がない。向こうの攻撃を受け止めながら、どうしたものかと歯噛みした。アリアとシトリーに援護を、とユニコーンの攻撃を弾き、二体の名前を叫ぶ。
「分かってるわよ!」
爆発の連打がユニコーン、バイコーン双方に起きた。限界突破をしている二体の騎士には牽制にしかなっていないようだが、それで十分。俺はユニコーンを切り裂き、そしてそのまま蹴り飛ばした。吹き飛んだ先にはバイコーン。ランスの攻撃を受け流していたセフィは、飛んできたユニコーンを見て一瞬目を見開き、そして微笑む。
「流石です、エミルさん」
「どういたしまして」
俺とセフィが武器を構え、二体に突っ込む。そんな真正面の一撃など効かんとばかりに迎撃体勢を取った二体だが、突如生まれた流砂によってバランスを崩した。
「今だよぉ……!」
「ナイスシトリー!」
「ありがとうございます、シトリーさん」
その一瞬の隙が命取りだ。俺はユニコーンに、セフィはバイコーンに。それぞれ剣を振るう。
「これで!」
「終わりですわ!」
ユニコーンを袈裟斬りにした俺と、バイコーンの急所に突きを叩き込んだセフィの声が、ダンジョン内に響き渡った。
ドシャリと倒れ伏す二体の鎧騎士。今度こそ本当に討伐終了だ。それにしても厄介だった。
「お疲れ様です」
そう言ってセフィが微笑む。いや本当に疲れた。ダンジョンの魔王級が強力っていうわけじゃなくて、今回の二体が特別って感じだなこれは。
「そうでしょうね。多分、想定していたユニコーンとバイコーンとは相当性質も違うでしょうし」
虫寄りから再び人型に戻ったアリアが、二体の死骸を見ながらそんなことを述べる。どうでもいいがやっぱり人型だとボロボロのスカートだから、その、パンツとかチラチラ見えるんで。っていうか何でこういう時に限って下半身も人型なんだよ。
「この間の泳ぎの時から、人型の下半身ももう少し鍛えなきゃって思ってるのよ」
そう言って笑うアリア。別にあんたになら見られても今更だし、とか言うんじゃない。ほら、スロウが凄い目で俺を見てる。
「エミルエミル。わたしもパンツ見せますよ! ほら!」
「見せんでいい」
「パンツだけじゃ物足りませんか?」
「そういう意味じゃない」
ほらアリアが大笑いしてる。お前その笑い方悪役令嬢アリアンロッテとしてはどうなんだ、はしたないぞ。負け惜しみ気味にそう述べると、思ったより効いたようでぐぬぅと唸っていた。
話が逸れまくっている。このユニコーンとバイコーンに苦戦したって話だったろうが。
「そーですね。ぶっちゃけセフィちゃん先輩いなかったら相当苦労したでしょうね」
「ご謙遜を。私がいなくとも皆さんなら問題なく討伐出来たでしょう?」
「問題なくかどうかはともかく、まあ討伐自体はできたかもしれないけど」
でも絶対今回の倍は苦労したはずだ。特に同時討伐の部分。俺一人じゃこいつらの同時討伐はかなり厳しい。シトリー単体だと少し火力が足りないので、アリアとセットでもう一体だとして。
「考えたくないな」
想像してげんなりした。こんな風に軽口言えるような状態になってない可能性だってありそうだ。そんなことを述べると、セフィはそうでしょうか、と首を傾げていたが。
まあそれはいいとして。討伐したこいつから素材を剥ぎ取れば剛腕の鍛冶師の依頼は終了だ。セフィの新しいレイピアも、使い勝手は上々みたいだしな。
「それで、どれがその素材なのぉ……?」
そんなタイミングでシトリーがそんなことを言い出した。そりゃ、ユニコーンとバイコーンの素材だから。
そこまで考えて、こいつら普通のユニコーンとバイコーンじゃないことに気が付いた。
「ひょっとしてこいつら倒し損か?」
「流石にそんなことはないんじゃないかしら」
「通常の魔王級のユニコーンであれば、角や骨がそれに相当すると思いますが」
セフィがちらりと鎧騎士の死骸を見る。まあ、角はいけそうだな。骨は……こいつ鎧の中身あるのか?
「鎧剥ぎ取っちゃいます?」
「というか、鎧がそうなんじゃないかなぁ……」
成程、シトリーの言う通り、この鎧が件の素材になっていてもおかしくないな。そうなるとセフィの武器による攻撃で砕けたのがちょっと心配になるが、加工前だとそんなもんだろうということにしておこう。
しかしそうなると、こいつら丸ごと持っていった方が手っ取り早い気もしてきたな。ダンジョンなら自然と違って多少欲張りでも見逃されそうだし。
「あ、な、なら、お手伝いさせてください!」
「運搬、手伝います!」
はいはい、とそこで手を上げる蘇生され見学していた少女達。一応これでも上級冒険者ですし、と二人の少女は胸を張った。
「それに、目指すは勇者級、ということで」
「皆さんの印象に残れたらなー、なんて」
あはは、と笑いながらバイコーンを二人で持ち上げる。まあそういうことなら、遠慮なく頼らせてもらおうか。そう述べると、任せてくださいと二人は拳を握った。
「じゃあユニコーンの方は俺が持つか」
「あ、エミル、ついでにこれも持てます?」
これ、と指差したのはシトリーの疑似餌の古い方だ。確かにダンジョンに置いておくのはどうなのかと思うが、でもユニコーン持ってる俺に更に追加はきついぞ。
「でもこのシトリーちゃんの疑似餌、おっぱい揉み放題ですよ?」
「お前俺のことなんだと思ってんの?」
「すけべ」
むにぃ、とスロウの頬を引っ張る。いふぁいいふぁい、と文句を言うスロウのことなど気にせずしばらくむにむにとしていた俺は、気が済んだら思い切り手を離した。
「あひゃい!」
「よし。シトリー、古い疑似餌はすまんが自分で運んでくれ」
「あ、うん……分かったよぉ……」
「むー! むー!」
「さて帰るか」
「むーむーむー!」
「そうね」
「むーむーむーむー!」
「ええ、そうしましょう」
「セフィちゃん先輩まで!?」
そりゃそうだろう。自業自得だ。そんなことを思いながら、俺達は大荷物を背負って深層の出入り口まで向かうのであった。