どこかに行ったって、古い疑似餌は本体と繋がりがない人形、あるいは皮なんだから動きようがないだろ。盗まれたってことか?
そう尋ねると、そういうわけでもなさそう、とスロウは顎に手を当てた。
「エミルのお母さんに聞いたんですけど、わたしが来るちょっと前にシトリーちゃんが外に出たらしいんですよ」
「ワタシ、さっきからここにいたよぉ……?」
「はい、だから」
「その場合、皮を被った誰かが盗んだ可能性もあるでしょ?」
アリアの言葉になるほど、とスロウが手を叩く。が、いかんせんこんな田舎の村で泥棒とかしたら、よっぽどの腕をしていない限りすぐに犯人が見付かる。そしてそんな腕をしているやつは村にいない。
なので、村の外部犯である可能性が高いわけだが。いかんせんこんな田舎の村なので外部の人は目立つ。
「そうなると盗まれたっていうのもあんまり現実的じゃない感じですかね」
「そうだな」
とはいっても、気付かれずに村に潜入した泥棒という線は消えていないので、盗まれた可能性も残しておく必要がある。
まあそもそもそれ以外の選択肢がなにかあるか、っていう話になるのだが。
「そもそも、事情を知らないとそれを盗むって選択肢が出ることがなくない?」
お姉さんがそんなことを述べる。ぶっちゃけ自分でもそこまで理解していないレベルなのに、と続けたお姉さんは、村に人は当然ながら知らないだろうし、突如来た外部なんか余計にだろうと締めた。
「まあ、知らない人から見れば部屋に精巧な人形か死体が落ちてるようにしか見えないしな」
「たまたま侵入した場所がエミルの部屋で、そこで置いてあったシトリーの疑似餌を人形だと思えばギリギリ、かしら?」
「どーなんでしょう」
「だとしても、皮を被っているみたいだしぃ……」
ああそうか、外に出る時それを被っていたらしいということは、人形でもなくそれを擬似餌の皮だと認識していたことになるわけで。そうなるとますます犯人が分からなくなる。
ここまで来ると、スロウが母さんと口裏合わせて隠したって可能性の方が高いくらいか。
「流石にしませんよ」
「それは分かってる。そのくらい可能性が低いって話だ」
となると、疑似餌の方が勝手に動いたって可能性か。いやそれも流石にないだろう。そうは思ったが、いや待てよ、と俺はシトリーを見た。
「なあ、シトリー」
「どうしたのぉ……?」
「あの古い疑似餌も一応植物なんだよな?」
「ワタシの一部だったやつだからねぇ……」
「……植物の一部だとしたら、水につけたり栄養を与えたりしたら芽が出たりするか?」
「どうだろうかなぁ……? 試したことないから分からないよぉ……」
そう言って首を傾げるシトリー。だが、スロウは俺の言葉に思い当たる節があったのか、そういうことですか、と目を見開いていた。
「わたし、シトリーちゃんの古い疑似餌が腐らないように手入れしてましたよ」
「だろうな。で、もしその手入れで疑似餌の方に芽が生えたとしたら」
「えぇ……? ワタシ増えたのぉ……?」
疑似餌の方が動き出してしまってもおかしくない。通常の植物ならともかく、魔王級の植物モンスターの一部だから、ひょっとしたらそんな可能性だってなくはない。
まあこっそり村にやってきた凄腕の泥棒が置いてあったシトリーの疑似餌の使い道を瞬時に理解して皮を被って逃げた、とどっちが可能性があるかといったところだけど。
「まあとりあえず探そう。盗まれたんなら逃げてるだろうけど、その場合は」
シトリーの姿をした犯罪者が目撃される可能性を覚悟した方がいいかもしれない。そんなことを思いながら、とにかく探知だとスロウとアリアに視線を向けた。
了解、と二体がギルドの外に出て探知を行う。村全体を調べた結果、向こうの森の方にシトリーの古い疑似餌が歩いていったのを発見した。泥棒だとしたら、流石に村で怪しい行動は取れないから森から脱出することにしたといった感じだろうか。芽が出た疑似餌だとしたら。
「食事、かなぁ……?」
「流石にアリジゴクの方まで生えてきてることはないだろうから、難しいんじゃないのか?」
「どちらにせよ、森に行ったほうがよさそうですね」
スロウの言葉に、そうだな、と俺達は森へと向かうことにした。
そうして森に来た俺達は、スロウに再度探知をしてもらう。こっちですね、とスロウの案内に従って森を進む俺達は、途中ミミックロウラーを見かけたりしながら奥の方へと歩みを進めた。泥棒だとすると、流石にある程度実力も伴ってないと危ない。
「この辺ですね」
スロウが足を止める。この辺りにいるはずだから。ここからは手分けして探したほうがいいかもしれない、とスロウは俺達を見た。位置としては特定しているが、いかんせん森の中なので視認が出来ないといったところか。それも疑似餌のシトリーはいつも探知するモンスターと違ってそう大きくはない。
「パワーアップはしましたけど、そーゆー専門と比べるとやっぱり精度は落ちますしね」
というわけで。俺達は分かれて古い疑似餌を探すこととなった。もし泥棒だとしても、流石に勇者級相応の実力を持っているなんてことはありえないだろうから、個々人でもなんとかなるはずだ。
問題は疑似餌に芽が生えて動いていた、の場合だ。シトリーから分離した、ということは魔王級の分身と言っても過言ではない。のかもしれないので、その場合魔王級と戦闘になる覚悟を持たないといけない。
「エミルくん……」
「ん?」
そんなことを考えながら森を探索していると、シトリーと合流したらしい。そっちはどうだ、と尋ねると、そっち? と首を傾げられた。
「いや、古い疑似餌は見つかったかって話だよ」
「古い、疑似餌ぇ……?」
「……何かあったのか? いや、待て」
よく見るとシトリーの服装がところどころ乱れている。ブラウスのボタンは中途半端に留めてある状態で、油断したら零れそうだ。視線を下にむけると、あちこち破れたタイツが目に入った。特に内腿、スカートの中の方が顕著である。あれって確か、スロウが最初にシトリーの古い疑似餌にいたずらした時に破いたんじゃなかったか。本体と分離しているからその辺は再生しないで破れたタイツを穿いているんだとすれば。
「どうしたのぉ……?」
「お前が古い疑似餌か」
剣を構える。声色も口調もシトリーのもの、というと流石に泥棒がなりすましている可能性も低くなった。いや、そこまで出来る怪盗という可能性もなくはないが、一体全体そんなのが村にやってきて古い疑似餌を盗む確率はどのくらいだ。
「エミルくん……?」
首を傾げてこちらを不思議そうに見るシトリー。泥棒が何とかやり過ごそうとしているとしても、もうこの時点で詰んでいる。俺の中では最悪ぶった切ってスロウに《リザレクション》してもらえばいいという大分思考が偏った解決方法も思い浮かんでいるからだ。
その辺りを眼の前のシトリーに伝えると、しかし何を言っているのかと返された。この反応からすると、どうやら泥棒である可能性はなさそうだ。
「となると、やっぱりお前は古い疑似餌に芽が出て自我を持ったやつ、ってことか」
「言っている意味がよく分からないよぉ……?」
俺の言葉にそんなことを返しつつ、シトリーの古い疑似餌は俺にゆっくりと近付いた。ぶっちゃけ隙だらけで、今この場でぶった切れば多分簡単に討伐出来る。が、あまりにも何も考えてなさそうなその行動に裏があるのかと身構えてしまい、攻撃するのが遅れてしまった。
「エミルくん……」
「んな!?」
その結果がこれである。嬉しそうにこちらに抱きつくシトリー。その拍子に適当に止めていたブラウスのボタンがプチンと外れて、特盛がまろび出た。
「な、何を」
「エミルくん……好きぃ……」
むにぃ、とシトリーの胸が押し付けられ、思わず動きを止めてしまったタイミングで、シトリーが俺にキスをしてきた。スロウのそれとは違う瑞々しい唇が俺に重なり、そしてゆっくりと舌が俺の口内に入ってくる。ぬちゃぬちゃと音を立てながら、シトリーの舌が俺の口の中をかき混ぜた。
「好きぃ……好きなのぉ……」
「お、おい待てシトリー。いやシトリーじゃないか、何を――」
抱きしめられ、キスをされたまま押し倒された。ゆっくりと唇から離れたシトリーは、えへへ、と微笑むと、そのスカートをそっとたくし上げる。
破れたタイツから見える下着、そしてその下着をずらし、大事なところを俺に。
「エミルくん……ワタシ、エミルくんの子種が欲しいんだよぉ……」
「何を言い出してんだ!?」
とろりと蜜が垂れる。シトリーの古い疑似餌は、そのまま俺のズボンをカチャカチャといじりだした。その表情は笑顔で、そして目は完全に据わっている。
あ、と思い出したことがあった。そういえば、シトリーの、というかトラップレシアの疑似餌は雌しべを変化させたものだ。雌しべを使って作り出した疑似餌でおびき寄せ、捕食する。そういう仕組だったはずだ。
ということは、だ。今この古い疑似餌のシトリーは、雌しべだけで動いているということになって。
「エミルくん……エミルくんの子種、ワタシのここに、いっぱい欲しいよぉ……」
「つまりそういうことになるのか? いやそれが分かってもどうしろと!?」
このままだとシトリーに受粉してしまう。これは間違いなくアウトなので、俺は全力で抵抗した。馬乗りになっているシトリーを引き剥がし、もう少しでポロリしそうになっていたズボンのそれを慌てて戻す。痛い、と立ち上がったシトリーの古い疑似餌の太ももをつつ、と蜜が伝っていくのを思わず見てしまいながら、俺は出来ることならさっさと始末してしまおうと取り落としていた剣を構えた。
「エミルくん……ワタシ、エミルくんのこと、大好きだよぉ……」
「ああそうかい。俺もだよ。でもそれは仲間の、友達としてのであって、そういう大好きとはちょっと違う」
「……ワタシじゃ、駄目なのぉ……?」
「いや、駄目っていうか、俺にはスロウっていう心に決めた相手がいるから」
というか俺は何で本物のシトリーでもないのに真面目に答えているんだろうか。何で本当のシトリーを振ったみたいになっているんだろうか。
「エミルはそーゆーところ真面目ですからね」
「うわ!? いつからいたんだよお前」
やれやれ、といった感じでスロウがやってくる。見てたんなら助けろ、とそんな思いを込めて問い掛けたそれは、ついさっきですという答えで撃沈した。いやまあ、最初から見られていたらそれはそれで問題なのでその方がいいかもしれないんだけど。
「何? 見られたらまずいことでもされてたわけ?」
「何かあったのぉ……?」
スロウに続くようにアリアと本物のシトリーもやってくる。うわ本当に動いてる、と眼の前の古い疑似餌を見て二体は表情を変えていた。
「やっぱりあれ、中に何か入ってるってこともないんだよな?」
「人が入ってる感じではないですね」
それだと人以外が入っているみたいに聞こえるんだけど。そんなことを述べると、入ってるというか生えてるというか、みたいな返事が来た。やっぱり芽が出てきたとかそういう系統か。
「じゃあやっぱりスロウが変に長期保存しようとしたからか」
「そうなりますね。申し訳ないです」
素直に頭を下げるスロウ。いやまあ反省してるならいいんだ。次からは気を付けろよ。
そんなことをいった俺に対し、甘いなぁ、という視線が二つ。何だよ、言いたいことあるなら言ってみろ。
「スロウにダダ甘」
「うんうんうん……」
やかましい。というかこの程度のことなら、お前達にだって同じような態度を取るっての。そう文句を述べた俺を見たアリアとシトリーは、やれやれといった様子で溜息を吐いた。
「本気で言ってるし実際そうだからたち悪いのよね、こいつ」
「仲間に甘すぎるよぉ……」
何だよ、別にいいだろ。問題を自分達で解決出来る程度なら、反省すれば許すくらいでも。そりゃ、村とか町単位が被害に合うとか、人が大勢死ぬとか、そういうやらかしを許すほど俺も人が出来ちゃいない。でもまあこれは精々俺の貞操が危なかったくらいで済んだから。
「エミルの貞操?」
そこに反応したのはスロウである。どういうことだ、とこちらを見たので、そのままの意味だよと返した。そうしながら、向こうの古い疑似餌を指差す。
「エミルくん……愛してるよぉ……」
「あ、シトリーちゃんが告白した」
「違うよぉ……!? あっちはワタシと関係はないよぉ……」
「実は思ってたりとかしてないの?」
「アリアちゃんまでぇ……!?」
「エミルくんの子種、ここに欲しいのぉ……」
「わわわ! シトリーちゃん!?」
「違うよぉ……!?」
そんなやり取りを見ながら、ふと思う。さっきは雌しべだからかと思ったが、よくよく考えるとスロウが中に入って俺とエッチしようとしたからじゃないのかあれ。そう呟くと、あ、と皆が動きを止めた。成程、と皆が納得したように手を叩いた。
「いやー、そのー……はい、ごめんなさい」
「流石にこれは反省した方がいいわね」
「流石に、ちょっと……困るよぉ……」
「うぅ……ごめんなさい」
しょぼん、と項垂れるスロウ。まあ擁護のしようがないので俺は見守るのみである。
そんな三体を見ながら、さてではこいつはどうするかとシトリーの古い疑似餌に視線を向けた。
「エミルくん……?」
「……意思を持ってるとやっぱり始末しにくいんだよなぁ……」
この場で燃やしてしまうのが一番いいんだろうけど、敵意を持ってない相手を、というか俺に好意を向けてくる相手を殺すのは物凄く心が痛む。それも見た目はシトリーだ。
そんなことを思っていると、シトリーの古い疑似餌は再び俺に抱きついてきた。大好き、愛してる、と俺に囁きながら、ぐいぐいとおっぱいやその他色々な場所を押し付けてくる。
「やりづれぇ……」
「エミルくん……ワタシに、子種、ちょうだい……」
「やらんやらん。あーもう」
「なら、あたしがやってあげましょうか?」
どうにも出来ずに頭を悩ませていると、アリアがそんなことを言いだした。お望みとあらば一瞬で灰にしてあげるけど。そう述べたアリアに対し、いや、と俺は首を横に振る。
スロウの影響とは言え、こうして俺に好意を持ってくれてる相手の始末を他に任せるのは。
「そもそも原因はわたしですし、わたしやりますよ?」
「ワタシがあげるって言わなきゃよかったことだしぃ……」
スロウとシトリーもそう言って手を上げる。まあアリアよりは原因があるだろうけど、スロウはともかくシトリーはそこまで責任感じる必要はないぞ。
「じゃあわたしが始末しますね」
「いや、いい。俺がやる」
そう言うと俺はシトリーの古い疑似餌に魔力を込めた鞘を押し付けた。きょとん、とそれを見ていたシトリーは、そのままゆっくりと燃えていく。意思を持っているとは言ったが、明確な自我があったわけではなかったらしいシトリーの古い疑似餌は、自身が燃えていくのを不思議そうに眺めていた。
ほどなくして灰になったシトリーの古い疑似餌がどしゃりと地面に崩れ落ちた。その灰から鞘を回収した俺は、ゆっくりと息を吐くと帰るぞ、と皆を見る。
「何だかわけの分からんことで無性に疲れたからな」
「ごめんなさい」
スロウが深々と頭を下げる。そんなスロウを見て、俺はもう一度溜息を吐いた。
「まあ、これに懲りたら、普通にしてくれ」
「普通って? ……あー、そういうことですか。もーエミルったらすけべなんですから」
そう言って俺に抱きついてくるスロウを抱きしめ返すと、俺はスロウを抱き上げた。そしてそのまま手近な茂みに移動すると。
「エミル? なんでそんながっついて……え? もう限界? 家まで待てない? や、エミル、こんなところでそんな、ぁんっ! やぁん!」
しょうがないだろう。あんな状態で我慢してたんだから、これは俺は悪くない。原因を作ったお前が悪い。