幼馴染の擬態した虫が聖女とか言われた   作:負け狐

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ざんねん! えみるのぼうけんはこれでおわって


第四十八話

「それで、どうします?」

 

 自然発生のアンデッドは、この間のネクロマンサーのそれとは違って一筋縄ではいかない相手だ。世界の注意喚起、というのは伊達ではない。とはいえ、今現在の発生ならば精々中級モンスターの上澄み程度で済むだろう。

 それでもこちらとしては十分面倒なのだが。

 

「妖精姫達の言葉を信じるのならば、このアンデッド相手でも俺達は十分勝負になるはずなんだが」

 

 カシャカシャと音を立てながら人型のスケルトンがこちらに向かってくる。その動きは十分目で追えるし、あの程度ならば迎撃も可能だと思わせるような、そんな攻撃で。

 

「っと」

 

 悪徳の剣でスケルトンの剣を受け止めた。力負けすることはない。隠れ潜む百花の一撃を受けた時と比べると弱すぎて笑えてくるほどだ。

 そういう油断が致命的な問題を招くのを俺は良く知っている。というか毎回そういう事を考えている。月の大聖女の言っていた『悪徳』が、ずっと常について回るのだ。

 それ自体は悪いことだとは思わないが。

 

「こういう時油断しないように、って思えるから……なっ!」

 

 相手の剣を跳ね上げる。そのまま蹴り飛ばすと、次、と獣のスケルトンが突っ込んでくるのに合わせて剣を振り抜いた。ガシャン、と二体のスケルトンがぶつかり、そしてガラガラと音を立てて崩れた。

 

「あれ? 案外脆いんですね」

「……そうじゃないわね、あれは」

「合体、してるよぉ……」

「注意。警戒」

 

 二つのスケルトンが一つになった。獣と人の混ざったその骨は、先程とは比べ物にならない速度でこちらに迫ってくる。

 

「やべ」

「危ないんだよぉ……!」

「シトリー!?」

 

 その一撃をシトリーが受け止める。が、向こうの攻撃のほうが強かったのか、ずぶりと腹に獣の頭部部分による牙が突き立てられた。

 

「あ……」

 

 そのまま強引に獣の頭部がシトリーを噛みちぎる。脇腹の三分の一程度を食いちぎられたシトリーは、ぽっかりとなくなったそれを見て目を瞬かせていた。

 追撃。スケルトンの剣で左腕を切り飛ばされたシトリーは、そのまま殴り飛ばされゴロゴロと転がり、そして動かなくなった。

 

「シトリー! 大丈夫か!?」

「疑似餌はボロボロだけど、ワタシは大丈夫だよぉ……」

 

 ひょこ、とアリジゴクが俺の横から顔を出す。ズタボロになった疑似餌部分を見て、あーあと眉尻を下げたような声を上げた。アリジゴクに眉はないから、そんな気がした、というようなだけだが。

 

「エミルくん」

「なんだ? 思ったより強いぞこいつ」

「とりあえず向こうの左腕拾ってきて欲しいんだよぉ……」

「呑気だなお前」

「パーツがないと修復が面倒くさいから、割と切実だよぉ……?」

「そういう意味じゃない。っと!」

 

 合体スケルトンの攻撃を躱しながら、俺はシトリーの左腕を探索する。あったあった、とそれを拾うと、アリジゴクにそれを投げ渡した。

 そうしながら、さてではどうするかと思考を巡らせる。

 

「骨相手だとあたしの攻撃は効きにくいのよね」

 

 ううむ、と鱗粉で炎を生み出しながらアリアがぼやく。牽制にはなっているが、合体スケルトンに効果があるかと言えば答えは否。傍から見ているとそんな感じであった。

 そんなことを思っていると、地面からもう二体スケルトンが湧いて出てくる。さっきの骨とは違い、追加のスケルトンは明確にランクが落ちているように思えた。

 

「今の、自然発生とは少し違いませんか?」

「だとしたら、すぐそこにネクロマンサーがいるって話になるぞ」

 

 ただでさえ厄介なのに、更に厄介が舞い込んでくるとどうしようもない。ギシリ、と少しぎこちない動きで疑似餌を動かしながら合流したシトリーも、その表情は思い切り曇っていた。

 しかしこのピンチはあの時の中級試験を連想させる。そういえばあの時、と迷宮の管理者に言われたことがふと頭によぎった。

 無茶はしないように。強力な相手と戦った経験があるからそれ以下ならば勝てるだなんて自惚れていたとしたら。

 

「あっという間に骸の仲間入り、か」

「どうしたんですか、いきなり」

「いや、ちょっとあの時のことを――」

 

 思い出していただけ。そこまで言おうとして、そうだ、とついでに思い出した。あの時の中級試験でオルトロスのゴーレムにぶち込んだあれ。ウッドベアのアンデッドには最後まで使わなくて頭から抜け落ちていたあれを。

 

「スロウ!」

「はい? あ、そうか、破魔呪文!」

 

 俺の言葉で同じように思い出したらしいスロウが即座に呪文を詠唱。合体スケルトンと追加のスケルトンがこちらに迫っていたので、この野郎と俺とシトリー、クーヤで無理矢理押し返した。倒せなくても、それくらいは問題なく出来る。

 そして、押し返すことさえ出来れば。

 

「迷える魂よ、あるべき場所に帰りなさい――《ターン・アンデッド》!」

 

 アンデッド特攻の一撃、破魔呪文。こんな名前だけどぶっちゃけモンスター全般にそこそこ効く範囲魔法のそれを食らったスケルトンは、元々声を発することもなかったが、悲鳴を上げる暇すらなく浄化された。

 ついでに、世界の注意喚起である淀みも聖女のそれにより正常に戻される。スノーラビットがまだ数体残っていたが、あの程度ならばまあ普通にいる範囲だろう。わざわざ倒す必要もない。

 

「なんとかなった。ってことでいいのかしらね」

「多分な」

 

 ふぅ、と息を吐くアリアに同意するように言葉を返すと、俺はやれやれと地面に腰を下ろした。一時はどうなることかと思ったが、これで今回は一件落着。

 いや待て。違う。俺は即座に立ち上がると、周囲を注意深く見渡した。どうしたんですか、というスロウの言葉に視線だけで返事をすると、同じように周囲を確認するよう皆に述べる。

 

「……そういえば、追加のは自然発生とは違う気がするとかスロウが言ってたわね」

「ということは……」

「危険。増大」

 

 ゾクリ、と悪寒がした。視線をその方向に向けると、いつの間にか何かが一体、そこにいた。

 フードとマントを付けた黒い影。そう説明すればいいのだろうか。そんなよく分からない得体の知れない何かは、こちらを見るとクククと笑う。

 それに、何が可笑しい、なんて文句を言う余裕がなかった。あれは、まずい。戦わなくても分かる。間違いなく上級モンスターに分類されるべき存在だ。

 いや、そんな生易しいものじゃない。あれはまるで。

 

「魔王か……」

 

 自称魔王。当事者が言うか言わないかは置いておいて、そう呼称されるべきレベル帯のモンスター。上級の上澄み。今の俺では、中級冒険者では間違いなくなすすべなく全滅させられる相手だ。

 

「どーします? 逃げる、にはちょっと遅い気もしますけど」

「まあな……。逃げるにしても、少しは向こうにダメージを与えないと無理か」

「やれると思う?」

「正直。絶望」

「どうにかなる気がしないんだよぉ……」

 

 それは俺も分かっているが、しかしそれでもやるしかない。

 黒い影が手らしきものを上げた。それに合わせるように、地面からスケルトンが湧いて出てくる。どうやらこのアンデッドは向こうの制御下のようで、やつの合図でこちらにガシャガシャと音を立てながら突っ込んできた。

 アンデッドを制御できるネクロマンサーがいたら自称魔王だ、なんて以前の騒ぎの時に言っていた気がするが、まさか本当に現れるとは。それも俺達の前に。

 

「言ってる場合じゃないな。さてどうする」

「破邪呪文でスケルトンはふっ飛ばしますけど、あの変なのはどうになりませんよ!」

「全力で攻撃をぶち込んで、多少なりとも怯ませるしかない。でしょ?」

「……なら、その役は俺がやる」

「エミル!?」

 

 スロウが俺を見る。が、冗談でもなんでもないのだということを察すると、一瞬泣きそうな顔になった。というかちょっと泣いた。

 

「またやる気ですか。今は見てくれる人いないんですよ!」

「しょうがないだろ。多分それが一番確率が高い」

「……あんたまさか」

「あれを、やる気なのぉ……!?」

 

 スロウとのやり取りで察したのだろう。アリアとシトリーも苦い顔で俺を見やる。が、仕方ないだろう。さっきスロウにも言ったが、多分怯ませるのに一番確率が高いのはそれだ。

 クーヤはわからないので首を傾げていたが、しかし何かしら代償のあるもの、あるいは危険なものだということは察したのだろう。俺を見て、どこか責めるような視線を向ける。

 

「……絶対、絶対無茶はダメですからね」

「いや、今から無茶するんだから」

「無茶するにしても、限度があるってゆー話です!」

「そうね。やるにしても、この間みたいにぶっ倒れられたら困るわよ。逃げられないんだから」

「うんうん……」

 

 スロウにも、アリアにも釘を刺され、シトリーもそうだそうだと同意され。分かったよ、と俺は頷くと、スロウにその代わりありったけの支援をくれと告げた。

 それはしない理由がない、とスロウは俺に掛けられるだけの支援を、普段だとそれがない時との差があまりないよう配慮している壁を取っ払った支援を掛ける。一気に俺の能力が跳ね上がると、あのわけのわからない影が一瞬怪訝な表情を浮かべたような気がした。

 まあ影なので表情も見えないからそんな気がしただけだが、まあどっちでもいい。とにかくあれに一撃でも食らわせて怯ませられれば。

 

「来るわよ!」

「周囲。援護」

「露払いはやるよぉ……」

 

 スロウの破邪呪文で消し飛ばされたスケルトンを再度生み出して攻撃を仕掛けてくる謎の影相手に、アリアは鱗粉を炎から爆発に性質を変え骨共を吹き飛ばす。クーヤは自分で作った鎌でスケルトン共を薙ぎ倒し、シトリーは無理矢理骨を砕き、三体がそれぞれの方法で俺が向こうに辿り着く道を作ってくれた。

 

「行くぞ……!」

 

 ならば俺がやることは一つである。集中をし、全身に力を込め、悪徳の剣が薄っすらと輝き。

 周囲の音が小さくなった。映る景色もどこかスローに見える。ゆっくりと動いていくその景色を俺は全力で駆け抜ける。目標は眼の前の、突然現れた余計な影。

 

「う、おぉぉおおぉぉぉ!」

 

 骨を蹴り飛ばしながら一気に間合いを詰める。どの攻撃も遅い。あの影の動きさえもどこか鈍く感じる。ギシリ、と体の何処かが悲鳴を上げた気がしたが、今はまだ気にしている暇が無い。

 集中力を極限まで高めたこの状態で、全力で、悪徳の剣を振るった。影の右腕を切り裂き、そこから血のように影が吹き出るのを見た。真っ黒の影で出来た顔が驚愕しているような気がしたが、知ったことか。もう一撃叩き込めば、怯ませることが。

 

「ぐふぅ」

 

 その前に限界が来た。前回ほどの無茶はしない、というスロウの約束を守るためか、無意識にタイムリミットを決めていたらしい俺は、元に戻った視界で影の左手が俺の腹を貫いているのを見た。そのまま投げ飛ばされ、ボールのようにバウンドした俺は地面に転がる。やばい、動けない。

 

「エミル!」

「エミル」

「エミルくん!」

「エミルぅぅぅ!」

 

 アリアが、クーヤが、シトリーが、そしてスロウが俺の名を呼ぶ。すぐさま駆け寄ったスロウが俺の腹の傷を塞ぐが、一回貫かれたおかげで流れた血はそうそう回復しない。集中を高めた反動も相まって、意識を飛ばさないようにするのが精一杯だ。

 

「スロウ」

「嫌です」

「いや、でも、今なら」

「アリアちゃんも、シトリーちゃんも、クーヤも! エミルを置いていくなんていう選択はしません!」

「そう言ったって。このままじゃ」

 

 血のような黒い影を流していた謎のフードの影が、じろりとこちらを見た。目がないからよく分からないが、多分見た。自身を傷付けたこいつは許さんとばかりに、こちらを見た。

 ゆっくりと影が手を振り上げる。スロウは動けない俺を守ろうとその間に立って、そして。

 

「よくもやってくれやがったっスね」

「めんどぉは、一旦置いておくやよぉ」

 

 更にその間に割り込んだ二つの影によって、スケルトンごと吹き飛ばされた。

 割り込んだ片方はサイドポニーの子供くらいの身長の少女。もう片方はフリルたっぷりのゴスロリドレスのツインテール少女。

 

「妖精姫さん、隠れ潜む百花さん……?」

「遅れて申し訳ないっス。後はあちきと」

「うちが、なぁんとかしてあげるわぁ」

 

 スロウが呆然とその二体の名前を呼ぶ。そして呼ばれた方は、妖精姫と隠れ潜む百花は俺達の方へと向き直り、安心しろとばかりに笑みを浮かべた。

 

 




しまうわけがない
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