そんなわけでスロウの次の試合である。まあやっぱり準魔王級くらいの実力を持っているので、冒険者やってれば結構なところまでいけたんだろうなと思わなくもない。まあその実力はどうやって身に付けたか、と考えると微妙なとこだが。
実力を身に付けるといえば、最近あの道場にも顔出してないな。今度久しぶりに顔出してみるか。
「何か余計なこと考えてるわね」
「ちゃんと見なくていいのぉ……?」
「いやまあ、見てはいるぞ」
相手はスロウと同じように徒手空拳で戦うタイプだ。技の鋭さも中々で、当たれば中々のダメージを叩き出せるんじゃないかと思わなくもない。
「つーかまーえた」
「ぐっ!」
まあスロウも何だかんだ迷宮の管理者に戦い方を教えてもらった身である。その後いろいろな戦闘でレベルアップもして大魔王級になった。その実力は、準魔王級と同程度くらいならこうやって倒せるレベルなわけで。
相手の蹴りをがしりと掴まえたスロウは、そのままぐい、と相手の体を引っ張る。姿勢を崩したその土手っ腹に、ちょいやー、と膝蹴りを叩き込んだ。肺の空気を押し出された相手はぐらりと揺れ、しかしまだだと掴まれた足を振りほどくと反撃を行う。
が、その頃には既にスロウの追撃が放たれていて。
「決まったわね」
アリアの言う通り、もう一度腹に一撃を食らった相手は盛大に吹っ飛んで動かなくなった。いや、まだ意識はあるから動いてるけど戦えない状態くらいだな。気絶させると聞き出せないと踏んだのか、スロウなりに手加減をしているらしい。
勝負ありと試合終了の合図を聞いたスロウは、倒れている相手に手を差し伸べる。そうしながら、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、と滅茶苦茶堂々と告げていた。
「負けたんですし、そのくらいは話してくれますよね?」
対戦相手は笑顔のスロウを見て、そして向こう側の仲間を見る。その中でも一番強いと思われる、多分魔王級に近い実力を持ったおっさんが頷いたので、対戦相手の男は小さく溜息を吐いた。ここでは邪魔になるから、と試合場を下りる。スロウは呑気に頷いてそんな男についていった。
「エミルくん、あれ大丈夫なのぉ……?」
「いやまあスロウなら大丈夫だろ。試合じゃない状態ならわざわざ支援縛る必要もないし、向こうが襲い掛かってきたらそれこそさっき以上の返り討ちだ」
「確かにそうね」
心配しているシトリーに対し、俺とアリアは呑気なものだ。そんな俺達の考えを裏付けるように、無傷のスロウが笑顔でこっちに戻ってくる。
「聞いてきましたよ」
「ああ、おつかれ。で、何だったんだあいつらの目的」
「ひとつは腕試し、らしいです。でもわたしたちみたいなのがいるのは予想外だったみたいですけど」
まあ強い相手と戦えたんだから目的は達成してるんじゃないですかね。そんなことを言いながら、特に問題ではないような話をする気安さでスロウは述べた。まあ実際それが理由なら何の問題もないな。現行犯で何かやってるわけでもなし、貴族の後ろ盾もありそうな状態でそれでは手を出すのも面倒だ。
「で、もーひとつなんですけど」
「まだあるのか」
「何か裏切り者を処刑しに来たらしいです」
滅茶苦茶軽い調子でそんなことを言われた。というかそれ俺達に教えて大丈夫なやつなのか? いやまあ、暗殺者のゴタゴタとか知ったこっちゃないとは思うけど。
「そーなんですよね。わたしも同じだったんで、じゃあそれならいいですって」
「言ったのかよ」
「あ、一応知り合いかどうかは確認しましたよ? でも全然知らない人だったんで。まあもし誰かの関係者だったら後で蘇生させればセーフかなって思いますし」
「こいつの倫理観もう既にモンスターでも人でもないな」
大魔王級特有の倫理観みたいになっちゃってるぞ。とはいえ、他になにかあるかといえば俺達も別に、となってしまう。わざわざその暗殺者の裏切り者を探し出して保護するか、と言われると、別にそんなことをする必要もないと考えてしまうし。まあそれで大会が一時中止とかになられると面倒だな、くらいか。
「わたしもそう思ったんで、やるなら大会終わってからにしてくださいねって言っておきました」
「……ああ、そうかい」
守るかどうかは定かではないが、まあ現実的に考えても大会中だと勇者級が目を光らせているし、大会終了後の方が狙いやすいのは間違いない。言い方は悪いがスロウがそんなアドバイスをしたことで、向こう側はある意味大義名分を手に入れたことにもなる。
そう考えると、もう後は終了後にその裏切り者が無事逃げおおせるといいかもな、くらいか。
「それにしても、随分口の軽い連中なのね」
「変に警戒されるより、いっそ全部ぶちまけたほうがいいって判断らしーですよ」
まあ実際その判断は正しい。スロウはもう既に向こうを警戒する相手だと思っていないし、アリアやシトリーも同様だ。俺もまあ、これで大会終わった後でやるなら好きにしろって感じではある。薄情かもしれないが、その辺の一般人ならともかく身内のゴタゴタだろ? 知るか、と思っても不思議ではない。
「いいの? 勇者級がそんなこと言っちゃって」
「バクスやクロード、アイラさんはどうか知らないけど。まあ俺はそんなもんだよ」
バクスあたりは俺と同じ考えでいてくれそうだ。クロードはそれでも防ぐかもしれないけど。アイラさんは、どっちの可能性もありそうで分からん。
ともあれ。これ一応知らせた方がいいのか? とスロウやアリア、シトリーを見たが、全員どうだろうと首を傾げられた。既に暗殺者がいることは知らせているので、追加で言う必要もない気がしないでもない。こんなことならコイナとラティはスロウのこれが終わってから伝えに行かせればよかったな。などと後悔してももう遅い。
「まあいいや。大会に直接関係ないことだしな」
「エミルもわたしたちに染まってきましたね」
「モンスターが彼女だからな」
というわけでまあ顔を合わせたら言うくらいでいいかと結論付け、俺達は再び試合に視線を戻す。クーヤの試合、アルの試合、ラミューの試合、そのどれもが危なげなく勝利を収め、本戦を勝ち進んでいった。
セフィ? あっという間に試合が終わるんで特に言うことはないよ。
そうして本戦の中でも精鋭が残っていく中、さっき話題に出していた暗殺者のまとめ役みたいなおっさんも順調に勝ち進んでいた。見た感じ最初はやる気なかったけど、スロウ達を見てやっぱりやろうと思い返した感じだったな。何だかんだそういう気質を持ってるらしい。
というわけで本戦一日目は終了。勝ち残った精鋭達は疲れを癒して本戦二日目に突入である。審判をやっていた俺達パーティーは一旦他の勇者級と合流し、明日の打ち合わせを行う。
「審判というよりただの観客やってたしな」
その打ち合わせで、明日も審判をやるかどうかの話が出た。今日は実力が拮抗していなかったから問題なかったが、明日は審判をやった場合贔屓が発生してしまう可能性がある。そんなようなことをクロードが述べる。
「まあ、スロウの応援するのは否めないが」
セフィとスロウが戦った場合、まあ間違いなくセフィには悪いがスロウを応援してしまう。そう考えると、確かに明日の審判をするのには適さないかもしれない。
「では、明日はエミルくん達は審判ではなく試合場の警備ということで」
「へ?」
「例の連中が何かをしでかす可能性がありますし、初動が出来る人員を配置するのは当然でしょう」
そう言って笑うクロード。それに付け足すように、何より、優勝候補全員と知り合いなのはエミルさんしかいませんしね、とアイラさんが微笑んだ。
「もし援護を頼む場合、エミルさんが一番滞り無く出来るでしょうから」
「まあ、それは、そうか」
スロウ、クーヤ、アル、セフィ、ラミューの全員と知り合いなのは俺達だけだ。他の面子だと誰かしら抜けがある。一応そういう理由も用意してあることに感謝しつつ、じゃあその役目承ったと頷いた。
そうして簡単な打ち合わせも終わり、俺達は選手だったスロウ達と合流する。明日のことを話しながら、じゃあエミルは引き続き近くで応援してくれるんですね、とスロウに抱きつかれ。
「では、私達はここで」
セフィとコイナは同じ宿ではないので、途中で別れた。明日が楽しみです、と微笑んでいたが、その笑みが獰猛なものに見えたのは俺だけではあるまい。
そのまま暫し歩き、迎えに来たオルと合流したアルも別れた。頑張ります、と見せた笑顔は純粋なものだ。セフィのそれが純粋ではないというわけでは、決してない。
そうして俺達も宿に到着する。ぶっちゃけ俺達の場合《テレポート》で家に帰ってもいいのだが、それは何だか風情がないし、運営側が用意してくれているということもあって素直に泊まっている。
そんなこんなで部屋でくつろいでいると、はいりますよー、という呑気な声とともにスロウが入ってきた。せめてノックをしろ。
「別にいーじゃないですか」
「よくない」
「ぶー。エミルはわたしに隠さないといけないことでもあるんですか?」
「ないことはないだろ」
そんなことを言いつつ、で、何しに来た、と問い掛けた。スロウはそんなの決まっていますと俺に抱きつき、そしてキスをする。そのまま暫し舌を絡ませ合っていた俺達であったが、スロウがゆっくりと離れ、そしてベッドに寝転んだ。
「さ、エーミル。明日のためにえっちしましょう?」
「何でだよ。むしろ明日のために休息を取れ」
「わたしの休息がこれなんですよ」
そう言いながらスカートをたくし上げるスロウ。左右を紐で結んだ薄い水色の下着が俺の目に飛び込んできて、思わずそこに視線が移動した。
「ほらエミル。エミルもわたしとえっちしたいですよね?」
「いい加減にしろ脳内ピンク芋虫」
「む。エミルだってその辺は変わらないじゃないですか」
パンツ丸出しのままプンスカ怒るスロウ。いいからスカート戻せ。
「いやです。エミルがえっちしてくれないと戻しません」
「だからお前は」
さっさと休まないと。そんなことを言おうとした最中、コンコンとノックの音が部屋に響いた。誰だ、と尋ねると、入っていいかしらとアリアの声が聞こえてくる。俺は一瞬スロウを見たが、別にいいですと頷いたのでどうぞと返した。いやこの状況でアリアを招き入れるのは本当にいいのか?
「あら、お邪魔だったかしら」
ベッドでスカートめくりあげてパンツ丸出しになっているスロウを見て、アリアはそんなことを述べる。いや俺としては来てくれて助かった、と返した。これでスロウも諦めて今日は退散するだろう。
「ところで、アリアちゃんは何しに来たんですか?」
「あたし? エミルに抱いてもらおうかと」
「お前もか!」
「冗談よ冗談。まあ、エミルが望んでくれるなら、あたしはいつでも歓迎よ」
そう言ってアリアもスカートをたくし上げる。ガーターベルトとフリルの付いた下着が顕になり、俺の手を取って、そこに誘導させる。
「ぁん。エミル、もっとしても、いいわよ」
「ええいこの脳内ピンク虫どもが!」
「むー、アリアちゃんだけずるいです。エミル、わたしも、わたしもえっちなことして!」
「あーもう!」
がぁ、と叫んだ俺はとりあえず目の前のアリアにチョップを一発。そして振り返って駄々をこねるスロウも一発ひっぱたいた。痛い、とぶぅたれる二体を、俺はジト目で見やる。
「で? アリアは何しに来たんだ?」
「エミルに抱いてもらいに来たって――はいはい、分かったわよ」
今度はエミル一人の時にするわね。そんなことを言いながら笑みを浮かべたアリアは、明日のことよ、と続けた。
「明日って、何かありました?」
ベッドから起き上がったスロウがそんなことを問い掛ける。どうでもいいがまだパンツ丸見えなんで早く戻せ。
「何って、あんた本戦の試合表見てないの?」
これよこれ、とアリアが取り出したそれを見て、ああなるほど、とスロウは頷く。俺もそれを見て同じように頷いた。
「スロウ、あんたこのまま行くと全員と戦う羽目になるわよ」
最初はまだしも、次はアル、その次はクーヤ、そのまた次はラミュー。
そして最終的には決勝でセフィとぶつかる。そういうトーナメントだ。
「いーじゃないですか。元々修行目的でしたし、望むところです」
パチン、と拳を手で打ち鳴らす。そうしながら、笑みを浮かべやってやりますよと拳を振り上げた。
「お前、それなら尚更こんなことしてる場合じゃないだろ」
「それはそれ、これはこれです」
手でジェスチャーをしながら、そういうわけなので景気付けに、などと言いながら俺といやらしいことをしようと誘導してくる。こいつどうにかしてくれよ、とアリアを見ても、何の問題もないだろうとか言ってくる始末だ。
「別にいいじゃない。スロウが望んでいるんだもの、やってあげないよ」
「お前それは」
「アリアちゃんも一緒にどーです? エミルとえっち」
「魅力的な相談だけど、今回は遠慮しとくわ。それに、どうせそういうことをするならシトリーも混ぜた方がいいでしょう」
「確かに。そーゆーことなら仕方ないですね」
何か納得されているが、俺は何も納得していないぞ。何がシトリーも混ぜなきゃだ、勝手に巻き込まれたシトリーも迷惑だろ。
そんなことを思ったし言ったが、そうかしら、とアリアはどこ吹く風である。
「シトリーも案外望んでるかもしれないわよ」
そう言ってクスクスと笑ったアリアは、それじゃあ、と部屋を出ていく。いや待った、結局スロウの対戦について言いに来ただけなのかよ。
「対策とか心構えとか、その辺の話をしようとしたけれど。別にスロウはいつも通りで問題なさそうだったもの」
「そーですね」
ウンウンと頷くスロウを見て笑みを浮かべたアリアは、そういうことだから後はごゆっくり、と手をヒラヒラさせた。
「あ、エミル」
「なんだよ」
「次はあたしも、お願いね」
そう言うだけ言って部屋を出ていったアリアの閉めた扉を眺めていた俺は、そこで盛大に溜息を吐いた。
「……スロウ」
「はい」
「じゃあもう遠慮なくやるぞ」
「きゃぁ、エミル大好きっ」