幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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いざ進め……?


第四十五話

「たのもう!」

「え?」

 

 帝都の観光を終えた俺達は、そのままの足で最後の観光場所、と言っていいのか分からないが皇帝の居城の門まで来ていた。なんというかやる気満々の妖精姫が門番におら通せとばかりに凄んでいる。

 

「よ、妖精姫様? 今回は何用で」

「隠れ潜む百花ぶん殴りに行くんで中庭の通路を使わせて欲しいんスよ!」

 

 確かにコネがあれば手っ取り早いとは言った。そしてそのコネとして適切なのは妖精姫なのも分かっていた。

 が、いかんせん一週間観光旅行をした状態でわざわざ手続きが面倒そうな最短ルートを通る必要もないという結論で、普通のルートで隠れ潜む百花の拠点まで行くという話になっていたような気がするんだが。

 どうやらカフェでのあの会話が妖精姫によっぽどクリティカルだったらしい。普段とは違う妖精姫の様子に、門番も若干困惑している。

 

「と、とりあえず手続きをいたしますので、少々お待ちを」

「出来るだけ早くお願いするっス」

 

 ここで、知るか、とか、いいからさっさとしろ、とかならないところが妖精姫のらしいところである。素直に待つんだ、やっぱり。

 

「まあとにかく、一旦落ち着け」

「誰のせいだと思ってるんスか」

「俺のせいじゃないだろ。強いて言うならそこの三体のせいだ」

 

 そこの、とスロウとアリア、シトリーを指差す。指差された方は二名は視線を逸らしつつ、残りの一名だけは言ってないんだよぉとぺしょぺしょになっていた。

 

「まあ、でも妖精姫さんも思ってたんですよね?」

「だから言っていいとかそういう問題じゃないっスからね?」

 

 スロウの言葉を聞いた妖精姫がジト目であいつを見る。だめですか、と顎に手を当てて考えている辺り、あの馬鹿は多分反省していない。一方のアリアはバツの悪そうに頬を掻いている。

 

「それで実際、クーヤが隠れ潜む百花さんも師匠扱いしてたらどーするんですか?」

「エミルさん! この娘どうにかしてくれないスか!?」

「いやだってこいつ芋虫だし、人の心無いからさ」

「限度有るっスよ! そもそもあちきもモンスターっスけどその辺の分別は持ってるっスからね!」

「失礼な。わたしもちゃんと言っていいことと悪いことくらい分かりますよ」

「今滅茶苦茶言っちゃ駄目なこと言ってるんスよぉ!」

「妖精姫様、スロウはそういう部分で天然なところあるので」

「仲が良いと遠慮なくなる、っていう癖もあるから余計にだよぉ……」

 

 そういう意味では月の大聖女や傀儡人形とかとは違って、属性頂点としてではなく一体の仲間として扱っているので本来は悪いことではないのだが、しかし。

 

「スロウ」

「むー。なるほど、ごめんなさい」

「んぐっ。素直に謝られるとこちらとしても追求出来ない」

 

 善人が過ぎる。いや人じゃないけど、でもまあそこで怒りを収めてしまう辺り、本当に属性頂点としては異端というか。

 いや、本来超越者というのはこれくらいの方が正しいのかもしれない。

 

「なんスか」

「いや、妖精姫が凄いなって感心してたところだ」

「褒めてるんスか、それ」

「滅茶苦茶褒めてるぞ」

「ならいいんスけど」

 

 ふう、と息を吐いた妖精姫が落ち着いたように視線を戻す。門番は手続きを終えたようで、どうぞお入りくださいとこちらに声を掛けてきた。

 

「ちなみにですが、そちらの方々も……?」

「あちきの同行者っス。王国のベルンシュタイン公爵家お墨付きの冒険者パーティーなんで、その辺りは安心して欲しいっス」

「ベルンシュタイン公爵家の……。分かりました、そういうことでしたら」

 

 妖精姫の言葉に疑問を挟むこともなく、俺達もそのまま通される。何か一応証明とかしなくていいのだろうかと思っていたが、どうやら妖精姫の言うことだからと門番は疑いを持っていないらしい。

 

「慕われてますね」

「そうスかね? 多分マスコットみたいな感じだと思うんスけど」

「何でそこの部分の自己評価低いんだよ」

「あちきは隠れ潜む百花みたいに戦闘力が特別高いわけでも、第三皇子に惚れられてるわけでもないっスからね。何もしなくてもそうなってるあいつとは違うんスよ」

「それって、逆に凄いんじゃないかなぁ……」

 

 シトリーの言葉に同意しながらちらりと門番を見る。うんうん、と頷いているのを見て、そうだよなと確信を得た。

 いやまあマスコット的な意味も多分に含んではいるんだろうとは思うけども。そんな考えが頭に浮かんだが、口には出さずに思考から放り投げ無かったことにした。

 

 

 

 

 

 

 というわけで皇帝の居城へと足を踏み入れた俺達は、そのまま件の中庭まで向かっていた。第三皇子が惚れた女のもとへと向かう場所。多分扱い的にはそういうものだと思うので許可とか必要なんじゃないかと思いはしたが、普段から最短ルートとして使っていると妖精姫も言っていたのでまあ問題はないのだろう。

 そう思っていると、中庭の一角に一人の青年が佇んでいるのが見えた。

 

「あれ?」

「知り合いか?」

「知り合いというか、例の第三皇子っス」

 

 滅茶苦茶偉い人じゃないか。とはいえ、俺としてはそういう相手に出来る態度とかを学んでいるわけでもなし。一歩下がってペコリと頭を下げることくらいが精々だ。スロウとシトリーも似たようなもので、アリアだけ綺麗なカーテシーをしているのが目についた。瞬時にアリアンロッテモードになれるその手腕は流石というべきか。

 

「やあ妖精姫様。この道に御用ですか?」

「ちょっと隠れ潜む百花をぶっ飛ばしに行くっス」

「ああ、また何かやらかしたんですか、彼女」

「あちきの弟子さらいやがったんスよ、あのバカ」

 

 成程そういうことか、と第三皇子が苦笑する。また、と言っているところからして、どうやらあの隠れ潜む百花は定期的に何かしらやらかしているらしい。面倒くさがりのくせに面倒事を起こしてんのかよあいつ。

 そうは思ったが、起こしそうだな、という結論に達したので納得したように一人頷いた。

 

「しかし困ったな。そうなると今日彼女を口説きに行こうと思っていた予定が狂う」

「後日にしてもらえると助かるっス」

 

 そうだね、と第三皇子はあっさり引き下がった。いいんだろうか。こう言っちゃなんだが、人の恋路を邪魔するような真似をするのはちょっといただけないような気もするんだけれども。

 そんな俺の思考が分かったのだろうか。第三皇子はこちらに視線を向けると、大丈夫だよと微笑んだ。

 

「まあ基本『めんどぉ』で終わってしまうからね」

「不敬かもしれないですけど、何でそれに惚れてるんですか」

「そういうのは理由じゃないのさ。君にはいないのかい? そういう相手が」

「……」

 

 思わずスロウを見て、いや違うと即座に視線を逸らした。こいつは幼馴染の芋虫で、モンスターで、いや別にその辺は俺はどうでもいいから関係ないし、好きか嫌いかで言えば間違いなく好きではあるんだが、でもそういう関係になるのかならないのかとなると話はまた別になるようでならないような。

 

「妖精姫様」

「なんスか」

「彼、見てて楽しいね」

「初対面ですら一発で分かるところがもうあれっスよねぇ」

「あれ、でも自覚している一歩手前でギリギリ踏みとどまっている感じだろう? 僕みたいに踏み出せば楽になるのにね」

「まあ、相手がアレだっていうのを除けば、皇子のそれも素直に応援出来るんスけどねぇ」

 

 俺のことを話しているのか第三皇子のことを話しているのか。何だかよく分からないが、妖精姫はやれやれと肩を竦め、そういうわけだから通らせてもらうと彼に述べた。

 はいはい、と第三皇子も肩を竦める。ではどうぞと木の扉に案内するように彼は横へと動いた。

 

「そうだ、名前を聞いていなかったね」

 

 ではいざゆかん。となったタイミングで、第三皇子がそんなことを言い出した。妖精姫様と親しいのだから、恐らくこれから関わる可能性もあるだろうしね。そんなことを続けながら、彼は俺達を順々に見やる。

 

「エミル」

「スロウです」

「アリア、と申しますわ」

「シトリーだよぉ……」

「うん、よろしく。僕はリベルト、しがない第三皇子さ」

 

 そう言って笑ったリベルト皇子は、お手柔らかにね、と述べて俺達を見送った。お手柔らかにも何も、普通に戦ったらボコされるのはこちらなんですけど。

 当然そんな文句というかツッコミを入れられるわけもなく。そのまま扉の先に続いている道を歩く。木々のアーチが向こうまで続いているが、これそのまま一直線で進んでいいやつなのだろうか。

 

「魔法なりなんなりで空間を繋いでいるんでしょうね」

 

 道を進みながらアリアがそう呟く。まあ実際一直線で続いているなら居城の位置的に帝都のどこかが隠れ潜む百花の拠点になってしまうし、帝都をぶち抜いたそんな道があれば観光中に見えないはずがない。

 

「まあ実際帝都近くではあるんスけどね。だから別のルートもモンスターがうろついていて入り組んでいるのを除けばそう距離に違いはないっス」

「距離以外が大問題だな」

「とはいっても、精々基本中級モンスターばかりなんで、エミルさん達なら対処はほとんど可能っスよ」

 

 ほとんどって言ったな。つまりは対処出来ない相手がいるってことじゃないか。妖精姫だけは違うと思っていたが、今まで出会った属性頂点らしい部分もやっぱり。

 

「いや、対処出来ないのはあちきが対処するに決まってるじゃないっスか」

「決まってるんですね。てっきり頑張ってどうにかしろ、みたいな感じかと思ったんですけど」

「何でそんな無茶させなきゃいけないんスか。皆の無事が一番に決まってるっスよ」

 

 自然にそういうこと言える存在がこの世界にどれだけいるんだろうか。多分勇者と呼ばれる面々の中でも一握りだと思う。聖女は今目の前にそういうこと絶対言わないのがいるんで却下の方向で。

 

「今わたし馬鹿にしましたね」

「したよ」

「素直に言えば良いってもんじゃないですよ!」

「何か似たようなやり取りした気がするっスね」

 

 そんなこんなでギャーギャー言いながら道を進み、やがて入口と同じような木の扉のある場所まで辿り着く。恐らく、というか間違いなくこの先が隠れ潜む百花の拠点だ。

 ごくりと息を呑んだ。思い出すのはあの一瞬の攻防。ちょっと振り払われた程度の攻撃で思い切りぶっ飛ばされた時の光景だ。隠れ潜む百花自体はそれを受け止めたことを褒めていたが、ぶっちゃけだからなんだでしかない。手も足も出ないことには違いないのだから。

 

「エミルさん、心配することはないっス」

「妖精姫……」

 

 そんな俺に妖精姫が声を掛ける。もし戦闘になったとしたら、やつと戦うのは、やつを止めるのは自分なのだからと彼女は微笑んだ。

 

「それはそれで申し訳ない気もするが」

「まともに戦ったらエミルさん達は瞬殺されるんスから、そこは仕方ないっスよ」

「まあ、そうでしょうね」

 

 妖精姫の言葉にアリアも頷く。俺と同じように一撃を食らっていたシトリーも、絶対無理だとぺしょぺしょしていた。

 まあ、そうか。今回はこちらも属性頂点という超越者が仲間にいるのだ。頼らないとどうにもならないのは間違いない以上、余計なことを考えても仕方ない。

 

「よし、行くか」

 

 俺の言葉に皆が頷く。木の扉に手を掛け、それをゆっくりと開いた。

 その先に待っていたのは、森の中の一軒家というべき建物。あれ、意外と普通の生活してるんだな、と妖精姫を見ると、あれはリベルト皇子のプレゼントの一つだという返答が来た。流石皇帝の息子、規模が中々に違う。

 ともあれ、あそこに住んでいるのは間違いない。よし行くかと建物に向かい、そしてその入口の扉に手を掛けた。

 

「ん?」

「どうしました?」

「中から声がするな」

「そりゃ住んでるなら声くらいするでしょ」

「いやそうなんだけど、なんというか」

 

 言い争っているような、そんな感じが。そう告げると、妖精姫は俺ごと扉を思い切り開いた。バァン、という音とともに開かれた扉は、家の中の様子を俺達にガッツリと見せてくる。

 

「隠れ潜む百花! あちきの弟子に何を――」

「先生。掃除、邪魔」

「動くのめんどぉなんよぉ。クーヤぁ」

「駄目」

「ぶぅぶぅ。しゃぁないわぁ」

「して、るん、スか……?」

 

 妖精姫の言葉が段々と小さくなっていく。それはそうだろう、多分俺が彼女の立場でもそうなった。

 なにせ。

 

「あ、妖精姫。何かぁよぉ?」

「いや、用っていうか、あちきの弟子を取り返しに来たんスけど」

「あぁ、そぅいうやつ」

「先生。移動」

「はぁい。もぅ、クーヤは几帳面やわぁ」

 

 エプロン姿で家の掃除をしているクーヤと、ゴロゴロしている隠れ潜む百花。そんな光景を見せられて、何をしているのかと勢いよく聞けるような気合は俺にはないからだ。

 妖精姫もあっという間にその気を削がれたようで、ビシリと指していた指がへにょりと垂れていた。

 

「先生呼びしてますね」

「言っちゃ駄目!」

「あぁぁぁぁ!」

 

 その場にガクリと膝をつく妖精姫が、非常に不憫であった。ま、まあほら、先生と師匠は違うから、多分。

 

 

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