幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第百九十七話

 そういうわけで、暗殺者を捕まえました。そんな報告をすると、第三王子も側近の人も流石だと笑みを浮かべた。とりあえず王宮の床の修理費はそっち持ちで、という話も、問題ないと返してくれる。

 そのまま暗殺者の尋問にはいるわけだが、まあ当然のように口を割らない。この間の襲撃者よりは厄介だ、そんなことを思っていると片方は口内に仕込んでいたらしい毒で自害をした。やっぱりそういう感じなんだな。

 

「スロウ」

「はいはい」

 

 自害した暗殺者を蘇生させる。確かに死んだはずなのに、と何が起こったのか分からない顔をしている暗殺者に向かい、こうこうこういうわけで、自害したいならすればいいけど何度でも蘇らせられるぞ、と告げた。

 

「何度も蘇生出来る、ということは。言っている意味も分かるな?」

 

 そこに第三王子が追加で告げる。いや、流石に俺達はやらないよ? 拷問して殺して蘇生させてを続けるとかそういうのは。

 暗殺者も察したのだろう。このままでは永遠に死なないが死ぬことを繰り返す羽目になる。一度の死ならば耐えられるが、何十回、何百回の死は耐えられない。観念したように項垂れた暗殺者は、自身を雇った連中のことを語り出した。

 

「聖女スロウのおかげで難なく情報も手に入った。礼を言うぞ」

「別に一回生き返らせただけですけどね」

「いやだが、一度死ぬというのは中々こう、きついものがあるからな」

 

 体験者である側近の人がどこか遠くを見る目で述べる。二回目からは死ぬ前に解毒に変えた理由がその言葉に詰まっているようであった。

 ともあれ。これでとりあえず今回の依頼は終わりかな。そんなことを思って口にしたが、第三王子は難しい顔のままだ。

 

「さて、どうだろうな。確かに襲撃者の時よりは確信に迫ってきたかもしれんが、果たして」

「でも黒幕っぽい身分の人の名前でしたよね? まだ違うんです?」

「暗殺者の証言だけでは証拠が薄い。もう少し何かがあれば」

「何か、ねぇ」

 

 それこそ第三王子の権限とかで無理矢理捜査して証拠を見付けるとかじゃ駄目なのか。そんなことを思ったし提案もしたが、第三王子は苦い顔だ。その辺の詳しいことは分からないが、王太子や第二王子派閥の誰かだったりするのかな、となんとなく察する。

 

「いや、逆だ。こちらの、第三王子派閥の貴族だよ」

「え……? それってぇ……」

「仲間割れしてたんですか?」

「まあ、派閥替えでも企んでいたんでしょうね。そのためには余計な力をつけてもらっては困る」

「貴族ってのは面倒だな」

「まったくだ」

 

 ぽつりと呟いた俺の感想に第三王子が肩を竦める。まあでもその辺モンスターの縄張り争いとかなら無いことはないですしね、とスロウはフォローなのかそうでないのか分からない言葉を紡いでいた。

 第三王子はそんなスロウのそれに大爆笑をする。

 

「そうだな。所詮貴族の派閥なんぞモンスターの縄張り争いと変わらんな」

「ジェローム様……」

「いや何、案外真理かもしれんぞ。そう考えれば、ほれ、モンスターらしく裏切り者を轢き潰しても構わんということになるだろう」

 

 そう言うと、側近の人に目を向けた。どうやらさっき言っていたように強制捜査に踏み出すらしい。はぁ、と溜息を吐いた側近の人は、では手続きを行いましょうと眼鏡のズレを直す。

 そんなわけで翌日。普段やっている諸々の仕事を一旦置いておき、俺達は犯人だと思われる貴族のいる屋敷へと乗り込んでいた。暗殺者の襲撃が失敗したことが発覚すると、それらの証拠をなくされる可能性もある。スロウの《テレポート》で最寄りの町に即座に移動し、出来るだけ手早く目的地に着くよう急いだ。

 

「なんというか。聖女スロウは何が出来ないのだ?」

 

 俺達も大分麻痺しているスロウの何でも出来るっぷりに驚嘆している第三王子達を流しながら、俺達はそのまま貴族の屋敷に押し入った。朝も早くから何の連絡もせずにやってきた第三王子に当然貴族の家はパニックになる。

 正式な捜査の手続きも貰っている、と側近の人に書類を渡された貴族は顔を青くしていたが、しかし何も見付からないと確信しているかのような表情でもあった。

 流石にあの状態で暗殺者が嘘を言うとも思えないので間違いなく犯人はこの貴族なのだが、そう簡単に証拠が見付かるだろうか。

 

「んー。わたしたちも手伝います?」

「とはいっても、何を探せばいいのやら」

「隠し通路とか、隠し部屋とかですかね」

 

 そう言いながらシュルシュルと糸を吐くスロウ。ダンジョンのトラップを探すように糸を屋敷に張り巡らせると、ふむふむ、とそれで得た結果に頷いていた。さっきの第三王子の言葉じゃないけど、本当に何でも出来るなお前。

 

「そーでもないですよ。たまたまわたしの出来ることが噛み合ってるだけですし」

 

 そんなことを言いつつ、まあなら褒めてください、とスロウは俺に抱きついてきた。まったくしょうがないな、と思いながらも、スロウを抱きしめかえし頭を撫でる。それだけだと足りなさそうだったので、俺はそのままスロウの唇に俺の唇をそっと近付け。

 

「んぅ、エミルっ」

 

 果たしてこれは褒めているのだろうか。そんなことを思いながらスロウとのキスを終えた俺は、ぺろりと自身の唇を舐めているスロウがちょっぴりエロいなとか余計なことを考えつつ探索の結果を尋ねた。それで結局何かあったのか、と。

 

「隠し通路みたいなのとか隠し部屋とかは何個か見付けましたけど」

「あるのかよ」

「でもこれ、今回の話とは関係ないやつですね。どっちかってーと」

 

 くい、と糸を手繰り寄せる。これだな、と頷いたスロウがずんずんと屋敷を歩き回り、第三王子と側近の人、そして何人かの調査員が探している中一つの部屋に迷わず進んだ。

 そうして部屋に立ち入り、そしてこれこれ、と当たり前のように隠し棚を開け放ったスロウは、そこに仕舞ってあった書類をペラペラと捲った。

 

「ありましたよ。側近の人をぶっ殺すことで別の派閥に行くための契約みたいなことが書いてある書類」

「何だと!?」

 

 スロウの声を聞いて第三王子と側近の人がやってくる。そのまま二人がスロウからもらった書類によると。

 フォーマルハウト公爵家が関わることで第三王子の発言力が増してしまうことを危惧した第二王子派のとある貴族と、フォーマルハウトによって第三王子派内での自身の立場が危うくなることを不満に思っていた貴族とが共謀した、と。

 

「影響力の心配だけなら、側近の人をぶち殺せば解決なんじゃないです?」

 

 その辺りは契約書にも書いてあるように、後々移行する第二王子派閥のために第三王子の力を削いでおきたいって感じなんだろう。そんなわけで執拗に狙っていたのは側近の人の方だったわけだ。第二王子派の貴族の方は第三王子がいなくなってもそれはそれで、くらいの感じだったのかもしれないけど。

 暗殺者は先に護衛から始末してそれからターゲットを仕留める予定だったんだろうな。勇者級嘗めんな。

 まあそれはそれとして、あっさりと隠し棚の書類を見付けられた貴族は顔色を真っ白にして立ち竦んでいた。まあこうなったらもうおしまいだろうな。今ここで第三王子と側近を始末したところで、調査の手続きが終わっている以上どうしようもない。

 いや、違うか。ここで全員始末して、調査途中に事故にあったとかでっちあげるなりなんなりして押収した証拠を破棄すればまだ芽があるか。

 

「とはいっても、あの書類を破棄したら向こうとの繋がりも無くなって切られる可能性もあるでしょうし、もう一回隠すんじゃないかしら」

 

 成程な。そんなことを俺達が話している間に、貴族はもはやこれまでと人を呼んでいた。雇った兵士にしちゃガラの悪そうな連中だが、冒険者くずれとか、冒険者にならずにそういう仕事を受けてきた連中とか、まあそういった奴らで構成されている集まりだろう。暗殺者も混じっているかもしれない。

 貴族はそんな連中に向かって叫んだ。こいつらを始末できたら報酬は三倍だ、そんなことを聞いた雇われどものは色めき立つ。戦えるとは思えない第三王子や側近、そして調査員。それを護衛するのは四人で、しかもまだ子供と言っていい年齢の男女。

 そんな判断でもしたんだろう。楽な仕事だとばかりに突っ込んできた雇われは。

 

「おっと」

「やらせないよぉ……」

「こいつらならわたしもやれますよ!」

 

 俺、シトリー、そしてスロウの攻撃であっさりとぶっ飛ばされた。アリアはそんな俺達の様子を見て、小さく溜息を吐くと第三王子達の護衛に回る。

 さて、と剣を構え直した俺は、しかし見る限り大したことのない連中を見て息を吐いた。ぶっちゃけ弱い。この間の襲撃者とどっこいどっこいの強さしか持っていないので、正直俺達で戦う理由すらない。俺一人でも十分間に合う。

 実際スロウが滅茶苦茶楽しそうに雇われ連中をぶっ飛ばしているしな。シトリーも別段慌てることなく処理をしている。そんなことを思いながら襲い掛かってきた奴を蹴り飛ばして昏倒させた。

 

「第三王子殿下」

「ん? ああ、どうしたアリア嬢」

「ある程度で止めましょうか? それとも」

 

 アリアの言葉に第三王子は少し考え込む。が、まあここまで来ていると止める必要もないだろうと肩を竦めた。全滅させてから連行させるほうが手っ取り早い。そういうわけである。

 一方の貴族の方は雇った連中が十把一絡げに倒されていくのをただただ呆然と見ていく羽目になった。数だけ揃えてもこういうのはどうしようもないと思う。

 こうなったら、と貴族が部下に何かを命じていた。しかし、と渋る部下に、どのみちこのままではおしまいだと貴族は叫ぶ。その剣幕に押された部下は、分かりましたと何かの装置を起動させた。

 

「ん?」

 

 屋敷の何処かが振動している。一体全体何が起きたのか、と怪訝な表情を浮かべた俺に、スロウがあっけらかんと言い放った。

 

「あ、多分隠し部屋のモンスターを解放しましたね」

「どういうことだ?」

「多分何かの実験とか飼い慣らすとか、そーゆー方向で集めてたんじゃないですかね」

「強さは?」

「別にふつーの連中です」

 

 じゃあいいか。そんなことを思いながら、問答無用で襲い掛かってくるモンスターを斬り伏せた。

 いや、待った。これ本当に飼い慣らしてあるのか? ぱっと見た限りでは野生と変らないぞ。

 

「屋敷の外に出たらまずいな」

「そのために出したのかなぁ……」

「多分何も考えずにでしょうけど、確かに厄介ね」

 

 雇われ連中や貴族やその部下もお構いなしにモンスターは襲い掛かる。ぎゃぁ、とモンスターの牙で噛み殺される連中を横目に逃げようとする貴族を見て、俺は逃がすかと距離を詰めた。

 が、その眼前に剣が振り抜かれる。おっと、と躱すと、一人の男がこちらに向けて剣を構えるところであった。どうやら雇われの中でも一番かそこらに強い。

 しゃがむ。俺の首のあった場所に剣が突き出されていた。背後を見ると、昨日の暗殺者と同じ出で立ちをした人影が一つ。どうやらこの二人は俺を始末しようと手を組んでいるらしい。

 

「スロウ、アリア、シトリー」

「はい」

「なによ」

「どうしたのぉ……?」

「モンスターが外に出ないように片付けといてくれ」

「りょーかいです。エミルはそこのをぶち殺すんですか?」

「殺しはしないよ」

 

 スロウの言葉にそう返した俺を雇われの男も暗殺者もギロリと睨む。それはつまり殺さずとも勝てると宣言したも同義であり、まあつまりお前らなど相手にならないと言っているも同然だからだ。

 同然っていうか思い切りそう言ったんだけど。

 

「っと」

 

 男の剣を躱す。間髪いれずに迫る暗殺者の攻撃も弾きながら、だから言っただろと俺は口角を上げた。確かにこいつらは強い。冒険者の基準で言うならば上級は確実にあるだろう。けど、勇者級には及ばない。

 モンスターでいっても精々準魔王級だ。魔王級二体ならばともかく、上級の上澄みか準魔王級ならそこまでじゃない。

 何より、集中も魔法剣も使わずに対抗できている時点でだ。手強いことは手強いけど、まあそのくらいってことである。

 あ、ちょっと待った。貴族が逃げる。あの契約書がある限り逃げたところで罪からは逃れられないだろうけど、それでも取り逃すのは後々面倒なことになる。

 

「邪魔だ、どいてろ!」

 

 雇われの男を蹴り飛ばし、俺は逃げる貴族に追い付いた。ごす、と剣の柄を腹にねじ込み、そのまま切れ味なしの悪徳の剣を振り下ろして意識を断った。ただの貴族にこれはひょっとしたら死んだかもしれないけど、まあ多分生きているだろう、きっと。

 

「よし。じゃあ続きと行くか」

 

 体勢を立て直した雇われの男と暗殺者を見やる。が、雇われ男も暗殺者も動かなくなった貴族を一瞥すると即座に離脱を開始した。あ、おい待て。逃げるな。

 

「詰めが甘いわよ」

 

 ぶわ、と鱗粉が飛ぶ。離脱せんと距離を取っていた雇われも暗殺者も、その鱗粉を浴びると途端に動きが鈍くなった。

 

「悪い、アリア。助かった」

「まったく、油断しちゃ駄目よ。特にこっちの暗殺者なんか向こうとも繋がってる可能性あるんだから」

「面目ない」

 

 ガクリと項垂れる。そんな俺を見て楽しそうに笑ったアリアは、この手の状態異常耐性を持っていないのね、と動けなくなった暗殺者に視線を移動させた。いや、そうは言っても一応お前魔王級なんだから、生半可な耐性はぶち抜くんだってば。こないだもそうだっただろ。

 

「そうだったかしら?」

「そうだよ」

 

 トリックモスやトラップレシアに効いてなかった気もするけど、とアリアが述べるが、大半の中級上級モンスターに効いてる時点で大概だろと返す。そんなことを言いながら、さて、と俺も雇われの男と暗殺者を見た。どうやら観念したようで、暴れることもなくその場で静かに腰を下ろしている。

 とりあえずこっちはよしとして。モンスターの方を思い出した俺は、視線を二人から周囲に向けた。

 

「片付けましたよ」

「逃さなかったよぉ……」

 

 スロウとシトリーがそんなことを述べる。まあアリアがこっちに来た時点でそれもそうかと胸を撫で下ろした。

 ともあれ。今回の捕物は特に被害もなく終了したってことでいいのかな。

 

「あ、モンスターに殺されたごろつきじゃない屋敷の人は蘇生しときますね」

 

 はいはい、と片手間に蘇生するスロウを見て、本当にこいつ何でも出来るなと俺は小さく溜息を吐いた。

 

 

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