幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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カニとケンカ


第二十四話

「かってぇ! なんだこいつ!」

「カニだよぉ……」

「知ってる! 見れば分かる! そういう意味じゃない!」

 

 八つ当たり開始。砂浜を歩いて見付けたぬくもりドロボウガニ、ラクワームクラブを早速ぶっ殺そうと攻撃を仕掛けたわけなのだが。

 流石はカニと言うべきか。甲殻によって俺の攻撃は見事に弾かれた。そんな俺の文句にズレた答えを返したシトリーも、じゃあ倒せているかと言えば答えは否。思った以上の硬さに、上手く齧れず苦戦しているらしい。

 

「関節を上手く狙うしかないよぉ……」

「それが出来たら苦労しとらんわ!」

 

 茹でたカニを食べる時ならばともかく、人間よりデカいカニを生きたまま関節破壊するのは至難の業だ。むしろこちらがハサミの一撃で関節破壊されてしまう。

 

「アホなこと言ってないで、なんとかしなさい!」

「だから出来たら」

「これなら出来るでしょ!」

 

 アリアが空中に舞い、鱗粉をばら撒く。それが降り掛かったカニは目に見えて動きが鈍った。いくら関節が硬かろうと、麻痺毒や幻覚に耐性があるわけではないらしい。ギシギシと錆びついた蝶番のような動きになったカニに向かい、俺は関節を狙って思い切り剣を振り下ろした。

 ガチリ、と音がして、剣が止まる。関節も硬い。一撃で無理なら二撃三撃と繰り返すが、中々破壊することが出来ない。

 

「落ち着きなさいエミル。あんたの剣ならいけるでしょ」

 

 こうなったら、と剣を振りかぶったそのタイミングで横合いから声が掛かる。アリアのその言葉を聞いて、ああそうだ、と自身の剣を見た。名前が悪徳の剣にすっかり定着してしまった試作武器。俺以上に捻くれて捻じくれた剣。俺の八つ当たりに付き合っているからがむしゃらに攻撃しないと駄目、そんな状態だとすれば。

 

「というか狙うのは関節じゃなくてもいいな」

 

 冷静になって、別にぶち殺すだけなら目を抉れば十分だということに気が付いた。飛び出ている二つの目玉に剣を突き立て、そのまま切り裂く。通常時ならば防がれたであろうが、アリアによって麻痺と幻覚のデバフがばら撒かれている状態だ。守られないのならばこれくらいは容易く出来る。

 ぶくぶくと泡を吐いて倒れるカニを見ながら、シトリーにこいつ食ってもいいぞと声を掛けた。わーい、とばかりにアリジゴクがカニの死体を捕らえるが、しかし死のうが何だろうが殻は硬いままなので、ガキンとアリジゴクの刃が止められシトリーが涙目になっていた。

 

「硬い……」

「関節を上手く狙うんだろ?」

「そうするよぉ……うんしょ、うんしょ……」

 

 ノコギリで解体するように顎でカニをバラしていくシトリーを見ながら、俺は別のカニに目を向けた。さっきシトリーが相手していたやつだ。こっちは既にシトリーによってハサミをへし折られている。が、その衝撃で麻痺と幻覚は解けているらしい。こちらを害する気満々の目が向けられていた。

 

「手助けは?」

「いらん、お前はそこで見ててくれ」

「この前のトリックモスみたいにはいかないわよ」

「知ってる。でも、やる」

 

 こいつらが大量発生したからこそ、町の住民は流行った水泡病に悩まされ、アンゼリカ嬢は変な従兄弟を対処することも出来ず東奔西走し、そしてスロウが寝込む原因になった。

 そう、スロウが寝込む原因になったんだ。あの常時元気の能天気芋虫が、ぐったりと寝込む羽目になったんだ。許しておけるか。

 剣を構え、一気にカニに肉薄する。残っているハサミで叩き潰そうとしてきたが、それは横っ飛びで躱した。そしてその隙に関節へ一撃。やっぱり通らないが、しかしさっきよりはダメージが入っている気もする。

 ならばもう一撃、とはいかず、カニは円を描くように移動しながら再びハサミを振り下ろした。避けきれない、と俺は剣で受け止めるが、その衝撃だけでふっ飛ばされた。砂浜を転がりながら、しかしダメージは少ないので即座に起き上がりもう一度剣を構える。

 

「エミル」

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃないから言ってんのよ。ほれ、おかわり来たわよ」

 

 視線をアリアが指差した方に向けると、成程大量発生と言うだけあって、俺達が二体と戦っている間に察知したのかゾロゾロとこちらにやってくるカニの集団が見えた。

 その数六。さっきまでの三倍である。

 

「マジかよ」

「大マジよ。ほれ、シトリーもそろそろ食べ終わるから、やるならみんなで」

 

 アリアの言葉に素直に頷く。ここで変に意地を張ったところで何にもならないからな。

 とはいえ、今の手負いと合わせて全部で七体のカニは中々にキツイ。最初の一体こそ不意打ちで倒したようなものだし、そう何度も同じ手は。

 

「効かないのか?」

「効くでしょ。ほれ、さっさと片付ける」

 

 もう一度アリアが空を舞う。どうでもいいが、スカートで空を飛ぶとどうしても中身が見えてしまいちょっと気まずい。まあ見えるのは下着じゃなくて虫の下腹部なんだけど。

 

「あたしのスカートの中覗いてる暇があるなら早く倒す!」

「人聞きの悪いことを言うな。そもそも下腹部は蛾の状態なら常に丸見えだろうが」

「今は人型よ。このスケベ」

 

 理不尽である。とは思うが、まあ確かにスカートの中という前提の上だと言っていることは間違いでもないので素直に謝罪した。そう真面目に謝られるとちょっと、と少し気まずそうにアリアは頬を掻いていたが、まあいいやと気を取り直す。

 俺も同じように気を取り直し、麻痺毒と幻覚で動けなくなったカニの目を潰し、開いた口に剣を突っ込んだ。グチュリと中身がかき混ぜられた音がして、カニの一体が動かなくなる。

 

「ちょっと美味しくなくなってそうなんだよぉ……」

「やかましいわ! いいから別のをなんとかしろ」

「分かってるよぉ……! さっきのでコツを掴んだからぁ」

 

 砂浜で流砂を作り出し、ふらついているカニをアリジゴクのハサミのような顎で絡め取った。ゴリゴリとノコギリのように上下に動かし、関節を素早く破壊すると、ハサミと手足をバクリと頬張る。体だけになったカニが、砂浜にぽつんと残された。

 

「さて、と。シトリーもエミルも頑張っていることだし。あたしも少しは張り切るわよ!」

 

 ぶわ、と先程とは違う鱗粉がカニに降り掛かる。それらはまるで渦を巻くように体にまとわりつき、そして。

 

「燃えなさい!」

 

 カチンとアリアの合図で燃え広がった。炎の渦が巻き起こり、一体のカニをあっという間に焼きガニに変える。衝撃や斬撃には強くても、普通に火属性で燃やせば事足りる。そういうわけなのだろう。というか、こいつら水属性のはずなのに普通に火が通るんだな。

 

「ラクワームクラブはぬくもりを奪うカニよ。海を冷やす、という意味では水属性なんでしょうけど、火はむしろ通りやすいわ」

「へー。流石にこいつらは生息地域が違い過ぎて講義では習わなかったからな」

「まああたしもしっかり知っているわけじゃないけれど。その辺りの補足をしてくれたのは傀儡人形様よ」

「……またなんか企んでるんじゃないだろうな、あれ」

「さあ? まあ少なくともアンゼリカ様の手伝いになっているから丁度いい、くらいは考えてそうだけど」

「それくらいで済めばいいけどな、っと」

 

 もう一体のラクワームクラブを仕留める。またぐちゃぐちゃにしたぁ、とシトリーが騒いでいたが知るか。というか倒した奴全部食う気かお前は。

 そうして焼きガニとカニ味噌かき混ぜて倒したの二体ずつ作った辺りで、更に追加がやってくる。大量発生って言ってたが本当に大量だな。

 

「流石にこの場所で倒し過ぎか?」

「どうかしら。でも、大量発生ってことだから、この程度じゃ」

 

 アリアの言葉が途中で止まった。予想を覆してアンデッドの出現条件を満たしてしまったから、ではない。

 一体、明らかに群れのボスだと思われる個体が追加のカニにいたからだ。

 

「アリア、俺の予想なんだが」

「奇遇ね、あたしも同じこと考えたわ」

 

 あれが大量発生の大本じゃないのか、と。二人顔を見合わせ頷くと、じゃあさっきと同じように、とアリアは再び麻痺と幻覚をばらまいた。

 追加の普通のカニはそれで事足りたが、流石に群れのボス個体であろうカニはそれを受けても動きが止まらずこちらに突っ込んでくる。

 

「こういう時は、お任せだよぉ……!」

 

 そんな突っ込んできたボスガニをシトリーが防ぐ。ふっ飛ばされずに掴んだが、しかし少し押され気味である。流石にスロウの支援がないと、美少女の皮を被っただけのデカいアリジゴクでもあれを受け止めきれないか。

 

「シトリー、一瞬だけ動き止めて。そしたらすぐに離れて!」

「が、頑張るよぉ……!」

 

 うんしょ、と力いっぱい踏み込んで、体全体で突進を受け止めた。ギシ、とボスガニの動きが止まり、そこで突進をやめてカニのハサミをシトリー目掛けて振り下ろした。

 斬、とシトリーの左腕が切り裂かれ、吹き飛ぶ。その衝撃の光景に、俺は思わず駆け寄り。

 

「疑似餌のダメージはこっちにはほとんど来ないから、だいじょうぶだよぉ……」

 

 ボコリと後ろから這い出てくるアリジゴク花本体を見て動きを止めた。ああ、そうかこいつの美少女って擬態は擬態でも疑似餌被ってんだっけ。さっき自分で思ったじゃないか。

 

「でも、心配してくれるのはうれしいよぉ……」

「いや、そりゃ仲間だし心配はするだろ」

「ありがとうだよぉ……。っと、アリアちゃん、これでいいかなぁ……?」

「上出来よ! 燃え尽きろ!」

 

 炎の渦再び。ゴウゴウと燃え盛る火の中にボスガニは閉じ込められた。今までのカニならばこれで詰み、焼きガニ調理完了といったところだが、流石にボスガニだとそうはいかない。

 

「ちぃ、仕留めきれないか。さっきより鱗粉の量増やしたのに」

「じゃあ後は俺だな。シトリー、お前は」

「ちょっと巻き込まれて疑似餌の足が焦げたから、今はごめんねぇ……」

 

 ちらりと見ると、疑似餌の美少女は左腕が千切れ飛び右足が炭化するという大分痛々しい姿になっていた。が、本体は別段無傷であるし、そのためなのか疑似餌の方も別にダメージを受けた表情などをしていないので、なんともリアクションに困る光景になっている。

 

「しばらくすれば再生するから、大丈夫だよぉ……」

「そういうことなら」

 

 まあ当事者がそう言っていることだし、気にせず俺はボスガニを倒そう。ダメージを受けて弱っているボスガニに肉薄した俺は、他のカニと同じように目玉を狙い剣を振るった。

 が、流石に麻痺や幻覚になっていないボスガニには防がれる。とはいえ、今の一撃が先程までのカニへの攻撃とは少し違うことに気付いた俺は、そのまま今度は関節に剣を振り上げた。

 甲高い音がして弾かれはしたが、しかし傷跡はしっかり残った。アリアの炎でこんがり焼けたせいで、甲殻がもろくなっているらしい。これならいける。

 ボスガニがハサミを振り下ろす。避けて関節に一撃、二撃。ハサミを薙ぎ払われる。しゃがんで躱し、もう一撃。

 ぶちぃ、と何撃目かの斬撃でハサミが片方千切れ飛んだ。どんなもんだ、と思わず笑みを浮かべたその眼前にもう片方のハサミ。あ、しまった、カニのハサミって二つあるんだった。

 

「馬鹿! 油断するんじゃないわよ!」

「アリア! 助かった」

 

 それが激突するよりも早くアリアが俺を掴んで飛行し離脱してくれた。そういえばこうやってアリアに助けられるのは二回目だ。ついでに二回とも調子に乗って油断した時だ。

 

「あんたの言う悪徳ってやつよね。ったく、起きた時にあんたがボロボロだとスロウが悲しむでしょ」

「……悪い」

「はいはい。じゃあそうならないように、さっさと倒す」

「ああ!」

 

 ほれ、とアリアに離された俺は、空中で剣を構える。落下地点の目標はボスガニ。勿論ボスガニも迎撃せんと残ったハサミを構えているが、しかし。

 悪いな。こういう時のこの剣の一撃は、もろくなった甲殻じゃ防ぎきれない。

 

「おぉぉぉりゃぁぁぁ!」

 

 防いだハサミを砕き、切り裂く。そうすることで落下の衝撃を無くした俺は、そのまま着地すると剣を振りかぶりながら一足飛びでボスガニの懐に入り込んだ。

 

「今度こそ。これで、終わりだ!」

 

 上から下に。真っ直ぐ振り下ろした俺の剣は、容易くではなかったが、ボスガニをそのまま真っ二つにした。グシャリと砂浜に倒れるボスガニを見た残りのカニは、あっという間に逃げていく。大量発生の原因らしきものを排除できたのだから、後は自ずと数も減るだろう。あるいは、普通の討伐で十分だろう。

 そんなことを思いながら、俺はドサリと砂浜に腰を下ろした。疲れた。八つ当たりをするにしろ、もう少し考えたほうが良かったかもしれない。

 

「いいんじゃないかしら。それだけスロウのことが大切だったんでしょ」

「そりゃスロウは大切だけど。この八つ当たりはそこまで関係がないんじゃ」

「やっぱり告白だよぉ……」

「はいはい。まああんたのそれはいつものことだから置いておいて。まあ関係があろうがなかろうが、スロウが行動の理由なんだから、似たようなものよ」

 

 そうなんだろうか。上手く丸め込まれた気もするが、まあどっちにしろもう終わったことだ。とりあえずボスガニの素材だけ剥ぎ取って、向こうに報告に行くか。

 

「あ、もうちょっとだけ待って欲しいんだよぉ……」

 

 そう言って立ち上がろうとしたが。そう言えばまだシトリーの疑似餌、左腕と右足の再生終わってなかったのか。

 

 

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