そんなわけで自身の反省も込めて出場者の知り合いはちゃんと応援しようと名簿を見た。
が、出場者が多いのなんの。この中から知り合いの名前を探すのはかなり骨が折れる。スロウは見付けた。セフィもあるな。アルもいた。クーヤは、あ、これだ。
「とりあえずその辺だけなのかしらね」
アリアも出場者名簿を見ながらそんなことを呟く。流石に他の知り合いでこんな催しに参加するような面子はいないだろうから、打ち止めだと思いたいが。
「それにしても、凄い参加人数だねぇ……」
ペラペラと出場者名簿をめくりながらシトリーが呟く。まあ三国主催ってことはほぼ全世界に参加者を募ってるようなものだしな。普段日の目を見ない実力者とかもひょっとしたらいるかもしれない。
とはいえ、まあスロウ達には及ばないだろうな、とも思う。少なくとも人間社会に対抗出来るやつはいないだろう。
そんなことをも思いながら、運営とは名ばかりの何かあった時用の抑止力要因の俺達は、予選を見に行っても良いという許可をもらい、観客席の方に向かっていた。
予選なので会場では複数に区切られた試合場所が用意されており、ある程度まとめて試合を行っているらしい。何日も掛けて行われる催しではあるが、それでもある程度は時間の短縮をしているんだな。
むしろ、参加人数的にそれでも何日か掛かるといったほうが正しいのかもしれないが。
「まあ、賞金も出るし、ある程度の成績を取った場合の名声も手に入るでしょうから、そりゃみんな参加するわよね、って感じ」
「スロウちゃん、大丈夫かなぁ……」
「いや、うっかりミスでもしない限りあいつが負けることはないだろ」
そんなことを言いながら知り合いの予選の出番を待つ。そうしながらなんとなく予選を眺めていた際、ん? と一つの試合が気になった。
どこかで見たようなシスターが、明らかに体格の違う男を受け止め、投げ飛ばしている。他の観客からも目立つようで、その試合はやたらと注目されていた。
いや、というかあれ。
「ラミュー?」
「え? あら、本当ね」
「参加、してたんだぁ……」
「ラミュー、ってあの変な魔王級イゼルブの仲間だか何だか分からない面子の魔王級サラマンダーのこと?」
対戦相手をぶっ倒してしずしずと戻るラミューを見ている俺に、ラティがそんなことを尋ねる。そういやラティはあのアホみたいな魔王級認定調査の時に会ったきりだったっけか。そんなことを思いながらああそうだと頷いた俺は、そこでふと気付いた。
「アリア、名簿を見せてくれ」
「どうしたのよ? まさかイゼルブが参加してるとか言いたいわけ?」
「その可能性も」
「あ……」
あるだろう、と言おうとした矢先、シトリーがあそこ、と観客席を指差した。そこにはどこか偉そうにふんぞり返っている男と、二人の美少女。どの顔を見覚えのあるやつだ。
というか、イゼルブの擬態とイリスとキララだ。
「イゼルブ!」
それを確認した俺は観客をかき分けイゼルブのいる場所へと駆ける。急に名前を呼ばれたイゼルブは何だとこちらを向き、そして俺の顔を見るとふんと鼻を鳴らす。
「何だエミルか」
「何だじゃねえよ。お前何でこんな場所にいる」
「何故も何も。先程の試合を見ていなかったのか?」
先程の試合、というのはまあラミューのことだろう。それなら見ていた、と返した俺は、それがどうしたんだよと続ける。そんな俺の言葉を聞いたイゼルブは再度鼻をふんと鳴らした。
「ならば我がここにいる理由も自ずと分かるだろう?」
「何でだよ。まさか応援しに来ているとか言わないだろ」
「あら、そのまさかよ」
横合いから声。イリスが日傘をクルクルと弄びながら笑みを浮かべていた。そちらに向いた俺は、今の言葉が一瞬理解出来ずに、何だって、と返してしまう。
「だから、応援に来たんですわ」
今度はキララ。ご心配無く、と笑みを浮かべたキララは、ふんぞり返っているイゼルブを見ながら、ちゃんと暴れないよう言い含めていますので、と言葉を続ける。
「我は子供か!? 心配せずとも、わざわざこのような遊びを見に来ているのだから、一々腹を立てたりするわけなかろう」
「だ、そうよ」
「いざとなったらふん縛るのでご安心を」
イリスとキララがそんなことを述べる。どうでもいいがキララのそれはいざとならなくてもやるんじゃないのかと思わないでもなかったが、まあ藪蛇なので置いておこう。当事者であるイゼルブは、そんな二体の発言を聞いて顔を顰めていたが。
ともあれ、とりあえず今回は騒ぎを起こさないってことでいいんだな。そう念を押すように述べると、くどい、とイゼルブが睨み付けてくる。
「そんなに暴れて欲しければ望み通りにしてやってもいいのだぞ?」
「はっ。俺も大分成長したんでな。今度こそ討伐してやってもいいんだぜ?」
『ふん』
「仲が良いのか悪いのか。まあ悪いんでしょうね」
「そうね、そこは同感だわ」
「お互い苦労しますわね」
「うんうんうん……」
「んー。こういう関係はラティの範囲外なのよね」
俺とイゼルブのやり取りに好き勝手言うお互いの仲間達。俺もイゼルブもそんな仲間達をジロリと見たが、当然のように皆受け流していた。
「ふん。まあいい。ほれ、さっさと我の前から消えろ」
「言われなくても。俺だってお前の顔なんか見たくもない」
けっ、と吐き捨てるようにそう述べた俺は、そのままイゼルブに背を向けた。そうして向こうから離れた後、あ、そうだと気が付いた。
「どうしたのよ」
「ラミューの参加理由を聞こうと思って忘れてた」
「確かに、そうだねぇ……」
「シスターやってるんでしょ? 賞金目当てとかなんじゃないの?」
ラティの言葉に成程、と頷く。まあ魔王級のモンスターとして何かしら企んでいる、という理由ではなさそうなのはイゼルブの態度でなんとなく分かったので、その辺は後でラミューに聞けばいいか。
そんなやり取りをしている中で、危うくスロウの予選を見逃すところだった。試合会場一つにはスロウが呑気に突っ立っている。対戦相手はどこかの冒険者らしく、相手がスロウなことに驚いている様子だった。
「スロウのこと知ってるんだろうか」
「まあ勇者級で大魔王級の聖女だもの。有名人よね、人じゃないけど」
試合開始の合図と共にスロウが飛び込む。冒険者は慌てて盾で防ごうとしたが、ちょいやー、という叫びとともに繰り出された蹴りで盾を弾き飛ばされていた。そのままスロウが追撃の回し蹴りを相手の腹にねじ込んで終わりである。スロウも普段の剛腕の鍛冶師にもらった武器を使えないし支援や回復も制限しているのでほぼ素の状態だが、それでもやっぱりそのくらいの実力はあるってことらしい。
しかしこの様子だとやっぱり勇者級の冒険者に匹敵するような出場者はいないとみていいのだろう。顔見知りを除いて、だが。
「どうなのかなぁ……」
シトリーはそんな俺の考えに不安げな表情を浮かべている。ひょっとしたら、という可能性もある。まあ実際ラミューが出場しているみたいな予想外の事態が起きている以上、楽観視は出来ないのかもしれないけど。
まあその時はその時だし、運営サイドには勇者級がひしめき合っている。正直その辺の魔王級が徒党を組んでいてもどうにかなるレベルだ。イゼルブが暴れたって正直問題なく鎮圧出来る。
「まあ、なるようになるだろ」
シトリーの頭を撫でながらそんなことを述べた俺は、じゃあ次の知り合いの応援をしないとな、と視線を試合会場に向けた。
「あうぅ……」
「彼女だって認識になってからそういうの遠慮なくなったわね、こいつ。もう、あたしにもやりなさいよ」
「うん。いいわねいいわね」
なんかラティがキラキラしているが、それよりも試合である。ラティに言われ、名簿でも確認した通り、クーヤがそこにいた。模擬武器として用意された鎌の使い勝手がイマイチなのか、微妙に表情が曇っている。
とはいえ、まあ魔王級モンスターである。あっという間に叩きのめして試合を終わらせていた。
予選は続く。アルは観客席に俺達がいることに気付いたらしく、こちらを向いて笑顔で手を振っていた。対戦相手はそんなアルを見て何やら言っていたが、アルは気にせんとばかりに武器を構えていた。
「嘗めないでください!」
試合は対戦相手の攻撃を躱し、強烈な一撃をお見舞いしたアルの勝利である。どうですか、と対戦相手に胸を張ってから、こちらを見てやりました、と笑顔を見せていた。
「そういえばエミル」
「なんだよ」
そんなアルを見てラティが何かを思い付いたように言葉を紡ぐ。あのアルって娘、あんたのこと好きよね、とこちらに詰め寄った。
「ひょっとして、さらに彼女増やす気?」
「何でだよ」
「ラティはあんまりギスギスは見たくないから、出来れば全員イチャイチャほのぼのがいいんだけど」
「何の話だ何の!」
アリアとシトリーのを彼女にしたのだって結構ギリギリなのに、これ以上増えてたまるか。そんなことをラティに述べると、何故かシトリーとアリアが溜息を吐いていた。何でだ。
「ちなみにラティは今のところエミルの彼女になる気はないわ」
「そりゃそうだろうな」
なられても困る。そんなことを言いながらドヤ顔のラティから視線を外す。対戦表を見る限り、もうそろそろセフィの出番である。
試合会場を見る。明らかに場違いな公爵令嬢が現れたが、まあスロウやラミュー、クーヤやアルの例もあるので流石にそこまで騒がれない。ただ、知っている人はベルンシュタイン公爵令嬢だと分かるので少々ざわめいていたが。
模擬武器の刺突剣を構える。試合開始の合図とともに、その刺突剣を真っ直ぐ相手へと叩き込んだ。特に何の工夫もない、真っ直ぐな一撃。だが、相手はそれに反応出来ず、叩き込まれたと認識した時点でもう終わっているのでどうしようもない。
模擬武器が壊れないように手加減はしていたが、それで出せる全力を持った一撃である。どうやら彼女の中にほどほどという言葉はないようだ。
「スロウはあれに勝てるのか?」
「まあ、素の状態じゃどう足掻いても無理でしょうね」
俺の呟きにアリアがそう返す。そうだよなぁ。というか、スロウ以外にしても、クーヤ、アル、そしてラミューも勝てるかどうか怪しい気がする。魔王級とぶつかっても有利取れる公爵令嬢はやっぱりおかしい。いや、まあ実際魔王級ユニコーンとバイコーン討伐してるんだからおかしくもないか。
そんなことを思いながら予選は進む。スロウ、クーヤ、アル、セフィ、そしてラミューは順当に勝ち進み、そのまま本戦出場となっていた。予選でぶつからなかったのは、運が良かったのか、あるいは途中から運営が何かしらの配慮をしたのかもしれない。
一日目が終わる。結局運営の勇者級の出番はなく、俺達もただの観客として過ごしてしまった。仕事は終わり、とバクス達、クロード達、アイラさん達と別れ、選手だったスロウと合流する。途中で出会ったらしく、クーヤ、アル、セフィとお付をしていたらしいコイナも一緒であった。
「お疲れさん。みんな本戦出場おめでとう」
「いえい。エミル、もっと褒めてくれていーんですよ?」
「ああ、よくやったなスロウ」
「えっへへー」
撫でろ、と抱きついてきたスロウを存分に撫で、愛でる。そんな俺達を見ていたクーヤは、うんうんと頷いた後、こちらに声を掛けた。
「義兄様」
「ん?」
「クーヤ。奮闘。褒美」
「ん? よくやったなクーヤ。これでいいのか?」
スロウから離れ、今度はクーヤを撫でてやる。うんうんと頷いたクーヤは、嬉しそうに撫でられていた。
そんな光景を見たアルが、今度は俺に声を掛ける。まさかお前も、とか言わないよな?
「だ、だめ、ですか……?」
「いや、駄目じゃないけど」
「じゃ、じゃあ、お願い、します」
おずおずと俺に頭を差し出すアル。別にそのくらいならそんな決意込めなくてもやってやるよ、とアルの頭を撫でた俺は、頑張ったな、と述べた。実際アルの成長ぶりは凄いと思う。あんなにへっぽこだったのに、今はもう上級冒険者の上澄み、どころか、魔王級のハイドラを倒したことで勇者級にだって手が届くレベルにまでなっているのだから。このままいけば最速勇者級はアル達に譲る可能性だってある。
「そ、そんな。私が強くなれたのは全部エミルさんのおかげですから」
「言うほど何もしてないけどな」
ブンブンと手を振るアルにそんなことを言いながら、最後の一人であるセフィに向き直った。流石にセフィはそんなこと言い出さないから安心である。
「セフィは、なんというか危なげなくって感じだったな」
「ありがとうございます。ですが、少し心配な部分も勿論ありましたわ」
模擬武器が攻撃のたびにギシギシと軋むので、壊れないかヒヤヒヤした。そう言って微笑むセフィを見て、ああまあ心配はそこだろうな、と溜息を吐く。
ひょっとしなくても一撃で決めた理由はそれか。
「本戦では予備が用意出来るように申請中です」
そうでないときちんと戦えないでしょうから。そう言ってスロウやクーヤ、アルを見るセフィ。スロウとクーヤはその視線に望むところだと返していたが、アルだけはびくりと気圧されたようであった。
「にしても、スロウのお願いとは言えよくこんなのに参加するのを承諾したな」
「ふふっ。スロウさんのお願いだから、ですわ」
そう言って微笑むセフィ。他の誰でもない、親友のお願いなのだから、聞いてあげるのが筋というものだ。そんなことを続けた。
「ありがとうございますセフィちゃん先輩!」
「ええ、どういたしまして」
がばりとセフィに抱きつくスロウ。そんなをスロウ抱きとめながら、セフォはその笑顔を強くさせた。
「よーし。セフィちゃん先輩に負けないように、本戦もがっつり気合い入れますよ!」
えいえいおー、と拳を突き上げるスロウを見ながら、他の面々、クーヤも、アルも、そしてセフィも。
こちらも同じだ、と気合を入れていた。