というわけで、俺達の村に住人が増えた。モンスターではない正真正銘の人間だ。まあ何十年も前に死んでいて、最近蘇ったんだけど。
「よかったのか? あっちの町じゃなくて」
「もうネクロマンサーの力は使わないって約束もしたし、あの地下室にいる必要もないでしょう? 幽霊の頃にあの町は散歩していたから、どうせなら新しい場所に来たいもの」
そういって俺の村を物珍しそうに眺めるメアリー。別に大した場所じゃないぞ、多分すぐ飽きる。そんなことを思いながら、それでこれからはどうするんだと彼女に問い掛けた。
どうするもこうするも、とメアリーは肩を竦める。やることと言えば一つしかない。そう言って真っ直ぐに目的の建物を見た。
「冒険者をやるわよ」
「大丈夫かよ……」
そんなわけでギルドである。付き添いだった俺達、俺とスロウとシトリーも同じようにギルドに入り、お姉さんに挨拶をした。
「あ、いらっしゃい。あなたがこの間からアリアちゃんと一緒に住んでいるっていうご令嬢だね」
「ええ、メアリー・ブランケ……あんな家名なんかいらないわね。ただのメアリーよ」
「了解。じゃあメアリーで登録しておくわね」
「あら話が早い。まだ何も言っていないのに」
「アリアちゃんから聞いていたもの。というか、アリアちゃんがギルドに直接来るんだし、別にエミル君達を付き添いにしなくてもよかったよ?」
「それは聞いていたけれど。こういう時、後ろ盾が多い方がいいでしょう?」
「それはそうだね」
そう言ってお姉さんが笑う。そういうわけで、後ろ盾さん達はこのド新人をどうするの? そう問い掛けてきた。
「いやどうするも何も、まずは冒険者の基礎知識とかその辺の講義からだろ」
「あれ? すっ飛ばして冒険者やらせるのかと」
「そもそも生き返ったばかりの世間知らずなんだから、ある程度そのへんも教えないとまずいだろうし」
「失礼ね。わたくしだって幽霊の頃に町を彷徨いていたのだもの、一般常識くらいは持ってるわ」
だとしても、冒険者の知識は無いだろ。そう返すと、それはそうね、とメアリーは素直に引き下がった。じゃあ講義をお願いするわ、とお姉さんに述べた。
「了解。じゃあ最近の新人見習いと一緒の講義になるけど、構わないかな?」
「勿論よ。ああ、新しい知識をきちんと学べるのね。わくわくするわ」
そう言って目を輝かせるメアリー。そんなメアリーを見て微笑んだお姉さんは、じゃあ早速だけど講義に参加してもらうわよ、とギルドの講義室へと彼女を案内していた。
「そういや、この村にもまだ新人いるんだな」
「そりゃいるわよ。あんたより年下の子供もいたでしょ?」
「まあな」
お姉さんがいなくなったので、ギルドのカウンターがアリアだけになる。俺のそんな呟きに、アリアが書類を整理しながらそんな言葉を返した。
まあ確かにいたはいたけど、でもそんなに多いもんじゃない。まあ俺達の世代でも十人いるかいないかだったから、年下もそのくらいかもう少し少ないか、そんなもんだ。
「でも小さい村のわりには、結構いるんですね、子供」
「隣町と比べると全然少ないけどな」
とはいえ、今のところ子供が一人もいなくなるってほど過疎っているわけでもないから、まだましな方か。そんなことを思いながら机に頬杖を突き、ぼんやりとアリアを眺めていた。
「あら、どうしたのエミル、あたしをじっと見て」
「いや、別に深い意味はないけど」
強いて言うなら眼の前にいたから、かな。そんなことを思っていると、俺の視界にスロウがででんと割り込んだ。だったらわたしを見てください、と俺の眼前で胸を張った。
「なんでだよ」
「わたしじゃ駄目なんですか!? アリアちゃんがいいってこと!?」
「なんでだよ」
「あらエミル。あたしにそんなに魅力を感じてくれたの?」
「なんでだよ」
物凄いどうでもいい会話と思考からなんでこんな状態に。そうは思ったが、まあこれも物凄くどうでもいい会話と思考か。そんなことを思いながら溜息を吐いた。
その拍子にスロウの胸に顔が当たる。
「きゃ、エミル、こんな場所で……」
「なんでだよ」
「エミルくん、さっきからそれしか言ってないよぉ……」
「そりゃこんな状況ならな」
ぐい、とスロウを引き剥がすと、視線を講義室へと移動させた。お姉さんはまだ帰ってこない。多分メアリーの初回サポートを行っているんだろう。そうなると、ギルドの仕事はアリアがやるしか無いわけで。
「今日は俺達のやることはなしかな」
「あら、別に依頼の選別くらいしてあげるわよ」
「そう言われてもな。何かあるのか?」
「そうね……」
ペラペラと依頼書を捲っていく。下級、中級の仕事は基本的に俺達が受けるわけにはいかないので却下。上級以上から選択肢に入ってくるわけで、その中でも俺達に関係するような依頼をお姉さんが選んで持ってきてくれたりするのが普段なのだが。
「とりあえず、ハーピー関連の依頼はなさそうね」
「あったら困る」
あの双子とコカトリス達が纏めているのだからよっぽど大丈夫だろうし。別の縄張りの連中ならば話は別だが、それは俺達とは関係ない依頼になるしな。
「呪われた令嬢の屋敷の調査、なんてのもあるわよ」
「もう終わっただろそれ。何で今依頼が出てんだよ」
「終わったからじゃないの? 危険がないと踏んで調査依頼を出した、とか」
その可能性はあるか。まあとはいっても、もう何も出てこないだろうけど。なにせ呪われた令嬢は今ここで冒険者の講習を受けてるしな。
「あんた専用だとイゼルブ関係があるけど、最近あいつ音沙汰ないのよね」
どこかで野垂れ死んだんだろうか。まあそれならそれで問題ないし、そうでなくとも大人しくしている分にはまあいいんだけど。何かしら企んでいる、だと厄介なんだよな。
周囲の連中から話を聞きに回った方がいいんだろうか。なんて、そんなことをふと考えたり。
「はい、じゃあそれを踏まえて上級の上澄みの依頼だとこんなところね」
ばさりと書類が置かれる。アリアが選別したらしい依頼書を手に取り眺めながら、依頼ねぇ、と一人呟いた。選んでもらってなんだが、ここのところ面倒なことが立て続けだったので少し休みたい。
一応一通り目を通してから、俺はそんなことを言って依頼書をアリアに返却した。
「あらそう。まあ、メアリーの講習だって一日二日では終わらないでしょうし、それもいいかもしれないわね」
「……講習終わったらどうするんだろうな、メアリー」
流石に一人で冒険者をするのは無謀だと思う。持っている能力を考えれば一人でもやっていけないこともないだろうが、それを使った時点でお縄なのでやれないし。
そうなると、一緒に講義を受けている連中とパーティーを組む、とかになるのか。いや短期講習で済むレベルならどっちかというと今村で冒険者やってる連中と組む方がいいのか。
「まあどっちみちわたしたちのメンバーになるって感じではないでしょうしね」
「だよな」
ネクロマンサーの能力を加味すればともかく、それがない状態のメアリーでは言っちゃなんだが俺達と冒険をするには力不足である。さっき言ったように短期講習で済むようなレベルだとしても、だ。
「いつのまにかそんなレベルになってるのね、あたし達」
ぽつりとアリアがそんな言葉を零す。いやそりゃそうだろ、一応勇者級冒険者として名を連ねているし、お前達は魔王級モンスター。生半可な実力じゃ追い付けないだろう。
「そうは言うけど、ワタシとか元々は中級モンスターだしぃ……」
魔王級魔王級と持て囃されているが、敵対した魔王級の数々と比べるとこちらも力不足なのではないか。そんなようなことをシトリーは述べた。今回の幽霊相手だと役に立てなかったし、と言葉を続けぺしょる。
「それをいうなら、元々中級モンスターなのに上級や準魔王級から成った魔王級と真正面からぶつかりあえている時点で相当だと思うんだけどな」
「そーですそーです。それにそんなこと言ったらわたしどーなるんですか? 下級モンスターですよ?」
「スロウは別枠じゃない?」
「スロウちゃんは参考にならないよぉ……」
二体揃ってそんなことを述べたので、スロウがなんですと、とリアクションを取っていた。いやまあ、それは俺もそう思う。
「まあでも、あたしもシトリーの不安に同意するところはあるわね。以前のユニコーン相手に真っ二つにされた時とか、ちょっと情けなかったし」
「あれは誰でもぶった切られると思うぞ」
むしろあれで平気なやつを教えてくれ。ワームとか質量的な問題で真っ二つにされないやつとかか? でもその場合でも大ダメージになると思うが。
しかし、そんな風に考えると、むしろ俺が足手まといじゃないかと思ってくるわけだが。アリアのように立ち回れるわけでもなし、シトリーのように攻撃を受け止められるわけでもなし。中途半端だろ。
「あんたの場合は万能って言うのよ」
「エミルくんは何でも出来るよぉ……」
「なんだかんだいって一番エミルがアタッカーとして活躍してますしね」
何だか急に褒められた。お世辞でも何でもないそれを受け、ちょっと照れていた俺は、誤魔化すように咳払いを一つ。そうしながら、話を戻すか、と述べた。
「えっと、つまりはアリアとシトリーは自分が力不足だと思ってるってことか?」
「まあ、そうね」
「そうなるよぉ……」
「どう思う? スロウ」
「別にそんなことないとは思いますけどね」
まあでも、とスロウは続ける。レベルアップしたいっていうことなら手伝いますよ。そう言ってむん、と拳を振り上げた。
スロウのその言葉に、二体は考え込む。成程確かに力不足なら鍛えればいい。単純明快な答えである。それを受けたアリアとシトリーは、それでいこうと立ち上がった。
そのタイミングでマイア姉さんが戻ってくる。俺達の様子を見て、どうしたの? と尋ねてきたので、ちょっと修行をしてくると答えた。
「はい、いってらっしゃい」
今のところ勇者級エミル指名の依頼もなし。書類を一瞥してそう告げたお姉さんは、そんな軽い調子でひらひらと手を振っていた。
「で、どうするか迷ってここに来た、と」
王都、バクスのパーティーホームである。修行にいい場所はないだろうか、と急に尋ねてきた俺達を快く迎え入れてくれた三人は、そうだな、と頭を悩ませていた。
「まあ妥当なところだとダンジョンだと思うヨ?」
「(こくこく)」
ダンジョン、っていうとこの間帝国のダンジョンの深層には行ったな。確かにあそこにいたユニコーンとバイコーンは手強かったし、いい修行にはなりそうだが。
「だったら話は早いだろ。ダンジョンに潜ればいい」
「そう簡単にいくか?」
「まあ修行なんてそんなもんだヨ。効果が出るかどうかなんか怪しいネ」
「(こくこく)」
それでいいのか勇者級。そんなことを思ったし言ったが、まあ実際今の状態から更に成長となると同等の相手と戦闘をするくらいしかないだろうと三人に返され、確かにそうかと頷いた。アリアやシトリーは魔王級、ならば戦うのならば魔王級が一番、と。
「いつもの戦いとそう変わらないわね」
「冒険者のレベルアップなんて、実戦に勝るものなしヨ」
「(こくこく)」
ヴェルとメリィがそんなことを述べている中、バクスはその言葉に少し考えることがあったのか、顎に手を当て考え始めた。何か別の修行方法でもあったのか。そんなことを思っていると、ダンジョンで魔王級を探すより手っ取り早い方法はある、と口にする。
「そんな方法があるのぉ……?」
「まあな。それもこれは俺達にも得があるという素晴らしい方法だ」
「何だよそれ」
「俺達と戦えばいい」
は、と思わず動きが止まる。が、まあ確かにバクス達は勇者級。魔王級と相対する存在だ。ついでに冒険者の先輩でもある。
「後は、教国や帝国の勇者級とも知り合いなんだろ? 修行するなら、その辺と戦ってくればいい」
ダンジョンを潜るよりずっと手っ取り早いぞ。そう言って笑うバクスを見て、そしてアリアとシトリーに視線を動かした。どうする、と問い掛けた。
「確かに、勇者級との模擬戦は修行には願ったりだけれども」
「お、私たちの実力を疑ってるネ?」
「(ぷんすこ)」
「そ、そういうわけじゃないよぉ……」
勇者級として十分強いのは分かっているし、その実力を疑うことはない。別に勇者級にあぐらをかいて成長してないってことはないだろうし、俺達が追い抜いた、って感じでもないし。
「ははは。でもまあ、確かにお前達の成長と比べると最近伸び悩んでいる感はある。だから、それも踏まえてだ」
そっちにも得がある、というのはそういう意味か。向こうも修行がしたいから、丁度いい、というわけか。
「よし、じゃあ、遠慮なく胸を借りるぞ」
「そうこなくちゃな」
「じゃあ、ギルドの修練場を借りてこようかネ」
「(ふんす)」
丁度いいからギャラリーでも集めてみるか。そんなことを鼻歌交じりに言い出したバクスを見ながら、俺達も準備をしようと向き直る。
そうしながら、あ、そうだ、とスロウに声を掛けた。
「どーしました?」
「お前はどうする? 俺達はともかく、スロウは修行とか関係ないだろ」
「別にそんなこともないですけど。そーゆーことならちょっと考えますか」
そんなことを言いながら、スロウはバクスに声を掛けた。こうこうこういう感じだけどどうだ、と自身がどれだけ参加するかをすり合わせている。
「しかし、いいのか? こっちはメリィがいるから支援回復込みになるぞ」
「こっちも最低限は支援しますし。それくらいしないと修行にならないってエミルが」
「言ってない言ってない」
「ほう。それは流石に聞き捨てならんが、まあ実際スロウがいるといないとは大きいからな」
「とはいえ、流石に嘗められたくはないネ」
「(ふんす)」
やっぱりいないと駄目だ、くらいにはボコボコにしてやろう。そんなことを言いながら、バクスもヴェルもメリィも好戦的な笑みを浮かべた。
修行パート?