さて、ではコンビで何がやれるかと言えば。
「むむ」
リィンさんの攻撃をシトリーが防ぐ。完全に防御に回っているシトリーをぶち抜くにはリィンさんでもてこずるはずだ。
そしてその隙を狙って、俺が。
「させませんよ」
飛来してくるチャクラムを躱す。まあ流石にそんな簡単にいくとは思ってはいないが、しかしこれならばさっきのように不利にはならない。相性の問題、というやつだ。
「まあ確かに二人揃うと攻めるのには苦労するね。でも、それはそっちも同じでしょ」
「ぐっ」
「普段ならこういう時はアリアちゃんが攻めの起点になるんだろうけど。どうする?」
どうするもこうするも。じゃあアリアよろしく、みたいな真似をすると思っているのならば大間違いだ。
成程、とアイラさんが微笑む。そうしながら、複数のチャクラムを投擲した。縦横無尽に飛んでくるそれを、俺は剣で弾き、躱す。
「その隙もらった!」
シトリーをすり抜けるようにこちらにやって来たリィンさんが勢いのまま回し蹴り。咄嗟に剣で受け止めたが、その勢いでシトリーと離された。
しまったと思った時にはもう遅い。再びリィンさんの攻撃が俺へと。
「やぁぁぁ……!」
「おっとっと」
振り抜かれた大剣をしゃがんで躱したリィンさんは、危ない危ないと呟きながら、しかしそのままこちらに再度攻め込んでくる。しかし、割り込んできたシトリーが短剣を受け止め、そのままの勢いを利用してカウンターを振り抜こうとしているのをみて慌てて距離を取った。
明らかに大剣の大きさを超えた広範囲の斬撃。それが繰り出されたことで、リィンさんはおお、と目を見開き、アイラさんも成程と顎に手を当てていた。
「シトリー、今のは」
「この大剣のカウンターだよぉ……。ちょっとずつ、コツを掴んできたんだよぉ……」
俺は微かに輝くシトリーの大剣を見る。コツを掴んできたというシトリーの言葉を信用するのならば、たまたまではなくきちんと狙って発動出来るようになってきたということで。
「いけるのか?」
「多分……ううん、大丈夫だよぉ……」
一瞬自信なさ気な表情を浮かべたが、しかしすぐに気合を入れるとしっかりと頷いた。よし、じゃあしっかりと頼らせてもらうからな。
今度はこっちの番だ、とシトリーと共に間合いを詰める。さっきから向こうにばかり攻められているが、その攻撃パターンはリィンさんがこちらに間合いを詰め、アイラさんが遠距離を担当するというタイプ。逆に言えば、向こうに間合いを詰めれば、その戦法は機能しなくなるはず。
まあ勿論そんなことは承知の上だろうが、それでもこちらから攻めないとジリ貧なのは間違いないわけで。
「お姉ちゃん」
「ええ」
投擲していたチャクラムを引き戻したアイラさんが後ろに下がる。させるか、と俺は一気に加速して向こうに肉薄した。リィンさんもそこにはいるが、それよりも俺がアイラさんを攻撃するほうが早い。
が、それはアイラさんが手に持っていた半円の刃を持つ短剣によって受け止められた。チャクラム以外にもそんな武器が、と一瞬だけ目を見開いたが、しかしメインウェポンではないそれでは攻撃を受け止めきれないはず。そう判断し攻撃を続け、そして持っていた刃を弾き飛ばした。これで。
「エミルくん……!」
シトリーの声に反応して咄嗟に伏せた。ひゅん、と風切音がして、さっきまで俺の首の合った場所に半円の刃が飛来する。それを受け止めたアイラさんは、流石ですね、と微笑んでいた。
ああ、そういうことか。その手に持っていたのは短剣ではなくて。
「ええ、これもチャクラムです。私はリィンほど短剣が上手く扱えないもので」
そう言いながら持っていた刃を振るう。成程確かにリィンさんよりは遅い。が、じゃあ脅威ではないかと言えば勿論そんなことはなくて。
思わずシトリーの方を見た。リィンさんを抑えている、というか抑え込まれているというかの状態を視界に入れて、思わず舌打ちをした。
「でも、さっきよりはまだ」
「ええ、私の方が恐らくエミルさんは戦いやすいでしょう」
言いながら刃を投擲する。それを弾いて躱した俺は、その隙を狙って反撃を、と思う間もなく二撃三撃とチャクラムが飛んできて慌てて距離を取った。
が、これは悪手だ。アイラさん相手ならば距離を詰めなければいけないのに、攻撃を躱すことを優先して離れてしまった。
「とはいえ。エミルさんならば距離を詰めるのはそう難しくはないでしょう」
「だといいんだけどな」
複数のチャクラムをアイラさんが投擲する。縦横無尽に飛来するそれを防ぎつつ、俺はどうにかする方法を模索した。やるとすれば、どうにか距離を詰めるか、あるいは。
「なら、これだ」
魔法剣で斬撃を飛ばした。向こうが遠距離ならばこちらも遠距離を使えば良い。投擲武器を操ると言っても、回避をしながらではその精度はいくらか落ちるはず。
そんなことを考えながら、斬撃を飛ばし、そして。
「アリアはいないけど、真似事くらいはできるんだよな」
鞘に魔力を込めた。鱗粉の爆発を発動し、アイラさんのいた場所を吹き飛ばす。
「これはっ」
「よし、もらった!」
「そうはいかないよ!」
体勢を崩したアイラさんに剣を振るおうとしたそのタイミングでリィンさんが割り込んでくる。シトリーとの戦闘を即座に止めてこちらに来るその判断力は流石というべきか。
だが、それならそれでシトリーがフリーになるわけで。
「いくよぉ……!」
こちらに駆けてきたシトリーが大剣を振るう。アイラさんはそれを半円の刃で受け止めようとはせず、全力で回避することに専念していた。大剣を躱し、そしてシトリーではなく俺に向かってチャクラムを投擲する。
咄嗟に剣を構えたが、それはリィンさんが弾いた。この状態では、間違いなく飛来してきた刃が急所に当たる。
「そうは、させないよぉ……!」
がばぁ、とシトリーが俺に抱きついた。そのまま大剣を盾にするように構え、チャクラムを体と大剣で受け止める。
ゴロゴロと抱き合ったまま転がり、そして止まった。
「エミルくん……大丈夫ぅ……?」
「俺は大丈夫だけど、シトリーは?」
「ワタシはほら、耐久力の高さは取り柄だからぁ……」
シトリーの美少女疑似餌はところどころ切り裂かれていたが、このくらいならすぐに回復するから、と笑っている。まあ実際高耐久の植物と虫の混合モンスターであるシトリーは多少のダメージではスロウの回復いらずである。
問題は多少のダメージで済んでいるか、というところなのだが。
「受け止めたから、大丈夫だよぉ……」
「分かった。ありがとう」
「うん……。あの、それはいいんだけどぉ……」
シトリーがそういうのならば信じよう。そう思い、俺は素直にお礼を述べた。
が、それはそれとして、とシトリーが少し恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「おっぱい……いつまで揉んでるのかなぁってぇ……」
「え? あ! ご、ごめん!」
抱きつかれた際に、不可抗力ではあるのだが、シトリーの大ボリュームの胸を思い切り鷲掴みにしていたわけで。
「まあ、いつものことだし、ワタシは大丈夫だよぉ……」
「いつものことだとマズいだろ」
「でも、エミルくんワタシのおっぱいよく揉んでるよぉ……?」
何も弁明出来ないので、俺はそこで頭を下げるしかなかった。
「エミル。シトリーちゃんとイチャイチャしてる余裕あるんですか?」
「しとらんしとらん」
まったくもう、とスロウに怒られる。いやまあやってることは間違いなく怒られても仕方がないので素直にそれは受け止めるが。
それはそれとして。気を取り直してアイラさんとリィンさんを見る。俺達がアホなことをやっている間は攻撃もせずに見守ってくれていたのは非常に申し訳ないのだが、これ戦いの続きやって問題ないんだろうか。
「ふふっ。まあ修行を兼ねた模擬戦ですもの。多少緩くても問題はないでしょう」
「そうだね。まあとはいっても手加減はしないけど」
そう言って笑った二人は、じゃあ仕切り直そうかと表情を変える。そんな二人を見て、俺とシトリーも表情を真剣なものに戻した。
先行するのはシトリー。俺はその後ろについて、鞘に魔力を込めた。さっきのぶつかり合いで考えたことがある。今の状況で、俺は別に俺らしい戦い方をする必要もないということをだ。
「そこっ!」
リィンさんに向かって爆発を放つ。そう、アリアがいないなら俺がアリアの役割を果たせば良いのだ。シトリーが盾を担ってくれるのならば、俺は遠距離で相手の攻撃を潰せばいい。
「成程。考えましたね」
「色々出来るエミルくんならではって感じだね」
そう感心したように述べる二人だが、しかし表情には余裕がある。まあ俺じゃあ本当のアリアにはならないし、どうしても拙い部分が出てくるからな。遠距離に徹することも普段ないので、勝手が分からないというのもある。俺らしい戦いをする必要はない、と言っては見たものの、果たして実践でどれだけ通用するか。
鞘の能力だけではない。魔法剣の斬撃も交えながら、近距離ではなく遠距離で攻撃を行う。これが中々に大変で、アリアは普段これを涼しい顔でやっているのだと思うと頭が下がる。なにせ、味方の動きを確認して、それの邪魔にならないように、味方が動きやすいようにこちらが動かなくてはいけないのだから。
「くっ」
「動きのキレが落ちてるよ!」
そして当然ながらそれらの攻撃は魔力を使うので、アリアと比べると俺の限界は遥かに早い。一発一発無駄には出来ず、慎重に攻撃をしなくてはならない。
結果として攻撃しあぐねている俺の出来上がりだ。偉そうなことを言って結論付けたくせに、いざやろうとするとこのザマである。
「大丈夫だよぉ……エミルくんなら、できるよぉ……」
そう言ってシトリーは励ましてくれるが、いかんせん俺の魔力もそうそう多くはないので、よし分かったとバカスカ連発出来る余裕はない。そして相手は勇者級冒険者。俺の未熟な遠距離でさくっと捉えられるほど弱くはないわけで。
「発想は良かったですけれども、まだ一考の余地はありそうですね」
「ぐぅ」
どんどん追い詰められていく。これなら最初のように突っ込んでいったほうが良いか。いや、その方法でも既に対処されたので、結局は同じオチがまっているだけだ。
かといって、このまま遠距離だけでどうにか、というのも無理がある。どうすれば。
「エミルくん……」
「なんだ? シトリー」
「じゃあ、ワタシが突破口を作るよぉ……」
そう言うと大剣を盾のように構えたまま真っ直ぐ駆ける。させんとばかりに距離を詰めたリィンさんがシトリーを止めるが、シトリーは剣を盾にしたまま攻撃を受け、そして。
「これなら、どうかなぁ……!」
思い切り大剣を地面に突き刺した。カウンターの威力を込めたそれが地面に伝わり、訓練場の地面が割れる。ズタボロになった地面は、相手の機動力を奪うのは間違いなく。
「これならっ!」
アイラさんに魔法剣の斬撃を飛ばした。それを回避したのを確認しつつ、そのまま一気に距離を詰め、リィンさんに剣を叩き込む。
「そう簡単には、いかないよ!」
「知ってる。だから」
流石に足場が悪くなったから倒せる、なんてほど勇者級は甘くない。そんなことは分かっている。だから俺が構えたのは鞘。そこに魔力を流し込み、ゼロ距離で爆発をぶっ放す。
俺とリィンさんがまとめて吹き飛ぶ。が、意表を突かれたリィンさんと違い、俺は分かってやっているのでダメージも承知の上。即座に体勢を立て直すと、けほけほしているリィンさんに向かって、改めて思い切り剣を振り抜いた。
「っとぉ」
チャクラムが飛来する。それを弾くタイミングでリィンさんも体勢を建て直された。
が、反撃もさっきほど鋭くない。これならば俺でも十分防御出来る。足場とダメージで結構スピードを殺せるもんなんだな。
「流石にゼロ距離の爆発は堪えたかな」
「そいつはよかった」
ボロボロになった地面を踏みしめる。リィンさんの短剣を弾き、そして今度は距離を取る。
む、とそんな俺を見て踏み込もうとしたリィンさんは攻めるか引くか一瞬だけ迷ったようで、しかし足を強く踏みしめるとこちらへと肉薄してきた。
「そうは、いかないよぉ……!」
大剣を引き抜いたシトリーが割り込む。短剣の連撃を受け止めたシトリーは、その威力をそのままカウンターに乗せて振り抜いた。通常の斬撃とそれに合わせた追加の斬撃、俺の魔法剣のようなそれが放たれ、リィンさんの防御ごとぶち抜く。
「きゃぁ!」
「リィン!?」
ぶっ飛ばされたリィンさんだったが、しかし受け身を取って立ち上がった。そのまま反撃を、と武器を構えたタイミングで、げ、と思わず表情が曇る。
「折れてる!?」
「流石に剛腕の鍛冶師様の武器と打ち合えば耐えられませんか」
実は私も、と俺達との近接で使っていた半月の刃を掲げる。刃はもうボロボロで、使い物にならないのが一見するだけで分かった。
でも、どうしてだ? 他の勇者級との戦いではそんなことにはならなかったのに。そんなことを思い、尋ねたが、二人揃って微妙な表情をされる。
「私達の武器は短剣や投擲剣だからね。ぶつかり合うこと前提に作られたようなゴツい武器と比べるとやっぱり脆いんだよ」
「そういうことです。これではもう戦えませんね」
やれやれ、とアイラさんが肩を竦める。そうしながら、降参ですと両手を上げた。なんというか、微妙に不完全燃焼な気がしないでもない。
「でも、新たな何かを掴みはしたのでは?」
そう言ってアイラさんは俺とシトリーを見た。確かにシトリーはカウンターのコツを掴んだようだし、俺も普段とは違う戦い方をすることで新しい戦略バリエーションが増えた気がする。そういう意味ではまあ、修業の成果は出たといえるか。
「そういうこと。さ、じゃあ帰って何か美味しいものでも」
「待った」
横合いから声。そこにはマスターが物凄く苦い顔で俺達を見ていた。何かあったのだろうか、と問い掛けると、何かもなにも、と溜息を吐く。
「訓練場の惨状が……」
『あ』
そういえばさっきのシトリーの一撃で地面ボロボロになったんだったっけか。あ、ひょっとしてこれ直さないとマズいやつ?
そんなことを尋ねると、いやまあ許可を出したのはこっちだから不問にはするけれど、とマスターは再度溜息を吐く。
「さっきの観客に売ったコーヒーの売上、これで飛びそうだなぁ、と」
「さ、帰って美味しいものでも食べようか」
「そうしましょう」
リィンさんとアイラさんのその言葉に、そうだな、と俺も頷き、観客のスロウとアリア、そしてオルとアルも誘って町へと繰り出すことにした。