幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百九十一話

 まあ何にせよさっきので他のトラップレシアも引き下がった。敵わないと悟ったのかトリックモスも同様に逃げていく。そうして残っているのは気にしていない上級モンスターと、中心にいるフラウマンティスだ。

 隠れ潜む百花と同種族、というだけで警戒するのは少し違う気がしないでもないが、虫なのか植物なのか分からないタイプはトラップレシアみたいに面倒なタイプである可能性が高い。加えて高い耐久力や再生能力を持っていたりもして、正直厄介な相手だ。

 そして何より、多分ただの上級じゃない。改めて確認すると、少なくとも準魔王級はある。

 

「さて、どーやって撃退します?」

「不殺ってのが厄介ね」

「ある程度ダメージを与えて、撤退してもらうのがいいんじゃないかなぁ……」

 

 まあそれが一番だが、逆に言えばそれが出来れば苦労しない、でもある。

 こういう時に一番楽なのは会話で交渉できることだが、はてさて。

 

「なあ、別に俺達は危害を加えに来たわけじゃない。この先にあるっていう伝説の茶葉とかいう奴が欲しいだけなんだ」

 

 ピクリと花カマキリが反応した。今の言葉の何かが気になったのだとしたら、まあ間違いないく伝説の茶葉だろう。ということは、それを守っていると考えていいんだろうか。

 

「隠れ潜む百花やクーヤは知り合いなんだけど、それじゃあ駄目か?」

 

 一応もしかして、とそんなことを述べてみる。これで済むのなら、と思ってみたものの、それがどうしたとばかりにフラウマンティスは動かない。

 

「エミルエミル」

「ん?」

「そもそも本当にこの先に伝説の茶葉があるんですかね?」

「クーヤの持ってたあれがそうならって話だよな。でもアリアはあれが多分そうだって言っただろ」

 

 スロウに問い掛けられ、アリアに話を振る。そうね、と頷いたアリアであったが、しかし何か考え込む様子をとった。確かにあれは普通の茶葉と違っただろうけれども、でも、と首を傾げる。

 

「伝説って、あんなものなのかしら?」

「今更それ言うのかよ」

「いや、物としては多分最高のものだと思うのだけれども。加工方法とか、何か足らない気がしてるのよね」

「まあ、あれ普通に葉っぱでしたし」

 

 あれを淹れても紅茶にはならない。それは間違いないし、まあクーヤが紅茶とか手作りするような感じでもないからしょうがないとは思うけれども。

 そこまで考えて、じゃあ何でそんな物を持ってたんだ、という疑問にぶつかる。

 

「なんか適当に採取した中の一つって感じじゃないのか?」

「それもあるかもしれないですけど。一応妖精姫さんや隠れ潜む百花さんをもてなす用にお茶を用意したとかじゃないんですかね」

「修行で住んでるって、言ってたしねぇ……」

 

 スロウやシトリーの言葉に頷きながら、じゃあ一体何が問題なんだ、と問い掛けた。何でこの先にあるかどうか疑問に思ったんだよ。そう尋ねた。

 

「勘って言ったら怒りますか?」

「いや別に怒らないけど。まあつまりこの戦闘を終わらせても目標達成できない気がするってことだな」

「さっき採取したのもそうですけど、それっぽい茶葉とか、他にもお茶の材料になりそうなのは取れるだけ取ったほうがいーんじゃないかって思うんです」

 

 成程。で、お茶の材料になりそうなものって他に心当たりでもあるのか? そんな俺の疑問に、スロウは沈黙して首を傾げた。大分適当だな。

 

「あ、ひょっとして、そういうことぉ……」

 

 そんな中、シトリーだけがスロウのそれに別の反応をした。えっと、その、とどこか歯切れの悪そうに、俺をチラチラと見る。

 

「どうしたシトリー」

「エミルくんにならともかく、ワタシはちょっとぉ……」

「何の話!?」

「トラップレシアの葉っぱからお茶を作るって話ですね」

「出来るのか? そんなこと」

「できないことはないと思うけどぉ……多分、美味しくないよぉ……?」

 

 もじもじとしながらシトリーがそう述べる。まあそりゃ普通は考えないし、やろうとも思わないだろうから。そこまで考え、いや待てよ、と動きを止めた。伝説っていうくらいだし、実はモンスターの素材から作っていたとしても不思議では。

 

「いや、だったら最初からそのモンスターの素材って言うだろ」

 

 今回は採取依頼なんだから違う。そう述べると、確かにそうですね、と頷いた。シトリーが恥ずかしいだけの時間だったぞこれ。

 

「まあそれはそれとして。あのフラウマンティスの葉っぱも採取しときます?」

「まあ、どうせ撃退するんだから一応やっとくか」

 

 通してくれる気配もない。一戦交えないとどうにもならなそうなので、だったらいっそやってみるかと思うのもまあ、間違いではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 カマキリの鎌が大きく振り上げられる。隠れ潜む百花のそれを彷彿とさせるそれを見て、しかしやはり属性頂点との差を感じて俺は小さく溜息を吐いた。

 こいつが魔王級だとしても、隠れ潜む百花のそれと比べるとあまりにも弱い。基本不殺で手を抜いているであろう時のものと比べてもそう思うのだ。結局のところ俺達と属性頂点は隔絶した差があると思っていいだろう。

 まあそれはそれとして魔王級より一段上の大魔王がここにはいるわけだけど。それでもやっぱり属性頂点には敵わないのだから、向こうがどれだけ強いかは推して知るべし。

 まあ話が逸れたが、とりあえず目の前の花カマキリを種族が同じだからという理由で脅威に思う理由はない。

 

「それこそさっきのトリックモスやトラップレシアがそうだったしな」

「何の話よ」

「どうしたのぉ……?」

 

 アリアとシトリーを見る。別に大したことじゃないと返しながら、信頼している、と言葉を続けた。

 突然のそれに、二体は目をパチクリとさせる。何を急に、と俺に問い掛けた。

 

「いや、まあ急だったかもしれないけど、いつも思ってることだぞ」

「あんたってやつは、何でこういう時は真っ直ぐなのかしらね」

 

 やれやれ、とアリアが肩を竦める。そうしながら、じゃあ精々その信頼に応えてあげますか、と扇を広げた。

 瞬間、小さな爆発が起き、花カマキリの鎌が弾かれる。突然のそれにたたらを踏んだフラウマンティスは、何が起きたのかと扇を構えているアリアを睨んだ。

 ターゲットをアリアに変えた花カマキリは、その巨大な鎌をアリアに向かって振り下ろす。見た目通りのただの美少女ならば、その一撃で真っ二つにされるのであろうが、生憎と中身は魔王級の実力を持ったモンスター。そう簡単に倒される道理はない。

 まあその前にシトリーが割り込んで止めているんだけれども。

 

「ワタシも、頑張るよぉ……」

 

 そのまま受け止めた鎌を押し返す。バランスを崩して倒れた花カマキリを見て、俺はさてどうしたもんかと考え込んだ。この感じからすると魔王級はない、準魔王級止まりのモンスターだ。

 苦戦することはないだろうとは思うが、しかし不殺の縛りが面倒である。ただ討伐するだけとは違うのだ。

 

「死んじゃっても蘇生したら不殺、になりませんかね」

「ならんことはないとは思うが、依頼としては失敗だろうな」

「ですよねー、はぁ、めんどーです」

 

 そう、さっきも言ったが面倒である。なんでまたこんな面倒なことをあの面倒くさがりの隠れ潜む百花がやっているのか。後々面倒だから、と言っていたが、こっちのほうがよっぽど面倒じゃないのか。

 あれか。超越者だからこそ出来る面倒の対処法ってやつなのか。

 

「ちくしょう、面倒くせえ」

「エミル、さっきから面倒面倒って、隠れ潜む百花さんみたいなこと言ってますね」

「しょうがないだろ」

 

 面倒なものは面倒なんだから。ああもう、と叫びながら、俺はフラウマンティスに一気に肉薄した。横薙ぎに鎌を振り回してくるが、その程度の攻撃なら余裕で受け止められる。ギリギリと音を鳴らしながらそれを弾いた俺は、そのままカマキリ部分の顎をかち上げた。

 グラリとカマキリの体が揺れ、そしてゆっくりと倒れ伏す。よし、これで一丁上がり。そんなことを思っていた俺に、残っていた上級モンスターが襲い掛かってきた。いや、もう実力差は分かったんだからさっさと逃げろよ。そんなことを思いながらそいつらも切れ味を無くした悪徳の剣の攻撃で沈めていく。

 

「エミル!」

「ん? っとぉ!」

 

 スロウの声に反応してバックステップ。一瞬前までいたところに、巨大なカマキリの鎌が突き刺さっていた。視線を動かすと、さっき沈めたと思っていた花カマキリが再び起き上がりこちらを睨んでいる。

 

「やっぱり植物モンスターだけあって耐久力あるんだな」

「そうみたいね。どうする? あたしは丁度いい爆発なんてないわよ」

 

 牽制か、あるいは木っ端微塵にするか。そんな感じのアリアの言葉にじゃあしょうがないと返事をしながら、シトリーと共に前に出た。一応言っておくと、しょうがないから木っ端微塵にしてしまおう、という意味ではない。

 

「でも、ワタシのカウンターも多分手加減できないよぉ……?」

 

 相手の攻撃を剣で倍増して打ち返すそれは、まあ当たればただじゃ済まないだろう。そうなると普通の攻撃になるわけで、やっぱり決め手がない。

 そう考えると、丁度いい不殺の攻撃って案外少ないものなんだな。

 

「そーゆーことなら任せてもらいましょうか」

 

 そんなことを考えていると、スロウが俺達の前に出た。ふっふっふ、とか言いながら、自身の武器である手甲足甲を装備して仁王立ちしている。

 悪いこと言わないからお前は下がってろ。そう簡単にいかないだろうし。

 

「む。わたしだってちゃんとやれるんですよ?」

「いややれるのは分かってるけど。けど、本当にいけるのか?」

「ここんことみんなは修行修行で強くなってますけど、わたしは基本見学でしたしね。ここは一つ、わたしの修行相手になってもらおうじゃないですか」

 

 そう言って拳を握り構えるスロウ。相手は魔王級に届かない程度のモンスターなので、大魔王級のスロウがやられることはないだろうけど、それでも心配なものは心配である。

 そんな俺の心情を読んだのか、スロウはこちらに振り向くと笑みを浮かべた。大丈夫だ、と親指を立てた。

 

「さあ、行きますよ」

 

 とう、と言う声とともにスロウが花カマキリに突っ込んでいく。当然それに合わせるようにフラウマンティスは鎌を振り上げたが、スロウはそれを横に飛んで躱した。

 

「ふふん、このくらいはできるんですよ」

「前を見ろ前を!」

「へ? あぅ」

 

 そうして振り向いてドヤ顔をしていたスロウに二撃目が叩き込まれる。まあカマキリの鎌は二本あるので、一撃目を避けても二撃目があるのは当然というかなんというか。

 ともあれ。花カマキリの一撃でぶっ飛ばされたスロウは、そのまま地面をゴロゴロと転がった。大丈夫か? やっぱり俺達でなんとかしようか?

 

「だいじょーぶですよ! むー、馬鹿にしないでください」

 

 がばりと起き上がるスロウ。まあ見た感じダメージはないようなので一安心だが、しかし自分の彼女がぶっ飛ばされるのを見ているのはあまりいいものではない。

 が、スロウはそれこそ意固地になって自分一人でやると息巻いている。こうなると俺が説得しても中々言うこと聞いてくれないので面倒くさい。

 

「あ、今エミルわたしのことめんどくさい女だって思ったでしょ!」

「そこまでは思ってない」

「ちょっとはめんどくさいって思ったってことですね!」

「そりゃな」

「素直に言えばいいってもんじゃないですよ、もー!」

 

 もう知らん、とスロウはそっぽを向くと、再びフラウマンティスに突っ込んでいった。流石にさっきの二の舞になることはなく、攻撃を躱していはいるが、肝心の攻撃に辿り着いていない。

 てい、と鎌を殴り飛ばしてはいるが、その程度では向こうにダメージを与えられていない様子である。

 

「大丈夫か?」

「だいじょーぶだって言ってるじゃないですか!」

「大丈夫に見えないから言ってんだよ」

「そりゃ、そうかもしれませんけど」

 

 むー、とむくれたスロウも可愛いんだけれども、今はそういう場合ではない。悪いこと言わないから素直に俺達に任せとけ。そうスロウに述べると、しかしスロウは首を横に振った。そう言われると、尚更頑張らなきゃいけない、と拳を握った。

 

「おいスロウ」

「いいじゃないの、やらせてあげなさいな」

「うんうんうん……」

 

 俺の言葉を遮るようにアリアとシトリーが声を掛ける。いやだって、このままじゃジリ貧だぞ。そんなことを思いはしたし実際口にしたが、アリアもシトリーもまあまあと俺を止めに掛かる。

 

「スロウはスロウなりに考えてるのよ」

「修行って言ってたし、ワタシたちは見てようよぉ……」

 

 そう二体に言われれば、俺としても引き下がざるを得ないわけで。分かった分かった、と頷いた俺は、それなら、とスロウに声を掛けた。頑張れ、と声を掛けた。

 

「えっへへ。とーぜんですよ」

 

 ぐ、と腰を落としたスロウは、相手の鎌に拳を叩きつける。その衝撃でバランスを崩した花カマキリに向かい。思い切り跳び上がりアッパーカットを叩き込んだ。

 ヨロヨロとよろめくフラウマンティスだが、しかしそれだけでは倒されない。勿論スロウも承知の上なのか、すぐさま跳び上がって今度は飛び蹴りを花カマキリの顔面にぶち込む。

 ぐりん、と花カマキリの顔が揺れ、がくりと体が崩折れる。それでもまだ戦意があるのか、片方の鎌で体を支えたフラウマンティスは、もう片方の鎌でスロウに襲い掛かった。

 

「これで、終わりです!」

 

 それをがしりと掴んだスロウは、自身に掛けた支援の力を存分に使い、そのまま花カマキリを持ち上げた。え? そんなこと出来るの?

 俺も思わず目を見開いたくらいである。持ち上げられた花カマキリ自体はもっと驚愕していることであろう。

 

「どっせい!」

 

 そしてスロウはそのままぶん投げた。ひっくり返ったフラウマンティスは、今度こそ目を回して倒れたらしい。ぐだりと手足を投げ出しままピクピクとしている。

 そんな相手を見下ろしたスロウは、パンパンと手を払いながらどんなもんだと笑みを浮かべていた。

 

「どーですか。わたしだってやればできるんですからね」

「ああ、そうだな」

「惚れ直しました?」

「惚れ直した」

「ぎゅってしてくれても、いーんですよ」

 

 じゃあ遠慮なく、とスロウを抱きしめる。えへへ、と笑みを浮かべたままのスロウは俺を抱きしめかえしてくるのを感じながら、俺はスロウを褒め称えた。

 

「羨ましい?」

「ふぇ……? べ、別にそんなことはないよぉ……?」

「あらそう。……じゃあ、あたしも今度あいつに抱きしめてもらおうかしら」

「えぇ……!? じゃ、じゃあワタシも、エミルくんにぃ……」

「ほらやっぱり」

 

 そんなことをしている横で、アリアとシトリーが何かを話しているのがボソボソと聞こえてくる。何の話をしているのかはよく分からんが、何か不穏な会話じゃないだろうな。

 

「エミル」

「ん?」

「エミルの一番はわたしですけど、ちゃんとアリアちゃんやシトリーちゃんのことも考えてあげてくださいね」

「だからそれさっきも聞いたぞ」

「わたしは真面目に言ってますよ」

「そう言われてもな……」

 

 




天丼
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