一件落着。落着か? まあともあれこれで暗殺も一旦は収まるだろう。見せしめとばかりに第三王子派の貴族と第二王子派の貴族が処罰された上に、第二王子もこれ以上の狼藉は許さないという旨の宣言をした。それに王太子も乗っかるように声明を出し、一応表向きに動く理由を失った。
とはいえ、この一件で第三王子はフォーマルハウトとの繋がりを強くし、またベルンシュタインとも繋がりを作ろうと画策しているという噂も立っている。国政に食い込み王位に手をかけようとしているのではと言われていたりもする。
当の第三王子はそんな噂を否定。そもそも既に婚約者との婚姻も間近に迫っているので、王位継承から離れることが決まっていると鼻で笑った。
「まあ、そんなところだね」
「ええ」
そう言ってお茶を飲んでいるのは第四王子とアンゼリカ嬢である。兄上も中々面倒な位置にいるからね。そんなことを言いながら第四王子は笑みを浮かべた。
「その点僕は気楽な第四王子。入り婿も決定しているし、その辺りから離れているおかげでのんびりやれているよ」
本当かよ、と俺は思う。だったら今回みたいにわざわざ第三王子の手助けしようとは思わないだろうに。そんな意味合いも込めて第四王子を見ると、それはどうかなとばかりに流された。
「とゆーか。こんな風にお茶会を開いている時点でその言い訳は苦しくないです?」
「おや、そうかい? 僕はただ、兄上のことを守ってくれた勇者級にお礼を言いたくて、アンゼリカに頼んで用意してもらっただけだよ」
「どーだか」
そう言いながらお茶を飲むスロウ。スロウの中ではそこまで第四王子の好感度は高くないらしい。友達であるアンゼリカ嬢の婚約者、位の立ち位置だな。
まあでも以前署名もくれたし、俺としてはそこまで低くもない。
「しかし第四王子殿下。あれは事態の解決と見てよろしかったのですか?」
アリアが第四王子に問い掛ける。まあ一応暗殺を企てた犯人の大本は捕まえたけれども、これから先にもそういう輩が出てこないとは限らない。なんてことは言ったらキリがないから仕方がないのかもしれないけれど。
「その辺りは王太子、第二王子が声明を出したからね。すぐさまやらかすような輩ははっきり言って要らない人材だし、皆そこまで馬鹿ではないはずさ」
「それに。今回の件で分家とは言えフォーマルハウト公爵家に弓を引いたのです。こちらとしてもある程度は動きますもの」
アンゼリカ嬢が第四王子の言葉に続けるようにそう述べる。まあ、言われてみれば王国の片翼に喧嘩売ったんだし、そうもなるか。
そこまで考えて、ひょっとしてわざとそういう状況作ってたんじゃないだろうな、と疑問をもたげた。そしてそうなると、第四王子の国政に離れているという言葉も随分と怪しく思えてくる。
アンゼリカ嬢を見る。クスクスと笑いながら、そっと紅茶に口を付けていた。そのへんも踏まえて傀儡人形の修行の賜物ってやつか。何かちょっと使われた感があるから面白くないけど。
「誤解を招いたのならば申し訳ありません。ですが、まあ、わたくしとしても出来ることならば身近な人が死んでしまうのを黙って見ているわけにもいかず」
「まあ、そりゃなぁ」
分家ってことは多少なりとも交流があったんだろう。あの時出会った側近の人の弟だか何だかはともかく、あの側近の人自体はちゃんとした人だったし、それが暗殺されそうとなれば対策を練るのもまあ分からんでもない。
「暗殺されそうになった理由は第三王子さんのところに復帰したからですよね? で、なんでそうなったかってゆーとエミルが最初の側近の人達をぶっ飛ばしたから」
じとー、とスロウがアンゼリカ嬢を睨む。余計なことしなければ問題なかったくないですか、とアンゼリカ嬢に尋ねたスロウだったが、しかしアンゼリカ嬢は首を横に振った。
「問題自体は自領に籠もっていてもありましたわ。そもそも自領から出られない、ということ自体が既に問題でしたもの」
「こちらとしても使える人材が変に邪魔されて使えないということは損失だったからね。その辺りの解決もしなければならなかった」
かといってじゃあどういう風に問題解決出来る人材を送り込むかが問題にあるわけだけど。そこまで聞いてああはいはいそういうことねと俺は溜息を吐いた。自然と第三王子の周囲のポンコツを排除しつつ問題解決出来る人材、まあ要は俺達を第三王子の下に送り込む方法があれだったわけだ。
じゃあ最初に第三王子が怒っていたのも演技だったってことか?
「いや、兄上はちゃんと怒っていたよ。途中でこちらの目論見に気付いたみたいだけれども」
まあつまり第三王子が言い出さなかったら、第四王子が依頼として俺達を向こうに送り込む算段だったのだろう。
……いや、別にそんな手間かけ無くても最初から普通に依頼すればよかったんじゃないのか?
「最初から依頼で護衛が来ていると向こうに警戒される可能性があったからね。あの流れでやって来た臨時の冒険者がとびきりの勇者級だとは普通思わないだろう?」
勇者級というだけで基本みんなとびきりだと思うんだけどな。そんなことを思ったし言ったが、意外と勇者級を甘く見ている連中も貴族の中にはいるのさ、と第四王子が笑った。
「特にエミル君のパーティーはね。聖女の方には目を向けるが、残りは聖女のお付だとでも思っている輩がいる」
「ムカつきますね」
「そういう連中を殴り飛ばした、と考えればどうだい? 少しは溜飲が下がったかな?」
「いいように使われたのは変わらないんで下がりませんよ」
それは申し訳ない、と第四王子が頭を下げる。ふん、と鼻を鳴らしたスロウは、許しはしないけれどもういいですと続けた。
「アンゼリカさん」
「はい」
「貸し一つですよ」
「ええ。とびきりのお返しをしますわ」
そんなわけでお茶会はおしまい。それとは別に第三王子からもお礼を言われ、依頼料も貰い過ぎなくらい手に入って。
再び日常に戻ってきた俺達は、さてどうしたもんかとだらけていた。
「まあ王宮で働いてきたんなら、しばらくはそうやってだらけるのもいいかもね」
お姉さんはそんな俺達を見て笑う。幸い、というか基本的に依頼は無し。そもそも勇者級に依頼が飛び込んでくる時は何かとんでもないことがある時だ。
そういう意味ではあの王宮のあれこれはとんでもないことだったので勇者級の依頼と言ってもまあ通じないこともないか。そんなことを思いながら、芋虫とアリジゴクをそれぞれ撫でた。
「えへへ」
「ふにゅぅ……」
椅子の上でだらけているスロウとシトリーがそんな声を漏らす。毎度思うがこの扱いって彼女というよりペットな気がしないでもないが、いいんだろうか。
「私は別にいーですよ」
「ワタシも、いいよぉ……」
だから撫でろ、と体を擦り寄せてくる芋虫とアリジゴクを再度撫でながら、まあそれならいいかと俺は息を吐いた。
そんな俺達をやれやれと見やるアリア。こいつはやっぱり俺達がだらけている時でもお姉さんの手伝いをしている。真面目だな、と思わないでもないが、しかし休めているのかと不安にもなる。
「それは私も思うんだよね。ねえアリアちゃん、アリアちゃんもそこのエミル君達みたいにちょっとは休んでだらけてもいいんだよ?」
「ありがとうございます、マイアさん。でもあたしはアリアンロッテを目指す身、だらけた姿を見せるなんて論外ですわ」
そう言って作業に戻る。いや本当にその辺徹底してるなとは思うが、疲れないんだろうか。弱音吐くのもアリアンロッテらしくないとか言い出しかねんが。
「別に疲れたら休むわよ。あんた達みたいな風には休まないってだけ。無理して体調を崩すなんてのはそれこそアリアンロッテらしくないもの」
「なら、いいんだけど」
だとしても、と思わなくもない。いや、逆か。俺達がむしろだらけ過ぎなんじゃないか?
「エミルエミル、だいじょーぶですよ。アリアちゃんが働きすぎなだけです」
「そ、そうか?」
「まあ、もうちょっと休んでもいいかなとは思うよぉ……」
芋虫の上半身を持ち上げ多足をワシワシさせながらスロウがそんなこと述べ、コテンとアリジゴクの体をひっくり返しながらシトリーがそう付け加える。勿論アリアはそんな二体の言葉を聞いても大丈夫だと言い放った。
「んー」
「なによ」
「これはちょっと荒療治が必要ですよね」
そう言ってスロウがこちらを見る。何だ、俺が何かするのか? そんなことを思いながら尋ねると、お願いしてもいいですか、と聞いてきた。いやまあ、そんなに無茶なことじゃないなら別に。
「じゃあだいじょーぶですね」
「何させる気だ」
「アリアちゃんとデートしてきてください」
「はぁ?」
いきなり何を言い出したんだこの芋虫は。そんなことを思いながら横を見たが、スロウはふふんとドヤ顔である。いや何がどうなってそうなったんだよ。
「アリアちゃんを仕事から遠ざけようって話ですよね?」
「そう、だっけか」
「でもただ休ませるとかアリアちゃんは絶対にうんって言わないじゃないですか」
「言わないな」
「だからエミルにアリアちゃん連れ回してもらおうかと」
「無理矢理過ぎないか? というかそれならお前達でもいいだろ、というかスロウのほうが《テレポート》使えるんだしアリア連れて遊びに行けよ」
「む。確かにそれを言われると痛いですね」
むむむ、と体を揺らす芋虫。こいつその辺考えてなかったんじゃないだろうな。そう追加で尋ねると、ぶっちゃけあんまり考えてなかったとの返事が来た。おい。
「パッと思い付いたのがエミルとデートさせようでしたし」
「思い付くアイデアが雑で適当でどうしようもないな」
「しょーがないじゃないですか。わたしにとって一番って考えたらやっぱりエミルですし」
「そういうのとは違うだろ。ったく、シトリーも何か言ってやってくれよ」
「ふぇ……? ワタシも一番だと、エミルくんかなぁって思ってたんだよぉ……」
ぴょこぴょこと上半身を動かしながらそう述べるアリジゴクを見て、駄目だこいつらと頭を抱えた。
まあともあれ、アリアを休ませる作戦は暗礁に乗り上げた。そんなこと思っていたらじゃあ俺もアイデアを出せ、と言われたので、さっき言ったようにスロウやシトリーと三体で遊びに行くでも全然いいじゃないかと述べる。
「あんたがいないとこの娘達の暴走誰が止めるのよ」
「え? そりゃ……アリア、だな」
いやでも別にスロウだってそうそう暴走することもないだろう。人間社会に紛れ込んで二年近く経つんだから。
モンスターとしては、である。聖女としての暴走はここんとこ悪化してるような気がしないでもない。まあその辺は俺がスロウに頼り切りな部分も大きいんだろうな。
「どっちにしろ、引率があたしだけだと休むっていう意味では不適格ね」
「何かわたし馬鹿にされてませんか?」
「気のせいだと、思うよぉ……?」
ぐぅ。じゃあいっそみんなで遊びに行くか。そんなことを思いはしたが、それだと休むの意味合いが変わってきそうな気もする。そもそも遊ぶってどこでだ。ちょっと買い物したりとか観光したりとか、そういう感じをするにはこの面子だと多い感じもするな。
そう考えると、そもそも遊びに行くという選択肢自体が駄目だったんじゃないかと思い始めてきた。スロウがデートがどうとか言いだしたからだな。
「あら、エミルは嫌だったの?」
「何がだ」
「あたしとデート」
そう言ってアリアが笑う。こいつ完全に俺をからかうモードに入ってるな。そんなことを思いながら溜息を吐いた俺は、別にそういうわけじゃない、と返すことにした。
「じゃあいーじゃないですか」
それに反応したのはアリアではなくスロウである。何でお前が乗り気なんだよ。いや言い出したのはスロウだから乗り気なのはそうかもしれないが。
だとしても、俺お前の彼氏だよな?
「そーですよ、わたしの一番大好きな相手です」
「俺が他の誰かとデートしてもいいのかよ」
「アリアちゃんですし」
曇りなき表情でそう答えた。これがもっとぽっと出の人とかなら嫌ですけど、とそう付け加えた。
まあ、そうか。そうじゃなきゃシトリーも彼女にさせようとか考えないもんな。はぁ、と溜息を吐くと、じゃあ今度はシトリー、と横のアリジゴクに声を掛けた。
「どうしたのぉ……?」
「お前はどうなんだ? スロウ以外の誰かが俺とデートすることについて」
「え……? でも、アリアちゃんだしぃ……?」
どうやらその辺スロウと同じらしい。まあ言ってたもんな、複数のメスがオスを共有するのはモンスターじゃ珍しくないって。今回の場合よく知った相手だから余計にってところか。
「……そもそも、アリアはどうなんだよ」
「何が?」
「俺と、その、デートするっていうことについて」
「別に構わないわよ。休めって言われたし、丁度いいんじゃないかしら」
あっけらかんとそう言われる。まあそうか、こいつはこういう奴だったな。何度目かの溜息を吐きながら、そういうことならじゃあ、と諦めたように言葉を紡いだ。別に俺もアリアのリフレッシュに付き合うくらい何の問題もない。
「じゃあ、どこに行くの?」
「そうだな。スロウ、王都に《テレポート》出してくれ」
「りょーかいです。帰りは夕方ですか? それとも朝帰りですか?」
「何で朝帰りの選択肢が出るんだよ」
「アリアちゃんとえっちなことするんですよね?」
「働きっぱなしのアリアを休ませるっつってんだろ。そういう方向に持ってくな色ボケ芋虫」
「むー。別に無理矢理じゃないですよ、ね、アリアちゃん」
「そうね……エミルがしたいなら、少しくらいはいいわよ」
「何でだよ! スロウに乗っかるな!」
「あら残念」
言葉とは裏腹に全然残念そうな表情を浮かべていないアリアは、それじゃあ、と俺の腕に自身の腕を絡ませる。そうしながら、柔らかな笑みを浮かべた。
「紳士のエミル。エスコート、よろしくお願いしますわ」
「お、おう」