さて、ではどうやって倒すのかといえば、まあ全力の一撃で一気に倒し切るのが一番手っ取り早い。が、それのをやると当然アンデッドに吸収されているシトリーもろともになるわけで。再生にシトリーの体力を使うからそれをされないために、という理由でシトリーごと木っ端微塵は何の意味もない。
「というか、吸収されてるシトリーを取り出せばいいんじゃないのか?」
「あ」
そりゃそうだ、とスロウとアリアが顔を見合わせる。脳筋な考えもいいが、それ以前の方法をまず試してみるべきだった。
「とはいって、あの体のどこにシトリーちゃんが吸収されてるのか分からないですしね」
「胴体をふっ飛ばして穴を開ける、のが手っ取り早いかしら?」
「そのふっ飛ばした範囲にシトリーがいたらどうするんだよ」
俺のツッコミに、じゃあどうするんだとアリアがジロリと睨む。いやまあ、そうなると地道に切り裂いて中を探るしか無いというわけになるんだけど。
「それこそシトリーの体力を消費させちゃうでしょうに」
「さっきのシトリーちゃんの悲鳴でも、胴体にいることしか分からなかったですし」
いっそ胴体真っ二つか? それをやってシトリーも真っ二つは洒落にならないしな。ううむ。
ともあれ。どちらにせよシトリーの位置を探らない限り攻撃が出来ない。なんとか探せないか、と俺達はアンデッドの巨人に向かって声を張り上げた。
「シトリー! 聞こえるか! 返事してくれ!」
力いっぱい叫んでみるが、声は聞こえない。さっきの悲鳴からすると意識はあるんだと思うが。こちらからの声は聞こえないようにされているんだろうか。
「来るわよ!」
「ちぃ!」
アンデッドの巨人が腕を振り上げる。それを躱しながら、反撃も出来ずに俺達は短く舌打ちをした。このままでは為す術がない。ただひたすら向こうの攻撃を躱すか受け止めるかだけになってしまう。
「一か八か、さっきも言ったように中心部に穴でも開けてみる?」
アリアがそんなことを言いながら扇を構える。まあ少なくとも核か何かにしているであろう存在を表面にどどんと構えているなんてことはないだろうから、その案は間違っていにだろうけれども。
とはいえ、他にいい方法はないし、やれるだけやってみるしかないか。胴体全部消し飛ばしてシトリーも消し飛ばしちゃいました、みたいなのはやめてくれよ。頼むから。
「分かってるわよ。中に繋がる穴を空ける程度よ。そっちこそ、その後は、分かってるわよね?」
「ああ、分かってるよ」
そうと決まれば、と攻撃を避けながら武器を構える。行くわよ、という声とともに空に飛び上がったアリアは、アンデッドの巨人の胴体部分に扇を向けた。
「弾けろ!」
ボン、とアンデッドの巨人の胴体が爆発する。グラリと巨体が揺れ、そして胴体に穴が空いた。丁度中身が見える程度、ぐじゅぐじゅとアンデッドの肉の塊が蠢いているが、シトリーは見当たらない。
そんな穴に向かって俺は突撃した。再生される前に穴に飛び込み、斬り広げる。爆発でできた穴が段々と塞がる。俺の切り裂いた傷もゆっくりと修復されていく。
「きゃあぁん……!」
「そこだ!」
シトリーの悲鳴が聞こえた場所に剣を振るう。斬り広げられた空間の先に、影の手によって拘束されている核、シトリーが見えた。
邪魔だ、と手に剣を突き刺す。拘束を無理矢理解いた俺は、そのままシトリーを抱きかかえ、塞がりかけている穴へと再度剣を振るった。
「エミ、ル、くん……」
「シトリー、無事か?」
「なんだかクラクラするよぉ……」
アンデッドの巨人を再生させるために持っていかれたのか、あるいはそもそもあれを構成するためにシトリーを利用したからなのか。そんなことを言いながら力なく笑ったシトリーを抱えながら、俺はアンデッドの巨人の胴体から飛び出す。
それに合わせるように、アンデッドの巨人からもう一つ何かが飛び出した。フードとマントを着けた影は、シュルシュルと伸ばしていた多数の手を自身の影の中に収納していく。
「エミ、ル……」
その呟きは恨みか、それとも歓喜か。なんとも言えないそれを聞きながら、俺は改めてアンデッドの巨人と影に向き合うべく剣を構え。
「――ん?」
「どーしました? って、わ!? エミル!? なんですかその怪我!?」
「いや、別に何かダメージ食らった覚えはなかったんだけど」
両手が血まみれである。何かで切り裂かれたようなその傷を、スロウが慌てて回復呪文で塞いだ。痛い時は痛いって言ってください、と怒られたが、いかんせんこんな傷が出来た記憶がない。
まあとにかく、と改めて目の前の敵を見る。アンデッドの巨人はもうシトリーという人質であり核でもある存在が無くなった以上問題ない。となると、目下の心配はその背後に浮いているあの影だ。
「とりあえずさっさとまとめて片付けましょう。《ターン・アンデッド》!」
スロウが破魔呪文を唱える。アンデッドの巨人はそれであっさりと浄化され消滅していったが、回避するかと思った影が、何故かその場で佇んだままで。
「――かはっ!」
「エミル!?」
急に体が重くなった。まるで存在を否定されるみたいな感覚で立っていられない。このままだと消滅してしまう。そんな気にさえなった。
「クハ、ハハハ……」
影が笑う。破魔呪文にさらされているあいつが楽しそうに笑っている。そんなことを思いながら、俺は膝から崩れ落ちた。
「エミル! エミル! しっかりしてください! な、なんで!? エミル!? うそでしょう!?」
「スロウ、回復は!?」
「してますけど、回復とは別の何かが――」
はっ、と気付いたスロウが破魔呪文を消す。浄化され、消滅しかかっていたアンデッドの巨人が寸前で踏み止まった。影は笑みを浮かべたまま、ゆらゆらと宙に浮いている。
そして俺も、それに合わせるように体の不調が消え去った。持っていかれた体力はそのままだが、消滅しそうなほどの感覚は消え去っている。
「エミルに、何をしたんです?」
スロウが、普段では考えられないほどの表情で影を見上げていた。笑っていた影は、そんなスロウの憤怒の表情を見て満足そうに頷くと、す、と俺を指差す。そうした後、トントンと自身の胸を指で叩いた。
「っ! あの時の! でも状態以上回復は全部――」
「主様の、実験による、呪い、だ……」
影が述べる。大魔王級ヘンリエッテによる新たな状態異常、既存のものではない呪い。それを、あの時俺に植え付けた、ということか。
影が頷く。笑みを浮かべたまま、気分はどうだ、と俺に問い掛けた。
「最悪だよ。で? どんな呪いなんだ?」
「共有……」
「共有の呪い、じゃあやっぱりさっきのエミルは」
「どういうことよ」
「さっきのあれ、多分破魔呪文のダメージです」
アンデッド特効で更に酷いことになりましたけど。そんなことを言いながらスロウが俺を見る。心配そうな表情で俺を見詰めたスロウは、気休めかもしれませんけどと俺に回復魔法を唱えた。いつもと違い、それで即座に回復というわけにはいかず、しかし幾分か調子を取り戻したのでゆっくりと立ち上がる。
「で、共有の呪いってのはどういうことだ」
「簡単なこと、だ。我が、他者から受けた、ダメージは、お前にも、共有される……ただ、それだけ」
そう言って息を吐いた影は、消滅しかかっていたアンデッドの巨人を前回のドラゴンゾンビもどきの時と同じように影で飲み込んだ。そうしながら、勿論、そちらのダメージは共有されない、と言葉を続ける。
「どのみち、人の身と、我が身では、限界が違う……。共有されていた、とて、お前が、殺されて、も、我は、死なぬ、がな……」
そう言って笑った影は、そういうわけだとスロウを見た。浄化するならしてみるがいいと笑みを浮かべた。
そんな影を見てスロウは盛大に舌打ちをした。出来ないって分かっているくせに、と悪態をついた。
「あいつを浄化する前にエミルが死んじゃいます」
「……あいつが死ぬまで浄化して、死んだ俺はその後蘇生してくれれば」
「わたしにエミルを殺せっていうんですか!?」
泣きそうな声でスロウが叫んだ。いや、お前は普段こういう時は自分を殺せみたいなことを言うくせに。なんてことを思ったが、まあ実際問題俺だってスロウを自分の手で殺すなんかまっぴらごめんなので気持ちは分かる。
「嫌ですよ、それをやったらエミルが死ぬって分かってるのに」
「スロウ……」
「まあ、あたしも流石にエミルごと、は嫌ね」
「アリア……」
「うぅ……ワタシも、それは、嫌だよぉ……」
「シトリー……」
どうやらこういうところは皆似た者同士らしい。そうなると、あいつを倒すには俺が死ぬ覚悟を持って自分でやらなきゃいけないってわけか。
「我を倒す、前に、お前が、死ぬ、ぞ……」
「やってみなきゃ分からないだろ」
そう言って影に向かって魔法剣の斬撃を飛ばす。まずは牽制、とばかりに放ったそれを、影は躱すことなくその身に食らい。
「かはっ……!」
「エミル!?」
同じ位置に斬撃の傷が現れた。スロウ達の素材で出来た防具の防御力など関係なく、直接貫通したそのダメージを受け、俺は思わずよろめく。牽制だからといって手を抜いたつもりはなかったが、成程俺の魔法剣ってこんなダメージが出るのか。
影がゆっくりと下りてくる。ば、と両手を広げ、さあ来いと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「嘗めるなよ……。別にダメージを跳ね返してるわけじゃないんだろ」
「その、通り、だ……。一撃で殺せば、相打ちには、出来る、ぞ……?」
「じゃあ――」
「エミル!」
がしり、とスロウに抱きつかれて止められた。大丈夫だとスロウを見たが、涙目、というか泣きながらいやいやと首を横に振っている。
「エミル、エミルっ……」
「いや、大丈夫だって。俺だって死ぬ気はないぞ」
「あいつ殺したらエミルも死ぬじゃないですか!」
「だから、その時はスロウがぱぱっと蘇生してくれれば」
「嫌です! エミルが死ぬ前提とか、絶対に、嫌!」
何とかしてくれ、とアリアとシトリーを見たが、どうやら助ける気は無いようで、ゆっくりと首を横に振られた。
「まあ、あたし達だってエミルが死ぬところなんか見たくないもの」
「うんうんうん……」
「そう言われたってなぁ……」
現状ここであいつを倒すにはそれが一番手っ取り早い。向こうも呪いに自信を持っているようだし、それを利用させてもうっていうのは間違っていないはずだ。
まあ、分かる。呪いを解いてから倒したほうが安全だというのはよく分かる。けど、それをやっている間にもこいつらは何かしら被害を増やす可能性があるんだから、倒せるタイミングで倒しておいたほうがいい。
「どうす、る……? 来るか、こない、か……」
「行くに決まってんだろ」
「エミル!?」
スロウが悲痛な声を上げるが、大丈夫だと笑みを浮かべた。全然大丈夫じゃない、と割と本気で怒っていたが、俺は構わず影に向かって肉薄した。
その攻撃を、飛び出してきたシトリーが防いた。何を、と思うよりも早く、アリジゴクが俺を拘束する。
「シトリーちゃん、ナイスです」
スロウが拘束された俺を更に羽交い締めにして、そのままズルズルと後退させた。影はそんな様子を何をするでもなく眺めている。
「終わり、か……?」
「終わりですよ。絶対呪いを解いて、お前をぶん殴ってやるから覚悟してください!」
「お前、ではな、い……。スキア、と呼べ……」
「はんっ。しらねーですよそんな名前!」
スロウのその言葉に影、スキアはふんと鼻を鳴らす。そうしながら、くるりと踵を返すとその場から去る素振りを見せた。
俺はそんなスキアに声を掛ける。そっちこそいいのか、と。俺を倒せるチャンスだったんじゃないのか、と。
「餌の収集は済ん、だ……。呪いは、成就し、た……。確認も済ませ、た……。だから」
「すぐに解いてやるっつってんですよ! 次出会った時がお前の命日ですから、覚悟するんですね!」
「一応、言っておく、が……。この身は、アンデッドを、吸収している、が……我自身は、アンデッドではない、ぞ……?」
「それがどーしたんですか。この拳で、その顔を、ぶっ潰してやります!」
拳を振り上げながらそんなことを叫ぶスロウ。それを見ながら、スキアはどこか楽しそうに笑った。では待っている、と言葉を続けた。
「エミル……」
「何だよ」
「精々、死なぬように、な……」
「どの口が」
吐き捨てるように述べた俺の言葉を聞いたスキアは、そのまま掻き消えるようにいなくなった。そうして残されたのは、完全な廃墟になった診療所と、そこに立ち尽くす俺達だけ。
「エミル」
「お、おう」
「属性頂点に会いに行きますよ。エミルの呪いの正体を突き止めて、さっさと解呪するために」
「いや、正体自体は分かってるだろ」
共有の呪い、だっけか。他者から受けたダメージを相手と共有する呪い。なんというか面倒くさい呪いだよな。実験で作られたっていうのがよく分かるというか。
「そういう意味ではあいつも実験体みたいなもんか」
「何? まさか同情したの?」
「そんなわけないだろ」
「よかったぁ……。またいつものが出てきたのかと思ったよぉ……」
いつものって言うな。あいつは間違いなく俺と相容れない奴だろ。だからこそあんな呪いを俺に向けて発動させたんだろうし。
「まあそれはともかく。早くその辺に詳しい属性頂点に会いに行きましょう」
ふんすと鼻息荒くスロウが述べる。それもいいけど、まずは一旦依頼の報告が先だからな。