幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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第四十七話

 何だかよく分からん騒動も終わり、日常が帰って……帰ってきたのか? 実際にはまだ帰ってきていないような気もするが、クーヤも戻ってきたので改めて帝国を見て回ることになった。そうした後は、帝都で暫しのんびりとする。帝国住みの妖精姫や隠れ潜む百花の指導を受けるには帝国でないと、という理由からだ。

 いや、何か流されそうになったが、やっぱり日常じゃないなこれ。

 

「師匠」

「はい、やるっスよ」

「先生」

「めんどぉなんだけど、しゃぁないわぁ」

 

 光属性頂点と木属性頂点に鍛えられているクーヤはなんというかメキメキレベルアップしている気がしないでもない。才能あるけどまあ下級モンスターのミミックロウラーだったはずが、傍から見ていても中級の上澄みくらいには跳ね上がっている。

 

「これ、わたしたち超えられるのもそう遠くないかもしれないですね」

 

 修行を見ているスロウが呑気にそんなことを言っているが、いいのだろうか、姉の威厳とか。

 そんなことを問い掛けてみると、まあ確かに、と少し考え始めた。

 

「君らぁは実力だけなら上級レベルあるから、まだクーヤの方が下なんよ」

「へ? そうなんですか?」

 

 横合いから声。隠れ潜む百花がスロウに向かってそんなことを述べていた。君等、というからには勿論スロウだけでなくアリアとシトリーのことも指すのだろう。何だかんだこっちもこっちでレベルアップしていると思っていいらしい。

 

「訂正もめんどぉだけど、まぁいぃや。エミルくん、君もやよ」

「ん?」

「そうっスね。エミルさんも上級冒険者になれる資格ある位の実力は持ってると思うっス」

 

 本気か、と思わず隠れ潜む百花や妖精姫をまじまじと見てしまう。が、妖精姫はともかく隠れ潜む百花はそんなお世辞を言うような性格をしていないので、まあそういうのならばそうなのだろう。

 だが、しかし。それでも俺は思ってしまう。本気か、と。

 

「疑うんなら、上級冒険者の試験でも受けてみるのはどうっスか?」

「嫌だよ。ただでさえ中級が分不相応だと思っているんだから、上級なんかやるわけない」

 

 妖精姫の意見を即否定する。今現在、中級冒険者の資格を持つ状態でも思っていることだが、俺達にはぶっちゃけ圧倒的に経験が足りていない。普通の冒険者がやるような経験をしていないのだ。普通はしないような経験をしているという意味では経験豊富なのかもしれないが、それは冒険者生活に役立つかというと答えは否である。

 全く役に立たないわけではないが、他の冒険者の経験と比べるとその場面が極端に少ない。

 

「実力だけ無駄に上がったっていぅわけやねぇ。めんどぉなことしてるわぁ」

「好きでやってんじゃないんだよ」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら隠れ潜む百花にそう返す。まあそもそも何でこうなったのかという源流を考えると横の芋虫に関わったことが始まりなわけで。つまりは最初からだということになる。

 

「どーかしたんですか?」

「いや、なんでもない」

 

 無意識にスロウを見ていたらしく、不思議そうに首を傾げられた。最初からこうだったのだから、今更嘆いたところでまあ無駄であると開き直ったほうがいい。

 ともあれ。俺達、というか俺は上級冒険者どころか中級冒険者もまともにやれていないというのは純然たる事実である。

 そんなことを考えていると、なら、と妖精姫がポンと手を叩いた。クーヤの実力だめしにもなるし、と言葉を続けた。

 

「ちょっと帝都で依頼受けて経験積んでみるっスか?」

 

 発言相手が相手なので、別段含んでいるものは何も無いだろうと思った俺は、そんな善意百パーセントの彼女の言葉を否定することは出来なかった。まあ実際騒動に巻き込まれただけで、ここのところ冒険者らしいことは何も出来なかったので、ある意味渡りに船ではある。

 

 

 

 

 

 

 というわけでマスターのいるカフェに向かい、何か適当な依頼がないのかを妖精姫が尋ねる。俺達の冒険者のランクを尋ね、成程と頷いたマスターは、じゃあ少し特殊な依頼だけれどと一枚の依頼書を差し出した。

 

「スノーラビットっスか? 言うほど中級の依頼でもないような」

「いやそれがね、ちょっと数が溢れているみたいなんだよ」

 

 マスター曰く、見た目とは裏腹に割と凶暴なモンスターであるスノーラビットであるが、普段はそこまで個体がいないので適当な冒険者に討伐依頼をするらしい。が、今回はちょっとその規模が桁違いなのである程度実力と信頼のある冒険者に頼みたいのだとか。

 

「じゃあ俺達だとまずいんじゃ」

「妖精姫様に認められているなら、何も問題ないよ」

 

 俺の疑問にマスターはそう答える。どうする、と視線を他の面々に向けても、まあ俺がいいのならという答えが返ってくるわけで。

 冒険者としての普通の経験を積みたいと思って来た結果が割と普通でない依頼を受ける、というのはいいのだろうかと思わないでもないが、まあでもここでじゃあやめますというのも少し違う気がした。

 

「じゃあ、それを」

 

 依頼書を受け取り、サインをする。今回は数減らしなので全滅ではない、という話を受けつつ、証明のリストバンドを受け取った。そういやなにげにこうやってちゃんと依頼を受けて仕事をするのは久しぶりだ。

 

「何だか最近イレギュラーばっかりだったものね」

 

 同じことを思ったのか、アリアもそんなことを述べる。そうだな、と頷いた俺は、それで妖精姫はどうするのかと問い掛けた。クーヤの成長を見るのならばついてくるのか、それとも。

 

「ああ、あちきはここで待ってるっスよ。あちきの影響でスノーラビットの群れが変に移動して被害が変わるとまずいっスから」

 

 まあ属性頂点だものな。その割には観光でふらふらと色々移動したりしてた気がするが、まあ街から街にとかならともかく、モンスターの生息地とかだと確かに影響があるのかもしれない。

 勿論隠れ潜む百花はついてこない。というかこのカフェにも来なかった。妖精姫曰く、クーヤを修行しているだけでも面倒くさがりなあいつにとって大分驚愕なことらしいが、まあついてこられても面倒なことになるだけなので丁度いい。

 

「あいつなら、まあ多分今頃リベルト皇子に甘やかされてるんじゃないっスかね」

「……上手く行ってるんだ」

「さあ? あちきが知ったこっちゃないっス」

 

 けっ、とやさぐれたような表情を浮かべた妖精姫は、しかし顔を元に戻すとクーヤを見た。大丈夫かどうか、とクーヤに尋ねるその表情は先程までと違って真面目で、心配する師匠そのものである。

 

「師匠。心配、無用。クーヤ、成長」

 

 そんな妖精姫に向かい、クーヤはクーヤでふふんと胸を張ってそう述べた。まあ確かにあれだけ濃い修行を付けられているのだから、そう考えても不思議ではない。

 

「そーですよ。お師匠さんが信じなくてどーするんですか」

「う。確かにスロウさんの言う通りっスね。よしクーヤ、頑張ってくるんスよ」

「承知」

 

 ぶい、と指を二本立てるクーヤを見て微笑んだ妖精姫は、視線を俺達に向ける。余計な心配かもしれないけれど、と前置きしながら、俺達にも気を付けてと彼女は述べた。

 

「ああ、肝に銘じとくよ」

「素直ですね、エミル」

「相手が妖精姫だからな」

「……惚れたんですか?」

「何でそうなる。そもそも俺が好きなのは」

 

 そこまで言いかけて口を閉じた。今何を言おうとしたのだろう。好きなのは何だ、一体どこのどいつだ。いやまあ眼の前の芋虫は嫌いではないし、好きか嫌いかといえば勿論、ってこの思考この間もやったぞ。

 

「もういい加減素直になればいいじゃないの」

「何がだ」

「言うまでもないんだよぉ……」

 

 アリアとシトリーがどこかジト目で俺を見る。対するスロウは、何だかとてもご機嫌でウンウンそれならいいんですよとか抜かしやがった。何がいいんだ何が。

 もういいから行くぞ、と皆に告げ、俺達はカフェを出る。依頼書に記された場所に向かおうとを足を踏み出し、帝都から少し離れていたので近場に《テレポート》で移動出来ないかとスロウに尋ねた。

 

「この辺だとちょうどいい場所がありますね」

 

 ふむふむ、と地図を見たスロウがそう述べ、じゃあ早速と《テレポート》で移動する。依頼場所近くの町についた俺達は、そこのギルド受付に話をしてから目的の場所へとこんどこそ徒歩で足を進めた。

 

「何か結構深刻そうでしたね」

「そうね。被害が意外と大きいのかしら」

「大量発生って言ってたから……そうかもだよぉ……」

「同意」

 

 そんなことを言いながら、危険立入禁止の看板が設置されている場所へと辿り着く。どうやらこの先が、件のスノーラビットの群れがいる場所らしい。

 縄張りに入らなければ襲ってこないのでそういう意味ではこの看板は意味がある。の、だが。

 

「いや待て」

「多いですねー」

「満員」

 

 一歩踏み出しただけで分かる、五体以上のスノーラビットが縄張りに足を踏み入れたなとこちらに敵意を向けていた。そしてその奥には更に五匹。

 すぐそこでこの状況だと、この奥には一体どれだけひしめき合っているのだろうか。

 

「これ、まずくないか……?」

 

 スノーラビット自体は中級でも下位レベルではあるので、この面子であればそうそう苦戦するような相手ではないのだが、いかんせん数が多い。多すぎる。

 こっちもクーヤがいるのでいつもよりも面子は多いのだが、それでも、といった感じだ。

 そもそもクーヤが戦えるか、という心配もある。修行を重ねて強くなっているとは言え、実戦はほとんどやっていないはずだ。

 

「心配。無用」

 

 ふんす、とクーヤが一歩前に出る。まあ確かに属性頂点と比べれば雑魚だろうけれども、その考えはあまりよろしくない。

 そんなことを思っていたが、クーヤは悠々とスノーラビットの群れに向かっていく。首を掻っ切る勢いで突っ込んできたスノーラビットが一体を見たクーヤは、ふぅ、と口から糸を吐き、そして。

 

「成果。披露」

 

 一振りの鎌を作り出すと、逆にその首を掻っ切った。ひゅん、と鎌をひと振りさせると、そのままそれを投擲する。刃の円盤のようになったそれは、周囲のスノーラビットを纏めて切り刻んだ。

 

「おおー」

「いや、いくら何でも強くなりすぎじゃないの?」

「成果。完璧」

「完璧過ぎるよぉ……もぐ」

 

 純粋に喜ぶスロウ、驚くアリア、そしてウサギ肉になったスノーラビットを捕食しながらシトリーがちょっと引き気味に感想を述べる。

 ちなみに俺もアリアやシトリーと同じ側である。いくらなんでもただの芋虫からここまで育つなんて想像もしていない。

 

「増援」

「おっと」

 

 そんなことを考えている間にスノーラビットおかわりである。さっきのクーヤで十体近く倒されたにも拘らず、追加で更に十体くらいやってくるのはもう群れとかそういうレベルじゃない。

 

「わたしたちも負けられませんね」

「まあ、こっちも最近暴れられてなかったし」

「ウサギ肉……食べ放題だよぉ……」

 

 追加のウサギにスロウ達が戦闘準備に入る。妹に触発されたのか、スロウもどうやら支援ではなく戦う気らしい。まあこいつくらいなら何とかなりそうだが、大丈夫か?

 念の為、と俺はスロウの横に立つ。悪徳の剣を構え、スロウのところに突っ込んでくるスノーラビットを斬り伏せた。

 

「むぅ」

「別にお前を信用してないわけじゃない。念の為だ、念の為」

「愛されてますね、わたし、エミルに」

「言ってろ」

 

 えっへへ、と笑うスロウを見て思わず顔を逸らした俺は、クーヤがじっとこっちを見ているのを見付けて思わず身構えた。なんだよ、とクーヤに問い掛けると、何か問題があるのかとばかりに首を傾げられる。

 

「姉様。関係。良好」

「そりゃ、幼馴染だから関係なんか良好に決まってんだろ」

「そこで決まってるって言えるところよ」

「ラブラブだよぉ……」

 

 だから何でだよ。アリアとシトリーのツッコミというか感想というかを聞きながら、俺は向かってくるスノーラビットをもう一体斬り伏せた。

 それにしても数が多い。何でこんなになるまで放っておかれたのかと思わず愚痴りたくなるが、あの様子からすると段々と、というよりも急激に増えたのだろうから対処が遅れたのも仕方ないかもしれない。

 アリアが燃やす、シトリーが食う。そして俺とクーヤで斬り伏せる。

 そんなことを繰り返していると、大量のスノーラビットも段々と少なくなってきた。全部倒す必要はない、と言われていたのである程度のところで終わらせるつもりではあるが、それを差っ引いても倒した量が多い。

 いや、待った。思ったより余裕で倒せるから倒し続けていたが、倒し過ぎないようにと言われていたのには理由があるはずだ。本来は少しずつ倒して戻ってを繰り返しながら数を減らしていくのが正しい方法で、一遍に大量に倒してしまうと。

 

「エミル!?」

「……やばい、まずった」

 

 ぞわり、と悪寒がした。少なくなったスノーラビットに代わり、地面から何かが這い出てくる。

 数体の骸骨。人の形をしたものと、獣の形をしたもの。それらの骸骨――アンデッドのスケルトンが発生したのだ。

 

「思った以上に一気に始末し過ぎたわね……」

「これ、後で怒られるよぉ……」

「謝罪。案件」

「まあ、どっちにしろ」

 

 まずは眼の前のアンデッドを始末してからだ。戦闘準備をしながら、俺は自然発生のスケルトンを睨み付けた。

 

 

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