調査の結果をオルとアルが伝える。俺はそれに補足、というか全容とというかを伝え、二体の依頼はそれで完了となった。最近はヘンリエッテの起こす依頼が所々に混じってくるので、冒険者も油断が出来ない。生半可な実力では、もし出会ったらその場でアウトだからな。
ともあれ。マスターにその辺を伝え終わった俺はこれ自由の身、というか帰るだけになったのであるが。
「あ、あの、エミルさん」
「お、おう、どうした?」
「何よその態度は……」
どことなくギクシャクする俺とアルにオルが呆れたような溜息を吐く。別に変わらないって自分で言ってたくせに。そんな言葉を続けられ、いやまあ確かにそうなんだけどと頬を掻いた。
「なんかアルが緊張してるから、つい」
「わ、私は別に、緊張とか、してない、ですよ?」
「アル……」
ビクンと反応するアルを見てオルが再度溜息。そもそも何を緊張することがあるのだ、と頭を振った。
「お前はどうせ帰るんでしょ?」
「ん?」
「指輪の効果で帰れるって言ってたじゃない。というか、そんな便利なものがあるなら、以前のスパイスの時も私達いらなかったじゃないの」
「あー……まあ意外と忘れるんだよなこれ。あと大きな荷物を一緒には運べないしな」
あくまで俺一人分の移動だ。まあスパイスや料理用の肉くらいなら運べたかもしれないけれど。今度どこまで運べるか試すのもいいかもしれない。
それはともかく。流石に俺だってこれで帰る、というほど薄情ではないつもりだ。
「少なくとももう少しアルと一緒にいるよ」
「本当ですか!?」
「……まあ、そのくらいしないとね」
ふん、とオルが鼻を鳴らす。そうしながら、ほれ、と俺をアルの横に移動させた。
「デートするならさっさと行ってきなさい。私は先に帰ってるから」
そう言ってひらひらと手を振って去っていくオル。そんなオルの背中を暫く見ていた俺達は、じゃあ行こうかと歩みを進めた。
「まあせっかくだし、アルに色々帝都のことを教えてもらうか」
「はい。でもエミルさんも何度か来ていて知っているんじゃないですか?」
「とはいっても、ここで暮らしてるわけじゃないしな」
成程、と頷いたアルは、じゃあ任せてくださいと笑みを浮かべた。そうして街を歩きながら、観光名所だったり、地元のお店だったり、そういうここで暮らしている者ならではの話を聞いていく。
とはいえ、依頼を終えてからの時間なので、すぐに夜になってしまう。街灯の明かりをぼんやり見ながら、そろそろ帰らないといけませんよね、とアルがポツリと呟いた。
「せっかくだからどこかで食べよう。多分オルもそれを想定しているだろうしな」
「あ、そうですね」
それじゃあ、とアルに案内されたレストランで食事を取る。ここは値段もあまり高くなくて、でも美味しいんです。そう言って笑顔で紹介してくるアルは可愛らしく。
「どうしたんですか?」
「いや、なんというか。本当によかったのか?」
俺には心に決めた大事な幼馴染の彼女であるスロウがいて、だというのにアリアとシトリーという彼女がいる最低なハーレム野郎である。そんな奴の彼女に追加されることについて、思うことはないのだろうか。そんなことを考えてしまってもおかしくはないというか。
「まあ、思うことが何も無いということはないですけど」
でも、とアルは述べる。今の自分になれたのは間違いなくエミルさんのおかげですから。そう言葉を続け、俺の手をギュッと握った。
「だから、エミルさんの彼女の席に座れるのは、嬉しいんです」
「……そうか」
ポリポリと頭を掻く。何だか気恥ずかしくなって、思わずアルから視線を逸らした。
暫くすると料理もやってくる。成程確かに美味い。そんな感想を言いながら、そういえばオルと一緒に暮らしてるんだよな、という話になり。
「食事なら交代で作っていますよ。あ、勿論材料は人ではないです」
そういえばもうすっかりその手のものを食べなくなった、とアルは述べる。でもそれはスロウさん達も同じですよね、と同意を求めるようにこちらを見て。
まあ、そうといえばそうか、と曖昧な返事をした。そもそもとしてスロウは人を食べたことがない。なので、そういう欲求とも無縁なはずだ。
「そうなんですか? じゃあ、アリアさんとシトリーさんも?」
「アリアは、どうなんだろう。アリアンロッテを目指すようになる前はひょっとしたら、くらいか。シトリーは一回無理矢理テイムされる際に食べることになって不味かったからもう食べない、だったな」
そう考えるとまったくその手の衝動が何もないスロウが特別か? いやまあ、アル達みたいに人側になってから食べなくなった連中も結構いるし、そうでもないのかも。
ううむ、と考えながら食事の手を止めていると、アルが俺の名前を呼んだ。
「どうした?」
「私が確かにその話題を出しましたけど。今日は、その、私とのデートなので、出来れば私を見て欲しい、です」
「あ、ああ。そうだよな、悪い」
ほんの少しだけむくれて、それでいて照れくさそうなアルを見て可愛いなと思いながら、俺達は食事を再開する。今度は主にアルのことについて。最近のこととか、これまでのこととか。
あるいは、野良モンスターだった時のこととか。
「元々大きな身体を持ってなかったので、私もお姉ちゃんも生きるのに必死でした。強くなるために、って自分達より大きな身体の蜘蛛のモンスターを倒して食べることもありました」
「それって」
「そうですね、あの時のハイドラとやっていたことは変わらなかったのかもしれません」
そう言って苦笑したアルは、どちらにせよ、それによって自分達は強くなり、魔王級と呼ばれるだけの実力を手にしたと続ける。
「そのままさらに強くなるため、もっと大きな獲物を、魔王級のモンスターを。そう思ってあの時キララさんを狙って。後はエミルさんの知っての通り、私達はエミルさんに討伐されて」
その後蘇生させられて、今に至る、と。そこまでを話したアルは、何かを考え込むように顎に手を当てた。そうしながら、いいんですか、と問い掛ける。
「あの時、エミルさんに討伐された時は人を襲っていなかったですけど、それだけで過去の所業がなくなるわけじゃない。人食いだってしてますよ」
「いやまあ、人食いしてるやつ全員許さないだとシトリーはアウトだしアリアも場合によっちゃ、になるしな」
だからまあ、今はこうしてちゃんと人側にいてくれるならとりあえず問題はない、になるんだろうかな、俺の場合。
もっと言うと現状完全に人食いを止めてないラミューですら見逃されてるし。まああれは特殊な事例か。
「そんなわけだから、少なくとも俺はそこまで気にしていない」
「……ありがとうございます、エミルさん」
どこかホッとした表情で頷いたアルは、ご飯冷めちゃいますね、と料理に手を付けた。
そうして食事を終えた俺達は店を出る。外はもうすっかり暗くなっていて、流石にもう帰らなくてはと思わせる時間だ。
スロウはあんな事を言っていたが、実際どうするべきか、と考える。いやまあ、このままアルを家まで送っていくでも全然問題はないとは思う。オルの反応が気になるが、あいつの場合どっちを選んでも不機嫌になりそうなのでしょうがないと割り切ろう。
それはそれとして、だ。
「あ、あの」
「ん?」
「エミルさん、もう、帰っちゃいますか……?」
ぎゅ、と俺の服を掴んでそんなことを述べるアル。ここでそうだな帰る、と言えるほど俺も鈍感では。いや、意外と鈍感鈍感と言われているので少々怪しいが、でも流石に今回のこれは俺でも分かる。
「えっと。アルがいいなら、もう少しいるけど」
「そうですか!」
ぱぁ、とアルの表情が明るくなる。そうして次には何故か顔を赤くした。
何だどうした、と思うよりも早く、それなら、とアルが俺に声を掛ける。意を決したように、ぐ、と表情を引き締めて。
「私達の家に、寄っていきませんか?」
「意外と大きな家に住んでるんだな」
そうして案内されたアルの家は、おもったよりも大きな建物だった。二人だけで住むには大分広いんじゃいかと思ったが、監督者としてアイラさんやリィンさんが尋ねてくるので、それも踏まえた大きさらしい。成程、そう言われると大体四・五人が寝泊まりするのに丁度いいくらいか。
「にしても、あんたが来るとはね」
はい、とお茶を用意してくれたオルがやれやれと頭を振る。いや、そう言われても、アルに誘われたんだから断る理由がないし。
ちなみにそんな俺を誘ったアルは、俺がいることに何故かやたらと緊張していた。
「アル?」
「は、はい!?」
「いや、どうしたんだよ」
「な、なんでもないです」
どう見ても何かあったが、なんでもないと言うのならばまあそれを信じるとしよう。そんなことを思いながらオルを見ると、何とも言えない表情で溜息を吐いていた。
「アル」
「ど、どうしたのおねえちゃん」
「……ちょっとシャワーでも浴びて落ち着いてきなさい」
シャワー、という単語を聞いてワタワタしていたアルであったが、そのままオルに押し出された。どこか心配そうにその様子を眺めていたオルだったが、アルの姿が見えなくなるとこちらに向き直る。
「で、お前はどういうつもり?」
「どういうつもり、と言われても」
「アルを抱くの?」
直球で言われた。そう言われても、と俺は頬を掻く。例えばこれで今日はどこかの宿を、とかなら確実にそうだと思えたが、家だし。姉もこうして眼の前にいることだし。いや、スロウもシトリーも自宅で致してしまったので、家族のいる場所でやってしまうのは別にいいとは思うが。
「アルが決めたことなら、しょうがないから認めてあげるけど」
ジロリとオルが俺を見る。本当にしょうがなくなんだな、というのがその視線から伝わってくる。
あの時も言ったけれど、とオルが指を突き付けてきた。何かあったらすぐに別れさせる。そう俺に伝えてきた。
「でも、多分。悲しがらせるし寂しがらせる」
「分かってるなら……とはいっても、告白したのはあの娘なのよね」
はぁ、と溜息を吐く。何でこんなのがいいんだか、と俺を睨み付けてきたオルは、何かを諦めたように再度溜息を吐いた。
「あ、お待たせしました」
そんなタイミングでアルが戻ってくる。シャワーを浴びたからだろう、しっとりとした髪や肌が普段の可愛さとは別の、妙な色気を放っていた。
そんなアルを見たオルが席を立つ。それじゃあ部屋に戻っているから。そう述べたオルは、俺に視線を向けると、とある部屋の扉を指差した。
「そこがアイラもリィンも使ってない客室よ。泊まるならそこ」
「あ、ああ。ありがとう」
それだけ言うとオルはそのまま自身の部屋であろう場所に向かって歩いていってしまう。
そうして後は、シャワーを浴びたアルと俺だけが残された。
「落ち着いたのか?」
「え? あ、はい」
そう言って頷くアルは確かにさっきよりは幾分か落ち着いて見える。見えるが、しかし何かを決意したようにも見えるわけで。
「今更ですけど」
「ん?」
「家に招待なんかしちゃって、迷惑でしたか?」
「そんなことはないけど」
どっちかっていうと俺が来る方が迷惑になってなかったか。さっきまでいたオルを思い出しながらそんなことを口にする。アルはその言葉に苦笑しながら、そんなことはないですよと述べた。
「おねえちゃんもエミルさんのこと好きですから」
「それ、よく言うけど本当なのか?」
嫌われている、とまではいかないだろうけど、好かれているまではいっていないような。そんな気がするんだけど。ううむと首を傾げる俺に、アルは笑顔を見せていた。
「お姉ちゃん、素直じゃないですからね」
「スロウの前では素直じゃないか」
「お姉ちゃんにとってスロウさんはお師匠様ですしね」
そんなもんか? よく分からないと首を傾げながら、そういう意味では俺もアルの師匠みたいなものになるのか、などとふと思う。まあスロウと違ってちゃんと戦い方を教えたわけでもなし、言うほどそんな感じもしないけど。
「私にとっては目標で、大切なお師匠様ですよ」
むん、と拳を握りながらそう述べるアル。そう思ってもらえるなら嬉しいけどな、なんて笑いながら、さてそろそろ、と俺は席を立った。
その途端、アルが顔を真っ赤にしながら慌てだす。
「そ、そうですよね! そろそろですよね!」
勢いよく席を立ったアルは、そこでバランスを崩して俺に寄りかかった。おっと、とアルを抱きとめると、石鹸の淡い香りがふわりと鼻をくすぐる。
「あ、ありがとうございます、エミルさん」
「ああ。それで、どうしたそんなに慌てて」
「え? だって、そろそろなんですよね!?」
「えっと? あぁ……」
そうか、この流れでそろそろとなればそうなるか。正直、スロウにしろシトリーにしろアリアにしろ、最初は向こうから来ていたのですっかりその流れが染み付いていた。
何というヘタレ。自分で自分をぶん殴ってやりたい。そんなことを思いながら、俺はアルの肩を抱き、そして告げる。
「いいのか?」
「ひゃ、ひゃい……お、お手柔らかに、おねがい、します……」
顔を真赤にして俯くアルを促し、俺は客室へと向かっていく。
扉を開け、中に入り、そして扉を締めて鍵を掛ける。そんな動作の一つ一つにアルはビクリと反応していた。
「やめるか?」
「やめません。で、でも、優しくしてくださいね……あ」
「ん? どうした、やっぱり」
「そ、そうじゃなくて。その、最初は――」
そう言うとアルはスルスルと擬態を解く。子供くらいの大きさの蜘蛛のモンスターの姿に戻ったアルは、そのままベッドにこてんと寝転んだ。
「こ、こっちの姿で、して欲しいな、なんて……。駄目、ですか?」
恥ずかしそうに体をゆらゆらとさせる蜘蛛。そんな姿を見ながら、俺は別に構わないとベッドに向かった。
「わ、ほ、本当にモンスターの姿でも……?」
「何だよ、疑ってたのか?」
「す、少し……って、やぁん、いきなりそんなところぉ!?」
蜘蛛の下腹部をそっとなぞる。それにビクリと反応したアルは、トロンとした表情で八本の節足をワシワシとさせた。
「え、エミルさんに、私、大事な場所、全部見られてる……!」
仰向けになった蜘蛛は裏側が丸見えだ。スロウ達とは違うそれに、恥ずかしがる反応に。
正直、興奮が隠せない。
俺は蜘蛛の口元へと唇を寄せ、そっと口付けをした。そのままくちゅくちゅと蜘蛛の口内を堪能し、唾液の混ざった糸が口を離れる際につつっと垂れる。恥ずかしそうにそっぽを向いたアルの胴体をそっと撫で、ビクリと反応した節足の根本を軽く擦るように触れた。
「ぁん! エミルさん、そこはっ」
「駄目だったか?」
「駄目、じゃ、ないです……」
なら、と節足の根本をぺろりと舐める。ビクンと蜘蛛の足が跳ねるように立ち、俺の頬をかすめた。俺はその衝撃を気にすることなく、そのまま根本から胴へ、そして下腹部へと舌を動かす。
「きゃ、や、そんな、やぁん、あぁん!」
「可愛いよ、アル」
囁きながら、俺はそっと顔を離す。そろそろ俺も、と興奮してたまらない自分自身のそれを取り出した。
「エミルさ――お、おっきい、え? これが、私の中に……?」
アルの蜘蛛の生殖器も既に準備万端だ。俺は出来るだけ優しくする、と言いながら、自分のそれを蜘蛛のそこへと。
14章はここまで