双子に遅れること少し。俺達も現場へと駆けつけた。そこには確かに二体のコカトリスが鎮座しており、ハーピー達を睨み付けている。石化の眼光を放っていないところを見ると、どうやら無差別にハーピーを襲うような感じではないらしい。
「んー。あの感じからすると、敵討ちとかそのへんですかね」
「敵討ち?」
「エミルが倒したコカトリス関係じゃないかなーって思いますよ」
そうなるとこれは俺が出ていった方がいいのか。そんなことを思っていると、アローとオーテがコカトリスの前に出て睨み付けた。
「私たちの縄張りに何の用よ!」
アローの言葉にコカトリスが雄叫びを上げる。それを聞いたオーテは、成程、といった様子で頷いた。やっぱモンスター同士ってああいうの分かるもんなのか。
「鳥系モンスターだからってのもあるんだと思いますよ。わたしは正確には分かりませんでしたし」
「多少は分かるのか」
「さっきも言ったやつです。敵討ちっぽいってとこですかね」
へー、と思いながら念の為アリアとシトリーにも聞いてみる。多分そんな感じ、と言われたので信じることにした。スロウはむくれた。
「エミル」
「ん?」
そんなタイミングでアローが俺に声を掛けた。何だ、と問い掛けると、こいつらの目的はさっきスロウ達が言ったように以前倒されたコカトリスの敵討ちと、縄張りの拡大だと述べる。
敵討ちはともかく、縄張りの拡大はこちらの問題。なので、勝負はこちらで受ける。そう続けた。
「だからエミルは、見ていて欲しいの」
「私たちが勝つところを」
そう言って双子は笑った。向こうのコカトリスに、かかってこい、と声を張り上げる。それに合わせるように、コカトリスは石化の眼光を双子へと放った。
「当たらないわよ!」
「その程度!」
その場から離脱して躱した双子は、そのままコカトリスに向かって急降下をする。迎撃せんと蛇の尻尾を振り上げたそれと、アローの鉤爪がかち合った。
「くっ」
「何やってるのよ!」
ぶつかり合っているアローに加勢するようにオーテが飛来する。二体分の威力になったことで尻尾を弾いた双子は、そのまま追撃とばかりにコカトリスの顔面に鉤爪を向けた。
が、もう一体が突進してきたことでそれが防がれる。慌てて空に回避したアローとオーテに向かい、体勢を立て直したさっきの一体が石化の眼光を放っていた。
「危ないっ!」
「ちょっとアロー! しっかりしなさいよ!」
「分かってるわよ!」
空中でぎゃあぎゃあと言い合いながら回避をする。正直大分危なっかしい。この調子ではちゃんとコンビネーションを取っているあのコカトリスに負けかねない。
というか、あいつら多分準魔王級だ。この間ここで戦ったコカトリスより強い。まあ村に出たあいつよりは弱いだろうけど。
「でも、そうなるとあの二体だと厳しいかしら」
「一応、魔王級なんだけど、成りたてだしねぇ……」
修行する前のオルとアルを彷彿とさせる。ある程度戦えるとはいえ、あのままでは場合によっては大分まずいだろう。
「どーします?」
ここで俺達が参戦してコカトリスを倒すのは簡単だ。だが、モンスター同士の縄張り争いに私情で肩を持つのは正直あまりよろしくない。いやまあ、この間のコカトリスの時点で既に大分肩を持つというか首は突っ込んでいるんだけど。あれは街道のハーピーをどうにかするという一応の依頼があったからであって、今回はちょっと違う。
「セフィちゃん先輩からの依頼的にもびみょーなところですしね」
「そうなんだよなぁ」
エミルエミルと鳴くハーピーの原因調査が貰った依頼で、調査自体は既に終了。ハーピーの追い払い自体も俺がここに来たことで目的達成でいなくなっただろうし、依頼そのものは終わっていると言っても過言ではない。
だからアローとオーテに関わっているのは完全なる蛇足なわけで。
「こ、のぉ!」
「嘗めるなぁ!」
コカトリスのコンビネーションに段々と押されていく双子。要所要所の連携は出来るものの、その都度喧嘩の要素が見え隠れするおかげでどうにも拮抗しない。仲良くしないと勝てないとまあ双子自体も分かってはいるものの、体に染み付いたというか性格上というか、その辺りはいかんともしがたいという感じだろう。
「きゃぁ!」
「アロー!?」
コカトリスの尻尾で吹き飛ばされたアローに石化の眼光が放たれる。咄嗟に躱したものの、そこにもう一体のコカトリスが追撃を行いアローはバウンドし地面を転がった。そのままドサリと倒れ動かなくなる。まずいな、このままだとトドメを刺されかねない。
がし、とアローを足で地面に押し付けるコカトリス。そこに石化の眼光を放ち、そのまま石化したアローを砕こうとする腹積もりだ。俺もやられた一撃死の技。喰らえば間違いなくアローは死ぬ。
「待ちなさいよ!」
その直前に、全力でコカトリスに突進をしたオーテによってアローはギリギリ助かった。石化はしておらず、しかし受けたダメージは結構あるようでゲホゲホと咳込んでいる。
「何やってるのよアロー!」
「う、うるさいわね……。これからよ……!」
立ち上がったアローが飛び上がる。その直前、少し辛そうな表情を浮かべたところを見ると、翼辺りを痛めたようだ。鳥系モンスターでその怪我は致命的になりかねない。
それでも空を飛び旋回をしながらコカトリスを攻撃しようとしたそのタイミングで、コカトリスが甲高い声を上げた。翼を広げ、空中戦はそちらの独壇場じゃないとばかりに飛び上がる。
一気に双子より高く舞い上がったコカトリスは、そのまま急降下しオーテに攻撃を仕掛けた。
「オーテ!」
「しまっ、きゃぁぁぁ!」
コカトリスの鉤爪がオーテを切り裂く。ズタズタになったオーテが墜落していくのをカバーせんと翼を広げたアローだが、もう一体が同じように飛んできたことで対処が遅れた。そのまま尻尾の一撃を食らい、オーテといっしょに落下していく。
どしゃり、と地面に落ちた双子は、そのままうめき声を上げていた。
「終わりですね」
スロウがどこか他人事のようにそう呟く。いやまあ確かに他人事だし、縄張り争いの結果負けるというのはままあることなので仕方ないとも言えるのだが。
だが。眼の前で、俺のことを大好きだと言ってくれた女の子が死ぬのを黙って見ているのは流石にちょっとだけ寝覚めが悪い。
「待った!」
俺の声にコカトリスが振り向く。何だお前、という顔でこちらを見てきたので、とりあえず双子とコカトリスの間に立った。
「エミル……」
「助けてくれるの……?」
アローとオーテの言葉に、俺は何とも言えない表情を浮かべる。咄嗟に声を掛けたものの、このまま俺が代わりに戦ってコカトリスを倒す、はちょっと違う気がしたからだ。
だから俺は、コカトリスに話し掛けた。頼みがある、と述べた。
「クルァァ?」
「今回は見逃してくれないか? 縄張りを広げる理由がそっちにもあるかもしれないが、こっちも、ハーピーも今必死で棲み家を守ろうとしているんだ」
「グルル」
「何勝手なこと言ってるのか、って言ってるわ」
「勝手なことなのは分かってる。だから、この通りだ」
そう言って頭を下げた。急な俺のそれにコカトリスは怪訝な表情を浮かべ、そして小さく鳴いた。何やってんだか、と言っているらしい、とアローが通訳してくれる。
「クルァァ、クァ、クルルァ」
「……こっちだってのっぴきならない理由がある。そうじゃなきゃこんなところまでくるものか。だって」
「まあ、そうだよな……。なあ、それって俺達で解決できないか?」
「クァ? クルルァ、クァ」
「そのうちの一つは敵討ち、だって……。これやっぱり私たちじゃなきゃ」
「あの時コカトリスを討伐したのは俺だ」
その言葉にコカトリスが俺を睨み付ける。同時に石化の眼光を放ったようだが、俺は石化しなかった。ん? と後ろを見ると、スロウが状態異常耐性を唱えていたところで。
「何無茶してんですか! 新しい防具だからって石化が完全に防げるわけじゃないんですよ!」
「あ、悪い、つい」
「つい、で命を危険に晒さないでください! エミルが死んだらわたしも死にますからね!」
がぁ、と叫ぶスロウにもう一度謝って、俺はコカトリスに向き直る。まあそういうわけで、敵討ちをしたいなら受けるが、俺も黙ってやられるつもりはないぞと剣を構えた。
ジト、とコカトリスが俺を見る。ふんと鼻を鳴らすような仕草を取ると、再びグルルと鳴いた。
「お前と戦っても勝てない。今は無駄死にするわけにはいかない。って言ってる」
「悪いな、敵討ちさせてやれなくて。その代わりといっちゃ何だが、縄張りでなにか問題があるなら、俺達が」
そのタイミングで地面が揺れる。ハッ、とコカトリスが何かに気付いたように鳴くと、俺とアロー、オーテを掴んでその場から離脱した。
「何!?」
「何なの!?」
急なそれに驚いている双子を見ながら、俺はその揺れの正体を見るべく真っ直ぐに視線を向けた。先程までいた場所が盛り上がり、何かが地面から突き出てくる。
「あれは……」
手足のないヘビのような体を持った竜型のモンスター。大きな体長を持ったそれが地面から飛び出してきていた。
こいつは間違いない、ワームだ。上級の中でも更に上澄み、というか改定された今の基準ではほぼ全てが準魔王級に相当するモンスターの種族。見た目は様々だが、そのどれもがデカい、重い、強いの三拍子揃った非常に厄介な魔物。
いやなんでこんなところにこんなもんが。
「クルァァ」
「こいつが縄張りを変えなければならなかった理由だ、ってさ」
「成程な。そりゃ、確かにこんなんが暴れまわってたらそうなるか」
姿を現したワームを見上げる。うん、デカい。この森の正確な広さは知らないが、こいつがちょっと居座るだけで魔物の縄張りの半分くらいは潰されそうだ。
で、実際潰されたのがこのコカトリスだ、と。
「準魔王級のコカトリスが二体でも縄張りを放棄する相手ってことは、こりゃあ」
「んー。でも見た感じ魔王級にはギリギリ届いてないと思いますよ。それでも相当の強さですけど」
「まったく、こんなのどこから湧いてきたのかしら」
「どっちにしろ、これは討伐しないと町に被害が出るよぉ……」
森の奥で大人しくしてくれている分にはまあ、そこのモンスターが大変で済むが、こんな場所にまで行動範囲を拡大してきたとなるとそうはいかない。ワームの大きさを考えると、まず間違いなく街道も行動範囲になる。
まあつまり、放って置くわけにはいかないというわけだ。
「コカトリス」
「クルァ?」
「こいつを倒せば縄張り騒動は終わりってことでいいのか?」
「グルル、クルルァ、クァ」
「できるのなら、助かる、頼む。だって」
「おう。じゃあお前達のためにも、ひとつワーム退治といくか」
「クルァ!?」
何やらコカトリス達が目を見開き驚いた様子を見せる。そうした後目を瞬かせると、小さく鳴いた。
「モンスターたらし」
「何が!?」
とにかく。俺達のやることは眼の前のワームの討伐だ。こいつもどこからか迷い込んだのかもしれないが、その辺の事情を聞こうにも相手は聞く耳を持たず襲いかかってくる始末だ。元々凶暴な性格をしているからかもしれないが、ここのコカトリスも、ハーピーも、自分の新しい縄張りに用意された餌くらいにしか思っていないらしい。
「話し合いは不可能ってことでいいな」
俺の言葉に、下等な存在が何を抜かすとばかりに吠えたワームは、その巨体で俺達を押し潰しに掛かった。その場から飛び退ると、俺はアローとオーテに声を掛ける。
「縄張りのハーピーを避難させろ! 出来るよな?」
「も、勿論よ!」
「絶対にやってみせるわ!」
そう言うとスロウによって回復された双子は翼を広げる。急なワームの襲来にパニックになっていたハーピー達を一喝すると、急いで戦闘域から離脱することを命令した。隊列を作り、乱れること無く移動させる二体は息がぴったりと合っていて、ハーピー達もそんな双子をしっかりと群れのボスだと認めているようで。
「ワームのおかげ、と言っていいのかどうか分かりませんけど、向こうの問題はこれで解決しそうですね」
「そうだな」
じゃあ後はこいつをぶっ倒すだけだ。そんなことを思った矢先、それこそ馬車を容易く丸呑み出来そうな巨体がこちらに迫ってきた。回避、はもう一瞬で街道を横切るくらいの距離が必要となる。
「ごふっ」
「エミル!?」
連続で繰り出された突進のそれに、回避が間に合わず跳ね飛ばされた。全身がバラバラになるような衝撃、と一瞬身構えたが、思ったよりもダメージがなくて思わず目を瞬かせる。空中で体勢を立て直すと、そのままスロウの横に着地した。
「エミル! 回復を――あれ?」
「お前達の布凄いな」
スロウとアリアとシトリーの素材で出来たこの新しい冒険者の服の効果でがっつりとダメージ軽減をしてくれたらしい。その効果は著しく、スロウが思わず俺の受けたダメージを見て拍子抜けするほどだ。まあつまり、そんなに必死に回復されるほどのダメージではない。
「いいわね、これ。あたしも遠慮なく火力が出せるわ!」
ギチギチと虫の顎を鳴らしながらアリアが爆発を連発する。ドレスのことも多少考えながら攻撃していたアリアも、その辺まったく考えずに済むようになって完全に攻撃に意識を集中させられるようだ。楽しそうに鱗粉を飛ばし、ワームの鱗を爆破している。
とはいえ、ワームの巨体相手には連射性を重視した方の爆発では効果が薄いらしく、短く舌打ちすると威力重視へと舵を切った。
「これ、で!?」
そんな高威力の爆発をワームがガバリを開いた大口で飲み込む。そうして爆発を口の中で溜め込むと、こちらにお返しとばかりに吐き出した。爆発のブレスが俺達に襲い掛かる。
「クルァァ!」
その直前、コカトリスが俺達を掴んで上空へと退避した。俺とスロウ、シトリーはそのままコカトリスの背に乗せられ、空を飛ぶ。
「サンキュー、助かった」
「クァ!」
「よし、じゃあこのまま」
「避難完了したわよ!」
「私達も協力するわ!」
今度はこっちの反撃、というタイミングでアローとオーテも戻ってきた。ワームは追加の餌が来た程度にしか思っていないようで、双子を見てその大口を開けている。
まあ精々馬鹿にしてろ。その油断が命取りになるけどな。そんなことを思いながら、俺はコカトリスの背で剣を構えた。
「エミル! 私達に乗ってもいいわよ!」
「そうよ! 空中ならハーピーに任せて!」
「いや、お前達に乗るのは流石に無理があるだろ」
そこまで背丈変わらないんだし。そんなことを言うと、アローとオーテは悲しそうに引き下がる。
まあそんなわけで、頼んだぞ。そう俺はコカトリスに述べた。
「クァ!」
「何勝ち誇ってんのよ! 私たちのほうが先にエミルを好きになったのよ!」
俺を乗せているコカトリスのそれに反応して騒ぐアローを見ながら、何言ってるか分からんが、いいから戦闘に集中するぞ、と俺は声を掛けた。