さて、そういうわけで俺とクロードの対決は別で、となったわけだが。じゃあ先にどっちをやるか、という話にもなるわけで。
いや、もう戦いたくてウズウズしてる人がいるから向こうが先で全然いいんだけど。
「何を言ってるの? エミル君達の方がウズウズしてるじゃない」
そう言って笑うリナさん。そうなのか? 自分では分からないけど。
そんなことを思っていると、スロウがやれやれと頭を振っていた。そりゃ自分では分からないでしょうけど、と俺に視線を向ける。
「エミル、なんだかんだいっても戦いたいんですね。素直になればいいのに」
「うるさいな、別にやりたくないとは言ってないからいいだろ。それに、リナさんは達って言ってたぞ。クロードの方だってそういうことだろ?」
「私は勿論、そうですよ? 以前折られらた腕の借りも返したいですしね」
そう言ってクロードは笑みを浮かべる。そういうわけですので、とその表情のまま、修練場の中央に歩みを進めていた。
それに合わせるように俺も前に出る。前回のように模擬剣ではなく、どちらも全力の武器で、全力で。そんなことを思いながら、俺はクロードに向かって剣を構えた。
「支援はどーします?」
「いらん」
スロウの言葉に一言で返し、合図とともに俺は一気に前に出た。魔力を込め、魔法剣を先制攻撃だとばかりにぶっ放す。ほう、と声を上げたクロードは、しかしそれを軽く受け流すように弾くとこちらに反撃を行ってきた。
舌打ちをし、それを剣で受け止める。向こうが弾いて反撃だったのに対し、俺の方は防御で終わり。この差を感じ、俺は憎々しげにクロードを睨み付けた。
「今のは相性の問題ですね。魔法剣はアスカの技、言ってしまえばこちらの方が熟知しています」
「いつも通用しているからって迂闊に使うとこうなるってことか」
「その辺り、エミルくんは一直線なところがありますからね」
「性格捻くれているくせに、戦闘は真っ直ぐですもんね、エミル」
「おい聞こえてんぞ!」
だがしかしスロウの言っていることは間違ってないのでそれについての文句は控える。確かに、相手がクロードの時点で基礎でしかない魔法剣の魔力の斬撃は通用しないと判断するべきだった。なにせ本家のアスカさんがいるのだ。向こうがそれについて知らないわけがない。バクスに通用したのはその辺りが理由だろうし。
模擬戦で相手が勇者級だから。このパターンをそう断じてしまうのは簡単だ。だが、じゃあ他の、魔王級との戦いで同じことが起こらないかといえば、勿論そんなことはなく。
ただただ身に付けた技をぶっ放すだけでどうにかなると考えているのは、大きな間違いだ。今の一合だけでそれを十分知らしめてくれた。
そうだよな。向こうにとっちゃ集中も既に一度受けた技。何も考えずに使用してどうにかなるとは思えない。いつものように、相手のカウンターに、というのは通用しないと思っていい。
「なら」
即座に切り札を切る。これも考えなしと言われればそれまでだが、相手の意表を突くには十分な手段のはずだ。前回は相手の剣を弾いて体勢を崩したところに打ち込んだ。ならば今回はっ!?
「かはっ……!」
一瞬のそのタイミングで、既に相手の蹴りが叩き込まれていた。集中で相手の動きが遅く見えているのに拘らず食らったのだがら、向こうの速さが俺の集中を上回ったか、あるいは。
「流石にエミルくんの集中を超える速度は出せませんよ。これは、先読みです」
蹴り飛ばされた俺に向かってクロードがそう述べる。一度戦っていたから、何度も戦いを見たから。だから出来た動きだ、と続けた。
「まあそういう意味では、ちょっとズルかもしれないですけどね」
そう言って笑ったクロードは、俺が立ち上がり体制を立て直すのを待っている。余裕のつもりかよ、と悪態をつくと、まさかそんなという返事が来た。
ただ、借りを返しただけですので。そう言って口角を上げたクロードは、これからが本番だとばかりに剣を構えた。
「さて、そちらの手の内はバレている。その状態でエミルくんはどういう対処を見せてくれますか?」
「……ちっ」
だったらこれはどうだ、と鞘に魔力を込めた。クロードの周囲を爆発させると、それを回避した場所に向かい剣を振るう。む、と一瞬目を見開いたクロードは、それを受け止めると再度回避を。
一瞬の集中。それで相手の回避を先回りした俺は、さっきのお返しだとばかりに蹴りを叩き込んだ。ガードはされたが、蹴り飛ばすこと自体には成功したので、どうだこの野郎とばかりにクロードを見やる。
「いやはや。即座に動けるところは流石と言うべきでしょうか」
「……まだ余裕そうだな」
「そうでもないですよ。この調子でエミルくんと戦っていると、私はボコボコにされそうだ」
「抜かしてろ」
吐き捨てるようにそう述べると、俺はもう一度クロードに攻撃を叩き込む。
そう思った瞬間には既に間合いを詰められていた。向こうの稲妻のような打ち込みが繰り出され、それを剣で受け止め、そして距離を取った。
それをクロードは許さない。いつものような胡散臭い笑みを浮かべることなく、ただ真っ直ぐにこちらを打ち倒さんと剣を振るってくる。受け流す、はキツイ。弾くはもっと無理だ。
結果受け止める防御一辺倒になった俺は、そのままジリジリと後退してしまう。意識を集中させ、相手の一撃を弾くことに全力を込めた。一瞬向こうの動きが止まり、ならば隙ありと攻撃を叩き込めるかと言えば。
いや、ここで攻撃しないでいつ攻撃するんだ。
「がぁ!」
「くっ」
即座に体を翻したクロードは、俺の一撃にカウンターを合わせるように剣を振るった。だが、俺だってそれくらいは織り込み済み。お互いの一撃が同時に叩き込まれ、弾かれるように俺もクロードも距離を取った。
「クロード、どうするの? 結構深めだけど」
「向こうが回復するならば回復を、そうでないのならば、そのままで」
ざっくり切れた部分を見てリナさんが回復するかどうかを聞いていたが、クロードはそんな返しをしていた。さてどうする、とこちらを見た。
俺も結構バッサリいかれた。正直即座に回復してもらいたい感じもするが、何だかそれをすると負けな気がしてならない。何より、スロウがいない状態で戦うとはじめに言ったんだから、ここで頼るのはかっこ悪い。
血を流しながら、俺は嘗めるなと剣を構え直した。それを見たクロードは楽しそうに笑みを浮かべ、そうこなくてはと剣を構え直す。
「さあ、続きと行きましょうか」
「勿論だ」
痛みを気にせず、一気に俺は間合いを詰めた。クロードはそれを真正面から受け止め、そして受け流すように俺の背後を取る。その動きに逆らわず、俺は相手の斬撃を屈んで躱すと、相手の足を払うように蹴りを繰り出した。
跳んで躱した。ならば、空中ではこれ以上移動できない。がら空きのそこを狙って、俺は剣を振り上げて。
「なっ!?」
剣で受け止められ、そして弾かれた。踏ん張りも効かないその状況でどうやって、と目を見開いた俺は、しかしそんな場合じゃないと即座に切り替える。弾かれた勢いをそのまま次の攻撃に転化し、回し蹴りを叩き込んだ。
命中したそれはクロードを弾き飛ばすが、そのまま受け身を取るように空中で体勢を整えたクロードは、すたりと着地すると息を吐いた。
「流石ですね」
「何がだよ。全部受け止められたじゃないか」
「こちらの反撃を許さず、更に追撃を放っていた。以前までのエミルくんでは、そうはいかなかったでしょう」
やはりこれまでの戦いの中で実力を上げているのだ。そんなことを述べたクロードは、いやはや、と笑う。先輩らしいところを見せようと思ったが、そうもいかないようだと言葉を続け、剣を構え直した。
「まだ、やりますよね?」
「当然だ」
剣を構えると同時にクロードが突きを繰り出してきた。一点集中のそれを剣で弾くのは無理だ。剣の腹で受け止めるようにしながら、相手の隙を狙い、反撃を。
「ちぃ」
隙がない。豪雨のような突きの連打は、こちらが受け止めるだけで精一杯だ。だがしかし、突き技ならばこれより命の危機を覚えた一撃を食らったことがある。威力だけならあれには及ばない。
「無論、これが決め手にならないのは宣告承知」
ふ、とクロードが笑った。ひゅん、と一瞬剣を引き、そして今度は横薙ぎの一撃を繰り出してきた。一瞬の間、と点から線への変化。それに対応することが出来ず、俺はさっきと同じように剣の腹で斬撃を受けてしまい。
がちん、と思い切り剣が弾かれた。まずい、と思った時には既に遅い。クロードは横から縦に斬撃を変えており、剣閃は俺を真っ二つにしようと迫る。
無意識に鞘に魔力を込めた。シトリーの攻撃逸らしと妖精姫の光の盾。その二つが発動した結果、軌道の逸らされた斬撃が弾かれ、クロードが無防備になる。
が、俺も体勢が崩れており、攻撃出来るような状況じゃない。お互いに攻撃は出来ない。そんな状態にも拘らず。
「うおぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁ!」
体に無茶な動きをさせるのを承知の上で、お互いにその隙を逃さんとばかりに。持っていた武器を相手に叩きつけるというその本能だけで。
俺とクロードは、剣を振り下ろした。
「引き分けですか」
「これを見て何でそう思えるんだよ」
ははは、と笑うクロードの眼前には、ぶっ倒れている俺がいる。いや、クロードも大分致命傷なのでそういう意味では引き分けなのかもしれないが、俺は倒れてクロードは剣で体を支えてようやくの状態だとはいえまだ立っているので、勝負だとすると俺の負けだろう。
「おや、いいんですか? 借りを完全に返したことになりますよ?」
「いいよ別に。いや、悔しいけどさ」
バクスとの戦いとは違ってお互い完全にぶっ倒れるまで戦えたので、そういう意味では完全燃焼したと言える。なので、悔しいは悔しいがスッキリはしていた。
悔しいけど。滅茶苦茶悔しいけど。
「はいはい。とりあえず回復を」
「あ、リナさんはまだこれからがありますし、わたしがやりますよ」
そう言ってクロードのもとに来たリナさんに向かい、スロウがそんなことを述べる。このくらいならお茶の子さいさいですしね、と俺とクロードのダメージをあっという間に全回復させた。
「はい終わり。死んでないならこんなもんです」
「流石は大魔王級の聖女、といったところですかね」
致命傷を即座に完治させられたクロードも思わず目を瞬かせている。まあ、スロウだからな。そんなことを思いつつ、俺はスロウに膝枕をされていた。
既に回復されているので何の問題もないのだが、何かスロウがそういう状況に持っていったのだ。
「いーじゃないですか。別に修練場のど真ん中ってわけでもないですし」
「いやまあ、そうなんだけど」
わざわざこっちに連れて行かれて膝枕だと、もう完全にそういうやつだ。いや、別にスロウとは彼氏彼女の関係なので何の問題もないのだけれども。
「嫌でした?」
「そんなことはないけど」
程よいむっちり具合が気持ちいい。そんな変態みたいな感想が浮かび、いやそれは駄目だろと振って散らした。誤魔化すように視線を上げると、スロウの胸がむに、と俺に覆いかぶさる。
「おい、スロウ」
「あ、ごめんなさい。重かったですか?」
「いや、むしろ気持ちよか――いや、なんでもない」
俺の言葉を聞いてにんまりと笑みを浮かべたスロウは、別にいつでも触っていいんですよ、と俺の眼前に胸を差し出してきた。お前な、時と場所を考えろ。
そもそも、これからアリア達の模擬戦もあるんだから、こんなことをしている場合じゃないだろうが。
「まあ、アリアちゃんやシトリーちゃん、ラティちゃんが頑張ってる中遊んでるとちょっと問題かもですね」
そういうことだ、と俺はスロウの膝枕から抜け出す。名残惜しいかといえばまあそうなのだが、今はそんな場合じゃない。
「じゃあ、始めようか?」
そう言って巨大な斧をブンブンと振りながら笑みを浮かべるリナさん。その横では、お手柔らかに、と頭を下げるアスカさんがいる。
それに対抗する我らがメンバーは、ラティはいつも通りだがアリアやシトリーは真剣な表情だ。さっきの戦いを見ていたからというのもあるだろうが、前回のヴェルとメリィの戦いで勇者級の強さを改めて思い知ったからかもしれない。
何より、前回の戦いは中・遠距離がメインの二人だったが、今回の二人のメイン距離は。
「それでは、審判はわたしが務めましょう」
クロードがそう告げ、合図をする。始め、との声とともに、リナさんが一気に三体へと突っ込んだ。
「そんな一直線に突っ込んできたら蜂の巣よ!」
ラティがふふんと笑みを浮かべながら銃をぶっ放す。が、リナさんは大斧を回転させてその攻撃を全部弾き飛ばした。おいちょっと待って、そんなのありか。
「もらった!」
「もらわれないよぉ……!」
リナさんの大斧とシトリーの大剣がぶつかり合う。ギシ、という音がして、そのままシトリーが押し負けた。だから聖女ってどういう存在なんだよ。
「ふんっ!」
「きゃあぁぁぁ……!」
「シトリー!?」
防御していた大剣ごとふっ飛ばされる。強力な遠距離攻撃とかそういうのではなく、純粋な膂力で弾き飛ばされたシトリーが目を見開いていたが、まあこればかりはある程度承知の上だ。だって聖女という名のバーサーカーだもの。
その辺を分かっているアリアは、斧を振り切った状態のリナさんに向かい、扇を向ける。鱗粉をばら撒き、そのまま爆発させる腹積もりだ。
「させないでござるよ」
「っ!?」
が、それよりも速く剣を構えたアスカさんが飛び出していた。その刀身には既に魔力が籠もっていて。俺の魔法剣とは桁が違う、本当の魔法剣が放たれる。
「いざ、参る!」
「こ、んのぉ!」
風で鱗粉を即座にアスカさんに向け、魔法剣の一撃を爆発で相殺させんとアリアは扇を振り上げた。