「もう、このっ!」
ワームに向かってラティが銃をぶっ放す。その横に立ったコイナがツタを刺突剣型に替えて突き刺していた。以前より小さいとはいえそれでも中々の巨体だ。その程度の攻撃では怯まんとばかりに大口を開けたワームだったが、しかし急に悶え出す。
「突き刺したツタから直接状態異常を流し込みました」
それはそれは。えげつない戦法を編み出したものだ。そんなことを思いながら、俺はトロルに視線を向ける。ワーム一体はクーヤとコイナ、ラティが。もう一体はスロウとアリア、シトリーが押さえてくれている。あの調子ならじきに片付けてくれるだろう。ただそれは、この三体に連携をする気がなければの話だ。
トロルが吠えた。悶えていたワームが引き下がり、もう一体も一旦距離を取る。そうして状態異常に掛かったワームにトロルは手をかざすと、あろうことか異常回復の呪文を唱えた。
「魔王級だからって、そんな事が出来るのか!?」
「いや、多分あれです」
あれ、とスロウが指差したのはトロルが身に着けている何かの動物の毛のようなものがあしらわれたチャームだ。あれがトロルに何かしらの能力を与えているのは間違いない。
そのまま回復までしやがったトロルを睨み付けながら、俺は剣を構え突っ込んだ。ワームが二体、当然のようにその行く手を阻むが、そんなことは先刻承知。
「障害、排除」
「やらせないよぉ……」
クーヤとシトリーがワームを受け止める。そこに残りの面々も加わり、俺のトロルへの道を開いてくれた。これで後は。
「っ!?」
咄嗟にしゃがみ込んだ。俺の上半身のあった場所にトロルの腕が通り過ぎる。あと一瞬遅れたらそのまま薙ぎ倒されていた。流石にこの防具を着ているから死にはしないだろうが。
そのままトロルは拳を構える。見た目とは裏腹に素早い動きで間合いを詰めてきたトロルは、そのまま俺の腹を膝蹴りで打ち抜いた。かは、と肺の空気が無理矢理吐き出されたが、それでも内臓がどうとかいう致命傷になるダメージではない。即座に立て直すとそのまま剣を横薙ぎに振るった。
体をずらして回避をしたようだが、あいにく俺の攻撃は魔法剣だ。魔力の斬撃がトロルの体を傷付ける。む、と目を見開いたトロルは、距離を取ると即座にその傷を回復した。
「回復されるのが厄介だな」
「我が主から賜った能力だ。卑怯とは言うまいな」
「それ言ったらもっと卑怯なのが味方にいるからな」
トロルの言葉に笑みを浮かべながら背後を指差す。スロウが全員を支援で底上げしているところであった。
「我が主と同じランクだとかいうモンスターか」
「気に入らないって感じか」
「主の力になるなら問題はない」
「じゃあ大問題だ」
そんなことを言いながら再度間合いを詰める。今度は魔法剣も踏まえた斬撃の回避をしたトロルは、その拳を真っ直ぐ顔面に突き出してきた。とっさに手で防御する。
そのまま盛大にぶっ飛ばされた俺は、地面を数度バウンドして転がった。
「流石のパワーだな」
防具のおかげでなんとかなっているが、このまま食らい続けると普通にまずい。というかこのトロル、魔王級の時点でまあ普通じゃないんだけど、それを踏まえても普通のトロルじゃない。
「主に仕えるからには、このくらいは出来んとな」
「……こんな奴がいるのに、楽しい仲間がいないとか言ってたのかあいつ」
「楽しい仲間、ではないだろうからな」
うん、まあ、なんというか固い。確かにこいつといて楽しいかどうかと言われるとちょっと悩む。
悩むが、しかしちゃんとした仲間には違いないだろうに。
「主を楽しませることは出来ん」
「そもそもあいつの楽しむことってなんだよ」
「暴れる事と企み事だろうな」
「はた迷惑なやつ……」
まあそうじゃなきゃ討伐対象の大魔王級なんかになってないだろうけど。はぁ、と溜息を吐いた俺は、じゃあまあそれをとりあえず阻止させてもらうと剣を構え直した。
それに対応し、トロルも拳を握り構えを取る。
「主の頼みだからな。この縄張りの壊滅は為さねばならん」
「そんな頼みゴミ箱にでも捨てちまえ!」
俺の剣とトロルの手刀がぶつかり合う。両者ともに弾かれたタイミングで、素早く体勢を立て直したトロルが回し蹴りを放ってきた。
が、俺だってそのくらいは出来る。素早く体勢を立て直すと、相手の蹴りを剣で受け流し逆に向こうの体制を崩させる。
「もらった!」
「ぬぅ!?」
「させないよぉ!」
そのタイミングでワームが割り込んでくる。っていうかこいつらも喋れたのか。いやまあ魔王級ならそのくらい出来ても不思議ではないのかもしれないけど。短く舌打ちすると、邪魔だと割り込んできたワームに攻撃を。
「させないってばぁ!」
もう一体のワームもこちらに割り込む。まあ片方が喋るならもう片方も喋るか。そんなことを思いながら、というか結構可愛い声だなこいつら、とか余計なことを考えた。
「ねぇボスぅ。主さまの命令だけど、このままだと結構やばめくない?」
「そうそう。このままだとあーしら捨て駒的なあつかいでポイクシャってされるくない?」
「それが主の望みなら」
「だぁらぁ、ボスってばそゆとこ頭かっちんこなんだってば」
「そそ。もっとやわめに考えても罰あたんないっしょ」
そう言いながらワームはぐねぐねと体を捻る。そのままギチギチと音を立てて、巨大なワームから人型へと変わっていった。薄緑の髪をゆるふわなウェーブロングにしたパチリとした瞳の双子らしき美少女が、地面に着地する。そのままトロルの横に並び、ぺろりと可愛らしく舌を出した。
「実はあーしらこっちの方が戦いやすかったりすんだよね」
「ワームの姿より油断してくれるやつわりかしいるし」
「眼の前の相手は気にしないようだがな」
「そーだけどぉ」
トロルの言葉に人に擬態をしたワーム達がぶぅぶぅと文句を述べる。そうしながら、まあいいか、とこちらを見た。まあ確かに俺達としてもどうでもいい。どのみち既にこいつらはハーピーの里を襲って沢山のハーピーを殺した奴らだ。オーテやコカトリスを傷付けた奴だ。
「エミルエミル」
「何だよ」
「どーします?」
「どうするもこうするも、あいつらがこのまま戦いを続けるなら、やるまでだ」
ヘンリエッテよりは多少話が通じるかもしれないが、それだけだ。そう返すと、エミルがそう言うなら、とスロウは再び前を見た。お前俺が何でもかんでもたらしこむと思ったら大間違いだぞ。
というかそもそもたらしこんでもいない。
「馬鹿なこと言ってないで、来るわよ!」
「どうせならもっとイチャイチャしなさいよね!」
アリアとラティに咎められる。いや、ラティのそれは咎めるというかこっちが何か言わないといけない方な気がするが、まあともかく俺も剣を構え直して眼の前の三体を見た。
ば、とワームの双子が飛びかかってくる。ニコリと笑みを浮かべると、そのままスカートを翻してパンツが丸見えに。
じゃない、いやパンツは丸見えなんだけど、ワームの尻尾が纏めて俺達を叩き潰そうと振り上げられていた。
「ちぃ!」
「ぐぅ……」
「防御!」
「みなさん!」
成程、人型のほうが戦いやすいってそういう意味か。油断するってそういうことか。俺とシトリー、クーヤとコイナでワームの尻尾のコンビネーションを受け止めながら、短く舌打ちした。人型になったから人型の戦い方をすると言う思い込みを突かれた。
とはいえ、恐らく奇襲で一気にダメージを与えるはずであったそれを受け止められたことで、ワームの双子は目を見開いていた。
「やっば。効いてなくない?」
双子の片割れがうげぇ、と表情を苦いものに変えながらそんなことを述べる。そうしながら、じゃあもう一撃、と再びワームの尻尾を振り上げたが、遅い。
俺達が受け止めたということは、もう残りの面子の反撃の準備は整っているということだ。
「わっぷ、なにこれ鱗粉? ――てことは」
「避けろ!」
「遅いわよ!」
トロルが叫ぶがアリアの言う通りもう遅い。ワームの双子の体が大爆発を起こした。盛大に吹き飛び地面を転がる双子は、そのままどしゃりと倒れ伏した。
だが、元々がワームの巨体を圧縮した擬態である。その体を活かした防御力はかなりのものだったらしく、その一撃では倒せなかったらしい。
「いったいんですけどぉ……」
「ちょっとこれヤバくない? ボスー、回復して欲しいなぁ、なんて」
「はぁ……」
溜息を吐きながらトロルが回復呪文を唱える。ワームの双子のダメージを回復させたトロルは、しかし何かを考え込むように顎に手を当てた。
「まだやれるのか?」
「ボース、あーしら嘗めてない? 嘗めてるっしょ?」
「全然いけるし。むしろ元気有り余ってるし」
「そうか。なら、精々死なんような。蘇生が面倒だ」
『了解!』
元気よく返事をしたワームの双子が再度突っ込んでくる。今度はちゃんと受け止める、とシトリーがその片方を迎撃する体勢に入ったが、ワームはニヤリと笑うとシトリーの頭を掴んでそのまま地面に叩き付けた。
「手足増えたぶん、やれることふえてるんだよね、これが!」
「シトリー!?」
「大丈夫、だよぉ……!」
「ん? うぇ!? アリジゴク生えてきたぁ!」
疑似餌の背中から飛び出したアリジゴクの顎がワームを捕らえる。そのまま真っ二つにせんと顎を閉じるが、そうはいかないと両手でその顎を掴んでワームは抵抗する。
まあその状態だと隙だらけなんで他のメンバーで攻撃し放題なんだが。
「させるわけないっしょ!」
そこにもう一体のワームが割り込む。シトリーを踏みつけて片割れを顎から脱出させると、追撃しようとしていたラティに向かってシトリーを投げ付けた。本体はワームなだけあって、その膂力は相当のものだ。
「わ、わわぁ……」
「シトリー!? おぶっ!」
当然銃をぶっ放せなくなったラティはシトリーと大激突。その隙に、とワームは追撃をしようとしていたが、そうはいかないとクーやとコイナがワームを迎撃していた。
「めんどい!」
「強いのに数多いとかマジ反則じゃない?」
ぶぅぶぅと文句を言いながらワームは距離を取る。生憎だが、本当はもっとたくさん勇者級がお前達を討伐する予定なんだよ。俺達程度に手間取っていてはとてもじゃないが勝てないだろうな。
「エミル、そういいますけど、わたしたちも多分大概ですよ?」
「そうね。この間の勇者級の戦闘でも分かってるでしょうに」
やれやれ、と肩を竦めながらスロウとアリアは俺を見る。そうしながら、さてでは決着だと言わんばかりにアリアが扇を開いた。
「げ、マジ!?」
「やっば、これ」
まずい、と即座に反応して離脱しようとしたワーム達だが、しかし既に逃げ道は風の壁で塞いでいる。後はこの空間を纏めて木っ端微塵にするだけだ。
「さあ、吹き飛びなさい!」
「ちょーヤバいんですけど! ボス、助け――」
「これ死んじゃうくない!? ボス、あーしらを――」
「弾けろっ!」
先程よりも盛大な爆発が巻き怒る。空間内で増幅されたそれは、ワームの姉妹を盛大に吹き飛ばす。トロルの横にぐしゃりと倒れたワーム達は黒焦げで、倒れたままピクリとも動かない。
そんなワームの姉妹の死体を見下ろしたトロルは、はぁ、と小さく溜息を吐いた。
「調子に乗って油断をしているからこうなる」
まったく、と姉妹を咎めるような視線を向けたトロルは、そのままこちらに視線を向けた。こういっちゃなんだが、いいのか? そいつら結構お前のこと慕ってたっぽいんだけど。そんな奴が死んで、それで終わりで。
「嘆けとでもいうのか? そもそも、ウィアとウェルを殺したのはお前達だろう?」
「いや、そうなんだけど」
というかあのワームの姉妹、ウィアとウェルって名前だったのか。何か名前を知るとちょっと罪悪感湧いてくるな。いや、でもハーピーを殺したのも、アロー達を傷付けたのもこいつらで。
ぶんぶんと頭を振った。トロルに向かって武器を構え、残りはお前だけだ、と一気に間合いを詰めて剣を振るう。
その一撃を受け止めると、トロルは俺を真っ直ぐに見た。そのまま繰り出してきた手刀を躱し、今度はこちらの番だと攻撃を。
「甘い」
そのまま流れるように蹴りが放たれる。咄嗟にガードをしたが、そのまま防御ごと吹き飛ばされた。空中で体勢を立て直した俺は、魔法剣の斬撃を遠距離から放つ。
「さっきからお前しか攻撃してこないが、どういうつもりだ?」
ワームの姉妹、ウィアとウェルはもう死んでいる。ならば残った一体であるトロルを全員で攻撃するのはまあ当然と言えば当然なのだが。
「そういうお前だってワーム達が攻撃してきたとき見てただけじゃねえかよ」
俺がそう言うと、トロルはそうだなと頷く。頷きながら、こんなことなら手助けするべきだったな、と黒焦げになったウィアとウェルを見下ろした。
「お前はいいのか? 手助けすればよかったと悔やまれないか?」
「まあ、もしこれで死んだら言われるかもな」
「そのつもりはない、ということか」
「死ねない理由があるんでな」
そうか、とトロルが短く返す。もう言葉は不要だとばかりに、トロルは俺に向かって拳を構えた。