幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第二百四話

 再び日常が戻ってきた。スロウは俺の横でだらけているし、シトリーものんびりしている。そんな俺達の眼前では仕事をしているお姉さんと、再び人型に擬態することが出来るようになったアリアがいて。

 

「あらエミル。どうしたの?」

 

 俺の視線に気付いたアリアがこちらを見る。いや、いつも通りだな、と思って。そんな言葉を返すと、アリアはどこか楽しそうに笑みを浮かべた。

 そのままこちらに近付くと、俺の頬にキスを落とす。

 

「そうね、いつも通りだわ」

「いや、いきなりなにを」

「愛してるわよ、エミル」

 

 そう言ってクスクス笑ったアリアはマイア姉さんの仕事の手伝いに戻る。そんなアリアを見ながら、キスをされた頬に思わず触れた。そこには柔らかな感触が残っているように思えて。

 

「アリアちゃんも吹っ切れましたね」

「元気になってよかったんだよぉ……」

「あ、ああ。まあそれはいいんだけど」

 

 お前達的にそれでいいのか、と思う。いや、なんかギスギスしている関係を求めているわけでは全然ないんだけど、これはこれで大丈夫なのかと不安に思わなくもない。

 

「別にエミルはわたしが一番ですしね。アリアちゃんとシトリーちゃんも大好きっていうなら、それはそれじゃないです?」

「ワタシの場合は、そういうものだってもう分かってるしぃ……」

「……なんか俺着々と最低な奴になってきてないか?」

 

 この鬼畜ハーレム野郎、とその辺で刺されても仕方ないような気がしてきたぞ。いや、まあ、それも踏まえてスロウだけじゃなくシトリーもアリアも彼女にしたんだから、しょうがないのかもしれないけど。

 

「そうは言うけど、基本的にはそこまで変わってないのよねぇ」

「何がだよ」

 

 そんな俺の心配を払拭するように、いや、払拭してるかどうかは分からないが、とにかくお姉さんがそんなことを述べる。そこまで変わってないってどういうことだよ。そう問い掛けたが、言葉通りだと返された。

 

「エミル君とスロウちゃんは元々だし、アリアちゃんやシトリーちゃんとの距離の近さもぶっちゃけそう変わってないからね。精々口にするようになったくらい?」

「そう、なのか? いや、結構変わった気がしてたんだけど」

 

 自分で言うのもなんだが、こう、あの、ハーレム形成してからシトリーやアリアの距離が近いと思うわけなんですよ。そんな反論をしたが、お姉さんはそれは多分意識をしているからだと言われた。

 

「エミル君がアリアちゃんやシトリーちゃんを彼女だと認識したから、その行動に意味を見出しちゃったんだよ」

「意味を見出す?」

「エミル君の近くにいるのも、これまでは気にしてなかったけど、今は彼女だからだと思っちゃう。そういう感じにね」

 

 そう言われると、そうなのか? いやシトリーは明らかに距離が近くになっていると思うし、アリアなんかからかいはしてもさっきみたいにいきなりキスするようなことはしなかったはずだ。そこら辺は流石に変わってるだろう。

 そう言うと、まあ多少の変化はあって当然、と述べられる。さっきまでの会話否定してるだろそれ。

 

「そうでもないって。シトリーちゃんの距離は、でも意外と前からそんなものだったし、アリアちゃんのキスはこれまでのからかいが少し積極的になっただけとも取れるしね」

「絶対丸め込もうとしてるだろ」

「途中からはそうかも。でも、最初に言ったことは全然そのつもりはなかったよ。基本的には変わってないってやつ。だからまあ身も蓋もない事を言うと」

 

 とっくの昔にハーレム野郎と思われてるから今更だ。そんな結論を出したお姉さんは、再び書類仕事に戻っていった。とんでもない発言を言うだけ言って逃げたぞあの人。

 

「まあでもつまり噂が本当になっただけ、ってことですね」

「それはそれで嫌なんだけど」

 

 いや、シトリーの告白を受けた時点でその辺の覚悟もしたことはしたんだけど、身に覚えのない罵倒が納得出来る罵倒に変わるだけと言われれば、まあそうか。

 

「まあさっきも思ったけど、その辺踏まえてシトリーもアリアも彼女にしたんだしな」

「そーですね」

 

 とりあえず他の冒険者に刺されないように気を付けよう。そんなことを思いながら、俺はギルドの椅子に体を預けた。まあ今日は別にやることもないし、のんびりとしよう。

 そんなことを思っていると、そうだ、とお姉さんが声を掛けてきた。何だよ、さっきの会話をまた蒸し返す気か?

 

「違う違う、別件だよ。実は、武闘会の知らせが来てて」

「舞踏会? また面倒な」

 

 ついこの間やらかして第三王子の周囲を掃除する羽目になったばかりである。勇者級はその手のイベントにも参加する場合があるとは言え、積極的に関わりたいものでもない。

 

「そもそも俺はそういうの苦手なんだよ」

「そう? エミル君なら全然優勝狙えるんじゃない?」

「優勝? 舞踏会で? 何を競うか知らないけど、絶対無理だよ」

「何を競うって、そりゃ武闘会なんだから武闘でしょ」

「舞踏? じゃあ尚更無理だよ。俺全然踊れないんだって」

「踊る? 何で?」

「は? いやだって舞踏会って」

 

 何か話が噛み合ってない。お互いに顔を見合わせた俺をお姉さんは、首を傾げながらこれだよこれ、と一枚の紙を俺に見せた。

 そこに書かれているのは、三国主催の帝国で行われるという武闘会のお知らせ。

 

「舞踏会じゃなくて武闘会か!」

「エミルくん、何を言ってるのぉ……?」

 

 シトリーが目をパチクリとさせている中、スロウがその紙を見てああそういうことかと頷いていた。

 

「踊る方じゃなくて、戦う方なんですね」

「そういうことね」

 

 最初からその紙の内容を知っているアリアは笑いをこらえながらそんなことを述べる。いや、分かってたなら最初からその辺の勘違いを解かせろよ。

 そんなことを思いながらアリアを睨んだが、口を挟む暇はなかったでしょう、と笑みを浮かべられた。

 そうしながら、詳しい部分は見ていなかったらしいアリアもそれを覗き込む。

 

「出場資格に特に規定はなし。これ良いのかしら? 勇者級が優勝しちゃわない?」

「一応それとは別に大会運営側をお願いする依頼が届いているね、勇者級宛てに。強い人はこっちを受けてもらおうっていう感じじゃない?」

「成程」

 

 ふーん、と依頼書と武闘会のお知らせを交互に見ていたスロウは、まあでも出場資格自体はあるんですよね、と呟いた。何だか嫌な予感がする。

 

「エミル」

「お前本気で言ってるのか?」

「まだ何も言ってないよぉ……?」

「幼馴染の以心伝心ってやつでしょうね」

 

 いや、このくらいはすぐに分かるだろう。そんなことを思いながら、スロウをじろりと睨む。勿論そんな睨みなんぞ効きはしないので、むしろ逆にむんと睨み返される始末だ。

 

「で? 出場するのか?」

「駄目ですか?」

「いや、駄目っていうか……多分お前がぶっちぎりで勝つぞ?」

「そーですかね。わたしはエミルたちと比べると戦闘能力はそれほどですし、支援と回復をある程度縛ればそこまでじゃないですか?」

 

 そう言われても、そのそれほどの戦闘能力で上級モンスターも準魔王級も倒せれるんだからやっぱりぶっちぎりで優勝すると思うんだけどな。

 そもそも、何でそんな急にやる気出したんだ? そんなことを問い掛けると、自分だって修行をしたいと拳を握り込んだ。ああ、そういえば俺達が修行と称して勇者級と戦う中こいつは見学だったな。とはいえ。

 

「相手が弱すぎると修行にならないだろ」

「支援と回復縛ればか弱い女の子ですよ、わたし」

 

 まあ他の聖女に比べれば素のスペックはか弱いほうだろう。比べる対象がセフィやリナさんなので比較してもしょうがないのだけれど。

 いや、待った。出場資格に規定はない、でも勇者級は運営側に回って欲しい。この条件でとんでもないのが出場する可能性があるじゃないか。

 

「あ、そうか。セフィちゃん先輩」

「あれこそ出たらぶっちぎりで優勝するぞ」

「でもいーですね。セフィちゃん先輩と手合わせしたらきっとわたしも強くなります」

 

 ボコボコにされて終わりな気もするが、まあスロウなら支援と回復増し増しで行けば耐えられるかもしれない。そんなことを思いながら、いやまあそもそもセフィが出場するかどうかも定かじゃないし、と頭を振った。

 

「セフィちゃん先輩を誘いましょう」

「こういう大会って実力が拮抗するから面白いんだぞ? 圧倒的な強者が蹂躙するのを見たいわけじゃないんだぞ?」

「いや、でもエミル。ここを見てちょうだい」

 

 アリアが大会規定の部分を指差す。基本的なルールとして殺し合いではないので、武器は規定に基づいた模擬武器を使用する、とそう書いてあった。

 でもそれがどうしたんだ。そう言おうとして、ああなるほど、と納得する。この条件ならば、セフィはその実力を十分に発揮出来ない。全力を出せば武器が壊れるからだ。

 

「……武器が壊れないように手加減しても十分な気がするけどな」

 

 そもそも徒手空拳でぶん殴っても平然と人の頭蓋を木っ端微塵に出来そうだが。公爵令嬢の素手の恐ろしさを想像しながら、俺は思わず溜息を吐く。というか別にこの武闘会じゃなくても普通に手合わせを申し出ればセフィなら快く受けてくれるだろう。

 

「そーなんですけど」

 

 むむう、とまだ納得してないスロウを見やる。そんなにセフィと一緒に出たいのかこれ、とスロウに問い掛けると、勿論と力強い返事が帰ってきた。ああこれはもう止めてもしょうがないやつだ。そう判断した俺は、交渉は自分でやれよ、とスロウに述べる。

 

「出てもいいんですか?」

「出たいんだろ? だったらもう俺が何言ってもしょうがないしな」

「やったー! エミル大好き!」

「はいはい。俺も大好きだよ」

 

 がばりと抱きついてくるスロウを受け止めた俺は、そのまま視線をお姉さんに向けた。じゃあ俺達は大会運営の依頼を受けておくか、そんなことを告げ、お姉さんの持っていた依頼書に承認の印をつけてもらう。

 

「一応聞くけど、アリアとシトリーは出たいとか」

「ないわね」

「ないよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 帝国に来たらカフェに立ち寄る。そんな流れがお約束になっている感じで、俺達はギルド併設のカフェにやってきた。オルがあらいらっしゃい、と俺達を見て笑みを浮かべる。

 

「あれ? アルは?」

「今日は休みよ。武闘会の準備があるんですって」

「あれ? アルちゃんも武闘会に出るんですか?」

「も? ということは」

 

 スロウを見やる。そうなんです、と笑みを浮かべたスロウは、じゃあわたしたちライバルですね、と呑気にはしゃいでいた。

 対するオルは表情を強張らせる。大事な妹を応援するのは勿論なのだが、大魔王級相手にどこまでやれるのだろうか。そんな心配が頭の中にでも巡っているのだろう。なんとなく察した。

 

「オル」

「何?」

「スロウもそうだが、他にもヤバいのがいるからアルには十分気を付けるように言っておいてくれ」

「大魔王級のスロウさん以上に気を付けるのなんか」

「いるんだよ、これが」

 

 俺が本気でそう言っているのを察したオルは、小さく溜息を吐くとそういう応援は直接言ってあげなさいと述べた。まあでもとりあえず承ったわ、とオルは続ける。

 そんな会話をしつつコーヒーを飲み、俺達はカフェを後にした。アルも出場するとなると、思ったよりスロウ無双みたいな状態にはならない規模なのかもしれない。

 そうして武闘会の会場に辿り着く。スロウは出場者、俺達は大会運営側とここで別れ、それぞれの場所へと向かうことになる。運営の場所に行くと、意外にもと言うべきか、バクス達やクロード達、アイラさん達が揃っていた。この大会って結構な規模なのか。

 

「まあ大国三国全てを集めての武闘会だからな。国の重鎮も来ているし」

 

 大国三国が集うイベントだからこそ、出来るだけ一方的にならないように勇者級は運営サイドに持ってきたのか。そんなことを思っていると、クロードがまあそれだけではないでしょうけれど、と笑う。

 

「もし武闘会中に勇者級が必要な何かがあった場合すぐ動けるように、という部分もあるんでしょうね」

 

イベントやってる時に国がモンスターに襲われました、はまあ洒落にならないからな。運営とは言いつつ他の対処が出来るように、とその辺の配慮も一応やってるのか。

 

「逆に言えば、何かしらの問題さえなければ私達はのんびりと観戦していればいい、というわけです」

 

 そう言ってアイラさんがクスクス笑う。こちらを見て、聞きましたよ、と言葉を続けた。

 

「スロウさん、出場するのでしょう?」

「ああ。何か修行をしたいんだとさ」

 

 そう言って肩を竦めた俺は、実際どのくらい修行になるのやらと呟く。いやまあ、セフィを出場させることには成功しているし、アルも出るということなのである程度の効果は見込めそうだが。

 

「あー! いた!」

 

 そんなことを考えていた矢先。こちらに向かって何やら声がする。何だ何だとその方向へと振り向くと、やっと見付けたとばかりのラティが仁王立ちしていた。

 

「エミル! シトリーやアリアとも付き合うことにしたんだって?」

「声がでかい!」

 

 周囲に知り合いの勇者級が入る中でそんなことを言われると。そうは思ったが、よくよく考えるとこの辺の面々はもう知っているのか、と胸を撫で下ろす。まあそれ以外の運営にはバッチリ聞かれているのだが。

 まあその辺は置いておこう。それで何なのだとラティに尋ねると、そんなもの決まっているとこちらに指を突き付けられた。

 

「そういうのはラティのいる場所でやりなさいよ」

「いや知らねえよ」

「それでそれで? ちゃんと純愛なの? それともギスギスハーレムが開始されちゃったり?」

「お前はその辺なんでもいいのか」

「そんなわけないでしょう!? イチャイチャ甘々がいいに決まってるじゃない」

「あら、なら問題ないわね」

「い、いちゃいちゃ、だよぉ……」

 

 ラティの声に応じるようにアリアとシトリーが俺の腕にそれぞれ抱きつく。そうしながら、アリアは慣れた様子で、シトリーはちょっと照れながら俺の頬にキスをした。

 

「きゃー! 何々!? スロウもアリアもシトリーも全員ラブラブなの!?」

「そうよ。今はスロウがいないけど、スロウがいてもこんな感じ」

「うんうんうん……」

「いいわねいいわね。何よエミル、そういうのは早く見せてくれなきゃ」

 

 何でお前に見せなきゃいけないんだよ。そうは思ったが、こいつがこちら側についている理由がほぼそういう感じなので何とも言えずに飲み込んだ。

 

「というかお前は運営側なのか?」

「ん? あんたが運営に申し込んだんだから、そうに決まってるじゃない」

 

 言われてみれば。俺の、エミルパーティー単位で運営依頼を受けたんだから、今回の場合そうなるわけか。あ、じゃあクーヤとコイナもそうなるんだな。

 

「何言ってるのよ」

「は?」

 

 頷いていた俺にラティが呆れたような声を出す。そうしながら、あんたもう少し近くにいないメンバーのことも見てやりなさいと呆れられた。いやまあ確かにそれはその通りなので申し訳ないと謝るしかない。

 

「で、何が問題なんだ?」

「コイナは多分運営側扱いでしょうけど。クーヤは出場してるわよ」

「……そうなのか?」

「妖精姫と隠れ潜む百花が修行ついでに出したって聞いたわ。あんたほんとに知らないのね」

「……ごめんなさい」

 

 

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