幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百八十七話

 とりあえず、ヤマタノオロチへの報告も終わり、オルとアルは帝国に帰ることになった。俺達もそれに合わせて帰る、と思ったのだが、どうせならそのまま帝国に行って修行の続きをしてもいいかもしれないと思い立つ。

 また行き当たりばったりだとか言わない。いや本当に言わないでください。

 

「別に何も言ってないわよ。まあ今回は本当に見学だけだったし、それもいいんじゃないかしら。さっきまでの話も結局まだ具体的なことも分かってないし、どうしようもないもの」

「今はとりあえず自分達を鍛える、ってゆーのも結構大事ですしね」

「うんうんうん……」

 

 アリアもスロウもシトリーもそう言ってくれたので一安心。それじゃあついでに行きましょうか、とオルとアルも連れて帝国へと《テレポート》することにした。

 

「じゃあヤマタノオロチ、さっきまでの話だとまだ何かあるかもしれないし、お前も気を付けろよ」

「おうヨ。そうやって心配してくれルのはお前サンみたいなのくらいだからナァ。ちょっと心に沁みるナ」

「まーたモンスター口説いてる」

「なんでだよ」

 

 スロウの言葉にカハハハと笑ったヤマタノオロチは、まあ精々死なないようにするさ、と述べた。そうしながら、気を付けるのはそっちも一緒だ、と言葉を続ける。

 

「魔王級の集団とモンスターたらし、狙われるのはそっちじゃないノカ?」

「まあ、こっちはこっちで気を付けておくさ」

「そうしナ。ワシも心配してくれル奴がいなくなるのは嫌だからナ」

 

 そう言ってお互い笑い合い、またなと挨拶をすると俺達は《テレポート》の魔法陣に飛び込んだ。

 そうして今度辿り着くのは帝国である。手続きを終えた俺達はギルドのマスターのカフェへと向かい、オルとアルは依頼が終了したことをマスターに伝えていた。

 そんな二体を、カフェの手伝いをしていたアイラさんとリィンさんが出迎える。怪しい依頼だったけれども、何とかなったみたいだと胸を撫で下ろしていた。

 

「心配性な方々も、ご苦労様」

「あはは……」

 

 見透かされたようなアイラさんの言葉に頬を掻く。まあわざわざ一緒に来た時点で分かりきったことであったが。とはいえ、俺達は本当に見学だけで、調査も魔王級のハイドラ退治も全部蜘蛛姉妹だけで済ませたので、実際は何の問題もなかった。そう伝えると、それはそれは、と嬉しそうにアイラさんは微笑んだ。

 

「帝国の勇者級の候補の人員が増えた、と言ってもいいのかしらね」

「まだちょっと早いんじゃない? お姉ちゃん」

 

 リィンさんがそんなことを言ってはいるが、しかし表情は笑顔である。そういえば王国や教国と違って帝国は新しい勇者級が中々決まっていなかったんだっけか。全体的に冒険者のレベルは高いが、突出した人員がいない、といったところなのだろうか。後はギルドのゴタゴタで認定が遅れているとも言ってたっけ。

 

「とはいえ、最近の魔王級の増加や強化を考えると、生半可な冒険者を勇者級に引き上げるのはちょっと、という懸念もあります」

「みんな強いは強いんだけどね。こう、あと一歩ついていけるかどうかってところなんだよね」

 

 そういう意味で、オルとアルは現状有力候補らしい。まあ今回で成り立てとは言え魔王級を討伐したのだから、そのあと一歩に限りなく近付いたと言ってもいいのだろう。

 

「まあ、まだちょっと推薦するのは心配だけれども」

 

 依頼完了の手続きを終えたマスターがそう言って苦笑する。それは経験の浅さであったり、強さが安定しているかの不安だったり。

 種族が、モンスターであったりすることだ。

 

「別にもう今更人間を襲うことなんかないわよ」

「とはいっても、まあ一度襲ってますからね、私達」

 

 ふん、と鼻を鳴らすオルだが、アルはその辺りの心配ももっともだと述べた。そもそもが討伐対象だった魔物であり、実際人を襲ったという実績を持っている以上、ギルドとしても手放しにはい勇者級です人類の味方ですとするわけにもいかないのだろう。

 これがアリアやシトリー、それこそコイナやラティみたいに、俺が使役モンスターとして登録しているとかだと話は変わってくるんだろうけど、オルもアルも後見人としてアイラさんとリィンさんがいるとはいえ、独立した冒険者だからな。やっぱり難しい。

 とりあえずその辺の話は置いておこう。少なくとも俺達にはどうにも出来ないしな。

 それはそれとして、俺達の用事だ。アイラさんとリィンさんに声を掛けると、一体どうしたんだと首を傾げた。そんな二人に、実は今修行をしているところだという話をする。王国の勇者級、教国の勇者級と戦って、レベルを上げている最中だと述べた。

 

「成程。それは次は私達の番、というわけですか」

「そういうことなら、遠慮なく挑戦を受けるよ」

 

 アイラさんもリィンさんも俺達のその話に快く返事をしてくれた。バクス達やクロード達もそうだったが、なんというか皆人が良い。ぶっちゃけ面倒だと多少渋っても全然問題ないと思うんだけどな。少なくとも俺ならそう思う。

 

「そうは言ってもエミルも多分なんだかんだ受けると思いますよ」

 

 スロウがそう言って笑う。そうか? と俺が問い掛けると、そうですと自信たっぷりに返された。まあお前がそう言うんならそうなんだろうな、俺ってやつは。

 ともあれ。修行の相手を受けてくれたので遠慮なく胸を貸してもらうとしよう。マスターに相談し、ギルドの訓練場を使わせてもらうことにする。話を聞いていたマスターも、そういうことならばと二つ返事で了承した。

 

「その代わりといっちゃなんだけど、ギャラリーを呼んでもいいかい?」

 

 王国の時もそうだったので、俺達は別に構わないと返す。マスターはよしきたと笑顔を見せて、そのまま準備に取り掛かった。やっぱり勇者級同士の模擬戦って冒険者にとっては見るだけで経験になるもんなんだろうか。

 

「それはそうでしょう。普段見ることのない勇者級の実力を同時に見ることが出来るとなれば、それこそお金を払ってでも見たいと思う人はいるはずです」

「マスター、まさかお金取ってないよね」

 

 リィンさんが心配そうに呟く。いや流石にカフェの売上が振るわなくても、あれは趣味の店なんだから他で補填しようみたいな考えは持たないだろ。

 そんなことを思いながら訓練場にやってくる冒険者達を見る。何だか皆飲み物を持っているような気がしないでも。

 まさか、と視線を動かすと、オルとアルが観客に飲み物を売りさばいていた。おいマスター、それは普通に駄目なんじゃないのか?

 

「失礼な。カフェの宣伝をしているだけよ。味だってちゃんと」

「向こうの方が値段も安いし味も上でしょうに」

 

 アイラさんがばっさりと行く。値段はともかく味は負けていない、改良した、とマスターは熱弁するが、アイラさんの視線は冷ややかなままだ。リィンさんも擁護のしようがないとばかりにマスターを見ていた。

 まあマスターの目論見は置いておいて。やっぱりと言うべきか、結構の数の観客が俺達の模擬戦を見にやって来ていた。飲み物を売りさばいていた蜘蛛姉妹も、模擬戦自体は興味があるのかチラチラとこちらを眺めているのが見える。

 

「あ、みなさん!」

 

 そんな中、俺達に声を掛けてくる冒険者もいた。あの時はありがとうございました、と頭を下げるロングヘアーの少女とツインテールの少女。誰だ、と一瞬考え、ユニコーンとバイコーンの時の冒険者の娘だ、と思い出す。

 二人も見に来たのか、と問い掛けると、当然ですよ、と拳を握った。

 

「あの時のユニコーンとバイコーン戦、本っ当に痺れました。あの時みたいな戦いがまた見れるかもしれないと思ったら、それはもう来るしかないですよ」

 

 目をキラキラさせながらそんなことを言う二人。勿論帝国勇者級の二人の戦いも楽しみなんですけど、と付け加えながら、でもやっぱり本命は、とこちらを見る。

 

「なんというか、すっかりわたしたちのファンになっちゃったみたいですね」

「それはそれでプレッシャーだけどな。前回と違ってセフィもいないし」

 

 何より、今回戦うのは俺とシトリーの二人だけだ。スロウはいつものように軽い支援くらいで見学。そしてアリアは、今回相手は二人なのだから、こっちも二人で行くべきだろうと見学を申し出たのだ。

 

「いいのか? お前決め手に迷ってたんじゃ」

「前回の勝負である程度通用するのは分かったし、あたしはそれなりにコツを掴んだもの。今気にするのはシトリーの方でしょ?」

「ま、まあ確かに、この間のカウンターのコツはまだ掴めていないんだよぉ……」

 

 ううむ、と悩むシトリー。成程、ならこの一戦でその辺のレベルアップもすれば丁度いいな。

 まあそんなことを言いつつ、アリアの方はピンチになったら参加するという但し書きがついているのだが。流石にこれでいきなりピンチになる、ということはないはずだ。多分、きっと。

 

「さて、準備は出来ましたか?」

「こっちはいつでもいいよ」

 

 アイラさんとリィンさんがそんなことを述べる。俺達も準備は万端だと俺とシトリー、そして離れた場所にアリアとスロウが立った。話はしてあるのでメインが俺とシトリーなのは承知の上なのだが、それでもアイラさんとリィンさんはどこか挑発するように笑みを浮かべた。

 

「大丈夫ですか?」

「すぐに助けを呼ぶ羽目になっちゃわない?」

「そうならないように、頑張るよぉ……」

 

 意外にもその言葉に俺よりも早くシトリーが答えた。大剣を構え、堂々と前に立つ。そんなシトリーを見て、頼もしいなと俺も剣を構えた。

 審判をするマスターが合図をする。始め、という宣言とともに、まずは俺が一気に飛び出して。

 

「へっ?」

「遅いよ、エミルくん」

 

 その前に、既にリィンさんが目の前にいた。そして一閃。咄嗟に剣を前に出したのが幸いして急所は外れたが、あっという間に切り刻まれてぶっ飛ばされる。

 

「エミルくん……!?」

「あらシトリーさん。余所見をしている余裕はあるのかしら?」

 

 俺がゴロゴロと転がっている間にもアイラさんがシトリーを攻める。太もものホルダーに収納していたチャクラムを投擲し、盾として構えた大剣を躱すようにシトリーの体を切り刻む。

 

「くぅ……!」

「真正面からしか攻撃を受けられないのであれば、このまま餌食ですが」

 

 大剣を突き刺した。それを起点に体を翻したシトリーは、チャクラムの攻撃を躱すと同時に盾としている大剣に激突させる。

 そのアクロバティックな動きにより、ふわりとシトリーのスカートが捲れ上がり、大きな胸がたっぷんたっぷんと揺れ、見ていた男性冒険者は大いに盛り上がった。

 

「行く、よぉ……!」

 

 そのまま大剣を振り上げる。縦横無尽に舞っていたチャクラムを弾き飛ばすと同時に、大剣から斬撃を飛ばして反撃を行う。思ってみもないカウンターを放たれたアイラさんは思わず目を見開き。

 しかし、斬撃を軽く躱すと投擲するチャクラムを追加した。

 

「シトリー!? くぅ」

「味方の心配してる余裕があるのかな?」

「ない!」

 

 一方のこちらは完全に防戦一方である。両手に持った短剣の攻撃は苛烈を極め、受け止めるのが精一杯。以前オルに操られていた時と比べると、速さも鋭さも段違いだ。

 しかし、何でここまでボコボコに。バクスやクロード比べてリィンさんが特別強いって言うわけではないと思うのだが。

 

「ふふん。まあそれは相性の問題だね」

 

 ギィン、と防御の剣が弾かれる。そこに回し蹴りを叩き込まれた俺は、再び盛大にぶっ飛んだ。受け身を取りながら、相性、とさっきリィンさんに言われた言葉が頭をよぎる。

 同じ近接戦のでも三者三様で、バクスは分類するなら力押しタイプ、クロードは技巧派のタイプだ。そして眼の前のリィンさんは武器からして分かるように速さで攻めるタイプ。

 俺はどうなんだろう。捻くれてる割に戦い方は真っ直ぐ、とか言われてたが、まあ基本バランス型と考えていいだろう。だからある程度どんなタイプにも対応できるのが強み。

 の、はずなんだが。

 

「くっ!」

「おおっと」

 

 集中し、リィンさんの短剣を弾く。そのまま向こうのスピードに追い付くように攻撃を加えたが、自身の負担が半端なく重いと判断し集中を解いた。一旦仕切り直すように息を吐き、そして今度は魔法剣で牽制を。

 いや、そんなことをしても一気に間合いを詰められさっきと同じことになるのがオチだ。

 だから。

 

「むむっ」

「これでどうだ!」

 

 魔法剣を相手の剣を弾く方向に回した。通常の斬撃と魔力の斬撃、それらを使って攻撃を弾き飛ばす。

 成程、と笑みを浮かべたリィンさんは、それならと今度は両手の短剣を逆手から順手に持ち替え、俺の剣にかち当てた。

 

「ぐぅ!?」

「これでも勇者級、速さだけじゃないんだよね、これが」

 

 魔法剣ごと弾かれた俺は、膝蹴りを食らい肺の空気を無理矢理吐き出さされる。かは、と一瞬息が止まり、魔法剣が途絶えた。その隙を狙って、リィンさんが俺の首を狙って斬撃を。

 

「んのぉ!」

「おっと」

 

 集中しろ。咳き込む間もなく己の集中力を全開にした俺は、即座に伏せるとそのまますくい上げるように剣を振り上げた。それを体を反らして躱したリィンさんは、小さく息を吐くと一歩下がる。

 息をするのをそこでようやく思い出したかのように、集中の切れた俺はぜーはーと肩で息をした。

 

「うーん。やっぱり強いなぁ。お姉ちゃん!」

「どうしたのかしら? リィン」

「一気に勝負を決めたいんだけど、いけそう?」

「そうね。こちらも同意見だわ」

 

 アイラさんのもとに戻ったリィンさんが武器を構える。その隙に、俺もシトリーのいる場所へと向かった。さっき反撃をしていたシトリーだったが、その後は向こうも対処を覚えたのか良いとこなしだったようでボロボロである。

 

「いけるか、シトリー」

「うぅ……正直自信ないよぉ……」

「奇遇だな、俺もだ」

 

 相性の問題、とさっきリィンさんは言っていたが、確かに俺達だとアイラさんやリィンさん相手だと厳しいのかもしれない。かといって、アリアを参加させればいけるかと言えば。

 どうだろう。まあその時点でこの勝負は大分負けな気がしないでもないが、それでも今よりはいい勝負が出来るか。

 

「でも……もう少し、頑張りたいよぉ……」

「そうだな」

 

 チャクラムが飛んでくる。同時にリィンさんが突っ込んできて、一気に眼の前に出現した。やばい、間に合わない。

 

「させないよぉ……!」

「おおっと」

 

 リィンさんの攻撃を割り込んだシトリーが受け止める。同時に飛んできたチャクラムはそれで余裕ができた俺が弾いた。

 そんな俺達を見た二人は流石とばかりに笑う。そして俺は、ああそうだ相性ってこういうことじゃないかと気付いた。

 

「どうしたのぉ……?」

「いや、なんというか気付くのが遅いな、と」

 

 そうだよな。リィンさんみたいな相手は俺が真正面から戦うより、シトリーに受け止めてもらった方がいんだよな。一対一を向こうが選んだのでつい乗ってしまったが、本来はそうやってやるべきなんだ。

 視野狭窄に陥っていた自分を反省するかのように頬を叩いた俺は、ここからが本番だと二人を見た。見てろよ、ちゃんと俺とシトリーだけでやってやろうじゃないか。

 

「行くぞシトリー。今度はちゃんとコンビで」

「りょ、了解だよぉ……」

 

 

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