呪いとかその辺に詳しい属性頂点、というと誰がいるんだろうか。属性的には月の大聖女や妖精姫が妥当なところだろうが、月の大聖女はなぁ。となると妖精姫か。
そんなような話をして、とりあえず手軽に出会えることもあって帝国に向かうことにした。カフェで待ち合わせをして、今度はどうしたのかと問い掛ける妖精姫に件の呪いのことを話す。
「共有の呪い、っスか」
ふむ、とそれを聞いた妖精姫の表情が真面目なものになった。既存の状態異常ではないということを踏まえて、新たな脅威として認識でもしているのだろうか。
「厄介ではあるっスけど、条件や効果がこう、かゆいところに手が届いてない感じがするんスよね」
「ヘンリエッテの実験の一つだろうから、そんなもんなんじゃないのか」
妖精姫にそう述べる。それを聞いた妖精姫は、そこだ、と俺を指差した。
実験と銘打っているが、恐らく完成形は無い。そう言葉を続けた。
「ただ自分のやれることをやってるだけって感じっスね」
「そーなんですか?」
「はい。そもそもとして、大魔王級と呼称した存在は魔王級より一段上の存在であるんスけど、所詮はそれだけっス。ぶっちゃけてしまえば、属性頂点――あちきたちには敵わない」
「それは知ってるけど」
俺達でどうにかするって宣言した割に情けないから、やっぱり属性頂点がなんとかするとかそういう話か? そんなことを思ったのが顔に出たのか、妖精姫はそういうことじゃないと苦笑した。
「色々と厄介なことを起こしているから、物凄く強大な敵、みたいに考えてるんじゃないスか?」
「そう言われても、実際に強大な敵なのは間違いないのでは?」
「強大な敵ではあっても、物凄く上に見る必要はない、ってことっスよ」
そう言って妖精姫はスロウを見た。へ? と首を傾げるスロウを見ながら、妖精姫は笑みを浮かべる。そう心配しなくても、と笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「そもそも、大魔王級はここにいるじゃないスか。それも、とびっきり強いのが」
「え? あ、わたし?」
「大魔王級ヘンリエッテに出来て、大魔王級スロウに出来ないことはないっス。これはあちきだけじゃなくて、全属性頂点の総意っスね」
「えっとぉ……? それってぇ、どういう……?」
シトリーの質問に、妖精姫は言葉通りだと告げた。そうしながら、まあそだれけだと時間が掛かるかもしれないから、と指を一本立てる。
「ヘンリエッテが実験と称して色々やってるっスね? 例えば、《テレポート》封じ。例えば、共有の呪い」
「やってますね」
「同じことが、スロウさんも言えるっス」
「同じこと……」
妖精姫の言葉を受けて、スロウが暫し考え込む。そうしながら、それってそういうことなんですか、と顔を上げた。
「でも、それ、属性頂点さんは」
「はっはっは。馬鹿にしちゃいけないっスよ。そもそも、属性頂点は基本普通のスキルとは違う段階にいたりするっスからね。理を乱す必要がないから、そこまでやっていないだけで」
まあ実際属性頂点の本気は見たことないし、多分見ることもないだろう。調停者は伊達じゃないってことか。
「まあそんなわけで、大魔王級が可能なスキル創造は、まあこちらからすれば範囲内っス。というか、そもそもとしてスロウさんの《リザレクション》は普通の蘇生魔法とはレベルが違いすぎるんで、既にスキル創造の域っスね」
「あ、やっぱりあれ異常なんだ」
「支援と回復も割と異常っスけど、あれだけは特別っスね」
スロウの魔力量が桁違いなのを置いておいても、適用範囲が広過ぎる。メアリーみたいに過去の人物まで蘇らせている時点でまあ確かにそう言われてもおかしくないか。
ということは、スロウは既にスキルを創造していると言っても過言ではないわけで。ヘンリエッテと同様に、これまでにないスキルを生み出すことも可能ということだ。
「じゃあ、エミルの呪いを解除する呪文も、わたしが作り出せるってことですか」
「そういうことになるっス」
とはいえ。流石に何かしらの道標は欲しいだろう。そんなことを述べた妖精姫は、力になってくれるであろう属性頂点のもとに行けばいいと続けた。
妖精姫では駄目なのか、と尋ねると、どうせなら詳しい相手に聞くほうがいいと返される。
「呪う方なら傀儡人形や悲鳴彫刻家っスけど」
「解呪だと違うのか?」
「解呪についてなら、やっぱり月の大聖女になるっスね」
「月の大聖女……」
何か力付くでどうにかする、みたいなイメージしか出来ないんだけど。本当に大丈夫か?
そういうわけで今度は教国である。大聖堂に向かい、月の大聖女との面会を頼む。本来ならば妖精姫ほど手軽に会えない相手だが、こういう時にスロウの大魔王級聖女という肩書が役に立つわけで。
そんなわけでさくっと面会の許可をもらった俺達は、月の大聖女のいる部屋へと案内された。
の、だが。
「あれ? エミルさん、どうしたんですかー?」
青みがかった長い髪をゆるふわみつあみにしている赤いくりくりとした瞳をした可愛らしい美少女。の姿に擬態をしているが、本来の姿は蚊の化物である氷属性頂点、悲鳴彫刻家がそこにいた。おやまあびっくり、などと言っているが、その表情は笑顔である。こちらに来るのも読んでいた、と言わんばかりで、俺は思わず顔を顰めた。
そんな悲鳴彫刻家の隣には、夜空に輝く月のような金髪をなびかせた糸目の美少女、折りたたまれた背中の翼腕が特徴的な月の大聖女が。こちらは純粋に驚いているようで、どうしたの、と俺達に尋ねてきた。
「あ、でも悲鳴彫刻家さんもいるならちょーどいいです。呪いについて教えてください」
「おや物騒。エミルさんの恋敵でも呪うんですかー?」
「わたしが一番なら別にいーんでそれは必要ないですね」
「成程成程。いやー、エミルさんもモテモテですねー」
「うるせえよ」
そう言ってキシシと笑う悲鳴彫刻家。それで、ハーレム野郎になった感想をどうぞ、とか言い出したのでもう一度うるさいと吐き捨てた。
それよりも、今は呪いの話だ。スロウは悲鳴彫刻家から月の大聖女に視線を向けると解呪について教えて欲しいと述べた。
「解呪? 誰か呪われているの?」
「エミルが、ヘンリエッテの作った共有の呪いとかいうのになってます」
「共有の呪い……それは、どんな?」
呪いの説明を二体に行う。他者からのダメージを呪いの対象者に共有する呪い。それを聞くと、月の大聖女も悲鳴彫刻家も何とも言えない表情になった。
「微妙ね」
「微妙ですねー」
まあ大魔王級が新たに作り出せる呪いならこんなものか。そんなことを言いながら、まあでも当事者は微妙で済ませられないだろうと俺を見やる。
「相手殺したらエミルくんも死んでしまうのでしょう? スロウにとっては死活問題でしょうね」
「死んじゃっても蘇生できる、みたいに割り切るのは……まあ、スロウさんじゃ無理でしょうねー」
「それやろうとして無理矢理止められたよ」
それもスロウだけじゃなくて三体全員に。そんなことを述べると、月の大聖女と悲鳴彫刻家は愛されてるんだな、と笑みを浮かべた。だから今その話はいいだろうに。
「そうね。それで、貴方達が望んでいるのは解呪の方法、でいいのかしら?」
「妖精姫さんによれば、わたしが自力で解呪の方法を編み出せるらしいんですけど」
「その辺りは聞いているのね。よかったわ、もし解呪して欲しいって話だったら、どう断ろうか迷ったもの」
「そっちでやれるのに頼られるのは流石にちょっと、ですしねー」
そう言いながら、でもそれを聞いているのなら別段問題ないのでは、と悲鳴彫刻家が首を傾げる。
こいつ分かってて聞いてるな。思わずそんなことが頭をよぎり、まあそもそもなんでここにいるのかを考えればそれも当然かと思い直す。
「何のことやら。アタシはただ、傀儡人形からのお使いでここにいるだけですよー」
「その言葉でもう白状してるようなもんだろ」
「そんなそんな。ほら、傀儡人形からのお使いの品だって持ってるのに」
ほらこれ、と取り出したのはどこかで見たようなタイトルの小説本。あぁ! とそれを見たアリアが目を見開き、そして猛烈な勢いで悲鳴彫刻家に近付いた。
「悲鳴彫刻家様! それをどこで!?」
「おやアリアさん、これがそんなに気になりますか」
「当然です! その新刊は、アリアンロッテが表舞台に再登場するっていう話題で、村の本屋では取り寄せできなかったほどの人気に」
「落ち着きなさい」
月の大聖女がこほんと咳払いをする。それによって我に返ったアリアは、申し訳ありませんとゆっくり下がった。その視線はしかし、悲鳴彫刻家の持っている新刊に釘付けである。
「でもこれ結構賛否両論ですよー?」
「かまいません」
「マジの目ですねー」
「悲鳴彫刻家。話戻していいかしら?」
「おっと。これはこれは、ごめんなさいねー」
エミルさんの呪いについてでしたね。そう述べた悲鳴彫刻家の言葉に、アリアも表情を戻した。俺を見て、ごめんなさいと頭を下げる。いや、別に現状あいつと対決する以外で支障はないからそこまで重く見なくてもいいんだぞ。そんなことを言いながら、俺は月の大聖女を見た。
「さて、どこまで話したかしら。ああ、悲鳴彫刻家が言っていたことね。妖精姫から自力で解呪できると聞いたなら、わざわざここに来た理由は何?」
「解呪について詳しいって聞いたので、道標をもらいに」
まあ別に隠すこともないのでスロウがそうはっきりと述べる。それを聞いた月の大聖女は、ふむ、と顎に手を当てると悲鳴彫刻家を見た。見られた悲鳴彫刻家は肩を竦め、まあいいんじゃないですかと述べる。
「直接の手助けはしないわよ」
「それでいーです。わたしも、自分でエミルの呪いが解けるならその方がいーですし」
「じゃあアタシはちょっと手助けしちゃいましょうかねー」
「悲鳴彫刻家」
「まあまあ。といっても、簡単な話ですよ」
そう言って俺を見た悲鳴彫刻家は、笑顔を浮かべたまま俺に近付き。
とん、と俺の胸を指で突いた。
「呪いなんてのは実は結構簡単で、やろうと思えばこんなふうに指で軽く突くだけでも呪えちゃうんですよねー」
「は?」
「え? 今ひょっとして」
「はい。呪いましたよー」
多分向こうも似たような手法で呪いをかけたと思うので。そんな軽い感じであっけらかんと述べた悲鳴彫刻家は、スロウ達が目を見開くのを見て楽しそうに笑った。
「驚きましたね? そうそう、その顔が見たかったんですよー」
キシシと笑いながらカメラで俺達の顔を写真に収めた悲鳴彫刻家は、では早速練習してみましょう、とスロウに告げる。
「勿論、普通の状態異常回復では解けないやつですよー。呪いってのは厄介で、掛けるのは楽なくせに解くのは面倒ときた。――だから術者を始末するのが手っ取り早い」
口角を上げる。悲鳴彫刻家を、氷属性頂点をどうにかすることなんざ出来やしない。となると、その手っ取り早い方法使うわけにはいかない。
何より、本番の呪いにしても、呪いを掛けた当事者は恐らくスキアだ。術者を始末する方法を取る場合、結局俺が相打ちになるわけで。
「はぁ……。いいこと、スロウ。まずは呪いの発生源を見るの」
「呪いの発生源を、見る」
じ、っとスロウが俺を見詰める。正確には、俺の中にある呪いを見ている。むむむ、と暫し睨むように俺を見ていたスロウは、目を見開くとこれだ、と俺の下半身ある部分を指差した。
「ここです! ここに呪いがあります」
「ちょっと待て」
あの流れだと心臓にあるんじゃないのかよ。そう思いスロウに尋ねたが、心臓にもあります、という答えが返ってきた。えっと? つまり、心臓の呪いがスキアの共有の呪いで、下半身の、えっとその、俺のそこにあるのが悲鳴彫刻家の呪いってことか?
「おお、流石ですねー。なんでそっちだと?」
「呪いにもそれぞれの色があります。心臓の方はなんか歪んでいるというか、拗らせているというか、そんな感じだったんですけど。エミルの下半身の方は真っ直ぐに捻くれているみたいな、そんな感じだったんです」
「いいえて妙ですねー」
真っ直ぐに捻くれてるってどういことだよ、全然見当違いに伸びてんじゃないか。ああまあ、悲鳴彫刻家だからそんなもんか。
「スロウ。なら次よ。そこから構造を読み解いてみなさい」
「読み取る……」
「あの、下半身マジマジ見るのやめてもらっていいですか?」
「別にえっちする時いつも見てるじゃないですか」
いや、だとしてもだよ。何でこんな大勢の前で最愛の彼女にズボン越しとはいえ下半身の大事な部分をじっくり見られなきゃいけないんだよ。悲鳴彫刻家のせいか、覚えてろよ。
「いっそ直接見たほうが分かるかもしれませんよー」
「お前ふざけんなよ」
悲鳴彫刻家がキシシと笑う。そんな姿を見て溜息を吐いた月の大聖女は、一応真面目に教えているのだけれど、と俺を見た。それはつまり、我慢しなさいってことですか。
「……無理に我慢しろとは言ってないわよ。生理現象だものね」
「そういう意味!? というかそっちも割と面白がってるだろ!」
いやまあ、スロウにそこをまじまじと見られていると、吐息が、その、当たったりしてちょっとくすぐったいというか。月の大聖女の言葉じゃないが、我慢が出来なさそうになるというか。
そんなことを思っていると、スロウが分かりました、と顔を上げた。ふんす、という吐息がかかり、思わず前かがみになりそうになる。
「これ、えっちな呪いです!」
ずびしぃ、と俺の下半身を指差しながらスロウが宣言する。その自信満々な態度を見ていると、なんというか、こう。
「……ん?」
「催淫の呪いね。つまり今のエミルくんは発情期ということになるわ」
「エミルが発情期……」
「と、いうことはぁ……」
月の大聖女の説明を受けて、アリアとシトリーも俺の下半身に視線が向く。待て、待ってくれ。見るな。そんな目で俺を見るな。
「それで!? 呪いが分かったんなら解呪も出来るだろ!」
視線を振りほどくように叫ぶ。成程、催淫の呪いとはよくいったもので、確かに正直三体の視線でどうしようもなく興奮し始めた俺がいた。このままだと月の大聖女の部屋で、月の大聖女と悲鳴彫刻家がいる前で、スロウとアリアとシトリーを襲ってしまうかもしれない。
いや、よくよく考えたらついこの間野営の真っ最中に屋外でやってしまったんだから今更か。別に多少見られたところで、構わないだろうし。
「エミルの様子がおかしくなってますね」
「様子っていうか」
「下半身、というかぁ……」
スロウ、アリア、シトリー。もう我慢できない。俺はお前達の体を、堪能したくてたまらない。その体にむしゃぶりつきたくてたまらない。
ああ、したい。お前達を抱きたい。
「スロウ。ちょっとこれまずいんじゃないの?」
「このままだとここでえっちする羽目になりますね」
「呑気に言ってる場合じゃないよぉ……!」
勢いよくスロウを抱きしめた。きゃ、と可愛らしい声を上げるスロウの唇を強引に奪う。くちゅくちゅと音を立てながら舌を絡ませ合った俺は、そのまま手をスロウのスカートの中に。
「あ、これまずっ――あぁん! エミっ、ちょっと、やぁ! 呪いを、解きますからぁん!」
「あらら、思った以上に大惨事」
「悲鳴彫刻家。貴女分かっててやったわね」
「いやだって。アタシの元々の種族ってサキュバスですよー? 一番分かりやすい呪いって言ったらこれになるでしょうに」
「確かに構造的には分かりやすいでしょうけど……」