ヘンリエッテ関係で問題は色々あるものの、まあそれは追々解決していくものだ。とりあえず今は単純にオルとアルの昇級めでたいで済ませればいい。
「了解。では、依頼は完了、昇級試験は合格だ。おめでとう、オル、アル。これで君達は勇者級だ」
「ええ」
「はい」
勇者級だからといって驕らないように、というのはまあこの二体なら分かっているとは思うけれど、などとマスターが昇級した冒険者の心構えを話している。俺達もそんな話は聞いただろうか、などということを思い出しながらオルとアルを見た。
聞かなかった気がするな。バクスがその辺適当だったような気もするし。
「まあ、その辺の話終わったらお祝いですよお祝い」
スロウがそんなことを述べる。カフェに移動し、ギルドマスターからカフェのマスターに立場を変えたマスターが、俺達の注文を受けて了解だと頷いた。
「どーせだし、わたしたちも手伝いましょうか」
「そうだな」
「あ、じゃあ」
「オルとアルは座ってなさい」
「主役だからねぇ……」
勝手知ったるかつてバイトをした場所、と俺達も準備をして奥に向かう。そのままマスターの手伝いをして祝いの準備をした俺達は、まあ元々客もそういないから、と貸し切りにしたカフェでパーティーを開いていた。
「これからは同じ勇者級だし、頼りにさせてもらいましょうかね」
「は、はい。私頑張ります」
スロウの言葉にオルが元気よく返事をする。いや、そんな気合を入れるレベルじゃなくていいんですけど、と言い出しっぺのスロウも少し恐縮していた。
まあでも実際に成り立てとはいえ同じ勇者級になったんだ。スロウの言葉じゃないが、色々と頼りにさせてもらうこともあるだろう。それに、帝国の冒険者ギルドにとっても、アイラさんやリィンさんがいない時にもう一組勇者級パーティーがいるのはありがたいだろうし。
「そうですね。……そうか、私達、アイラさん達がいない時の代わりも務めるんだ……」
「エミル。またそんなプレッシャーかけることを言うんですから」
「え、俺?」
「今のは間違いなくあんたでしょ」
「うんうんうん……」
いやまあ、そうか。まあ確かに俺達も勇者級だ、とか改めてお姉さんに言われた時には多少重圧が……あったっけか。田舎の村暮らしだから活性化がどうとか言われたくらいで、直接的に何か、というのはなかったかもしれない。そういう意味ではやっぱり帝都暮らしって大変だよな。
「まあ今では田舎だろうが遠慮なく依頼来ますけどね」
「そうだな」
色々と問題が巻き起こっている中だし、しょうがないけれど。そんなことを思いながらもオルとアルを祝っていると、カランカランとカフェのドアベルが鳴った。今日は貸し切りで、とそのへんの説明をしようとした俺達だったが、やって来たその二人を見てそれをやめた。
「アイラさんとリィンさん、依頼終わったんですか?」
「ええ。その様子だと、そちらの昇級試験も終わったようですね」
「ということは、オルちゃんもアルちゃんも勇者級になったってことだね、おめでとー!」
そのまま二人も席につく。でも、この早さで終わるんなら別に俺達に頼まなくてもよかったんじゃないのか。そう思い尋ねてみると、確かにそうね、とアイラさんが笑った。
「ここ最近の問題もあり、マスターも少し焦っていたのかもしれませんね」
「まあ確かに少し面倒だったけど」
リィンさんもそう言って笑う。面倒だったのか、と問い掛けると、まあ自分達にとってはちょっと、という返事が来た。
「相手がアンデッドでね」
「アンデッド?」
それは、とこちらもつい注目してしまう。どうしたのか、と首を傾げるリィンさんとアイラさんに、俺達が監督した依頼でのアンデッド騒動を伝えた。成程、と頷いた二人は、それならば多少心当たりがある、と述べる。
「こちらも何者かに殺されたモンスターの死骸が用意されていました」
「それで、それらが急にアンデッドになって襲ってきたってわけ」
俺達と状況が同じである。アイラさん達が仕事を終えたのは俺達より前らしいので、あの影の仕業だと考えてもいいのだろうか。微妙なところだが、まあ無関係というわけではないだろう。
二人の話によるとそのアンデッド化したモンスターが出たのみらしい。アンデッドと土地の浄化、その両方に時間が掛かって面倒だった、とのこと。そういやこの二人だとそういう神官系の能力ないもんな。
「これからは私が」
そんな話をしていると、オルがこほんと咳払いをしてそんなことを述べた。そういえばスロウに教えてもらって破魔呪文使ったんだったな。あれってもう使えるのか? そんなことを思いスロウに尋ねると、そうですね、と頷かれた。
「一回使ってコツは掴みましたし、こらからも使えるようになったと思いますよ」
「へぇー。そうなると、オルちゃんも聖女の資格を取るの?」
リィンさんのその言葉に、オルは少し考え込む。確かに聖女の資格を得るだけの能力は手に入ったと見ていいだろう。勇者級にもなったし、当事者の気持ち次第でどうにでも、といったところか。
「流石にまだそれは」
当のオルはそんな感じである。ちらりとスロウを見て、しかし目標に追い付くには、と悩んでいるようにも見えた。
そんな会話もしつつ、アイラさんとリィンさんを交えた蜘蛛姉妹の昇級祝いのパーティーは終わり、俺達も解散することになった。改めてこれからよろしくだとか、頑張れだとか、そんな言葉を言いながら、アイラさん達、俺達、そして蜘蛛姉妹は別れていく。スロウの《テレポート》で村に戻り、そのまま家で休んで。
なんだかこうやって家で休むのも久しぶりな気がしてくる。実際はそんなに経ってないんだけれども。
「はぁ……」
自分の部屋のベッドで溜息を吐く。とりあえずグリュセは次にあったら絶対に討伐してやる、と心に決める。それと、あの影。明らかに俺達を敵視していた以上、どのタイミングか分からないが確実に攻めてくるだろう。
正直ラドーン達は後回しでもいい。現状どうにかしたほうがいいのはグリュセと影だ。
「ふぁあ……」
そんなことを考えていたら、疲れからか眠気が襲ってきた。とりあえずは寝るか。そんなことを考えながら、俺はそのまま目を閉じる。
そんなことしていた翌日は別段何もなく。そのまま数日が過ぎた。ギルドに通いながら何かヘンリエッテの部下達、あるいはヘンリエッテ自体の情報がないかを調べるが、依頼の内容には別段そういう物は見当たらない。
「あ、ちょっと待ってください」
そんな中、スロウが一枚の依頼書を手に取った。内容は、えっと、幽霊屋敷の調査。
「何か聞いたことのあるような話だな」
「ひょっとして、また?」
「いや、場所は違いますね」
アリアのかつての棲み家であるあの廃屋敷。そしてアンデッドの頃のメアリーの棲み家だったあの場所でまた何か、と思ったが、そういうわけではないらしい。
場所は王国と帝国の境目辺り。そこにかつて建っていたらしい大きな診療所の跡地にて、度胸試しをした若者が何かを見た、とのこと。場所柄通常のモンスターではなくアンデッドである可能性が高いので、原因の特定と可能ならば排除をお願いしたい、らしい。
「度胸試しする余裕があるってことは、それなりに裕福な人だったのかな?」
依頼書を見ながらマイア姉さんはそんな所に目をつけていた。せっかくだし冒険者目指してもいいかもね、などと続けながら、お姉さんはこちらを見る。受けるかどうか、ということだろう。
まあ一見するとそんなに大した依頼ではないような気もする。が、ついこの間あの影を見ていた俺は、どうにも気になってしまうわけで。
「受ける」
「了解。じゃあ手続きをするね」
さらさらと依頼を受ける手続きを終わらせたお姉さんは、じゃあよろしく、とそれを手渡した。それに頷いた俺は、じゃあさっそくその場所に向かおうとスロウを見やる。
「んー」
「どうした?」
「びっみょーな場所ですね。これ、《テレポート》でいける場所からどこもかしこも離れてます」
地図を見ながら、近くても場所がこことこことここしかない、とそれぞれ指差す。成程確かにどこに移動しても目的地まで大分かかりそうだ。
まあ別にその程度気にするほどでもないだろうし、日にち掛かってもその都度戻るなりすればいいしな。
「スロウのおかげですっかり日帰り冒険者になってるわね」
「そうだねぇ……」
普通の冒険者はもう少し野営なりなんなりするものだろう。その辺をスロウの《テレポート》によって無くしているので、まあアリアの言うことも間違っていない。
「ま、とりあえず行きましょうか」
多分この三つの中でここが一番近い、という場所への《テレポート》を唱えたスロウは、そのまま俺達を魔法陣に押し込む。行ってきます、と手をヒラヒラさせながら、そのまま光の中に飛び込んだ。
そうして一番近いだろうと思われる村に移動した俺達は、とりあえず地図を頼りにその診療所跡とやらに向かうことにした。確かに遠い。この調子だと夜になっても到着しないんじゃないかと思わせるほどだ。
道中は別に何の問題もない。野生の魔王級と遭遇なんてイベントも起きないし、出てくるモンスターも適当に追い払えばそれで住むレベルだ。
それはそれとして距離は遠いので、目的地に着く前に夜になってしまった。このまま進むのも効率は良くないし、今日の移動はここまで、ということになる。
「で、どーします?」
「どうするって」
「たまには野営してもいいとは思うけど」
「たまに、なのも中々だよぉ……」
シトリーの言う通りである。それこそ行く前にも言っていたが、すっかり日帰り冒険者になっていて野営やら何なやらの能力が落ちている気がしないでもない。アリアの言葉じゃないが、たまには久々に野営をするのもいいかもしれない。
「緩みきってますねぇ」
野営の準備をしながらスロウが述べる。そもそも夜になってから野営の準備を始める時点で嘗めてるのかと言われてもしょうがないわけで。
適当な木を集め、それを燃やして焚き火を作る。一応常に保存食は持ってきているので、それらを食べて、後は寝るだけだ。雨も降っていないので、適当にその辺で寝るというやはり野営を嘗めてるのかと言わんばかりの状況である。
「そもそも、そーゆー準備あんまりしてきてなかったですしね」
「そうなんだよなぁ」
スロウの《テレポート》で事足りたので、普段の旅の準備を完全に怠っていた。正直これは冒険者として、勇者級として割と致命的ではないだろうかと思わないでもない。
このレベルまで到達しておいて野営の準備もまともにしていないとか、それこそ降格させられてもおかしくない失態である。
「普段スロウにどれだけ頼り切っていたのか、って話よね」
ぱちぱちと燃えている火を見ながらアリアが呟く。地面に直で寝るのは流石にアリアンロッテらしくないということで下にラグのような布を敷いているが、そんなものを用意してなかった残りの俺とスロウにシトリーは地面に直に座り込んでいる。
「本当に、そうだねぇ……」
ううむ、と難しい顔でシトリーも燃える火を見る。まあでも、とシトリーはスロウを見ながら言葉を紡いだ。
「ワタシなんか、元々野生のモンスターだったし、正直別になんでも、って感じはするよぉ……」
「まあ言われてみれば。人の世界で暮らし始めたのここ数年ですしね」
うんうんとスロウも頷く。そういやこいつは芋虫で、村の近くの森で十数年野生のモンスターやってたんだから野営とか言われても、状態なのか。その辺はシトリーも一緒で、そもそもぼっちで野生のモンスターやってたシトリーには尚更か。
で、アリアンロッテを目指して人らしく屋根のある場所で暮らしてたアリアは例外、と。
「なによ」
「いや、この場合俺と同じ価値観なのはアリアくらいなんだなって」
「ああ、そういう。そうね、あたしはアリアンロッテを目指していた状態のほうが長いから、むしろスロウ達とは逆だわ」
そんなことを言いながら、アリアは立ち上がると俺にぎゅ、と抱きついた。
「ねえエミル。同じ価値観を持つ者同士、今日は楽しまない?」
「アリア? 何を」
「何を、って。あたしの口からそれを言わせるの? エッチね」
そう言ってアリアが俺に口付けをしてくる。ねっとりとした感触を味わいつつ、いや流石にそれは、とアリアを引き剥がした。
「なによ。あたしとは嫌なの?」
「そういう意味じゃなくて。そもそも滅茶苦茶見られてるだろ」
「じー」
「じぃー……」
スロウとシトリーが俺とアリアをじっと見ている。別段怒っているという感じではないし、その辺はまあ安堵しているのだが。
何故だろう、別の意味でなにか恐ろしいものを感じる。
「あら、じゃあスロウとシトリーも混ざる?」
「ありですね」
「いいのぉ……?」
「え、ちょっと待て。お前ら本気か!? 外だぞ!」
「村の森で盛ってわたしを犯したエミルに言われたくないですけど」
「あれは昼だったし、そもそもあの時はお前のせいだろ」
「エミルくん……いい、かなぁ……」
「シトリー!? お前もちょっと落ち着け」
思わず三体から離れたが、スロウ達はゆっくりとにじり寄ってくる。いや、別に嫌じゃないっていうか、愛しい彼女が積極的に来るのはなんというかエロいというかではあるんだけれども。
さっきの会話を思い出せよ。野営の実力が全然って話だっただろ。ここでそんな事やってたら余計にだな。
「それならさっきも言ったじゃないですか。元々野生のモンスターだったんで、別にどーでも、ですよ」
「野生のモンスターだし、夜にエッチなことしても、別に、だよぉ……」
「そういうことらしいわね。さ、観念なさい」
「いやだったらアリアはだめだろ、お前アリアンロッテはどうした!?」
「今はただのアリアよ。ね、エミル」
逃げ道を探すが、見付からない。これは間違いなく、俺は、スロウとアリアとシトリーと、このまま――