まあ何はともあれ。依頼としては自称伝説の茶葉とかいうのを隠れ潜む百花の棲み家だった場所から探し出してくればいいんだよな。付随してくるおまけが、まあ苗木とか取ってきてくれると尚良いってのと、魔物は不殺で、という話。
「とはいっても、実際どうなんだ?」
「何がですか?」
「隠れ潜む百花が不殺だったとして、他のモンスター連中は別に不殺をしてるわけでも何でもないんだろ?」
「まあ、そりゃ肉食のモンスター結構いますしね」
「俺達が不殺する意味なくないか?」
どうせ生態系として殺し殺されが存在しているなら、と思うわけだが。それはあくまで生態系としてであり、そこに干渉するならば、という考えもまあ出来るといえば出来る。
そもそもただ面倒という理由だけで不殺している隠れ潜む百花を慮っているのだろうかこれ、という疑問がやっぱり消えないわけで。何でかスロウ達は納得してたけど。
「棲み家を荒らされたくない、は別に共感できる範囲じゃない?」
「うぅん、まあ、確かに?」
それを言われると頷ける部分もある。ただでさえ棲み家の主が不在の中で探索するわけで、そこで更に荒らされればまあ普通はいい気分はしない。それは分かる。
問題は隠れ潜む百花はどれもこれもめんどぉ、で済ませそうなところなんだけど。
「だから暴れてもいいや、は違うくないです?」
「そりゃそうだ」
スロウに言われて反省する。相手がアレだから、とかそんなの理由にならないのは確かにその通りだ。申し訳ない、と頭を下げ、そういう理由なら仕方ないと思い直した。
「受けるの?」
お姉さんが尋ねてくる。元々アイラさん達の代わりに、みたいな話で回ってきたやつだし、ここで他の勇者級に回してくれは違うわけで。
そんなわけでマイア姉さんの言葉に頷き、依頼を受けると告げた。了解とお姉さんは手続きを済ませ、じゃあ詳しいことは向こうで尋ねてね、と述べる。詳しいことって、何か情報を聞けるのか? そんなことを尋ねると、お姉さんはそれは分からないと返してきた。なんだそりゃ。
「依頼者の窓口として向こうのギルドマスターが置かれてるみたいだけど」
それならアイラさん達にも会えそうだし、ついでに聞いてみるか。そんなことを思いながら、じゃあ早速とスロウに《テレポート》を出してもらう。
そうして帝国に向かうと、まずは話が聞けるかと帝都のギルド併設のカフェに顔を出した。つい最近にも来た場所なので、オルとアルにも軽い挨拶くらいになる。
そうしながらマスターに今回の依頼を尋ねると、とはいっても内容はほぼそこで完結していると述べられた。
「茶葉を用意する理由としては、今度帝国で教国王国の首脳を交えた会談が行われるらしくて、そのためのもてなしに必要だってことらしい」
ああ、その手のやつならまあ確かに伝説の茶葉なんて言われるのも必要だわな。一応納得できないこともない理由を聞き、俺は頷く。
そんな会話をしているタイミングで、アイラさんとリィンさんもこちらにやってきた。変な仕事を頼んでしまって申し訳ない、と二人揃って謝罪されたので、気にするなと返す。
「今回みたいな場合、むしろ俺達の方が適任だったりするしな」
「あはは。確かにそれはあるかもね」
俺の言葉にリィンさんが苦笑する。そんな感じの会話をしながら、じゃあ早速その茶葉を取りに向かおうという話になった。隠れ潜む百花の棲み家に向かうには、正攻法の道を進むか、帝都の居城にある隠し通路で一気にショートカットするか。前者は面倒な道のりであり、後者は居城に入れないので普通は使えない、という問題がある。
なのだが、俺達の場合は一度行ったことがあるのでスロウの《テレポート》という第三の手段でさくっと辿り着ける。
そういう意味でも、これは俺達が本当に適任だった可能性があるな。
「帝国が依頼主ですし、勇者級の身分であれば一応帝都の隠し通路も使えた可能性がありますが」
確実性を考えれば間違いなくこちらだろう。アイラさんの言葉にそんなことを返しながら、改めて隠れ潜む百花の棲み家へと移動した。
以前来た時と変わらず、リベルト皇子が用意したとされた建物は妖精姫との喧嘩で倒壊したまま。
「あれ?」
「ありますね、建物」
かと思われたが、ボロボロになった建物はいつの間にか修理され、元の状態に戻っていた。ということはひょっとして。建物に近付き、呼び鈴を押すと、中からパタパタと誰かがやってくる音がする。
いるのか? ひょっとして、隠れ潜む百花が。
「客人?」
「あれ? クーヤ?」
「姉様?」
そう思ったタイミングで扉が開く。出てきたのは隠れ潜む百花、ではなく、クーヤであった。いやまあここにいてもおかしくはない顔ではあるが。でも、どうしてここに?
そんなことを問い掛けると、別に難しいことではないとばかりに指を立てた。
「クーヤ。修復、見学。建物、一時、定住」
「立て直された家を棲み家にしてるんですか? なんでまた」
「修行、一環」
隠れ潜む百花の修行の一環として、この棲み家の管理を任されている。そういうことらしい。本当に修行かそれ。まあ妖精姫も何も言っていないということは一応修行にはなっているんだろう、きっと。
「ん? じゃあ妖精姫もひょっとして一緒にいるのか?」
「師匠、別宅。別居」
じゃあここで一人暮らししてるのか。成程、それは確かに修行になりそうだ。今はここで一人暮らししつつ妖精姫と隠れ潜む百花に修行をつけてもらっていると。なんというかメキメキ実力を上げそうだな。
「修行、成果。抜群」
ふふん、とそう言って胸を張るクーヤ。成程、そりゃ凄い。そんなことを思いながら、俺達は邪魔したな、と家を後にすることにした。
「いや、待った。クーヤがいるなら聞いてもいいでしょ?」
その直前にアリアがそんなことを述べる。聞くって何を、と一瞬思ったが、ああそうか茶葉の場所をクーヤに聞けばいいのか。
「なあクーヤ」
「?」
「この辺に伝説の茶葉ってのがあるらしいんだが、知らないか?」
「伝説? 茶葉?」
こてん、と首を傾げられた。どうやらあまりその辺のことは知らなさそうだな。そう思っていると、少し悩んだ後に家の奥へと戻っていった。そうした後、小さな箱を持ってきて、開く。
「茶葉。伝説、不確定」
「んー。クーヤ、これ、この辺で取れたやつなんですか?」
コクリと頷く。そうしながら、おおよその位置を教えてくれた。まあ確かにこの辺で取れる茶葉なら件の伝説の茶葉だろう、そう思いたくはあるが。
どうする、と皆に問い掛ける。まあとりあえず行ってみよう、という意見になった。
「姉様」
「どーしました?」
「周囲、魔物。不殺、徹底」
「あ、クーヤもその辺やってるんですね。だいじょーぶですよ、わたしたちもそれを聞いてます」
それならいいとクーヤは頷く。そうして、いってらっしゃいと俺達を送り出した。修行の途中なので同行は出来ないらしい。それならしょうがない、と俺達はそのまま教えてくれた場所に向かって森を歩く。
「思ったより静かだな」
わざわざ不殺を命じるくらいなのだから、何だかんだ襲い掛かってくる魔物は多いのではないかと気にしていたんだが。拍子抜けするくらいに静かだ。
いや、生き物の気配はするんだが、別に襲ってくる気配がないといったほうが正しいか。
「まあ、中級や上級が実力差を察して、とかって感じじゃないですかね」
「その辺だと逆に実力差を勘違いしてきたりしそうだけどな」
「そういう連中はもうとっくに叩きのめされたんでしょ」
「隠れ潜む百花さんとか、クーヤちゃんとかに、ってことだねぇ……」
だから、とシトリーが視線を横に向ける。現れたのはオルトロス、何でまたこんなところに、と考えはしたが、別段準魔王級でも魔王級でもない普通の上級モンスターなので思うのはそのくらいである。
「よそ者か、まだ叩きのめされてない勘違いモンスターか」
「どっちにしろ向こうは襲う気満々ですね」
「どうするのぉ……?」
「どうするもこうするも」
討伐は出来ないので、適当に叩きのめして追い払う。今回の俺達がやることはそれである。
ぶっ飛ばしたオルトロスが慌てて逃げていく。この調子でここにいる間は変な喧嘩を売るんじゃないぞ。そんなことを逃げるオルトロスに述べながら、さてじゃあ探索の続きをしようと俺達は歩き出した。
相変わらず何かに見られている感じはするが、襲ってくる様子はない。この調子なら不殺の縛りも別段気にするようなものでもない、という感じで終わりそうだ。
そんなことを思いながら歩みを進めていると、少し開けた場所に出る。目的地の茶葉のある場所はもう少し先だが、ここにもそれっぽい木は生えていた。
「一応これも採取しておきましょうか」
どれがその茶葉になるか、正直俺は分かっていない。その辺りはアリアとかスロウとかに頼るしかないので、俺は言われるがままに茶葉を採取する。
そうしている内に、ん、と周囲の異変に気が付いた。
「囲まれてるな」
「さっきの戦いを見ていたのに、襲い掛かってくるんですかね?」
「さっきの戦いを見たから、かもしれないわよ」
「不殺の相手なら、どうにかなるってことぉ……?」
がさり、とモンスターの群れがこちらにやって来る。その中にはさっきのオルトロスも含まれており、どうやら一度ぶっ飛ばしたくらいでは懲りないようだ。
基本的に中級、上級で構成されたモンスターの群れは、別段脅威になるような連中はいない。ぶっ殺す気で戦わないとどうにもならない、なんてこともないので、正直緊張感がまるでない。
いや、でもこの状況で誤って殺してしまうなんてことがないように気を付けなきゃいけないから逆に大変か。
「エミル」
「ん?」
「面倒だから一気に麻痺らせるわよ」
そんなことを思っていた矢先、アリアが羽を出現させるとぶわっと鱗粉をばら撒き始めた。その鱗粉を浴びたモンスター達が次々と倒れていく。そういえば最近は爆発や炎の渦にしか使ってなかったけど、鱗粉って状態異常もばら撒けるんだったな。
「コイナには敵わないけど、この程度の相手なら十分でしょ」
麻痺ったモンスター達を見下ろしながらアリアが笑う。その笑みを見た倒れているモンスターは、動かない体を必死で動かしながら逃げようとしていた。
その一方で、状態異常が効いていない連中も少しはいる。上級モンスターの一部と、そして。
「トリックモスとトラップレシア? こんなところにいるのか」
「まあ、いたところで所詮中級よ。適当にぶん殴って追い払えば問題ないわ」
見覚えのある姿が見えて思わず目を見開いてしまったが、まあ確かによくよく考えたら本来のトリックモスもトラップレシアも中級モンスターだ。横にいる魔王級になった面子ばっかり見ていたおかげで思わず身構えてしまったが、冷静に考えればなんてことないモンスターである。
がさり、とそんな連中の奥から一体のモンスターが顔を出した。花とカマキリの混ざったようなモンスターで、これまで出会ったことのない種類だ。
が、それ自体はよく知っている。名前は確かフラウマンティス。何で知っているかと言えば。
「隠れ潜む百花の種族、だったよな」
「そーいえば、一応属性頂点も種族があるんでしたね」
頂の古龍――竜のおっさんなんかはそのまんまドラゴンだし、剛腕の鍛冶師はケルベロス、迷宮の管理者はゴーレム、と属性頂点も一応モンスターとしての種族がある。だから、こうして属性頂点と同じ種族のモンスターと出会うのも別段不思議ではないのだが。
「魔王級、じゃないよな」
「どうなんだろぅ……」
隠れ潜む百花の棲み家で同じ種族と出会うっていう偶然もそうそうない気がするが、そもそも襲ってくるということはボコされてへし折れられていないということでもあって。
どこからかやって来た新参者、という可能性も全然あるのか。
「この森、そんなモンスターが集まってくるんですかね」
「属性頂点の棲み家なんだし、なにか変な要素があっても不思議じゃないだろ」
とにかく、目的地に向かうためには、眼の前の花カマキリとトリックモス、トラップレシアを殺さないように撃退しないといけないわけで。
「って、それ以外もいるな」
サラマンダーやオルトロスなどの上級モンスターも一部残っている。まずは面倒なそいつらから片付けるか。そんなことを思いながら、俺はモンスターの一体に一気に肉薄した。
「寝てろ!」
サラマンダーの顎をかち上げる。悪徳の剣は切れないようにしてあるので死にはしないだろうが、思い切り殴られたので間違いなく戦闘不能だろう。ぐらりと体を揺らすと、そのまま地面に倒れ伏した。一応息があることを確認しておく。よし、生きてる。
「きゃぁ、強い。素敵」
「うわ」
そんな俺に美少女が抱きついてくる。強い人って素敵、と笑みを浮かべながら、その美少女は俺に強く抱きついて離れない。むに、と胸の柔らかさを感じつつ、俺はその美少女を引き剥がそうと。
「強い人って美味しそう。いただきまぁす」
足元が流砂に代わる。おっと、とバランスを崩したタイミングと同時、アリジゴクがガバリと俺に襲い掛かってきた。そのまま顎で切断して捕食しようとする腹積もりなのだろう。美少女はニコニコと笑顔を浮かべたまま、アリジゴクの顎で俺と一緒に切断される。
が、しかし。
「あ、あれ……? 切れない」
「悪いなトラップレシア。流石にお前程度の攻撃は、この服で防げるんだよ」
ギチ、と俺が切断されずに顎が止まったことで、美少女の疑似餌も切断されずにそのままだ、驚愕の表情を浮かべている美少女の拘束を解くと、俺は足元のアリジゴクをゆっくりと見た。
「ひ、ひぃ……! ご、ごめんなさい、もうしないから、命だけは――」
「殺さないっての。ほれ、さっさとどっかいけ」
「殺さない、の……?」
「今回は不殺が約束だからな。分かったらさっさと」
「素敵!」
がばり、と再び疑似餌が抱きついてくる。強くて優しくて、とっても素敵。そんなことを言いながら、疑似餌の美少女の顔が俺にゆっくりと近付いてきて。
「――きゅぅ」
ごす、と言う音とともにシトリーにぶん殴られて沈黙した。本体のアリジゴクが気絶したことで、疑似餌の美少女も動かなくなる。そんな疑似餌を強引に引き剥がしたシトリーは、ジト目でこちらを見ていた。
「な、何かあったのか?」
「ワタシの――じゃない、スロウちゃんがいるのにそういうのはよくないよぉ……」
「いや、まあ、そう言われても」
ちらりとスロウを見る。またやってると言う目でこちらを見ていたスロウは、近くのトリックモスをぶん殴って気絶させるとこちらにやってきた。
「駄目ですよエミル」
「わ、悪い」
「シトリーちゃん以外のトラップレシアにデレデレしちゃ。そーゆーのはシトリーちゃんにやってあげないと」
「何の話だ何の! いや、というかお前それでいいのか!?」
「わたしが一番なら、って言ってるじゃないですか」
「俺はお前が一番ってだけでいいの!」
「……それはそれですっごく嬉しいんですけど」
「何でそこでジト目!?」
俺今極々普通のこと言わなかったっけ? まったくもう、とか言われる理由はどこにもなくない?