で、だ。鍛えるって言っても何をどう鍛えるんだ。アリアの言っていたように仲良くさせるのが妥当か。でもなぁ。
「私が先に鍛えてもらうの!」
「私が先よ!」
「何よ!」
「何よ!」
ガルル、と睨み合い唸り声をあげるハーピーの双子。うん、これは無理じゃないかな。そんなことを思いながら溜息を吐くと、双子はこちらを向いてあからさまに悲しそうな顔をした。
そうしながら、エミルエミルと俺に抱きついてくる。
「私、頑張るから。だから嫌いにならないで」
「私も頑張るから。見捨てないで」
「分かった分かったから。とりあえず離れろ」
ぐい、と双子をどかしながら、俺はもう一度溜息を吐く。ガリガリと頭を掻き、助けを求めるようにスロウ達を見た。
「好かれてますね」
「身に覚えがほとんどないんだけどな」
じと、とこちらを見てくるスロウにそう返す。実際、確かにハーピーの縄張り問題だったコカトリスを倒したのは事実だし、そのうちの一体の肉をハーピーにあげたのも事実だ。が、そこにはオルとアルもいたわけだし、俺だけが特別に何かしたような感じではないはずなんだけど。
そんなことを呟くと、双子はそんなことない、とこちらに詰め寄った。
「助けて、って鳴き声にきちんと反応してくれたのはエミルだった!」
「私たちを助けてくれるって言ってくれた!」
まあ確かにそんなようなことは言ったな。おいそこの三体、ああやっぱりみたいな目で見るのやめてくれます?
「でも助けるって宣言して実際助けたんですよね?」
「それでついでにコカトリスの肉までプレゼントした、と」
「まあ、それは、好きになっちゃってもしょうがないかもぉ……」
相手はモンスターだし、と言われると、まあそういうもんなのかと納得してしまいそうになる。
ともあれ。俺を好いてくれているらしいこの双子をどうにかすれば、とりあえずハーピーの問題は解消される。これは結局変わらない。そして最悪の場合、この双子を討伐する、というのもまあ変わらない。
見た感じ、魔王級になって日が浅い。単純な強さでいうならば準魔王級とそう変わらない程度だろう。それこそ、この間戦ったユニコーンとバイコーンのコンビと比べると、こいつらは双子のくせに脅威を殆ど感じない。ぶっちゃけ討伐するだけなら何の問題もなく出来るだろう。
その理由の一つが仲の悪さだ。コンビネーションを行うどころか、喧嘩して互いに足を引っ張り合うであろう始末。これでは確かに群れのハーピーもこんなのを統率者にしてられるかと思っても不思議ではない。
「あ、でも伝達係のハーピーは言うこと聞いてましたよね?」
「エミルを好きなハーピーは言うこと聞いてくれるの」
スロウの問い掛けに双子の片割れが答える。って、そういや双子の名前とかも聞いてなかったな。というか自己紹介もしていない。そんなことを口にして、スロウ達のことを双子に伝えた。
「私はアロー」
「私はオーテ」
よろしく、と笑顔を見せるハーピーの双子。さて、これでますます討伐し辛くなったので、本格的にどうにかする方法を考えなくてはならない。
と、そこでさっきの言葉を思い出した。えっと? 俺のことを好きなハーピーは言うことを聞いてくれる? どういうことだ?
「エミル、覚えてる?」
「あの時、ありがとう、大好き、って鳴いてたハーピーのこと」
ああ、まあ、オルとアルにモンスターたらしだって言われたからそこそこ覚えてるけど。ということは、そこで飛んでて鳴いてた連中のことがそれってことか。
そう告げると、その通り、とアローとオーテは笑みを浮かべた。
「そこに私たちもいたの」
「魔王級になれた後も、そこにいたハーピー達はエミルのことが好きだからって理由で、言うことを聞いてくれてるの」
「ちゃんと覚えてるのよ? エミルの言葉を。大好きだから」
なんか言ったか俺? そんなことを思い首を傾げると、双子は微笑みながら、ちゃんと街道を襲っていないよ、と答えた。ああ、そういえば次に街道を襲ったら容赦しない、みたいなこと言ったな。
「ということは、とりあえず群れの統率者として一部には認めているってことでいいのかしら?」
「えっと、そこも含めてだけど、だいたい半分くらいは一応言うことは聞いてくれてるわ」
「残りの半分は聞いてくれないの」
アリアの言葉に双子が答える。まあとりあえず半分は纏められるならまだマシな方だな。そんなことを思っていると、まあその半分もほぼエミル効果だけれど、と苦笑していた。あの場にいて、俺に大好きコールを送らなかった連中も一応恩義を感じていて、だからアローとオーテの言うことを聞いている。そんなところらしい。
となると早い話が、自分達の能力で統率を出来ているのは実質ゼロってことか。
「うーん」
「これ、中々にまずいですね」
「場合によっては、群れが割れるよぉ……」
そうなんだよなぁ。しかも何が問題って、こいつらが統率しないとハーピーが街道を襲いかねないってことだ。まあそれはそれで自然の摂理みたいなもんだししょうがないとして、でもそうなるとハーピーの討伐依頼が出てきて。
場合によってはこいつらも討伐される。いや穏健派で大人しく人の生活区を襲わないんなら別に大丈夫か。わざわざハーピーの縄張りを全滅させるなんて依頼が起きることはまずないしな。
「いっそ、それもありか?」
「言う事聞く群れだけにしちゃう、ですか?」
「統率できないんなら最初からできるやつだけにすればいい。ってのは手だと思うぞ」
「……でも、それをすると他のハーピーが殺されるかもしれないでしょ」
「言うこと聞かなくても群れの仲間だもの。そんなのはいや」
双子が苦い顔を浮かべる。まあそりゃ切り捨てるような行為なんだからそう思っても当然なんだが、しかしそうなった原因はお前ら自身なので受け入れてもらうしかない。
ぶっちゃけてしまえば、だったら仲良くしやがれ、だ。
「さっきから聞いてる限り、意見は大体同じなのよね。どうして喧嘩するのかしら?」
アリアがそんなことを述べる。確かに言われてみれば、こいつら双子は意見の相違で喧嘩している感じではない。むしろ同じだからこそ喧嘩しているといった様子だ。
あれか、同じ道だから自分が先に行くんだ、みたいなやつか。
「ひょっとしてだけどぉ……」
そんな俺の意見を聞いたシトリーがひょこ、と手を上げる。そうしながら、聞きたいことがあると双子に問い掛けた。
「どっちがお姉さんなのぉ……?」
『私!』
「何よ! 私がお姉さんよ!」
「何言ってるのよ! 私がお姉ちゃんなんだから!」
睨み合い唸り合う双子。成程ね、そういうことか。なんとなく合点がいったように溜息を吐いた俺は、シトリーによく分かったなと述べた。
シトリーはそんな俺の言葉を聞いて、そんな大層なことじゃない、と手をブンブンを振る。
「多分、自分と同じような存在に、自分の意見を先に言われるのが嫌なのかなぁって思ったんだよぉ……」
「成程な」
「ワタシも、この間の古い疑似餌があんなことを言いだした時、ちょっとだけムッってなったからぁ……」
「へー、ん?」
「どうしたのぉ……?」
それは何だか違う気がする。そう思ったがシトリーの中では同じなのだろうと思い返し何でもないと告げた。しかし、だとすると、その言い方だと、古い疑似餌にシトリーが先を越されたみたいな。
「エミル」
「うわ、どうした?」
「何だか難しい顔をしながらえっちなこと考えてるっぽかったんで」
「どんな状況だよ」
「こないだも言いましたけど。まあわたしを一番にしていてくれるなら、シトリーちゃんやアリアちゃんなら別にいいかなーって思いますよ?」
「わけわからんこと言ってないで、今はそこの双子だろ」
まあ、ようは同じ意見を被されるのが嫌だから、って感じだろう。逆に言えばその部分を取っ払えば仲良く、はどうか知らないが喧嘩をしないようには出来るはずだ。現に同じ意見を言っているのに喧嘩をしていない場面もあったのだし。
「それ、逆に言えばどういう意見で喧嘩になるか分からないってことになるわよ」
「それもそうか」
とりあえず睨み合っている双子に割り込む。大人しくしろ、と告げると、アローもオーテも素直に従った。
「エミルの言うことなら聞くんですかね」
「俺の話聞いて喧嘩してたぞさっき」
「エミルの話は聞くわよ」
「私だって聞くもん!」
そう言うとまたバチバチと火花を散らす双子。おい全然聞いてないじゃないか。呆れたようにそう述べると、ハッと気付いたように目を見開いた双子はしゅんと項垂れた。これはもう喧嘩するのが生活の一部になってるな。
「あ、とゆーか。そんなに仲悪いなら、お互い別々の群れを持てばいーんじゃないです?」
「それも考えたけど、オーテが私から離れないの」
「何言ってるのよ! アローが私から離れないのよ!」
「そっちが離れないんでしょ!」
「そっちが離れないのよ!」
「ああもう! いい加減にしろ!」
俺の叫びにビクリと反応した双子は、今度こそ本当に大人しくなった。そうしながら、アローもオーテも俺に縋るように抱きついてくる。ポロポロと涙をこぼしながら、ごめんなさい、見捨てないで、と言葉にして。
はぁ、と今日だけで何度目か分からない溜息を吐いた。そうしながら、もう分かったから、と双子の頭を撫でる。アローとオーテの頭をワシワシとさせてから、さてではどうすればいいのか、と頭を悩ませた。
言うことを聞かない方を見捨てられず、群れを分けることも出来ない。そうなると二体が喧嘩を止めて統率者としてきちんと君臨するしかないのだが。
「最悪圧倒的な実力で黙らせるという手もあるけど、お前らは多分、そこまでだよな」
双子を見る。言うことを聞かない方のハーピー達を全員叩きのめすほどの実力はなさそうだ。いや、強さ自体は流石に魔王級だしあるかもしれないが、こんな調子では自滅するのがオチになりかねない。
ふむ、と俺は頷いた。ちょっと試してみるか。そんなことを思いながら、アローとオーテに少し暴れられる場所はないかと尋ねる。ここから少し離れた場所なら棲み家の影響もないだろうと言われたので、そこに向かった。
「それで、どうするの?」
「お前達の実力を見るんだよ」
アローの問い掛けにそう返す。見た感じ、という指標で話をしていたので、実際に実力を確認して改めて作戦を練ろうという腹積もりだ。
まあついでに俺の新しい防具の性能も試そうかと思ったりもしているが。
「エミルが相手なの?」
そう聞いてくるオーテにそうだと答えながら、俺は剣を抜き放ち構えた。話を聞く限りコカトリスを倒すところを見ていたハーピーの中にいたということなので、油断することもないだろう。
勝負開始の合図をスロウにしてもらう。それと同時に動いた俺は、まずは空中にいるアローへと飛び込んだ。
「ふぇ!?」
いきなり目の前に現れた俺に目を見開いたアローは、迎撃のタイミングが少し遅れた。そこを狙って一気に剣を。
と、思った矢先。急襲してくるオーテの一撃を食らい地面に落下した。仲が悪いからこういう時カバーとかしないと思っていたが、なかなかどうして、きちんと連携しているんじゃないか。
「いくわよアロー」
「なんであんたが命令すんのよ!」
「何よ、一撃でやられそうになっていたくせに」
「くぅ……」
喧嘩は相変わらずらしい。が、今回はオーテの方が優勢といったところか。歯噛みしながらも、オーテの言うことを聞いたアローがそのまま俺に連携攻撃を仕掛けてくる。成程、双子なだけはあって、攻撃のタイミングや連携の取り方は一糸乱れぬ様子ではある。所詮魔王級のなりたて、という最初の評価を覆しそうだ。
オーテの鉤爪を剣で弾いた。体勢が崩れたところに蹴りを叩き込んで、そのままアローにぶつける。二体がもんどりうって倒れるのを見た俺は、じゃあトドメだとばかりに一気に肉薄した。
「あっ」
「きゃ」
ごす、と切れ味を無くした悪徳の剣で二体の頭を小突く。痛い、と頭を押さえる双子を見ながら、勝負ありだなと笑みを浮かべた。
思っていたよりはちゃんと戦えていた。正直最初から最後まで喧嘩していてまともに戦闘にならない、くらいまで予想していたので、これは嬉しい誤算である。
「連携して戦えるってことは、実力さえ示せればまあ問題なくいけるはずだ」
「痛い……ほんとう?」
「いたた……いけるの?」
涙目でこちらを見る双子。そんな双子を見て、見学してたそっちはどうだ、とスロウ達に視線を移した。
「んー。まあいけないことはないんじゃないですか?」
「そうね。ハーピーの群れを纏めるくらいなら大丈夫そう」
「うんうんうん……」
及第点、というよりは赤点ギリギリみたいな評価だが、とりあえず目的である群れを纏め上げることは可能そうである。まあよっぽど別の問題でも起きないかぎりは、後は言うことを聞かないハーピー達をわからせて終わりだろう。
「そう上手くいくかしらね」
おいアリア、そういうことを言うんじゃない。そんなツッコミを入れたタイミングで、別のハーピーがこちらに飛んできた。
「助けて! 助けて!」
「どうしたの!?」
アローがハーピーの声を聞く。なんですって、と目を見開いた双子は、こうしちゃいられないと棲み家に戻るため羽を広げた。
「何があったんだ?」
「敵襲よ!」
「コカトリスがまた棲み家を奪いに来たの!」
それだけ言うと向こうに飛んでいく双子。そんな彼女達を目で追っていた俺達は、ふむ、と顎に手を当てた。
「これ、逆に使えるんじゃないですか?」
「前回は俺達の助けがなければ棲み家を取り戻せなかったけど、今回は」
「ちゃんと双子で勝っちゃえばいいんだよぉ……」
「勝てれば、ね」
そうは言っても、コカトリスは強力なモンスターではあるが上級、対してアローとオーテはハーピーの魔王級。よっぽどのことがない限りは負けないだろう。
けどまあ、一応心配だからこっそり見守るとするか。俺のその意見に、皆コクリと頷いた。