修行その2
第百七十九話
バクス達との模擬戦後。俺はまあ結構修行になったと思ったが、ボロボロになるまで戦った二体もそれなりの経験になったらしい。とはいえ、バクスの言っていたような切り札といえる何かはまだ持っていない判定になっているらしいのが面倒なところだ。
その辺はもう既に持っている、と俺が説明したところで、本当にそれが切り札足り得るのか、と疑問に思っているのが現状だからだ。
でも魔王級と戦う際に決め手みたいに使ってたよな。
「それがそこまでだったから悩んでいるんじゃないの」
「うんうんうん……」
そうか? アリアにしろシトリーにしろ、それぞれの固有の技は十分決め手になるものだっと思うし、俺達のパーティーの切り札の一つとして持っていても問題ないと思うんだけどな。
「アリアちゃんはともかく、ワタシはちょっと自信ないよぉ……」
そう言ってぺしょるのはシトリーである。疑似餌との単体連携は威力もあるし相手の意表も突けるしで別段問題なく決め手だと思うんだけど。そう述べると、ううむ、とシトリーが悩み始めた。
「言うほど威力がないんだよぉ……。結局連携するだけだから、アリアちゃんの大爆発とかと比べると、倒しきれないんだよぉ……」
ふむ。通常の攻撃の何倍かの威力がある、だとしても、それだけだとシトリー的にはいまいちだというわけか。
でもそんなこと言ったら俺の集中なんか威力自体は別に変わってないぞ。あくまで相手の隙を無理矢理作ってそこに全力を叩き込んでいるだけだからな。
「まあ派手さでいえばアリアちゃんの方が上なのは分かりますけど」
「そういうわけじゃぁ……」
スロウの言葉に指をツンツンさせているが、その表情からするとそれも理由の一因くさいな。
まあ要は、もっと派手な決め手が欲しい、と。
「何だかさらっとあたしの決め手の話が流されてる気がするんだけど」
「いやお前はもう十分だろ。ドレスも破れなくなって遠慮なくいけるって言ってたじゃないか」
「そうだけど。自分ではまだ後一歩足りない気がしてるのよ」
「そこら辺は自信の持ちような気がしますけどね」
威力も見た目も派手な一撃をぶっ放しているんだから、もっと自分が切り札を持っていると自信を持て。俺もスロウもアリアに出来るアドバイスはそんな感じである。そう言われても、と難しい顔をしていたが、少なくとも俺達はそう思っているんだからしょうがないわけで。
「まあそれを言ったらわたしなんか切り札とか別にないですし」
「存在自体が切り札みたいなやつが何か言ってる」
「そうね。それについては同意見よ」
「うんうんうん……」
「これわたし馬鹿にされてます?」
「褒めてるよ、これ以上なく」
属性頂点にやりすぎるなって説教食らったのもう忘れたのかお前は。少なくとも大魔王級聖女としてそれくらいの実力なんだよ。こればっかりは多分、リナさんやセフィでも敵わないところだ。
まああの二人は聖女のバーサーカー成分が濃すぎて参考にならないかもしれないけど。
「しかし、そうなるとバクスの言っていたみたいに教国や帝国にも修行に行くか?」
教国のクロード達、帝国のアイラさん達。あの辺の勇者級と模擬戦をして経験を積む。そういう武者修行の旅を続けるかどうか、といった話になるわけだが。
「そうね。それもありかもしれないわ」
アリアはそこそこ乗り気である。シトリーも、うーんと悩んでいる素振りを見せているものの、考えとしては前向きだ。
まあ確かに、他の勇者級ならばバクスとはまた違う答えを出してくれるかもしれないしな。そんなことを思い、じゃあ行くならどっちだ、と二体に問い掛けた。
そうして向かったのは教国。帝国とどちらにするかとの問い掛けに、アリアもシトリーもこちらを選んだのだ。
「何でこっちだとか理由はあるのか?」
「あたしはそこまで深い理由はないわ」
「ワタシは、戦いの参考にするならこっちかなぁって思ったんだよぉ……」
帝国の勇者級、アイラさんはチャクラムでリィンさんは短剣。成程確かに真正面から受けて戦うみたいな戦いの参考には出来なさそうだ。一方のクロード達は、近接三人組、みたいな感じではあるな。クロードとアスカさんは同じ近接でもちょっとタイプが違いそうだが。リナさんは真正面からぶっ潰すタイプの想像通りだろう。
そこまで考えて、そういえば、と思うところがあった。あの三人がきちんと戦っているところ見たことないな。いや軽く流すとか雑魚散らしとかそういう場面は何度か見ているが、真面目に戦うという場面はない。
「……クロードにもリベンジをしたいところだしな」
あの頃とは違う、勇者級としてのクロードと戦う。それを想像すると、俺としても少しだけだけど気分が高揚した。
そんなことを考えながら教国の、クロードのいる街へと向かう。まあ必然的にラティもいるわけだが、今回の訪問の理由を告げると、なかなか面白そうなことしているじゃないと笑みを浮かべられた。
「ラティも修行したくなるわね。海でのコイナの一件を思い出しちゃった」
「そういやあれも修行だったな」
あの後コイナはセフィとの修行が捗るようになったらしいし、魔王級に成ってからレベルアップもしているだろう。
同じ海にいたクーヤについても、まあそもそも属性頂点二体に鍛えられているんだから成長しないはずがない。
「そうなるとラティだけ置いてけぼりにされるじゃない」
ぷんすこ怒りながら決めた、とラティがこちらに指を突き付けた。その修業に参加する、と宣言した。
いいのか? とアリアとシトリーを見る。まあ別に何か邪魔されるわけでもないし、と二体はラティの申し出を別段嫌がる素振りもなく了承した。
「じゃあ早速クロードのところに行きましょう」
鼻歌でも奏でるような調子でラティがクロードのいる場所へと案内してくれる。そういやクロードもここに拠点とか構えているんだろうか。そんなことを思いラティに問いかけてみると、そうよ、とあっさり答えを返した。
「まあでも基本的にはクロードの屋敷よ。リナもアスカも自分の家があるし」
リナさんはともかく、アスカさんはそりゃ年頃の貴族の令嬢だから男の家に住んでたら色々問題あるだろうしな。ラティはそれが面白くないと言った風に話していたが。何でもかんでもくっつけようとするんじゃない。
「そこなのよね。クロードとリナとアスカは、そういう感じがしないのよ」
まあでもしいて言うなら、などと謎のカップリング談義を始めたラティの言葉を聞き流しつつ、一応拠点だというクロードの屋敷へとやって来た。バクス達と比べると、確かに屋敷って感じがする。
呼び鈴を鳴らすと使用人が来たので、クロードに会いたいことを述べた。俺達の顔とラティを見て成程と頷いた使用人は、主人は今こちらです、と案内してくれる。
そうして執務室へと案内され、そこに足を踏み入れると、書類仕事をしているクロードの姿が目に入った。
「おや、皆さん。今日はどうしたんですか?」
手を止め、こちらに笑顔を見せるクロード。相変わらず胡散臭いが、別段何かを企んでいるわけではないのは知っている。見た目と言動、声色が胡散臭いだけで、中身はきちんと善人の部類だ。
「いや、仕事の途中に悪いな」
「いえいえ。もう少しで終わるので、待っていてもらっても?」
クロードの言葉に素直に頷く。使用人にお茶を用意してもらい、暫しそれを楽しみながら、クロードの仕事が終わるのを待った。
言葉通りそうかからずに仕事を終えたクロードは、では改めてと俺達に訪問理由を問い掛ける。実は、と修行をしていることを伝えると、成程と頷き笑みを浮かべた。
「なかなか面白いことをしていますね」
そう言いながら、別段実力に自信を無くすような要素はどこにもないと思いますが、と顎に手を当てる。まあそこは俺も同意見なんだけど、ここんとこ魔王級相手に遅れを取ったような気がしているらしい、と伝えると苦笑していた。
「正直相性の問題な気がしますが。まあ模擬戦を行い自信が取り戻せるのならば」
「一応言っておくけれど。手加減はいらないわよ」
「勿論。というか、この話をすれば嬉々として斧を振り回すのが一人いますので」
「成程ぉ……」
そんなことを言いながら、では連絡を取りましょうか、と机にあった魔道具の通信機を起動させる。呼び出し音の後に、聞き慣れた声が聞こえてきた。その声に向かい、クロードが俺達がやって来たことと要件を伝える。
了解、とその声の主、リナさんはすぐにそっちに行くわと嬉しそうに述べて通信を切った。
その後アスカさんにも連絡を取り、リナさんが迎えに行くだろうからと伝える。
「やっほー」
「お久しぶりでござるな」
そうしてすぐ、二人はこの執務室へと飛び込んできた。特にリナさんは訪問理由が理由なのでテンションが高い。アスカさんは別段いつも通りだ。
それで、どうするの? とリナさんが俺達にずずいと迫る。この人こんなに戦闘狂だっけか、と思わないでもなかったが、考えるまでもなくこの前署名貰いに来た時に戦えばお互いのことが知れるだろうとか言っちゃう人だったのでお察しである。
「リナ。少しは落ち着いてください」
「何で? エミル君達が私達と戦いたいんでしょ? それってすっごく素敵なことじゃない」
「素敵なことなのぉ……?」
「リナの戯言を聞いていると変になるでござるよ?」
シトリーの驚きにアスカさんが溜息混じりの言葉を返す。そうしながら、まあ落ち着けとリナさんを宥めに掛かった。別に勝負は逃げないから、そう言うと、リナさんは渋々だが一歩下がる。この人どんだけ俺達と戦いたいんだよ。
「だって、今までちゃんと戦うエミル君達を見ることはあっても、ぶつかり合うことはなかったからね。ワクワクするってものよ」
「まったく……。まあ、その意見には頷けるところがありますけどね」
「クロードまでそっち側でござるか」
うげぇ、と表情を歪めるアスカさん。そんな彼女に向かい、じゃあアスカはワクワクしないのか、とリナさんが食って掛かった。いや別に、とそんなリナさんをばっさりと切って捨てたアスカさんは、そもそも、と視線をこちらに向けた。
「もう既にエミルさんたちの強さは十分知っているでござる。そして、拙者はこの中では恐らく一番の未熟者。むしろこちらが修行をつけてもらわなければいけない身でござる」
「いやそれはない」
ワイバーンの時のちょっとだけ見たあれの時点で一番の未熟者は絶対違うと言える。そんなことを思いながらツッコミを入れ、リナさんとクロードを見た。二人ともアスカさんのそれに笑みを浮かべているところを見る限り、基本流す方向らしい。
「まあ、それならば尚更丁度いいね。アスカの修行をしようか」
「へ?」
ガシリとアスカさんを掴んだリナさんは物凄くいい笑顔を浮かべている。書類を片付け終えたクロードを呼び、戦う場所の確保を頼んでいた。どうやらこの屋敷にはそういう修練用の空間がきちんと存在しているらしい。まあリナさんがいる時点でそうだろうなとは思っていたが。
「すごい勢いで流されている気がするでござる……」
「やる気のリナに変なことを言うからですよ」
「む。そういうクロードは何でそんなやる気なんでござるか?」
「何故、ですか?」
ふむ、と頷いたクロードは、俺の方を見て胡散臭い笑みを浮かべた。まあ今回ばかりは、リナと同じような理由ですよ。そう続けると、アスカさんに諦めが肝心だと諭していた。
そんなこんなで屋敷の修練場まで移動である。深い溜息とともに諦めたらしいアスカさんは、まあやるからには胸を借りるつもりでいくでござると息巻いていた。いや、どっちかというとそれはこっちのセリフだと思う。
「ところで、今回はどーします?」
「そうだな」
前回のバクス達との模擬戦はスロウの支援を最低限にしてもらっていた。まあ修行となれば今回も同じようにいくのがいいのだろうけど、果たして。
「なあ、クロード」
「どうしました?」
「ちょっと聞きたいんだけど、王国の勇者級バクス達とクロード達はどっちが強いとかあるのか?」
普通に考えれば滅茶苦茶失礼な質問だが、まあそこら辺は俺なので勘弁して欲しい。そんなことを思いながらクロードに問い掛けると、ふむ、と表情を真面目なものにして考え始めた。
「あの三人はバランスが取れていますからね。近距離、中・遠距離、支援とそれぞれの役割がしっかりしている。それに比べると、私達のパーティーは見ての通り」
「真っ直ぐ突っ込んでぶっ潰す」
「正々堂々、叩き切るでござる」
「こんな感じですので」
そう言って笑ったクロードは、そういうわけです、と締めた。何がそういうわけなのか分からなかったが、とりあえずバクス達と比べるとバランスが滅茶苦茶だということはよく分かった。
よく分かったが、じゃあどっちが強いのかと言えば。
「まあ今回はラティもいるもの」
ふふん、と胸を張るラティ。まあ確かにバクス達との勝負と比べると戦力が増えている分有利ではある。とりあえず前回と同じ縛りでもなんとかなる感じはしないでもない。
よしじゃあ、とスロウには一旦下がっていてもらうことにした。でもってついでに、出来れば俺はクロードと一対一で戦いたい、と申し出る。
「おや。それはつまり、いつぞやの再戦がしたい、ということでいいんですか?」
「勿論だ。あの時とは違うってところ、見せてやる」
「成程。では、どうせなら勝負も二部に分けましょう」
私としても、そういうことならば余計な心配はない方がいい。そう述べたクロードは、いつもの胡散臭い笑みを浮かべながら、しかしどこか楽しそうに口角を上げた。