幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第二十一話

 流石にシトリーが手伝うのに俺達は帰る、というわけにはいかない。とはいえ、元々ここで断ると後で色々と面倒そうだったというのもあるので、アンゼリカ嬢の手伝いとやらをすることになった。

 まず物資の確認だが、これはまあセフィがメインというかセフィしか出来ないというか。目録との照らし合わせを行っているのを見ながら、物を運ぶのを手伝ったりはした。

 

「というかこういうのって目録あれば他の人がやれるんじゃないのか?」

「ええ。ですが、こちらでやらなければならない理由もあります」

 

 俺の問い掛けにアンゼリカ嬢が答える。それが今の起きている問題とやらに関係するのかと改めて問い掛けると、ええその通りと返ってきた。

 

「話の早いお方で助かりますわ」

「物の見方が素直じゃないだけだよ。それで、一体何が問題」

 

 何だ貴様は、という声で俺の言葉が掻き消された。視線を向けると、いかにも貴族然とした男が一人こちらを睨むように立っている。誰だこいつ、と思いはしたが、まあフォーマルハウトの関係者なのは間違いないだろうからとりあえず挨拶をした。

 田舎者がこちらに声を掛けるな、と罵倒して去っていった。何だこいつ。

 

「説明が必要ですか?」

「いや、まあ、何となく分かった」

 

 アレが多分『問題』だ。そのことを伝えるとええその通りとアンゼリカ嬢は少し苦笑気味に微笑んだ。何でも彼女の従兄弟の一人で、現公爵が病で臥せっているのを聞いて次期公爵は自分だと押しかけてきたらしい。追い返せよ。

 

「そうしたいのは山々なのですが、現在人手不足でして」

「それが、この物資に関係してくるのですね」

 

 目録の照合が終わったセフィがこちらに声を掛ける。はい、と頷いたアンゼリカ嬢は、持ってきた物資の箱を一つ開けた。

 

「流行り病があるのです」

「それ俺とセフィは大丈夫なやつ?」

「はい、こちらの土地の、海の近くに住む人々特有の病のようなもので、基本的に内陸の方が罹患することはありません。もしあったとしても」

 

 こちらの薬で治療が出来ます。瓶に入ったポーションを取り出すと、念の為に飲んでもいいかもしれませんと俺に渡した。あれ、これって。

 

「水泡病と呼ばれる、水属性の力が悪影響を及ぼすことで起きる病の治療薬です。どうかされましたか?」

「いや、昔母さんがこの病気になって、薬飲んでたから」

「伝染るかもしれないから、って暫く会えなくなった時のやつですっけ。懐かしーですね」

「モンスターはその辺りの影響あんまり受けないけれど、まあ、あんた達ならそうなるわよね」

 

 てことは母さんはこっちの方か海近くの出身だったのか。スロウとアリアの言葉を聞きつつ、普段そういうの聞かないから全然知らなかったなんてことを思いながら、そうなると俺も念の為飲んでおいた方がいいかもしれないと瓶のポーションを飲み干す。

 

「セフィはいいのか?」

「聖女の修練の際、治療の魔法を取得していますので」

「成程。って、だったら俺もスロウに頼めばよかったのか」

「全部覚えてますからね。えっへん」

 

 ドヤ顔のスロウを見て、そしてアンゼリカ嬢に一本無駄に飲んでしまったと謝罪した。が、彼女は気にすることはないと返し、予防になるのならばそれでと微笑む。そうしながら、アンゼリカ嬢自身も瓶のポーションを一本飲んでいた。

 

「さて、これでわたくしは大丈夫。師匠(せんせい)は――」

「大丈夫よ、とりあえず城の皆と城下町の人達に回してあげて」

 

 はい、とアンゼリカ嬢は頷き、そして控えていた使用人達にも瓶を与えた後指示を出す。そうしつつも、彼女自身もその中に加わった。

 

「では少し席を外します。申し訳ありません」

 

 そう言ってその場から去っていくアンゼリカ嬢。一体全体どうなっているんだと首を傾げていると、傀儡人形が聞きたいのかしらと俺に問いかけてきた。知りたいかと言われればまあ知りたくはある。だが、そういう好奇心で聞いていい事情では無さそうというのも同時に理解したので、そこはやめておこうと俺は首を横に振った。

 

「もう巻き込まれているのだから、聞いても変わらないわよ?」

「そういうのじゃなくて、本人いない時にあんまり踏み込んでいい話じゃ無さそうだったから」

「ああ、そういう。大丈夫よ、アンゼリカは承諾済みだから」

 

 だから遠慮なく聞いて頂戴と傀儡人形が笑う。そうしながら、掻い摘んで大体の説明をしてくれた。さっきの現公爵が病気だという話に加え、城の薬師等重要な面々も病気に罹ってしまい治療が滞ってしまったタイミングでさっきの男を中心とした連中が襲来。水泡病にかからない地域なので病気にもならず、これ幸いと好き放題し始め。

 で、ついに新しい公爵だと言い張るくらいまで増長した、と。

 

「そーゆーのって、とっととぶち殺したらマズいんですか?」

「モンスターの感覚で語らないの。まあでも、気持ちは分かるわ」

「大変な状況だよぉ……」

 

 モンスター三体の言葉を聞いて傀儡人形も思わず笑う。そうよね、それが早いわよね。そんな事を言いながら、楽しそうな笑みを浮かべ、そして言葉を続けた。

 

「そのためには、まず現公爵を治療しなければならないの」

「ああ、普通に上からの圧力で潰すんだ」

 

 好き放題している理由がそれならば、公爵が元気になれば万事解決である。まあその程度の小物ってことなんだろう。

 だが、その程度の連中ならアンゼリカ嬢なり傀儡人形なりがどうにか出来るんじゃないのか。そう疑問に思い問い掛けると、そうね、とあっさり返された。

 

「でも、私は傀儡人形、水属性頂点の魔物よ。一人の少女を導くくらいはしても、公爵家の問題にしっかりと手を出すことはしないわ」

「……月の大聖女みたいに何処かに属しているわけじゃないから、ってことか」

「物分りが良くて助かるわ」

 

 ちなみに、月の大聖女もこういう場合は基本見守るだけだ、と続ける。頂点の魔物は、基本そういうお家騒動みたいな部分には深く関わらないのだそう。

 

「だから今回の騒動は、あの娘へのちょっとした試験みたいなものよ。貴方達を促したりけしかけたりはするけど、それ以上はしない。そういうわけなの」

「こっちは大分いい迷惑だけどな、それ」

 

 

 

 

 

 

 それで、もう一人の方はどうなんだ、と俺は傀儡人形に問い掛ける。アンゼリカ嬢ならば現公爵の娘、いくら年上の従兄弟だからといってあの程度の男ならば圧力で潰せるだろう、と。

 

「今のところ致命的な問題を起こしていないから、治療の方を優先させたいのですって」

「ああ、そういう」

 

 まあちょっとした試験にするくらいだから、そこまで酷いものになっていないと結論付けるのもおかしくはない。けれども、あの様子からすると使用人にもやらかしてそうだし、その辺りは放っておいていいものじゃないだろう。

 

「その辺りの対応も踏まえての試験よ。まあ現状は説明と多少のケアでどうにかなっているから、問題はないでしょう」

「なんだか、アンゼリカ様の印象が変わってくるわね」

 

 アリアがそんなことを呟く。まあ俺もそれはちょっと思った。もっと腹黒とか外道とかそういう感じだと思っていたけれど、人の治療を優先したりとか使用人もきちんと気にかけていたりとか、セフィに近い感じもする。まあこの傀儡人形を先生にしているのだから当然前者のような部分はあるんだろうけれど。

 

「やっぱり、セフィーリア様とアンゼリカ様、二人揃うと完璧な悪役令嬢アリアンロッテね……」

 

 うっとり、とした表情でアリアがそんなことをのたまっていたが、まあ気にしない方向でいこう。目標が出来たのならばいいことだ。でも多分お前は素直だからその方向に振り切るのは無理だぞ。

 

「さて、その辺りを踏まえて少し問題を出すわ」

「何でだよ」

「ふふっ。今の状況にも関係することよ。さて、なぜ治療薬の目録の照合をセフィーリアにやらせたと思う?」

「邪魔が入らないようにするためだろ。使用人だけだとアレが何かしてくる可能性がある」

「ええその通り。優秀ね、褒めてあげるわ」

「はいはいどうも」

 

 ここでセフィ本人が照らし合わせれば、流石に向こうもベルンシュタイン公爵令嬢であり元聖女であるセフィと事を荒立てることを控えようとするだろう。予想以上の馬鹿だった場合話は別だが。

 

「その時は理由出来たってことでぶっ殺せばいーんじゃないですか?」

「だから。……いやまあ、そうだな」

「命は奪わなくとも、処罰は出来そうね」

 

 スロウの発言に異議を唱えかけたが、しかし考えてみればそれはそれでありだ。流石にぶっ殺したらマズいが、アリアの言うように別の方向から圧力を掛けて潰すのは可能になる。セフィがやらないといけない、というのがまあ問題点ではあるが。月の大聖女とコネを持っている聖女、という意味では実はスロウも割とこの手の発言力持ちではあるが、いかんせん田舎の村に住んでいるモンスターなのでそういう腹芸にはとことん弱い。任せたらどうなるかは、今の発言で大体察せる。

 さてではどうする、と傀儡人形が俺達に問い掛ける。恐らくアンゼリカは治療の最優先を現公爵にしていない。というよりも、現公爵は別に水泡病で寝込んでいるわけではないのだ、と語る。

 

「へ?」

「水泡病は放置しておいたら危険なのは間違いないけれど、治療薬がなければ死に至る、というほど重大な病気ではないわ。勿論罹患者の状況にもよるけれど、療養をしていればわずかでも快方には向かうの。とはいえ、自然回復はかなりの時間がかかるから普通はしない」

 

 だから治療薬なり聖女の回復魔法なりがいる、と。それで、今回はその手の治療が出来る面々が一斉に患ってしまったから起きた悲劇で問題だ、というのはさっき聞いた。

 詳しく聞かなかったから当然なのだが、俺達はそこで現公爵が寝込んでいるのもそれが原因だと思っていた。が、実際は違うらしい。

 

「正確には寝込んでいる原因は水泡病だけではない、が正しいわね。ちょっと水属性の巡り合わせが悪くて、彼は今内臓が弱っている。一つ一つならば問題はあれど影響は大きくはない、けれど二つが重なったことで随分と影響が広がった」

 

 困ったものよね、と傀儡人形は頬に手を当ててぼやくが、しかしその表情を見る限り本当に困っているようには見えない。人形を人間に擬態させているからそう見えるだけで本気で困っているのか、それとも。まあ後者だろう、と俺は結論付けた。

 

「じゃあ、まーとりあえずその公爵さんを治療しましょう」

「ん? あ、そうか。スロウならそこら辺問題ないな」

「いざとなったら一回ぶち殺して《リザレクション》という手もありますし」

「それはやめろ」

 

 会ったこともないフォーマルハウト公爵に何の思い入れも無いから、身内や友達に対する対応と違うのはしょうがない。実際群れの同族を蘇生の実験体にしてるし、こういうところの感覚はモンスターだから、まあ。

 とはいえ、流石にそれをするとアンゼリカ嬢も悲しむなり怒るなりすると思うぞ。

 

「そうね、あの娘はまだその辺りの割り切りは出来ないもの」

「将来的に出来るようにするみたいに言わないでくれ」

「出来たほうが高位貴族としてはお得よ?」

 

 そうなの、と思わずセフィを見る。なんとも言えない微妙な表情をしていたので、ああ合ってはいるけど認めるのはちょっとって感じなんだなと納得した。

 ともあれ。じゃあ早速治療に、と思ったが。そこで俺達は気付いた。

 現状公爵に会う手立てがない、と。

 

「無理矢理乗り込んで治療、はマズいんですよね?」

「大分マズいな」

「セフィーリア様が面会の約束を取り付ければどうかしら」

「アンゼリカ様とならともかく、私自身は公爵様とはそこまで繋がりが無いので……」

「傀儡人形様なら、どうかなぁ……?」

「私の立場はあくまでアンゼリカの師であり食客よ。公爵に会うほどの権限は……ないことはないけれど、この状況では使わない」

 

 人の命が懸かっているのに、なんて綺麗事を言う気はない。まあ実際即座に治療しなければ、と言うほどではないのはアンゼリカ嬢の優先度でも分かる。だから傀儡人形の言い分は間違っていないし、おそらくアンゼリカ嬢が戻ってきた際に面会を取り付ければそれで事足りる。

 ただ、あの感じだとその面会を取り付けるのがある程度の治療薬を配り終えてからになることだ。

 

「俺達も配るの手伝うか」

「土地勘も知り合いもない状態だとかえって邪魔になるだけよ」

 

 アリアの言葉にぐうの音も出ない。やってくる人に配る、みたいな状態ならともかく、アンゼリカ嬢達は配り歩いている。この状況で手伝いを申し出ても、使用人にただついて回るだけになるのがオチだ。元々向こうの試験である、ということも踏まえ、アンゼリカ嬢もその辺り俺達を働かせる気はなさそうではある。

 だが。

 

「なあ、傀儡人形」

「何かしら?」

「この状況ではってことは、状況が変わればいいんだろ? 俺達が何か条件を満たせば、公爵との面会を取り付けてくれるのか?」

「いいわよ。本当に優秀ね」

「性根が捻くれてるだけだよ。……じゃあ、何をすればいい?」

 

 俺がそう問い掛けると、傀儡人形はクスクスと笑い、なら辿り着いたご褒美みたいなものだから、と指を一本立てた。

 

「ちょっとした採取依頼を、してもらおうかしら。新人とはいえ、優秀な貴方達ならば問題ないでしょう?」

「採取依頼……」

「あら?」

 

 その言葉に俺達の動きがピタリと止まる。そういば、そうだ。新人冒険者がまずやるのは簡単な採取依頼。村でも薬屋や雑貨屋とかが出してるやつだ。

 

「さい、しゅ……?」

「そういえば、やった覚えないわね」

「あ、やってなかったんだぁ……」

「貴方達、本当に面白いわね」

 

 じゃあお願いね、と笑う傀儡人形を見ながら、何もじゃあじゃねぇよと叫びたくなるのを必死で抑えた。

 

 




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