王都のギルド修練場。そこに集まった俺達は、各々戦闘準備をしながら対面していた。
邪魔にならないように、と遠巻きになっているが、ギャラリーの数もかなりのものだ。まあ勇者級同士が本気で戦う模擬戦をするなんてギルドに通達すればこうもなるか。
「それはそれとして。何でメアリーもいるんだ?」
「わたしが呼びました。こういうの見るのも良い訓練になるかなって」
「コボルトの時に見ただろ」
「きちんと勉強として見るのは初めてよ」
だから楽しみにしているわ、とメアリーは微笑んだ。あんまり楽しみにされてもそれはそれで困るんだが、まあいいや。とりあえずやれるだけのことはやる、それだけだ。
「よし、準備が出来たなら始めるか」
バクスの声に、俺達も了解と武器を構える。じゃあわたしは見学してますね、と必要最低限の支援だけした下がったスロウを見ながら、これでこいつが出張ってきたら負けかなどと考えた。
「まあその辺はもう少し緩く行こう。じゃないとすぐに負け判定になるだろうしな」
「それは聞き捨てならないわね。こっちも嘗めてもらっては困るわ」
「それはこっちのセリフだネ。スロウなしでもやれると思ったら大間違いヨ」
「(こくこく)」
ギルド職員が試合開始の合図を出す。それと同時に、俺は一気に向こうへと突っ込んだ。
が、向こうもそれは同じようで、バクスと俺がお互いの中間地点でぶつかり合う。
「ぐっ」
「どうしたエミル? お前の本気はそうじゃないだろ?」
バクスの挑発するようなその物言いに、嘗めるなと剣に魔力を込め魔法剣をぶっ放す。おお、と目を見開いたバクスはそれを体をずらして躱しながら笑みを浮かべた。
「厄介だなぁ、それは」
「さくっと避けておいてよく言う」
悪態をつきながら剣を振るう。俺の剣とバクスの剣がぶつかり合い、甲高い音を立てた。
そうしてお互い一旦間合いを取る。そうしながら、さて向こうはどうだろうな、というバクスの言葉に俺も思わずアリアとシトリーの方を向いてしまった。
「っ……あれ?」
「いやどっちかというと修行の主目的は向こうなんだろう? それが気になるのもしょうがないってもんだ」
その隙を逃さず攻撃をしてくる。そんなことを思い身構えた俺に、そんな拍子抜けするような言葉が返ってきた。次のぶつかり合いはもう少し後だ、なんて呑気にバクスは笑っている。
じゃあ遠慮なく、と向こうを見ると、アリアとシトリーが二人相手に苦戦をしている様子であった。
「流石の精度ネ」
「ちぃ!」
風の壁で閉じ込めようにも、ヴェルの矢がその隙間を正確に射抜くので上手くいかない。ならば、とメリィを狙おうとしても。
「~♪ ~~♪」
歌声で掻き消される。と、同時にヴェルへのバフも行っており、素早く移動した彼女がアリアに向かって矢を放ち。
「させないよぉ……!」
その射線上に飛び込んできたシトリーが受け止める。む、とその様子を確認したヴェルは、少し考え込む仕草を取ってからメリィに合流した。
「シトリーの防御は凄いネ。私の矢だけだと突破できないヨ」
「(ぱちくり)」
「まあでも、メリィがいれば」
「(ふんす)」
す、とメリィの表情が変わる。持っていた竪琴を奏でながら、真っ直ぐにシトリーを見て。それに合わせるようにヴェルが矢を放つ。
瞬間、レーザーのような射撃が放たれた。
「シトリー!?」
「わ、わわわぁ……!?」
とっさに大剣で受け止めたものの、威力を殺しきれなくてそのままぶっ飛んだ。ゴロゴロと地面を転がるシトリーを思わず目で追ってしまったアリアは、しまった、と即座に視線を前に戻し、回避行動を取る。
「……つぅ!」
「駄目だヨ。相手から視線を逸らしたらネ」
アリアの肩に矢が突き刺さる。咄嗟の回避が間に合って急所を逸れたのか、それとも元々そこを狙っていたのかは分からないが、どちらにせよその衝撃でアリアは扇を取り落としてしまった。
「武器も落としたみたいだし、このまま一気に」
「(びっくり)!?」
もう一撃、と矢をつがえたヴェルをメリィが慌てて掴む。何だ、と気付いた時には既に遅い。彼女達の足場は完全に流砂に飲まれていた。
これは、とメリィがシトリーのぶっ飛んでいった方を見る。倒れているシトリーの美少女の背中はぱっくりと割れていて、既に中身が空っぽなことを示していた。
「(ぱちくり)」
「さっきの言葉、そっくりそのまま返してあげるわ。駄目よ、相手から視線を逸らしたら!」
「シトリーの流砂……!?」
「アリアちゃん、今だよぉ……!」
嘗めるな、とそこから脱出しようとしたヴェルとメリィは、そのまま飛び出してきたシトリーの顎に捕らえられた。まさか、と思わず目を見開いた二人の眼前には、扇を拾い上げて構えるアリアの姿が。
「弾けろっ!」
「あーあ。ったく、油断してるからああなる」
爆発に飲まれた二人を見ながら、バクスが呆れたようにそんな声を上げていた。そうしながら、普段はもっとちゃんとしてるんだぜ、と俺の方を見て笑った。
「先輩風吹かせようとして調子に乗ったな」
「いや、いいのか? あれ、結構なダメージじゃ」
「ははは。それこそ嘗めるなって話だ」
爆煙が収まったそこには、二人の姿はなかった。木っ端微塵にでもなったのか、と一瞬思ったが、アリアもシトリーも別の方向を見てるところから、そうじゃないのが分かる。
まあ多少煤けていたが。直撃とはいかなかったが、ある程度は食らったらしい。
「メリィ、大丈夫?」
「(こくこく)」
「シトリーの戦法のことすっかり忘れてたネ。むう、確かに向こうの言う通りだヨ」
「(こくこく)」
ふう、と息を吐いた二人は、まあまだ余裕だけれど、と武器を構えた。回復をする気もないらしい。スロウがいない分を考慮してくれているのか、あるいは。
回復しなくても別に問題ない、と思っているのか。
「(ふんす)」
メリィが竪琴を奏でる。その歌声がそのまま衝撃となって二体を襲った。アリジゴクのシトリーはそれを受けて流砂から飛び出す。そうして、これはまずいとアリアを守るように立ち塞がった。
「シトリー!?」
「ワタシは大丈夫だよぉ……。だから、アリアちゃんは攻撃を頼んだよぉ……!」
「……分かったわ」
シトリーのアリジゴクの影に隠れたまま、アリアは自身の虫の顎をギチギチと鳴らす。遠慮ない全力の一撃を。そう考え、意識を集中させていた。
が、それは向こうも承知の上。それを放たれて耐える、という戦い方をするような二人ではない。させないとばかりにヴェルが一気に間合いを詰めてきた。
弓使いなのに近距離戦? そんなことを俺が疑問に思うよりも速く、ヴェルがシトリーの足元に矢を複数放つ。
「あ……。アリアちゃん、回避してぇ……!」
「え? きゃぁ!?」
地面が爆ぜた。宙に舞い上がらされたシトリーとアリアを、ヴェルとメリイが狙い撃つ。
「ワタシは大丈夫だからぁ……!」
ば、と羽を広げたアリアがシトリーと一緒に回避をしようとしたが、シトリーの言葉を受けて単独でその場を離脱した。矢と音符の波状攻撃がシトリーを襲い、更に吹っ飛ぶ。
ぷぎゅ、と可愛らしい声を発しながらぶっ飛んだシトリーは、そのまま地面に墜落した。どしゃりと音を立てていたが、しかしそこで戦闘不能とはならずフラフラとしながらも起き上がっている。
「さすが魔王級、タフだネ」
「(ぱちくり)」
「ワタシはパーティーの盾だから、そう簡単には倒れられないんだよぉ……」
そう言いながら疑似餌を被り直す。ふぅ、と美少女に擬態し直したシトリーは、だからまだまだやれる、と大剣を構え直した。
「(くいくい)」
「分かってるネ。流石に同じミスはしないヨ!」
ヴェルとメリィが即座にその場から飛び退く。盛大に火柱が上がったそれを見て、わぁお、と二人は冷や汗をかいていた。
「ちぃ」
「(ぱちくり)」
「そうネ。あの時メリィが消し炭になった攻撃並みネ。なんとまあ」
アリアは攻撃を躱されたことで苦い顔を浮かべていたが、その威力に二人も表情を変えている。こっちもこっちで手を抜くつもりはなかったが、向こうも向こうで全力で殺しに来てるな。そんなことを呟いていた。
「いいのか?」
「まあそのくらいやらないと修行にならないだろ? お前だって似たようなもんだろうに」
「まあ、そりゃあ」
バクス相手に手加減して流そうとかそんなことを考えるつもりはない。勇者級の先輩だ、こっちだって全力でいかないと間違いなくあっさりと返り討ちになる。それが分かっているから、向こうを見ているこの瞬間でも武器の構えを解いてはいない。
さて、とバクスがこっちを向いた。そろそろ向こうの見学も終えて、こっちに戻るか。そんなことを言いながら、俺に向かって剣を構えた。
「俺は元からその気だよ。そっちこそ油断してるんじゃないのか?」
「そうだな。お前は向こうほど修行したがってなかったから、ついな」
「そうでもないぞ」
いやまあ、アリアやシトリーほどではないのは間違いないが、折角の機会だしがっつり胸を借りようくらいには思ってた。
そんなことを述べると、そりゃ悪かった、と素直に謝罪される。そうしながら、じゃあ行くぞ、とさっきまでと雰囲気が明らかに変わった。
「……お前が一番油断してたんじゃないのか?」
「バレたか。まあ、だが」
一瞬で間合いを詰められる。向こうの斬撃を剣を受け止めながら、しかしその威力に押されて後退した。
「こっからはちゃんとやるぜ」
そうして繰り出される斬撃。以前、滅茶苦茶手加減されていたとはいえ戦った経験のある勇者級のクロードはどちらかといえば速さとか受け流しとかカウンターとかそういう攻撃であったが、バクスはその真逆。いや速さはあるんだけど、防御より攻撃、込めるのは力、といった剛の剣だ。防御一辺倒になってしまったが、このままだと間違いなく押し負ける。
「な、めるなぁ!」
吠えた。そうしながら、意識を集中させ相手の剣を弾く。一撃に対して二撃、三撃と叩き込んで無理矢理相手の体勢を崩すと、そのままがら空きのボディに攻撃を叩き込む。
が、向こうの反撃が飛び込んできた。カウンターというよりは相打ちのそれは、俺とバクスの攻撃が同時にぶつかりあって、そして同時にダメージとなった。
両者同時に吹っ飛び、そしてゴロゴロと転がる。痛い、滅茶苦茶痛い。そんなことを思いながら立ち上がったが、バクスも同じく立ち上がるところであった。
「流石だな。お前の集中は勇者級でも飛び抜けてる。そりゃ強力な魔王級相手でもどうにかなってきたわけだ」
「その切り札の集中を使っても相打ちだったんだけどな」
「本来ならここにスロウの全力支援が入るんだろ? 無理だよ、流石にそれには追い付けん」
そう言って笑うバクス。そうしながら、まあつまりはお前は十分強いってわけだ、と言葉を続けた。
「それは向こうも同様。ほれ、揃って大分ボロボロだ」
向こうと指差された先は、ヴェルとメリィのコンビ対アリアとシトリーのコンビの戦いだ。俺達がぶつかっている間に向こうもぶつかり合っていたからだろう。両者無事な場所がないくらいにボロボロであった。メリィが回復出来るんじゃ、と思ったが、どうやら勝負はフェアに行くと支援のみで回復はしていないようである。
「(ぜーぜー)」
「さす、がに、疲れたネ」
「はぁ、はぁ……それはこっちもだよぉ……」
「あら、はぁ、ふぅ、あたしはまだいけるわよ」
嘘つけアリア、お前もうアリアンロッテは弱みを見せないみたいなロールプレイで余裕ぶってるだけだろ。まあでもその一点だけで余裕の表情を見せているのはある意味凄い。
「さて、どうする? もう一回くらいこっちもぶつかり合っておくか?」
「胸を貸してくれるんなら遠慮なく」
俺の言葉に笑みを浮かべたバクスに向かい、今度は最初から集中を使って一気に間合いを詰めた。向こうが剣を振ってくる軌跡がゆっくりと見える。それを体をずらして躱した俺は、今度こそそのがら空きの場所に剣を叩き込み。
「なっ」
眼前に膝が見えた。斬撃を躱されることを見越して、俺の突っ込んでくる場所に二撃目を置いていた。急ブレーキを掛け、その膝を再度躱す。次の隙は、と顎に向かって拳を振り上げたが、俺の集中が切れるのがそれより少し早かった。
「っと、あぶねぇ!」
拳が空を切る。即座にバックステップで距離を取った俺の眼前を斬撃が通り抜け、冷や汗をかいた。
「ったく。新人の勇者がここまでやると俺の立場がないな」
ヒュン、と剣を一振して構えを解いたバクスが笑った。いや、結局最後は攻撃を当てられなかったし。そんなことを告げると、いやさっき思い切りぶち込んでおいてよく言うぜとバクスはさらに笑みを強くする。
「まあでもお前はあれだな。相手の攻撃を弾いて攻撃を叩き込むっていう戦法が集中時の決め手になってるな」
言われてみれば? 確かに集中を使う時はそうやって攻撃することが結構多い気がする。まあでもそうでもない時もそれなりにあるぞ。そう返すと、そりゃそうだろと言われた。
「お前の集中は普通の集中じゃない。肉体の限界値を超える動きを可能にするスイッチみたいなもんだ。色々な使い方ができて当然。体にかかる負担も大きくて当然だな」
「まあ、元々は月の大聖女に滅多なことでは使うなって言われたくらいの技だしな」
実際そうぽんぽんと使っている感じは……最近だと結構頻繁に使ってるか? でもそれは相手が相手だからだしな。
今回だって使わなきゃ俺がボコボコにされていた。
「まあ結局、これが切り札、といえる何かを持っているかどうかってところになるのかもな」
「何の話だよ」
「向こうの話だ。アリアとシトリーが修行をしたいって言ってたのもそれかな、とな」
「そうか? どっちもそういう技を持っていると思うんだけど」
アリアは全力の爆発、シトリーは疑似餌の連携。どちらも相手へのトドメになる十分なものだと思うんだけど。ううむ、と俺が悩んでいると、まあその辺りの齟齬も課題だな、とバクスは笑った。
「その辺の話し合いをしっかりしておけ」
「話し合いって、今の切り札を持っているかどうか、とかそういう話のことか?」
「そういうことだ。お前達のパーティーの場合、何よりも凄い切り札を持ってるんだけどな。それも踏まえて、ってところか」
何よりも凄い切り札、か。バクスから後ろで見学していたスロウに視線を移す。なにかあったのか、とこちらにてててとやってくるスロウを見ながら、まあ確かに、と思わず笑ってしまった。
「どーしたんですか? 急にわたしのこと見て笑って。ひょっとしてわたしのこと馬鹿にしてました?」
「してないしてない。お前が俺達の切り札だって話をしてたんだよ」
「切り札?」
当事者はピンときていないようで首を傾げている。まあこいつの場合支援も回復も蘇生も何もかも、ただ出来るからやってるだけだもんな。パーティーの要、くらいの認識はあるかもしれないが、切り札とまではいかないのだろう。
「まあいいや。さて、向こうの勝負ももう終わりかな」
「だろうな。向こうも、ってことは、こっちも終わりか」
「ああ。色々と勉強になった」
「あ、じゃあ二人とも回復しときますね」
さくっと全回復させられる。向こうも終わったのならば、と確認を取ってからまとめて一気に全回復させるさまを見ていると、まあ間違いなく何でもありなこいつが俺達のパーティーの切り札だ、と頷けた。
「これが芋虫なんだから、世界って凄いな」
バクスの言葉に、俺もまあな、と同意した。
世界「え?」