ワームが体を起こした。それによって空中にいる俺達と目線が合う。どんなデカさだこいつ。
「どっちみち放っておいたらまずいですね」
「そうだな」
がばぁ、と開いた大口が俺達を丸呑みしようと迫りくる。それを回避すると、そのまま隙だらけの体に攻撃をぶっ放した。
「あんまり効いてる気がしないな」
「ですね」
俺の魔法剣の斬撃飛ばしが当たってもケロリとしている。体が大きいということは、それだけで防御力が高いということに繋がるようだ。
「クルァ!」
コカトリスが石化の眼光をぶっ放した。が、ほんの一部が石化しただけにとどまり、その一部も石化した鱗とともに剥がれ落ちると何もなかったかのようにこちらに迫ってくる。慌てて回避すると、コカトリスは悔しそうに小さく鳴いた。
「いや、協力してくれるだけでもありがたい。というか俺の攻撃より効いてた気がして羨ましいくらいだ」
「クァ!」
何故か嬉しそうに鳴くコカトリスにじゃあついでに悪いがと告げた俺は、巨大なワームに肉薄するよう頼み込む。お前達に無茶はさせないようにするから、と付け加えた。
「クルァ」
「任せて、大好きなエミル、って言ってる――って、何であんたまでそんなこと言ってんのよ!」
「そうよ。そもそもあんたたちにとっては敵討ちの相手でしょ? いいの?」
「クルル」
「細かいことは気にしない、って、この鳥……」
何だかよく分からんが、とりあえず俺達に味方をしてくれるってことでいいんだよな。でも本当にいいのか? 俺はお前達の仲間を討伐して食ったぞ?
「クルル、クァ」
「エミルになら食われてもいいかも、きゃっ。じゃないわよ!」
「この色ボケ鳥ども……」
「順調にたらしこんでますね」
「誤解だ誤解」
ガルル、とコカトリスに吠えるアローとオーテ。そしてジト目で見てくるスロウ。まあ後者は置いておいて、そんな双子を鼻で笑うようにあしらったコカトリスは、さっきの俺の頼みを聞いてやるとばかりに翼を広げ一気にワームへと肉薄した。
それでこれからどうする、とばかりにこっちを見たので、助かったありがとうと返事をするとそのままコカトリスの背から飛び降りる。
「うおぉぉぉぉぉ!」
ワームの背に飛び乗った俺は、そのまま全力で剣を突き立てた。魔力を込めた斬撃も発動し、ざっくりと切り裂いた跡をつける。
ワームの血が傷跡から飛び散った。これならいける、ともう一撃を振りかぶり、切り裂く。
そのタイミングで、同じくコカトリスから飛び降りてきたシトリーが大剣をワームの体に突き立てた。
「シトリー! いけるのか!?」
「うん……ワタシも、負けてられないよぉ……」
ガバリとアリジゴクの本体が飛び出す。大剣の突き立てられたその箇所に。追撃だとアリジゴクの顎を突き刺した。そのまま胴の一部を切り裂き、そして抉り取る。勿論その部分はシトリーが食った。
「食べごたえがあるよぉ……!」
「だろうな」
もぐもぐとワームの一部を捕食したシトリーは、そのまま疑似餌に戻るとこっち、と俺の手を取った。俺とシトリーの攻撃でダメージを受けたワームが悶え、振り落とそうと体を捻る。それに合わせるようにワームの体から飛んだ俺達は、その先に待っていたコカトリスの背中に着地した。
「っと、大丈夫か? コカトリス」
「クァ」
問題ないとばかりに鳴いたコカトリスにお礼を述べ、俺は再びワームに飛び乗ろうと。
「今度は私がやるわ!」
「私がやるのよ!」
そのタイミングでアローとオーテが飛んできた。いやだからお前に乗るのは流石に無理があるってさっき。
そんなことを言っても、二体は気にしないとばかりに俺をむんずと掴んだ。これなら大丈夫でしょ、と足で俺の肩をやさしく掴むとそのまま持ち上げる。ちょっとアロー、というオーテの抗議を彼女は聞かなかったことにしているらしい。
「これはこれで大分体勢があれだな」
「コカトリスより小回り利くわよ?」
「何で張り合ってるんだよ……」
いいから、とアローが俺を掴んだまま一気に飛ぶ。ワームの背中にギリギリまで近付いたタイミングで、今だ、と声を掛けた。
アローから離れ、再度ワームの背に登る。もう一回、とさっきと同じように切り裂くと、ギャーギャー言い合っているアローとオーテに声を掛けた。
「了解!」
「今度は私よ!」
そう言って今度はオーテが俺を掴む。そうして離脱したタイミングで、アリアが傷跡に大爆発を叩き込んだ。内側から焼け焦げたワームは悲鳴を上げ、木々を薙ぎ倒しながらのたうち回る。
「これ、倒しても被害が甚大になりそうだな」
「倒さないともっと被害が増えるわよ」
オーテに追従する形で飛行するアリアが俺の呟きにそう返す。まあ確かに、この戦闘だけの被害か、ワームが生きている限り増える被害か、どちらかを選べと言われれば当然前者を取るわけで。
だとしても、ハーピーとコカトリスの縄張りはしっちゃかめっちゃかになってそうだ。
「大丈夫よ。自然はそのうち直るもの」
頭上のオーテがそんなことを述べる。だから安心して倒せばいい。そう続け、もう一回突っ込むかどうか尋ねてきた。
まあこのままちまちまとした攻撃で相手を削っていくくらいしか有効な手段はないからな。こういうデカい輩に有効な兵器、みたいなものも用意してないし。
「じゃあ私とオーテがエミルの移動を担当するわ」
「コカトリスに負けてられないもの」
「クルァ!」
「げ、来た」
そう言って胸を張ったタイミングでコカトリス達も合流する。背の上にはスロウとシトリーがそれぞれ乗っていて、大丈夫かと俺に声を掛けてきた。今のところは大丈夫だ。
「逃げられたりする前に勝負は決めたいところですよね」
ダメージを受け、明確にこちらを排除する相手だと認定したワームが大口を開ける。スロウの言う通り、今はこうして戦う気だからいいものの、敗走を始められると非常に厄介だ。最悪森が潰れる。そうなるとハーピーもコカトリスも住処を失って、そして人の生活区に紛れ込み、排除対象に指定されて、それから。
「お前らが討伐されるのは見たくないしな」
「エミル……」
「やっぱり、好き」
「クァ!」
「クルァ!」
ハーピーの双子とコカトリスのコンビが何だか俺を見ているが、ぶっちゃけその辺はここの面子の総意見だと思うぞ。なあ、とスロウやアリア、シトリーに同意を求めると、まあエミルがそうならいいんじゃないですか、という微妙な返事が来た。
「言っときますけど。わたしが認めるのはアリアちゃんやシトリーちゃんとかですからね。流石にまだ出会ったばっかのアローちゃんやオーテちゃん、そこのコカトリスちゃんたちは駄目ですよ」
「何の話だ何の」
「えっちするの許しません」
「何の話だ何の!」
真剣な顔で何を言うかと思えば。アホなこと言ってないで今はワームを退治することを考えてくれ。
ガリ、とワームが地面を大口で抉る。それを口に含み、こちらに向かって射出した。土石流のブレスが俺達に迫る。
避けろ、という指示をするまでもない。散開した俺達はブレスによって細かいダメージを受けながらも、墜落すること無く空にいた。ワームはそんな俺達を見て再度吠え、再び大口で飲み込もうと突っ込んでくる。
「オーテ!」
「うん、分かった!」
突進を回避し、再度ワームの背へと移動するよう頼み込む。その背に飛び乗った俺は、スロウと合流して回復してもらうように双子に述べた。
「エミルは?」
「回復したらまた回収してくれ。頼んだ」
「うん!」
翼を広げスロウの方へ向かっていく。それを見ることなく、俺は眼の前のワームの背中に剣を突き刺した。さっきは横だったが、今度は縦。開きにしてやるとばかりに突き刺したまま駆け抜け切り裂いた。浅くないダメージを負ったワームは、痛みに悶え暴れまわる。
突き刺した剣で何とか耐えているが、このままだと弾き飛ばされるな。他人事のようにそんなことを考えていたタイミングで剣がワームの体から抜けた。思い切り空中に投げ出される俺。
「エミル!」
「お待たせ!」
そんな俺を、アローとオーテがキャッチしてくれた。右をアロー、左をオーテ、二体に左右を掴まれる形になった俺は、悪いがそのまま移動出来るか、と問い掛ける。
任せて、と息の合った返事をもらった俺は、じゃあよろしくと再度ワームに肉薄するよう頼んだ。
そのタイミングで、再びスロウ達が合流する。大分ダメージを与えているが、巨体な分致命傷になっていない。なので、このまま総攻撃で一気に始末してしまいたい。そう述べると、望むところだと皆頷いた。
「じゃあ、皆にがっつり支援かけますよ」
俺とアリア、シトリーだけでなく、アリーやオーテ、コカトリス達にもバフが掛かる。能力が上昇したことで、空中で更に自由自在に動き回れるようになったはずだ。
行くぞ、と声を掛けた。おう、と皆が一斉にワームへと突っ込んでいく。
「クルァ!」
「クァァ!」
コカトリスが石化の眼光を放つ。ワームの巨体の一部がピシピシと石化を始めた。すぐさま体を捻って石化部分を剥がしたワームだったが、先程よりもダメージを受けているのは間違いない。
嘗めるなとばかりにワームが再度土石流のブレスを放つ。今度はわざわざ至近距離まで近付いて、避けられないように。
が。それよりも速く、双子のコンビが回避をしていた。コカトリスもスロウの支援とシトリーの防御でダメージを減らしている。そうしてブレスを躱した俺達は、再度ワームの背に飛び乗った。
「それなら!」
「私たちだって!」
抜群のコンビネーションでアローとオーテがワームの背肉を切り裂き、抉り取る。血飛沫が舞うワームの巨体に出来たそこを押し広げるように、シトリーが大剣とアリジゴクの顎を突き入れていた。
ブチブチ、と音を立ててワームの背が千切れていく。ダメ押しだ、と俺はそこに向かって全力の魔法剣を叩き込んだ。魔力さえ込めれば、その斬撃はとてつもなく大きく出来る。残っている魔力を全部注ぎ込んだそれにより、ワームの体は半分ほど切り裂かれた。
「クァ!」
俺とシトリーをコカトリスが回収する。同じく離脱したアローとオーテも、コカトリスとともにワームから距離を取った。
ざっくりと斬られたワームの体、そこに向かって、アリアも俺と同じように全力を叩き込むべく集中をして。
ギョロリ、と虫の複眼がターゲットを狙う。ギチギチと虫の顎を鳴らしながら、ドレスから飛び出た虫の節足も合わせ、六本の手足をそこに向けた。
「吹き――飛べっ!」
ワームの内部で大爆発が起こる。それを吸い込みこちらに反撃せんとワームは俺達に顔を向けたが、連続で起こるその大爆発に耐えきれるはずもなく。
ぼふ、と口から煙を吐いた。そして目の光を失ったワームの巨体は、そのまま地面に倒れ伏した。
「ふぅ……何とか倒したか」
「そーですね。めんどーな相手でした。さ、エミル」
コカトリスの背の上で、スロウが俺を抱きしめる。そうしたまま、俺にそっと口付けをした。舌を介して、スロウの体液が俺の口内へと入り込んでいく。コクコクとそれを飲み込むと、体に溜まっていた怠さがスッと軽くなった。
「サンキュー、助かった」
「もー、わたしで魔力回復できるからってあれはやりすぎですよ」
「そうでもしないと決定打にならなかっただろ」
「そーですけど」
ぶぅぶぅ、と文句を述べる。倒れたワームの死骸についた斬撃の大きさが、俺が全力で魔力を注ぎ込んだのを表していた。あれくらいやらないと、アリアの攻撃の通りも悪かっただろうし、結果としては上々だろう。
そのままコカトリス達はゆっくりと地面に降りる。ふう、と再度息を吐くと、皆もありがとうと俺はお礼を述べた。今回のワームは、俺達だけでなく、アローとオーテのハーピーの双子、そしてコカトリス達の助けがあってこそ倒せたんだ。
「気にしないで、私たちはエミルが大好きだったんだもの」
「そうよ。大好きな人の手助けが出来て嬉しかったわ」
そう言って微笑んでくれるアローとオーテ。そして同じようにコカトリス達も小さく鳴いていた。
「コカトリスたちは、それこそ俺がどうにかしてやるって言った割に手伝ってもらったしな」
「クルァ、クルルァ、クァ」
「気にしないでいい、むしろエミルの手伝いができて嬉しかった、大好き。……って言ってるわよ」
「そうか、それならよかった」
どうやらこの様子なら縄張り争いや敵討ちの件も解決したと見ていいだろう。俺に体をスリスリとさせてくるコカトリス達を見ながら、俺は安堵の溜息を吐いた。
「でもいいの? 縄張り自体は大分滅茶苦茶よ?」
アリアが周囲を見渡しながらそんなことを述べる。確かに、ワームが暴れたせいで周囲の木々はほぼ壊滅状態だ。無事な木の方が少ないくらいで、ハーピーが住むには大分厳しい気がする。
そうね、とアリアの言葉にアローもオーテも頷く。そうしながら、でも、と俺達を見た。
「皆が守ってくれた場所だもの。ここをちゃんと縄張りとして再生させるわ」
「勿論、私達の群れは人の町に迷惑もかけないわ」
そう言って真っ直ぐに答える二体を見て、そうか、と俺は頷いた。もし協力出来ることがあれば言ってくれ。そう続けた。
「いいの?」
「まあ、何だ。……ここまで関わったんなら、もう仲間みたいなもんだろ」
『エミル! 大好き!』
がばぁ、と揃って抱きついてくるハーピー姉妹。そんな双子を引き剥がしながら、お前達もだ、とコカトリスを見た。
「クァ?」
「縄張り、ボロボロなんだろ? 俺の出来ることなら手伝うぞ」
「あ、じゃああんたたち、私たちと一緒に暮らす?」
「クルァ?」
「そうそう、どうせエミルに手伝ってもらうなら、一緒のほうがいいじゃない」
いいこと思い付いた、とばかりにアローとオーテがコカトリスにそんな提案をする。コカトリスも最初驚いていたようだが、ちらりと俺を見ると、頷くように鳴いた。
「決まりね。じゃあ今日からあんたたちも私たちの仲間よ」
「これからよろしくね」
「クァ!」
「クルァ!」
ハーピーの群れに混ざるコカトリス。状況だけ見ると前回のハーピー騒動と同じなのだが、こっちの方はこれから特に問題が起こることもないだろう。
後はこのことを伝えて、ワームの死骸を処理して終わりだな。
「なんだかんだ騒がしい依頼だったな」
「でもまあ、新しい防具のテストにはぴったりだったかもしれないわね」
アリアの言葉に、確かにな、と笑う。恐らくこれまでなら結構なダメージを受けていたかもしれない状況でも、この服のおかげで相当ダメージを軽減出来た。
「セフィには、改めてお礼を言っとかないとな」
「そうね」
俺とアリアはそう言って笑い合う。そうしながら、勿論材料提供してくれた面々にもな、と俺はスロウ、アリア、シトリーにお礼を述べた。